理世子が明日から一週間有名パティシエのところで働くことになるので、今日はその前にパーティーをしようということになった。テーブルの上には色とりどりのケーキ。理世子のためのパーティーのはずなのに結局理世子が一番食べ物を作っていた。食べきれないので近所の子供達や常連の客を呼んで、予想外に盛大なパーティーになり始めていた。
「何か、考えてたのより大分大規模になったね」
「一週間だけなのにね」
「でもケーキ目当てのお客さんもいるからね……一週間食べられないなら食い溜めしておこうと思ってるんじゃない?」
最初から壁の花を決め込んでいた由真の隣に、主役であるはずの理世子が立っている。理世子は自分の作ったケーキに舌鼓を打つ人たちを微笑みながら見守っていた。
「星音なんて、よくあんな入るな……ってくらい食べてるよ」
「お腹空かせて来たらしいよ。あんな喜んでもらえると嬉しいな」
「味見役としては役に立たないらしいけどね」
本人としては美味しいか美味しくないかはわかるらしいが、美味しいの中でどちらがよりいいのか、のような判断は苦手なようだ。
「明日から、楽しいといいね」
「うん。どうせなら色々身につけて帰ってくるよ」
「楽しみにしてる」
理世子は壁に寄りかかって、由真に微笑みかけた。
「こんな日が来るとは思ってなかったよ」
「理世子が頑張ったからだよ。あれからも練習してるんでしょ?」
「うん。もうどんと来いって感じ。由真のおかげだよ」
「私は何もしてないって。やり方を考えたのは寧々だし、弓を教えたのは梨杏でしょ?」
「もう、そういうんじゃないんだってば。――あのとき紙飛行機拾ってくれたのは由真なんだから」
外に出たいと願った理世子が飛ばした紙飛行機。あの場所にいたのは理世子の両親が由真たちを呼んだからだし、紙飛行機を拾ったのは本当にたまたまだ。けれどその必然と偶然が重なりあったところに、変化のきっかけがあったのだ。
「私も嬉しいよ。理世子が外に出られるようになって。元々、最初から私が力を使ってたら簡単に外に出られるようになっていたわけだし」
能力が暴走しているわけでもない能力者の種は壊さないことにしている。それは種を壊せば左腕に傷ができる副作用を抱えていることと、種を壊した後にその身がずっと健康である保証ができないからだ。理世子も理世子の両親も納得してはくれたが、由真が力を使えば簡単に理世子が外に出ることができるという事実は、由真の中に棘のように突き刺さっていたのだ。
「由真に傷をつけてまで外に出たかったわけではないし……それに、あのとき私の力がなくなってたら、この前の事件のときに由真を助けられなかったよ」
「……そっか。それもそうだね」
結果的に理世子が自分の力を最大限に活かせるようになったのだから、きっとこれでよかったのだろう。由真は持っていたカップをテーブルに置いてから、理世子を抱きしめた。
「え、ちょっ……何?」
理世子は耳まで赤くなっている。別に理世子をからかっているわけではない。何故かそうしたくなっただけだ。
「理世子の力、私はすごく好きだよ。すごく綺麗」
「え……あ、う、うん……ありがと……」
それが利己的な理由でしかなかったとしても、その力を奪わずにいたから今日という日があるのだ。それだけは誇っていいことなのかもしれない。
「どうしたの由真、いきなりこんな」
「何だろうね。少し寂しいのかもしれない」
「一週間だけだよ?」
「うん。それはわかってる」
それでも何故か、毎日のように様子を見ていた軒下の鳥の巣から雛が巣立っていくときのような寂しさと、喜びがあるのだ。由真は理世子の長い髪を撫でてから、その体をそっと解放した。
「――ほら、主役なんだからそろそろ向こう戻りなよ」
その背中を軽く押すと、理世子は振り返って花が綻ぶような笑みを浮かべた。軽やかな足取りで人の輪に戻っていく理世子の姿を由真は壁に寄りかかりながら見守っていた。