綺麗なだけじゃない狼谷さん   作:狼谷さんカワ(・∀・)イイ!!

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1年生
優しいキミ


 

 

「―――――」

 

 

1人でいる事が好きだし、あまり皆に馴染めないのも自覚してた。

それに、なるべく目立たない様に意識して行動していた事もある。

目立たない様に心掛けたとしても……、中々難しい属性を持っていたりもするけど、それでも何とか乗り越えてきたつもりだ。

 

こんな風に考えてしまったのは昔から……と言う訳ではない。

決定的に心に亀裂が入ってしまったのは、やっぱり中学校からだと思う。

俗に言うイジメを経験してしまったのだ。

 

暴力的なモノじゃないんだけど、皆に仲間外れにされて、昨日まで話していた相手が話をしてくれなくなった。

陰口を言われている様な気もした。

周囲の目が怖かった。いつも気になってしまった。

 

だから、不登校になったとしてもおかしくなかったんだけど、どうやら自分は1人でも全然平気だと言う事にここで気付いたんだ。

メンタルが強い? って言うのかもしれないけど、孤独に苛まれる様な事にはならなかったんだ。

そんな昔の事を少し自己分析をしてみると、やっぱり自分が倒れずに前を向けた一番の理由は家族の存在だと思う。いや、思うじゃなく断言できる。

 

妹が1人、母親1人、そして母方の祖母が実家にいる。

 

父親は中学校の時に亡くなってしまった。

女手一つで兄妹を育ててくれてる母には感謝しかない。いつだって強くて優しくて、そんな母に迷惑をかける様な事はしたくなかった。

不登校のニュースも何度も見ている事もあってか、絶対に母にはバレない様にしつつ、1人学校ライフを堪能できるように努め上げた。

 

結果、所謂陰キャに。見事なまでに仕上がった。

立派な何処にでもいる陰キャだ。

この道を突き進むのみ。家族を、母を助ける為に楽をさせる為に、勉強だけはしっかりとして成績を残して、バイトも頑張って……このまま突き進むのみ。

 

 

高校生になっても、特に代わり映えはなく続くんだろうな、と思ってた。

日陰の中で過ごし、クラスの中でも目立たない様に心掛け、空気の様に突き進む―――と思っていた。

思っていたんだけど……。

 

 

「おーす! 御神~~!!」

「昨日の課題のヤツ、どーだった?? オレめっちゃヤバくてさぁ」

 

 

どうやら、この高校はとても良い所だったんだ。

想像していた通りじゃなかった。全く違った。

身体も大人に近づいているから、より過激になってくるのでは? とメチャクチャ身構えていたんだけど、そんなのは全くの杞憂だった。

 

よくよくありがちな、大人しい相手を見つけて、標的にして 馬鹿にして遊ぶ様な陽キャキャラやカツアゲしたりパシリ扱いしたり、最悪暴力振るったりなヤンキー気質なキャラだっていない。

スキンシップが過剰気味な気もしなくもないが、それでも昔と比べたら天と地の差だって言える。

下校中、家に帰って涙が出てきたのは自分だけの秘密だ。危うく妹にバレそうになったけれど、今じゃ良い思い出になってる。

 

 

「おはよう、真島くん、飯塚くん」

「よ~~っす! ―――ったく、御神は身体でかいんだから、そんな背丸めてっと将来腰痛持ちになっちまうぞー。ヘルニアだヘルニア! ヘルニアはきっついぞ~~って、兄ちゃんが言ってた。ほれほれ、背筋伸ばして」

「あ、それ目立たない様に、って前言ってたけど、フツーに無理あるからね? だって、御神クラスん中じゃ1番デカいし」

「……やっぱり?」

「「うんうん」」

 

 

そう自分の身長の高さは180を超えてる。

ちょっぴりそぐわない、って思えた属性(モノ)の1つがこの身長。

単純にデカいから目立つ。空気の様に隅っこに居たとしても、座って大人しくしていたとしても、普通に目立つ。

それが原因で弄られから始まって虐めになって、無視されたりしたんだ。

でも、もうそろそろ終わりにしよう。

 

 

「やっぱり、そう……だよね」

「うん?」

「何が??」

 

 

この学校が……、このクラスの居心地が良いって思ってから、もうずっと解ってた事だ。

もう、必要なんて無かったって事に。でも、直ぐに変われる訳はないけれど、少しずつでも……。

 

 

「目立たない様に、なるべく皆とは関わらない様に、って最初は考えてたんだけど―――」

「関わらない様にしてた、は今初めて聞きましたですよ!?」

「いや何気にヒドイぞ!! つーか、もう2学期目ぞ!?」

「あ、うん。……今もたまに考えたり……」

「「ヒドイ!!」」

 

 

ここから本当の学校生活の始まりだ、って思うとちょっぴりわくわくする自分がいる。

このクラスの皆なら……きっと大丈夫。こんな自分でもやっていけると思えるから。

 

 

 

「皆友達だから。そんな事。そもそも考えるだけでも駄目だよね。……皆、大切な友達だから」

「「…………」」

 

 

 

本当の初めての友達。

大切な初めての友達。

 

マイナス思考はそろそろ卒業しないといけない。

過去とは決別して、前を向かないといけない。

 

少し、時間がかかってしまったみたいだけど、きっとまだまだ大丈夫だって思うから。

皆と一緒ならきっと大丈夫。

 

 

 

「うおおおーーんっ! なんか、モーレツに感動してるっっ!!」

「モーレツって、物凄く古い様な気がするけど……。その辺は同じ気持ち。なんか御神が可愛く見えてきた」

「ええ゛? 可愛い?? それは複雑だよ!」

「おー、背丈(タッパ)はあるけど、童顔っぽいし、目が前髪で隠れてる所とか、ふとした仕草が幼いっぽくて、可愛いわ!」

「だ、だから 可愛いヤメテ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「かーみやっ! なーに見てんの?」

「いや。()の方をちょっとね」

「彼……あっ、御神っちの事? なーに? まだバレー部誘うの諦めてなかったんだ?」

「……ん。部長や監督の頼みともなれば、早々断る事が出来なくてね。出来る限りの事はしたいと思ってるんだ。そこまで拒絶された様にも見えなかったし。ゼロじゃないかなって」

 

 

少し離れた席で、一際賑やか人集りが出来ている場所の中心にいる彼女が、儚げな視線を御神に向けていた。

 

それだけでも絵になる程の美人。

 

座っていても身長が高いのが解る。話し方1つ1つ、その仕草の1つ1つが皆を惹きつけて、男女共に絶大な人気を持っている彼女の名は 狼谷さん。

 

今彼女は重大な任務を受けている。

 

そう―――御神を男子バレー部にどうにか引き込めないか? と。

運動神経は、1年のスポーツテストの結果を見て知っているから決して悪い方じゃない。

ちょっと練習すれば十分通用すると思えるし、何より練習じゃどう頑張っても無理、どんな名監督やコーチ、どれ程設備が整っていたとしても無理である、最大のアドバンテージである高い身長を持っている。

180を超える選手は現在この男子バレー部には居ないから是非とも!! と懇願されたのだ。

 

女子バレー部総出で確保に躍り出た事もあったが、当然ながらものの見事に逃げられてしまった。

 

 

「(……猫崎の発案だが、良かったとは言えない結果だよな)」

 

《女子全員で迫れば案外イケルんじゃない!? 御神って大人しそうで優しそうな感じだし!》

 

――と、狼谷と同じバレー部に所属している猫崎が、物凄い猪突猛進ぶりな作戦を提案し、その勢いのままに実行にまで漕ぎつけた。

行動力は凄いと言えるのだが……如何せん狼谷的に言えばクラスメイトだし、ゆっくりと親交を深めていって、どうにかバレー部に……と考えていた所の決定。

大多数が猫崎のノリの良さに皆が賛成してしまって……その結果は惨敗だった、と言う訳だ。

 

何処かおびえられたのは、正直複雑な気分だったのを覚えている。

仕方ない面があるとはいえ、初めてそんな対応をされた男子だったからだ。

 

でも、その時に、逃げられはしたが、狼谷は希望がない訳じゃない……と言う手応えは感じていた。

 

 

「でもまぁ、今はもう2学期になっちゃってるし? 御神っちは直ぐ学校から帰ってるみたいだから何処にも入ってない帰宅部中だろうし、可能性はゼロとは言えないけど、やっぱし難しいんじゃないかなぁ?」

「あ、私もそう思う! 勧誘の時期も過ぎちゃってるしね。でもだからってもうやめとけば? なんて言わないからね??」

「ああ。解ってるよ。私も、今から部に引き込むのは難しいって思ってる。それに無理強いは好きじゃない。バレーを好きでやって貰えるのが一番だから」

「え゛! そーなの? 狼谷がそれ言っちゃってだいじょーぶ?? よりハードル上げてない??」

「…………」

 

 

自覚はしている。

バレー部に勧誘する。

それが当初の目的だった筈なんだけれど、難しいと解っていても、実は監督たちももう難しいんだろう、と半ば諦められていても、自分自身が止めてない。

 

それでも突き動かされてる自分の心に戸惑いを覚えている。

何でこんなにもざわめくのか……。

 

 

「ただ、私は私の出来る事をやって見る。もう少しだけね。それだけだよ」

「ふーん」

「彼に拒絶されたら、直ぐやめるつもりではいるよ」

「え――! 狼谷を拒絶とか、それこそ有りえなくない?? 逆に御神君が大変な事になっちゃうよ? 他の男子たちから報復されるかも??」

「ほ、報復とは中々穏やかな話じゃないな……」

 

 

彼に心がざわめいてる。

確か過去に一度、同じ様に感じた事があった。

 

 

 

《狼谷さんは優しいね》

 

 

 

共通しているのは、その言葉。

初めて言われた言葉。

 

 

最初は何処か暗い様子だった。

1人でいる事が好きで、騒がしいのが苦手、賑やかなのが苦手なだけだと思った。

でも、少し、少し付き合いが長くなるにつれて、違うのだと解った。

 

深い深い闇の様なモノが視えた気がしたんだ。

暗い顔が 目元まですっぽりと髪で隠されて普通に視えない筈なのに、悲しく、泣いている様にも視えた。

 

でも、だからと言って自分が何か出来るなんて思わないし、彼自身が助けを求めてたりもしていない。余計に踏み込んでいくのはお節介な事だし、それが正しいとも言えない。そもそも直感だから。

 

 

「(……あの時は、猫崎の性格が羨ましいって、はじめて思ったかな)」

 

 

意図も容易く間合い以上に踏み込み、更に相手に不快に思わせる事もしない絶妙な心の距離も弁えている様にも思える。

彼女が周りに好かれている理由がよく解ると言うモノだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図書室。

走ったり大きな声出したり、飲食したりするのは禁止な場所。

だからこそ、昔からのお気に入りの場所でもあった。

 

 

 

「――――やっぱり、図書室は落ち着く……」

 

 

 

クラスの皆は大切なトモダチだ。

中学校でもうあきらめた今後の友人、友好条約?

もう無理だ、って勝手に思っていただけだった。皆優しくて暖かくて、過去の痛みを忘れさせてくれるトモダチだった……んだけど、それでもやっぱり1人の空間が好きなのを代える事なんて出来ないから、教室を出て図書室で勉強をしたり本を読んだりするのがルーティンになってる。

 

その辺りは皆空気を読んでくれているのだろう。1人の時間も大切に扱ってくれるのだ。だからこそ、皆と一緒に居られる時間も大切に思える。

 

少しずつ変われれば良い。でも、1人の時間ももっと………。

 

 

 

「あれ? 隅で誰かいるかと思ったら、御神クンか」

「!」

 

 

と、思ってたら直ぐに1人じゃなくなった。

 

 

「あ、お、お疲れ様です。狼谷さん……」

「そう畏まらないでくれ。傍から見れば怯えてる様にも見える。何も取って食いやしないよ」

「ええ! そんな事っ―――――」

 

 

ガタッ! と思わず椅子から勢いよく立ち上がり、否定しようとしたら……狼谷の向こう側の柱にある注意事項。《大きな声で騒ぐの禁止》の文字が見えて、ばつが悪そうにもう一度座った。

 

 

「そんな風に、思ってない……よ?」

「ふふ。そうだったか?」

 

 

狼谷は朗らかに笑うと手元にある本をそれぞれの棚に仕舞っていく。 

 

 

「(あれ……? 今って別のクラスの図書委員の人がいた筈じゃ……)」

 

 

狼谷は各クラスで割り振られている委員で図書委員に割り振られている。

だから、本を仕舞ったり、図書室に居たりするのは当然の事で何ら不自然は無いんだけど、貸出受付の所に2人座っていたのを覚えている。

チラリ、と見てみてもやっぱり2人居た。

 

基本的に図書委員は当番制で2人1組だった筈……。

 

 

 

「ああ、そうだった。今まで部に勧誘してきたわけだが」

「ぁ………」

 

 

 

もう1つの事、懸念事項を思い出した。

狼谷は特命? を受けたか何かでバレー部に勧誘する様に男子バレー部から仰せつかってるとの事。

それなら、女子バレー部の狼谷じゃなく、男子バレー部の誰かがくれば良いのに……と思いつつも、正直来て欲しいとは思えないので、同じクラスである狼谷の方が良いから、と思っていた。同じクラスの男子バレー部所属の人はいないから。

 

 

「無理強いはしないよ。入って欲しいって願ってるのだけは中々消せないからそこは許してほしい。後、これまで言ってなくて悪かったね」

「そ、そんな折角狼谷さんが誘ってくれてるのに、何度も何度も断っちゃって、謝るのは僕の方で………」

 

 

男子バレー部はお世辞にも強い部とは言えないが、それでも人数が足りてないとか、大会に出られない、と言った急を要する案件ではない。

ただ純粋に、自分自身の事を買ってくれている、と言うのは解るので非常に光栄であり、好ましくも思う。

けど、部活には入れない。……色々と理由がある。学校で拘束時間がより長くなるのが運動部だから。

自分はしなければならない事があるから。

 

 

「狼谷さんは優しいから、それに僕はずっと甘えてたんだと思う。……ゴメンなさい」

「ッ………、そ、それほどの謝罪を受けるのは逆に抵抗があるな。頭を上げてくれ。私は別に怒ったりしてないし、部に入る入らないは本人の自由。監督たちも含めた総意だ」

 

 

狼谷は慌てて頭を上げる様に御神に言う。少し焦った様子の狼谷は珍しい。

 

 

「それに、キミは私の事を優しいと言ってくれる数少ない友人だから、あまり困らせたくない……って言うのも本心だよ。勿論、バレー部に入ってくれたら良いな、とも思ってはいるが一番は前者だ」

 

 

 

狼谷がそう言ってくれるのは嬉しい。

だから、御神は頭を上げて視界が塞がってるのでは? と思える前髪の隙間から真っ直ぐに狼谷を見て告げる。

 

 

「………えと、その、実は………入れない、のには訳があって。……家庭の事情って言うか、なんていうか……、あまり、あまり時間が取れなくて………」

 

 

まぁ、勿論緊張し過ぎて上手く口が回らなかった様だが。

 

 

 

「それは、仕方がない事だね。うん解った。正式に皆には伝えておくよ」

 

 

 

クラスでは、まだ諦めてない―――と言ったばかりの狼谷だったが、ここに来て直ぐに受け入れた。

それは、何故だろうか……?

中々に自分の心が解らない。

 

ただ、解るのは――――

 

 

 

 

 

「………心地良い、な」

 

 

 

 

 

また優しいと言ってくれた彼と話をするのがとても心地良い、と言う事。

 

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