綺麗なだけじゃない狼谷さん 作:狼谷さんカワ(・∀・)イイ!!
「きょ、今日も今日とてボロボロだね……、和泉くん……」
「ぅぅぅ……、式守さんいないと、本当にダメダメなんだ……ぼく」
廊下でバッタリ出会った御神と和泉。
いつもの御神なら、『そんな事ないよ! 和泉くんはダメなんかじゃないよ』と言ってあげる所なんだが、今の和泉の現状を見てみて……、そう安易な事は言えない、言わない方が寧ろ良いかもしれない、と思ったりしているのだ。
何せ和泉は比喩などではなく、本当に見た目ボロボロになってしまているから。
頭には大きなタンコブが2つ、加えて何故か解らないが木の枝が髪に刺さってる。頬には何かが当たったのだろうか? 大きな大きな絆創膏などなど。
一番目に付くあの頭部の枝は……直に刺さってなくて良かったと、ほっとするレベルのもの。後は服はボロボロ、頬の絆創膏に目が行きがちだが、よくよく見てみると所々切り傷があり、応急措置をした様子がうかがえる。
Lサイズの絆創膏が頬に張られていて、後はSサイズの小さな絆創膏が目に見えて解る場所、肌が露出しているところに貼られている。
病院に行った方が良いのでは? と思うのだが……何だか病院で更なる大怪我を負いそうな気がしなくもないので、それも安易に言えない。道中も危険が沢山だ。
「それに、犬束くんにも迷惑かけちゃったし……」
「あ――――……」
とても優しい彼の事だ。
きっと、ある程度は和泉の事をフォローしてあげたに違いない、と思うんだけれど、流石の犬束も最後の最後まで面倒を見切る事は不可能だったようだ。簡単に、彼も軽傷な姿が想像できるから。………いや、生半可な怪我なら和泉の為に付きっ切りになって上げそうな所を考えてみると……割と結構重症なのかもしれない。
「だから、ぼくに構わず先に行って、御神くん……。音楽準備室に用事があるんだよね……?」
「いや、でも……」
「ぼくなら大丈夫だから。……慣れてるもん」
「それ、慣れちゃ駄目なヤツだと思う……」
怪我に慣れちゃうのは、ある程度の激しめな運動部やヤンチャでアウトドア大好きな子供ならありそうな話だ。
でも、正直和泉の不幸属性は常軌を逸してると言って良いのかもしれない。
つい数秒前も、【危ない!!】 と言う声と共にたまたま開いていた窓から野球ボールが飛び込んできた衝撃場面を目撃している。
声が先に届いたので、咄嗟に御神が和泉をおして回避できたので良かったが……、その先でこれまた 偶然? たまたま? 放置されていた塵取りに足を掬われて転倒。肘に打撲を負ってしまった。まるでピタゴラスイッチだ。ケガを必ずする様に仕組まれたピタゴラスイッチ。………物凄く嫌だ。
取り合えず、野球ボール直撃に比べたら軽傷で済んでるのかもしれないが、痛々しくて中々見てられない。
「式守さんが心配するからさ? 和泉くんは彼女が戻ってくるまで待っていた方が良いと思うよ。(できれば、動かず、安全な場所で……)」
「うう………、今日、今日こそは式守さんと一緒にぼくだって帰りたいよぉ……」
球技大会からもう1週間。
でも、それでもあの球技大会は伝説にでもなったと言うのか、式守に対する黄色い声援、ファンクラブ? でも出来たのか連日押しかけてくる女子たち。
おかげで和泉は中々近づけなくなっちゃっているのだ。
「……その気持ち、ぼくも解る……かな」
「だよねだよね。御神くんも、狼谷さんとは中々一緒になれてないんでしょ……? 2人とも大活躍だったし」
「うん。周りに人が沢山いて大変だったよ」
「それに御神くんの方にも沢山人が集まってたでしょ? えと……ソラくん!」
「ぁぅ………」
式守と同等、或いはそれ以上かもしれない程人気を博しているのが狼谷だ。
元々バレーボール部のエースである事あって人気は高かった。ここに来てのあの球技大会だ。多くの新たなファン獲得していて、にわかファンがー! とか何とか争いごとがあったりして何とか鎮圧出来た、ってエピソードだってある。
たった1週間かもしれないが、物凄く濃い1週間だったと思う。
それに、和泉が言う通り御神自身にも人がそれなりに集まってきていた。無論、御神=ソラである事は、なるべく抑えているのは事実だが、色々と立ち回ったり、狼谷と隣に居たりしてそれなりに目立っている。
高身長でスペックもヨシ。最初こそは隠れていて解らなかったのかもしれないが、狼谷が見つけて、見出された為に皆にも知れ渡る事になったのだ。
知れ渡った所で、既に彼は狼谷がガッチリとカバーしているので、深く踏み込む事は出来はしないが、今回の様に物理的に狼谷と御神が離れてしまったパターンはまた別だ。
でも、それでも和泉よりはまだ救いがある方だと御神は自覚している。
何故なら、
「ぼくは、まだ良いと思うよ。……部活で狼谷さんと会えるからさ? だから和泉くんの方が心配だって」
精一杯の笑顔を見せる御神。それでいて和泉を心配する。身体的にも精神的にも負荷が大きすぎるのは和泉だと思ってるから。
和泉は、そんな御神の顔をじっと見てから言った。
「……ぼくは大丈夫だよ。心配してくれてとても嬉しいよ。……だから、だから、ぼくもぼくなりに精一杯頑張るから。……だから、御神くんも頑張ってね。その、寂しそうな顔してるから」
「……っ!」
「あははっ。……何となく、だけど。解るんだ。ぼく達似た者同士なのかもしれないね」
「………だね。お互い想い人がカッコ良すぎる所とか特に」
「だよね~」
狼谷と一緒に話をする時間は確かに減ってしまって寂しさを覚えている。
でも、同じ境遇な人がいるだけで大分救われる気もした。それも大切な友達である和泉が相手だから。
「和泉くんは、今日はもう帰っちゃうの?」
「え? うーん……、今日は本当に疲れちゃったし……」
「うん。……怪我とか考えたら、早く帰って家で養生してた方が良い、って思っちゃうけど……」
忘れがちだが、和泉は現在進行形で怪我人だ。応急措置をしていたとしても怪我人。安全な場所で養生するのが一番……と思うんだけれど、それでも御神は言わずにはいられない。
自分似ていると言うのなら、きっと間違いないと思うから。
「早く帰っちゃうのは止めておいた方が良いかもしれないよ。……式守さんを、待っててあげた方が良いと思う」
「え……」
「だって、和泉くんに負けなくくらい、式守さんだって和泉くんの事を想ってるの解るからさ? ………今、きっとこの瞬間も、会いたくて会いたくてたまらない~って。でも、式守さんも優しいからさ? 集まってくれた人達を無下に出来ないから」
きょとん、としていた和泉だったが、直ぐに柔らかな笑顔を作って頷いた。
「やっぱり、ぼく達は似ているよ。……全く同じこと、考えてたんだ。ちょっと話すの恥ずかしいって思ってたから濁らせたけど。……今日は玄関で式守さんをずっと待とうって思ってたから」
そう言う和泉の顔は本当に穏やかで。それでいて目の奥には少々寂しさが垣間見える。
この1週間我慢したんだから、ある意味当然か。
「御神くんも用事が終わったら狼谷さんを待つんでしょ? 今日は確か猫崎さんが部活休みだ~って言ってたし」
「ん。そうだね。その通りだよ」
御神も笑顔で頷く。
ただ、和泉の言う玄関は候補から外さないといけないと思った。野暮な事はしたくない。
でも、頭の中で、心の何処かでは確信していたんだ。
「ぼくも狼谷さんを待ってる」
――直ぐに会える、と。
少々心配だが、いや、かなり心配ではあるが……和泉と分かれて御神は音楽準備室へと赴いた。ここには忘れ物があったから来た、と言うのが目的の1つ。
「あ、やっぱり……ここに置きっぱなしだったんだ。楽譜」
御神は、準備室に備え付けてある机の上に、目立つ様に置かれている楽譜に目をやった。
恐らく、先生がここに来たら直ぐに解る様に解りやすい所に置いてくれていたのだろう。直接会う機会がこの1週間で無かったからなのと、一応ピアノの演奏技術に関してはシークレットとなってるから、気を利かせてくれたのだ。
楽譜を手に取り……御神はピアノの前で座った。
そっと鍵盤に手を宛がい……目を瞑る。
自然と指が動く。心を、気持ちを解放する様に時に静かに、時には激しく……想いの丈を全てぶつける。
大変だった。でも、寂しかった。もっと話をしたかった。もっと触れあいたかった。
たった1週間で? と思われるかもしれないが、どうやら自分は本当に寂しがり屋で、独占欲だって強いのかもしれない。
「うぅ……狼谷さん、嫌がられたらどうしよう」
あれだけ、当初は相応しくない等と口にしてみて、いざこれだ。
会いたくて会いたくて仕方がない。
部活動で会えるには会えるけれど、……そうじゃない。自分の為に皆の邪魔をする訳にもいかないから、自重しなければならない。
ピアノを叩く音が今日一番、大きくなったその時だった。
ふわりと花の香りが鼻孔を擽ったかと思えば、背中に感触があった。
首に手を回してそっと頬を寄せる。
「私がキミを嫌がるなんて、ある訳がないじゃないか。……何を言ってるんだい? 御神くん」
「ッッ!!」
まさかの不意打ちに、ピアノの腕は抜群、ピアノ系ユーチューバーの中でもトップクラスな彼が不協和音を連続してしまう。
ピアノの音よりも、心臓の音の方が聞こえてくる。
「やっぱり、ここに居たね。……いつの間にか教室からいなくなってたから。ひょっとして勝手に帰っちゃったかと思っちゃったよ。今日部活休みだし」
狼谷は自分でも大胆な事をしたな、と自覚しており、少々顔を赤くさせる。
いつもよりも遥かに大胆な行動だと思うけど、………これくらいしたい気分ではあったのだ。
「今日こそは、キミと一緒に居たいな、って私は思ってたんだけど。部活でも中々2人だけで、とはいかないから」
「……嬉しいです。ぼくもそう思ってましたよ。でも、狼谷さんは人気に拍車が掛かっちゃいましたから。落ち着いて、ゆっくりと一緒に居られる所は、ここかな? って思って」
御神はそう言うと、狼谷の頬に手を添えた。
そして、片方の手でピアノを軽く叩く。
片手の演奏だが、心地良いメロディーが流れて……狼谷はそのあまりの心地良さに、御神の手の温もりに、目を瞑った。身体全体で感じたいと思ったからだ。
そう、この曲はよく知っている。
あの時、この場所で……御神が狼谷に告白をした時に奏でた曲だから。
「狼谷さんなら、また僕を見つけてくれる、って。………ちょっぴり、情けない気もしますね」
「……そんな事ないよ。キミの事を情けないなんて思った事ない。御神くんは私の中で一番なんだ」
とびっきりの笑顔。
大好きな笑顔を向け合いながら……時間が許す限り、心行くまで、あの日の様に楽しむのだった。