綺麗なだけじゃない狼谷さん 作:狼谷さんカワ(・∀・)イイ!!
図書室というのはいつも、何処でも憩いの場だ。
御神は、意識を変えていくと大切なトモダチに宣言したけれど、だからと言って何かが変わるか? って聞かれたら特に……と言う他ない。
接し方を突然変える様な性格が変わった!? みたいな事はしない、と言うより出来ない。
そんな事したら、きっとクラスの皆に逆に心配される様な気がするから。
それ程までに、気にかけてくれるし、助けてくれる暖かいクラスだから。
閑話休題。
現在の図書室では、またまた狼谷さんが傍にいる。(他にも居るけど、結構遠い)。
こればかりは慣れない、意識変えていくと言った言葉に嘘偽りは無いんだけど、本当に難しい。
ここ最近では、特に狼谷さんと会う機会が多い気がしている。
同じクラスだから別におかしい事じゃないのだが……物理的な距離の近さと言う意味でだ。
「っ……」
今日も今日とて狼谷さんと一緒。
簡単な会釈を交わしつつ、本に視線を移す……けどやっぱり、内容が中々頭に入って来ない。
「1つ、聞きたいのだが」
「!! な、なにかな?」
そんな時、狼谷さんから声が掛かった。
幾ら図書室で他にも人が居るとはいっても、こんなにも近くで、加えて他の人が少ない一角で狼谷さんと一緒だったら、それはもう2人キリだと言って良いのではないだろうか?
彼女は、最初こそ図書委員の仕事……の様に本を整理したり、貸し出カードを整理したりしていたんだけど、全部終わったら一緒に並んで本を見ていた。
最近ではこのパターンが基本となってる気がする。
いつも、御神は狼谷さんの事をなるべく見ないようにしてたけど相応に意識し過ぎていたので、きた瞬間電流でも身体に走ったのか?って思う程 跳ね上がってた。
まぁ、見ない様にしていた、とは言っても 当然無視したりはしないが。
―――こんなにも心臓が高鳴り、身体が過剰な反応をする事があるなんて………。
図書室の主になろう……、と昔から考えてた自分としては、この手の反応があることはいろんな本を 歴史書から小説、漫画、ライトノベルを含めて読んできてたからよく知ってるつもりだったけどまさか、自分自身がそんな体験をするなんて、考えもしなかった。
ただ、次の狼谷さんの問いは、本当に想定外。
「御神クンは、私の事が怖かったりするのか?」
「――――――」
狼谷さんが今何を言ってるのかは、理解出来なかった。1秒が何倍、何10倍に感じる程の時間の流れの矛盾を感じながら……、やがて本に視線を落としながら言ってた狼谷さんと目が合う。
その目は、いつもの様な優しい目じゃなく、どこか儚げで寂しそうなそんな印象……。
「うひゃい!?? こ、こわ?? な、ななな、なんで!?? どうして!?」
時間感覚のズレがあったけど、ここで漸く動き出すことが出来た。
図書室は静かにしなきゃいけないのに、声が大きくなる。
幸いに人数が少なかった事と隅にいて離れてた事もあって、そこまで目立ったりはしなかったんだけど、これは不可抗力だと思う。
「あ、いや。すまない。いつもキミと話をする時 クラスの皆よりも数歩離れていく感じがしてね。それに私はキミを確保しようと女子バレー部の皆で迫った時もあったから。だからかな、そう思ってしまったんだ」
そう答える狼谷さんの顔は、やはり目を見た時の印象と同じだった。
儚げで寂しそうで、それでいて後悔。彼女には似合わない種類のモノだ。
「いやっ! そんなこと無い、無いですから! 滅相も無いですから!!」
「……そうか。なら良かった」
儚く笑う狼谷さん。
いつもクラスの人達が集まってる輪の中心にいる人気者で、それにとても優しくて、優しくて。
そんな彼女だから、かな。誰にも話してない事がつい口から出てしまったのは。
「ごめんなさい。ボクはちょっと人付き合いが苦手なだけ……なんです。皆のこと、そんな風には考えてなくて。―――その、昔……いじめられた事があったから」
「!!」
いじめられていた過去。
そんなモノ、心の何処かに鍵を厳重にかけて……いや、消去しちゃったって良かった。
でも、どれだけ忘れたくても、忘れようとしても、願っても、ふとした時に鮮明に浮かび上がってくる。
誰かに話したい、知って貰いたい……と頭では、心では思っていても、ちっぽけなプライドが邪魔をして打ち明ける事が出来なかった。
家族にさえだ。
なのに、他人に……ましてや異性である狼谷さんに打ち明ける日が来るなんて、思いもしなかった。
自分でも解らないくらい極々自然に、口に出てしまっていたから、意識して打ち明けたと言う訳じゃないと思う。
幾ら1人でも大丈夫。家族がいるから乗り越えれる、と渡ってきたとしても、辛い時は辛いし、苦しいものは苦しい。
あの時は、ほんの少しだけ、耐える力が上だっただけに過ぎないから。
――と、いろんな思いが交錯していたその時だ。
「どこの誰に
「―――えええッッ!?」
驚いたのは、いつの間にか物凄く近くに接近された事。
顔が物凄く近い。思わず仰け反りそう……じゃなく、リアルに転けてしまった。
狼谷さんは、少し驚いていたが、直ぐに自分に手を差し伸ばしてくれる。
「大丈夫だ。そんな卑劣な事を見過ごす訳にはいかないよ。不安なら先生に相談しても良い。私は力にになることを惜しまない」
狼谷さんは、こんか感じの人……だっただろうか?
優しいのはかわりないけど、ここまでの行動力があるなんて思いもしなかった。
このままじゃ、何も言わなかったら、狼谷さんは1人でも飛び出していきそうな気がしなくもない。
「お、落ち着いて狼谷さん! えと、その、中学の頃の話だから! 今は大丈夫だから!」
「っ!? そ、そうだったのか」
飛び起きると思わず、狼谷さんの両肩に触れて彼女に言い聞かせるように止めた。
女子の身体に触れるなんて……妹や母以外の女のひとに触れるなんて、と今さらながら考えたら頭がバクハツしちゃいそうだったんだけど、狼谷さんをそのままにしておくのは危ない。
でも、自分の事のように怒ってくれるのは嬉しかった。
温かい気持ちになれた。だから、狼谷さんの肩に触れる事が出来たのかもしれない。
「それに、狼谷さんも解ってた筈、でしょ? クラスの皆が、そんなことする人なんてありえない、そんな人、いないって」
「……すまない。そうだった。早とちりをしてしまったようだ」
クラスの皆が良い人ばかりなのは、同じクラスだからこそ、狼谷さんも解ってる。
まだ2学期目とはいっても解る筈だ。
いつも、自分の周りに集まってる人達なのだから。
「ううん。……あはは。何だか情けないね。こんなに図体は大きいのに」
自分で打ち明けておいて、情けなくて涙が出そうになる。
線が細くて華奢だったら少しは同情でも買ってくれるだろうか? 痩躯な身体とはいえ一般的な平均身長よりも高い。
男らしくない、と思われたって仕方ない。古いジェンダーな考えだ! と何かの番組で見た気がするが……、それでも思ってしまうんだ。
「いいや、そんな事はないさ」
「!」
そう考えていた時、狼谷さんは朗らかな笑みを浮かべていた。
最初に見ていた儚くどこか消え入りそうな寂しい表情は、そんな目はもうどこにもない。
「キミの気持ちが解るなんて、簡単には言えない。でも、私の気持ちなら言える。………苦しかった過去を打ち明けるなんて、相応な勇気が必要な筈だ。御神クンは情けない男じゃない。キミこそが優しくて、強い男だと私は思うよ」
「っ……、え、いや……」
「覚えているかい?」
狼谷さんは、懐かしむ様に一列の棚を見ながら続ける。
「4組の和泉クンのこと」
「……えっと、狼谷さんと同じ図書委員の?」
和泉の名は知ってる。
彼も図書委員で、図書室を非常に多く利用している御神はよく知ってる。
と言うより、結構有名な生徒だ。
何処の漫画? 何処のアニメ? 何処の小説? って思える様な事が立て続けに彼に起こる。
彼が持つモノは《不幸体質》
登下校の際 突然、木の枝が折れて彼に直撃する。
風に飛ばされた看板等の重量物が落下し直撃する。
運動場で、打った野球のボールが彼に直撃する。
階段で足を踏み外す。
数え出したらキリがない程のモノ。
そこまで起きてて何で無事なのか? 下手したら……と思っちゃうのだが、彼は大丈夫なのだ。
彼を守る強く優しく格好良い子がいるから。
「―――彼が、図書委員の仕事、本棚の整理をしてる時の事だ」
「あぁ――――……、急に倒れてきて驚いたアレですか」
勿論、図書室の主たる自分は知ってるし、覚えてるし、何なら定位置からその本棚は非常に近い。それに――クラスは違えど、和泉ともトモダチになる切っ掛けになった出来事の1つだったから。
「あの時キミは、咄嗟に和泉クンに倒れてくる本棚を支えた」
「……代わりに本の雪崩攻撃を受けちゃいましたけどね」
「それは仕方ない。でも、棚が倒れて下敷きにでもなってしまえば大惨事だ。………でも、キミは彼を守ったんだ」
狼谷はそう言うとどこか遠くを見る様に図書室の天井を見上げて続けた。
「咄嗟に、誰かを助ける事が出来る。助けようと動ける。そして、和泉クンを実際に救った。……そんな事が出来る人を情けない人だなんて、私は思わない。キミは私が優しい、と言ってくれるがキミこそが優しいんだ。……私はそう思うよ」
「……………」
その時、換気の為に窓を開いていたから、外から温かい風が吹き込む。
狼谷さんと御神クンの髪が靡く。
「あは………、あはは……、そんな風に言ってくれたひとは初めて、です」
何処か泣笑いにも見えるその表情。
いつも長い前髪がすっぽりと目元を隠してしまってれうので、彼の目は見えない事が多いが、この時はハッキリと見えた。
「ありがとうございます、狼谷さん」
「――――――!」
靡く髪、サラサラと柔らかく、仄かに香る匂い。
彼女にとって、それら1つ1つがどうにも心をざわつかせる。
そして、何よりも感じるのは彼の
「あっ、御神クン!」
「「ッ!?」」
そんな時だ。
まるで図ったかの様に2人の間に割って入る影が1つ。
だが、1つだけ庇っておくと、その乱入者? の位置からは狼谷さんの姿は確認出来なかった。だから、彼1人だと思って声をかけたのだ。
「い、和泉クン!?」
「うん! 図書委員の仕事でね。今日は何を読んで………」
乱入者は、話の中でも上がった不幸体質な男子、和泉だ。
そんな和泉は、違うクラスのトモダチである御神の姿を見て声をかけ、近づいて……漸くもう1人いる事に気付けた。
「やぁ、和泉クン」
「狼谷さん……!? アレ? 今日の図書委員の仕事って……。ぼく間違えちゃった……?」
「ああ、私は個人的に用事があって、図書室に来てるだけだ。和泉クンは間違えてないよ」
狼谷さんは何処か複雑な心境だったが、来訪者が和泉くんだった事、結構前のめりだった自分自身の事も合わさって、ある意味ホっとしていたりもする。
「ッ~~~~」
「そっか……! 良かった。じゃあぼくは仕事に……って、御神くん!? 顔真っ赤だよ?? 大丈夫!?」
御神くんの顔を見て取り乱す様に駆けつける。
様々な不幸に見舞われる和泉くんは、病気もその不幸の1つに過ぎない。……とはいっても、重篤な病に掛かったりはしてないので、身体の方はある意味では丈夫だ。
でも、風邪、インフルエンザ等の流行病にはここぞ、と言うタイミングで掛かっちゃう事もシバシバ。
常備していた救急箱を片手に、御神くんの傍へ。
「だ、だいじょうぶだよ。ありがとう和泉くん。ボクは大丈夫だから……」
「ほんと?? 無理してない??」
「うん、ほんとほんと」
狼谷さんに言った事、感慨極まってしまった事も含めて、思いっきり顔を紅潮させてしまっていた御神くん。
でも、和泉のおかげで何とか持ち直した。だからこそのありがとう―――だったりする。
「……わっ、御神くんの目初めて見たかも。……ちゃんと有ったんだね」
「……いや、そりゃあるよ? のっぺらぼうじゃあるまいし。……ほんとありがとう」
昂った気持ち。想い。
和泉くんのおかげだ……と、改めて感謝の言葉を告げる。告げられた方は特に何も出来てないから、大袈裟だよ、と言っていたがお礼を言われるのは嬉しい様なので、笑顔で受けるのだった。
「………御神クンの目、か」
狼谷さんは、和泉クンと御神クンを眺めながら……先ほど感じた事を、改めて考えなおす。
「……なんだろう? どこかで、視た気がする………」
それは心地良さに加えて感じられるのは懐かしさ。
一体いつの事だったのか、それがどうしても思い出せないが……。
「わーーーーー!!」
「なーーーーー!!」
色々と考えに耽ってると、ここでも和泉くんの不幸体質発動。
紙の束が、突然紙吹雪? の様に散らばって視界を遮ってしまった。
先ほどとは違い強風が吹いてきたのと、そのタイミングで縛っていた紐が解けてしまって、色々と合わさった結果……、片付けが大変そうな光景が広がった。
「……静かな時間、とは言い難いけど、やっぱり好きだな。この時間……」
急に図書室内が騒がしくなってしまった、慌ただしくなってしまった。
けれど、それもまた良い。
狼谷さんは足取り軽やかに、2人の手伝いをするのだった。