幽霊事件が終わった一週間後、喫茶アルカイドには理世子が客として訪れていた。
「お客さんとして自分のケーキを食べるって不思議な感じね」
「私も理世子に本日のケーキ説明するの変な感じだなって思ってた」
本日のケーキはシンプルなアップルパイ。それについては理世子が一番詳しいはずなのだ。平日の午後四時。今は理世子しか客がいない静かな時間だ。
「それで、話って何?」
「えっとね……実はこの前、有名なパティシエさんがコンテストを開いてて、それにレシピを送ったんだけど……どういうわけか最終審査に残ってしまって」
「え、すごいじゃん」
「そうなんだけど……最終審査は、その人の目の前で、残った人全員で調理して自分の一番のケーキを出さなきゃいけないの。まさかそこまで行けると思わなかったから、会場に行けるかどうかとか全然考えてなくて……」
理世子は能力の影響で、外に出ればさまざまな不幸に見舞われる。最近は頻繁に出かける場所なら一人で出歩くこともできるようになったのだが、そのコンテストの会場はいつもはいかないエリアにあるらしい。
「行きたいんでしょ、理世子」
「うん……最終審査で五位以内に入ると、一週間だけその人の厨房で働けるっていう特典もあって……すごく好きなパティシエさんだから、行きたいんだけど……大丈夫かなって」
「この前の事件で、戦う方法はわかったでしょ?」
寧々はいずれ理世子が自分に害をなすものに対抗できる力をつけることを望んでいた。画策していたと言ってもいい。この前の幽霊事件がきっかけとなって、理世子は戦うことができるようになったのだ。
「あとこれ。あのときひとつ余ったから」
由真は理世子の目の前に小さな缶を置いた。中には理世子の力を溜めたビー玉が入っていて、寧々の能力でその能力が消えないように蓋をしている。一回だけ使える、幽霊専用の手榴弾のようなものだ。
「もしなんかあったとき……戦えるかな、私」
「理世子ならきっとできる。それでも何かあったら……そのときは私が理世子を守るから」
「ふふ、由真がそう言ってくれるだけで無敵になれそう」
「理世子が戦うところ、本当にかっこよかったから。自信持っていいよ」
怪異を貫く青い光。幽霊の作る世界を一瞬にして青空に変えてしまうくらいの清らかさがそこにはあった。由真は理世子の手を優しく握る。
「応援してる。理世子ならきっとできるよ」
*
その一週間後に行われたコンテストに、理世子はたった一人で向かっていた。由真は理世子が気になってしまい、こっそり会場に行ったが、理世子は緊張しながらも堂々と自分の実力を発揮していた。理世子のその気迫に圧されたのか、幽霊たちが理世子に手を出すようなこともなく、理世子は五位に入賞し、念願の特典を手にすることになった。
「由真のおかげだよ。いつもより上手くできた気がするし」
「私は今日は何もしてないよ?」
「由真が戦い方を教えてくれたから。だから怖くなかった」
「方法を考えたのは寧々だし。……でも、本当によかった」
特典として有名パティシエのもとで働く一週間、アルカイドのケーキは休みになる。けれどそのあとはきっとそれまでよりも美味しいケーキが待っているはずだ。