綺麗なだけじゃない狼谷さん 作:狼谷さんカワ(・∀・)イイ!!
「ぅ………」
頭のどこかでは解ってた事。予想はある程度してた事。
そもそも、そこまで強く断る事なんて出来ないから。自分の為に頑張ってくれてるし、色々と手伝ってくれたのも事実だし、何よりここは喫茶店。来店を縛れる訳がない。
「この【自家製チーズケーキ】と【本日のホットコーヒー】を1つずつでお願いしまーす」
「……(頑張ってリクっ!)」
家族が総出で来るなんて……解ってた事。
演奏に集中してて、綺麗に2曲行けて一呼吸を置いて……ってなった時、真田リクくんの視線の先に彼女たちが見えた。
妹のナツちゃんと母の麗さん。
帽子とサングラスで変装っぽい? 事してるけど、2曲弾いて大丈夫だと思ったのだろうか、帽子とサングラスとって、ひらひら~~って手を振ってた。
「(……と、とにかく集中しないと)」
驚いたのは間違いない。
けど今は仕事中だ。
だから、むんっ! と軽く力を入れてピアノに集中する。
クラッシックからジャズ風にチェンジする。
お客さんたちには褒めて貰えたし評判は良い感じがする。
今の自分は真田リクだから。だから大丈夫。出来る。
「(だいじょーぶだいじょーぶ、できる、できる………)」
「…………むーっ、リク兄ぃ」
「ふふ。大好きなお兄ちゃんが皆の人気者になっちゃったら複雑?」
「そ、そんな事ないもんっ! ただ、リク兄ぃの癖に生意気! って思っちゃっただけだもんっ」
何でもこのcaféでのピアノ生演奏は、始めたばかりとの事。
大々的に広告でもしていたのだろうか? お客さんが結構多いし、皆がピアノに注目している。結果、息子&兄は視線を集める結果となり、その容姿もあって一気に人気を搔っ攫っていた。
大人な女性、綺麗なお姉さんも沢山。
「むぅ……、でもほんと。リク兄ぃは何であんなに自分に自信が無いのかわかんないよ私。……変なトラウマ? 見たいなのあったりするのかなぁ?」
「………さぁ、ね。リクにはリクの考えがあるし、人それぞれだもの」
「うー」
何処か儚く悲しそうな表情を一瞬作るのは、母親だった。
中学時代の事は、それとなく聞いている。リク本人からではなく、リクと話をしていた同級生からだ。比較的話をしていた女の子。共通の趣味があってよく話をしていた……らしい。
その子に中学の卒業式の後、物凄く謝られた事があったんだ。
自分も無視されると思って、いじめの標的になると思って怖かった。
どうしても何も出来なかった。
ごめんなさい、ごめんなさい、と涙を流しながら謝ってくれた。
リク本人にも謝っていて、母もリクに謝った。気付いてあげられなくてごめんなさい、と。
リクは笑っていた。
何ともない、と言って笑っていた。
1人が元々好きだから、と。
大変な時期もあった。子供に目を向けてあげられない自分が情けない、と涙したが、リクはいつも笑ってくれていた。支えなければならないのに、沢山支えてもらった。
リクが苦しんでたのも知らずに。
でも、高校生になってリクは変わったと思う。
笑顔の質が変わったと思う。
ピアノ関係のバイトを始める、って事も驚いた。
それ以外でも、ナミの勧めで変装スタイルでストリートピアノを演奏して、ナミが映像を取って、動画投稿サイトに掲載していたり、とアグレッシブな事を沢山し始めた事に驚いた。
少しでも家計の助けになるなら、と笑っていたリクの笑顔は、―――今は亡き夫の顔に被って見えた。
それにあの頃、夫と共にピアノを練習していた頃に沢山見せてくれた笑顔だ。
「ナミ」
「むむ……、すっごいあの人近く無い?? 他の仕事ほっといてリク兄ぃのトコ行ってる?? むぅ……」
「ナミ」
「!! な、なーに? お母さん」
「……ありがとね」
「え???」
ピアノに関してはナミからの提案だった……らしい。
夫と同じ様に外でも弾いてみたくて、でもなかなか出来なくて悩んでた時に、ナミからの提案で変装して弾いてみたら上手くいけた。
ナミも間違いなくリクを支えてくれた1人だから。
「次のリクの誕生日、思い切って家でピアノ買ってみましょうか?」
麗は、リクのピアノを弾く姿が好きだった事を改めて思い出し―――そう呟くのだった。
若い子から年配の人まで、クラシック~ジャズと幅も広く、最近話題の曲まで織り込ませて、曲名を当てようとする人も少々。
大分弾いた所でそろそろ休憩……、と思ったら、それを読んでいたのか、すっとカフェオレを差し出してくれた。
「お疲れ様。リクちゃん」
「あ、鯨さん、ありがとうございます。……あれ? そう言えば 犬束くんは?」
時折、目を輝かせながらピアノ演奏を見ていてくれて、曲が終わる度にスゲー、と声をかけてくれていた。
その後は軽く手を振られた。ピアノに集中してたし、その手を振った意味もいまいちわからなかったから、後で聞くつもりだったんだけど……。
「ああ、秀ちゃんは今日は新人くんである、リクちゃんとの顔合わせで来ただけだったから。同じ高校生バイトくんが来るって秀ちゃんに伝えたら、他の掛け持ちバイトの場所の次いでに、って寄ってくれてたんだ」
同年代バイトが来るから、と言ってわざわざバイトのシフトに入ってる訳でもないのに、初日に顔合わせに来てるのは……。
「秀ちゃんね? 一応、ここの先輩だし? 仕事内容は違うかもだけど、何かあればオレに相談しても~~だって」
「とても、ありがたいです。……犬束くんって優しいですよね」
「ん。私もそう思う。秀ちゃん的には最後挨拶していきたかったらしいよ? 見た目ヤンチャしてそうなのに、凄く真面目な子だから」
鯨さんは、一瞬あれ? って思った。
リクくんが、秀ちゃんの事を『優しい
今日会ったばかりな筈だけど、何となく昔から知っていた? 様な感じがしたからだ。
そんな時。
「ここ、お洒落過ぎて入るのにちょ~~っと抵抗があるよ」
「……そうかな? 猫崎は堂々としてる様に見えるんだが」
「そりゃ、狼谷と一緒だもんっ! おまけに狼谷から誘ってもらっちゃったし? こんなの初めてで、テンション上がる方が勝っちゃってるよ! ほんとどしたの?? 私としては凄くありがたいんだけど! ちょっと気になる!?」
「……たまにはね。私にも少々入るには抵抗があったから、猫崎と一緒で良かったよ」
「えっ!? そーだったの!?」
がらっ、と新たなお客さんが入ってきて……リクくんは 仰天した。
ここは、高校からは結構離れた場所にある筈なのに、こうも知っている人と会うものなのか、と驚いた。
よくよく考えてみれば、どこから通っているのか、家の場所とか知らないから、別に会っても不思議ではないんだが……バイト初日、立て続けに知っている人に会う、家族を含めたら5人にも会うのは……本当に偶然?
「へ~~、すごっ。おっきなピアノがあって、生演奏とか本格的だー」
「…………そう、だね」
猫崎さんと狼谷さんの2人だった。
部活の終わり、その帰り道だろうか?
今、狼谷さんと目が合った。
――なんでだろう? なんだか、狼谷さんの表情が変わった気がする。
それは兎も角、演奏者とは言っても、caféでお客さんから あからさまに目を逸らせてしまうのは拙いから、軽く会釈をしたのちに、ピアノの方に視線を戻した。
自然に、出来たと思う。……多分。
あの表情は何か気になるけど。
「いらっしゃいませ~~」
さっきまで喋ってた鯨さんがいつの間にか接客にいってた。
思ったよりも長く固まってしまってたのかもしれない。
「(あっ、と、とにかく演奏再開しないと………)」
真田リク。
今は真田リクとして演奏をする。知っている人がたくさん来たとしても、今は御神リクじゃないから。大丈夫大丈夫。
心に念じて、鍵盤に指を当てる。
ゆっくりとした曲調から、徐々にテンポを変えて、今度は いろんな曲をメドレーで。
兎に角平常心で。
「はーーー、すっご。めっちゃ感動した! 涙でたっ! これ、皆に教えてあげなきゃ損だよ絶対!!」
「……………」
「ね? ね? 狼谷もそう思わない?? あんなのあんな間近で聴くなんて早々あるもんじゃないし、音楽で感動して涙するとか、初めてで本当最高でーー! また一緒にこようよ!」
「………でも、1週間限定らしいじゃないか。試験的に導入してみるから、取り合えずお試しでって店員さんが言ってたからさ。次には、もうないかもしれないよ」
「ええええ! そーなの!?」
帰り道、狼谷さんの心はざわついていた。
猫崎はテンションが上がりまくりだったが、狼谷さんは違う。
狼谷さんは、
以前、隣町に電車で向かう時に、駅に設置されていたピアノを弾いていたのは間違いなく彼だ。心に響く美しい音色。目を瞑りながら聴けば、より心地よく響いてくる。
また1人、また1人とその音色に誘われ、足を止めて聞き入る人の数が増えていく。
生のピアノ演奏なんてそう聴く事は無いからなのかもしれないが、狼谷さんも足を止めて聴き入ってしまっていた。
気付けば一番近くまで寄っていて、最後まで聞いていた。
その後 軽く挨拶をした時に―――彼と目が合ったんだ。
「………思い出した。御神クンの目とそっくり、なんだ」
家に帰ったら当然。
「もうっ! ナミに母さん! ヒドイじゃんっ! すごく緊張したんだから!」
「ふふ。ごめんごめん。リクの晴れ姿、どうしても見たかったから。とっても上手だったわ。今日はご馳走を作るわね」
「そーだよ。リク兄ぃは色々と気にしすぎなの!」
盛大に文句を言う。軽~く流されてしまったけど、2人とも嬉しそうに聴いてくれたので最終的にはヨシとする。文句はそこまで。
「でも、まさかクラスメイトに会うなんて思わなかったよ……、ほんとドキドキして、失敗するかも? って心配だった」
「え? そうなの? 全然完璧に見えたんだけど? ずっと聞いてる私も保証する」
「内心ではビクビクドキドキなの。ナミや母さんまで来ちゃってるし。プレッシャー凄かったんだから。バレたらどうしよう……とか」
黒髪顔隠しスタイルな髪型から金髪顔出しスタイルで別人の様だ、とナミからも太鼓判。
身内からもそう言われる程だ。だから大丈夫だとは内心思ってても、それでもドキドキしてしまうのは仕方ない。
真田リクだから大丈夫だった。もしも、アレが御神リクなら、テンパって失敗して、の可能性100%だ。
「でも、バレてなくて良かった」
「あらあら。別に良いじゃない。どうしても秘密にしておきたい、って訳じゃないんでしょう?」
「ぅ……、そ、そうなんだけど。やっぱり恥ずかしくて」
この時の彼は知らなかった。
ほんの僅かな情報から、点と点を結ぶ様に……勘づいた者がいた、と言う事を。