綺麗なだけじゃない狼谷さん   作:狼谷さんカワ(・∀・)イイ!!

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キミと文化祭② 勇気

 

 

「想像以上、だったね……」

「……うん。同感だ。取り合えずひと段落。お疲れ様、御神クン」

 

 

死屍累々とはまさに今眼前に広がってるこの光景の事を言うんだろうなぁ……と、教室を見てる御神くん。

 

何せ騒がしい筈のクラスの皆が、今は物凄く、ものすごーーーく静かだから。

 

うつ伏せに倒れ、仰向けに倒れ、何でか壁にめり込む様に倒れ、重なり合って倒れ……、それAED必要案件!? って思わせてくれる光景だから。

 

皆それぞれの頭からは天使の輪? みたいなのが飛んでたり、幽体離脱? してそうな変なのが出てたり、本当に精も根も使い果たした、と言った様子。

因みに、これでもまだ終わってないのがまた怖い。

 

 

「部活でもここまで疲れた事は無いかもしれないな……。身体が少し痛い」

 

 

直ぐ隣にいる狼谷さんは、生還者の1人。

いつも綺麗に整ってる髪が少々乱れているくらいで、五体満足だ。流石はバレー部エースだ。

 

でも、椅子に深く腰掛け、休憩をする。腕を回したり、手首柔軟をしたりする動作の1つ1つが絵になって、疲れててる筈なのに優雅さ、気品さが出てる。

間違いなく、狼谷さんは狙ってやってる訳じゃないのも解る。

 

極々自然に、作法? を身に着けているんだって解る。

 

 

「……すごい、ね」

「ん? ……ああ、文化祭の準備って言うのはこう言うモノなんだろうな。……まだ達観するには早いと思うが」

「ッ、あ、いや、その……うん。そう、だね」

 

 

だからこそ、御神くんは つい口から出てしまった。

 

狼谷さんの事が凄い、と御神くんは言ったつもりだ。

でも狼谷さんは文化祭の準備、その大変さの事だと認識した。

 

それが良かったのか悪かったのかは、わからない……。

 

 

そんな時。

死屍累々な光景だった場所に一筋の光が降りる………かの様に、動き始める者達が居た。

 

 

「さ、さぁ再開だ……。御神く~~ん……、ゴメン、何かお菓子、飲み物買ってきてもらっても良い……? おつりは、労働の代金って事で……」

「あ、オレも、オレも頼む……。ヤバい、変な体勢でやってたせいか、腰が痛ぇ……」

 

 

動き出した皆は、取り合えずエネルギーを補給しなければ不味い! と思ったのだろう。

ひょい、ひょい、っと皆から手早く集金すると、巾着袋に入れて御神くんに渡した。

 

 

「うん、解ったよ。大丈夫」

 

 

買い出しを突然頼まれた形にはなったが、御神くんは、イヤな顔1つしない。

過去に嫌な経験があった事も少しは影響しているかもしれないが、皆本当に頑張って全力でやって、手を抜いてる様子は一切見せないのを知っているから。

力になれるのなら、嬉しいから。

 

まぁ、それ以上に………

 

 

「御神っちって言う最高戦力をまた一時離脱させるのは痛いケド……、この場で動けれそうな体力・気力・精神力・余裕を兼ね備えてるのって、考えたら……」

「ぅぅ……、オレもヤバいヤバい。ついて行ってやりたいのはやまやま……、でも腹へったぁ……、うごけない…………」

 

 

目は虚ろ、時々白くなるのも限界が近い証。

それでも手を止めない皆も十分凄いと思う。

 

つまり、御神くんは今の皆の事が、物凄く心配になったから、が一番の理由だ。

 

 

 

「任せて。直ぐに買ってくるから」

「ありがと~~、ほんっと助かる………。外もう暗いから、気を付けてね~~……」

「スマホ持って行けよ……、ライトONにしてたら、安全だぞ~……」

「何かあったら(SOS)、こっちからも連絡するから………」

 

 

 

親指立てて、見送ってくれる人も多数いるけど、これは本当に危ないかもしれない。

頑張り過ぎて、お腹すきすぎて、色々と頭も回ってないのかもしれない。

 

 

「心配しないで。直ぐに買ってくるから」

「―――ちょっと待って。私も行く」

 

 

そんな中で、新たな立候補として手を上げてくれたのは狼谷さんだった。

いつの間にか、縛っていた髪留めを解いて、軽く髪を梳く姿は、スゴク雅。

 

 

「狼谷さんも疲れてるでしょ? ぼくに任せてくれて良いよ」

「大丈夫だ。体力には自信はあるし、キミに頼ってばかりって言うのは性に合わないんだ」

 

 

「マジか……」

「狼谷の体力もぱねー……」

「って言うか、男子情けないぞーー………。もっと頑張れーー……」

「無茶言うな……、解るだろ、気持ち……」

「ぅ~~ん……」

 

 

死屍累々な人達から、更に外に出て買い物に行って、皆の分の食糧やら飲みものやらを持ってくるだけの体力……と考えたらゲッソリと顔が青くなりそうだ。実際になってる。

 

 

「―――わっ。狼谷さん。急いだほうが良いね」

「……だな。皆、少し待っててくれ。言ってくる」

 

 

顔色が悪くなったのがバッチリ御神くんの視界の中にも入ったのだろう。

宛ら、山中で遭難、海で漂流遭難、して食べ物や水を求めてる遭難者の様にも見えなくもない。

 

手早く、狼谷さんと御神くんは2人で買い出しへと向かった。

 

 

 

「…………あの2人って案外………」

 

 

 

因みに 出ていく2人の後ろ姿を見て、きゅぴんっ! っと生気が戻って目を光らせる女の子が居たり居なかったり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足早に、夜道を進む。

街灯の光が道を照らしてくれてるが、それ以上にこの夜を照らしてくれる大きな大きな存在があった。

 

 

「わぁ……」

 

 

室内に居たから、当然気づけなかったんだけど、雲一つない満天の星空が広がっていた。夜なのに明るく感じる程。おまけに月も満月。

 

 

 

「そう言えば、ニュースでも星空が綺麗だ、と言っていたね」

「うん……」

 

 

 

夜空に瞬く星々。

本当に綺麗だ。大きな満月も綺麗。

 

 

「……本当に、月がきれ……――――ッッ!!」

 

 

御神くんは、ここでハッとして思わず口を噤む。

 

 

「? どうした?」

「~~~~ッ、な、なんでもないです……」

「そうか」

 

 

月明りや星明かりがあったとしても、夜道はやっぱり暗い。

それが良かったと言えるかもしれない。御神くんはそう思ってる。

だって今の御神くん、物凄く顔が赤いから。

 

沢山本を読み、学業も頑張ってきたのだ。それなりに博識と言える分類に居る。

そんな御神くんだからこそ、【月が綺麗ですね】と言おうとしたのを寸前で止めた。

 

本心なのは間違いない。ここまでの満天の星空は久しぶりの事だし、更に満月ともなれば猶更。

本当に綺麗で、心が洗われる様な気がする……と言ったって大袈裟じゃなかった。

でも、狼谷さんに対して【月が綺麗ですね】は、あまりにもハードルが高い。

 

何せ、これの由来は【I love you】

かの有名な夏目漱石が英語の教師をしていた時に、授業中に生徒が直訳【我君ヲ愛ス】と訳した所【日本人はそんな台詞を言わない。月が綺麗ですね。と訳します】と言った逸話から来ているのだから。

 

 

「………」

 

 

因みに、狼谷さんは察しがついていたりする。月がきれ―――まで言っていれば簡単に連想出来る。それに加えてどうして途中でやめたのかも。

 

だからこそ、彼女もまた、仄かに顔が赤い。

 

この御神くんの反応に正直胸高鳴る気分でもあった。

 

本当に何とも思ってないのであれば、あのまま言い切っても良い所だろう。

言い切る事が出来ずに、寸前で止めるのもまた、何とも思ってない可能性が高い。

 

でも、狼谷さんにとって高鳴らせる事に繋がったのは、御神くんが間違いなく今顔が物凄く赤いと言う所だ。

 

 

「……いや、今日は本当に忙しいよ。まだ終わる気配が見えないのも怖い所だ。時間は幾らあっても足りない。……………」

 

 

狼谷さんは空を見上げて、額に手を当てながら―――紡ぐ。

 

 

「このまま時が止まれば……って思ってしまうね」

「ッッ!!(えっ……!? え、ええ?? あ、いや、でも、そんな……、ち、違うよね? 考えちゃったら自意識過剰過ぎる、よね?)」

 

 

【このまま時が止まれば良いのに】

これは【月が綺麗ですね】の返しとして有名な言葉。

ドイツ留学をしていた森鴎外がドイツ文学を代表するゲーテの名作【ファウスト】の原文【とどまれ、お前は最高に美しい】を【時よ止まれ。汝は美しい】ーーーと和訳したもの。

 

月が綺麗ですね、を思いっきり考えてしまっている御神くんだからこそ、即座に有名な返し言葉の1つを連想させてしまったのだが……、狼谷さんと自分とではあまりにも違い過ぎる、そんなわけない、とどうにかこうにかして、頭の中を一蹴。

 

 

 

「「………………」」

 

 

 

それでも、何処か気まずい雰囲気が流れちゃったのはどうしてだろうか?

 

 

「い、急がないと、ですね。皆お腹空かせて待ってますから」

「……うん。そうだね」

 

 

でも、その雰囲気もどうにか一蹴する様に先に声をかける御神くん。

皆の為に、と言う気持ちが全面に出る事が出来たから出来た芸当だ。

 

 

 

―――だが、そんな時に……。

 

 

 

「わああああああ!!」

 

 

 

夜道に、男の人の悲鳴、聞き覚えのある声が響いてきたんだ。

 

 

「な、なにが!?」

「~~~っっ!??? ……って、この声」

 

 

きょろきょろ、と思わず周りを見渡し、直ぐ近くの路地を曲がり……その先を見てみると……。

 

 

「や、やっぱり和泉くんだ!」

 

 

ばたんっ、と倒れてる和泉くんの姿を発見した。

まだ、少し離れているんだけど、夜目はそれなりに効くし、視力も良い方(2.0)。だから直ぐに和泉くんだと気づけた。

あの悲鳴、制服姿、夜道で倒れてる、色々と連想すれば簡単にたどりつく。

 

 

思わず御神くんは駆けつけようとした―――のだが、狼谷さんがその手を引いて止めた。

 

 

「ちょっと待ってくれ。御神クン。もう少し様子を……」

「ええ? で、でも和泉くんですよ?? 和泉くんに夜道って、悪い予感以外しないじゃないですか」

「ああ。それは流石の私も解るよ。……でも、よく見てみて。直ぐ傍」

「……直ぐ傍……? ぁ……」

 

 

御神くんは、倒れてる人を注視し過ぎてて、傍に居て手を差し出してる人の姿が入ってなかった。

落ち着いて、よく見てみると、確かに和泉くんの傍には誰かが居る。

その人は、そっと手を差し伸ばして、和泉くんを起こしてあげていた。

 

 

「式守さん?」

 

 

そう、和泉くんと一緒に居るのは式守さんだった。

周りの状況も見えてくる。

落ちてる花……鉢植えだったり、何処かの看板? 果てはちょっとした棒だったり、木の枝だったり。

暗闇から迫る怒涛の連撃に幾ら式守さんでも対処しきれなかったんだろうな……と、何が起きたのか、簡単に想像できた。

 

 

「式守さん1人で大丈夫……かな? 夜と和泉くんのコンボは……」

「ははは。本当にキミは優しいね。……でも、今はやめておいた方が良い、って私は思うんだ」

「??」

 

 

狼谷さんの言っている、【今は】の意味がいまいちよく解らない……と首をかしげる。

 

2人で出ている以上、恐らくは自分達同様買い出しか何かだろう。

和泉くんは友達の1人。式守さんの事も知ってる。だから一緒に……とも思っていたから。

 

 

 

そんな時、だった。

 

 

 

「――――― 一緒に、ぼくと、ぼくと………文化祭、回ってくれませんか?」

 

 

 

月明りではなく、街灯に照らされた2人。

和泉くんの告白……ではなく、文化祭へのお誘い。

文化祭で式守さんに告白する、と和泉くんは決めてるから、必ず誘わなければならない、とは思っていたけど、まさかその場を目撃するなんて思いもしなかった。

 

 

「~~~~~ッッ、は、はぅぃ……、こ、こちらこそ、よろこん……で……っっ」

 

 

 

そして、当然の様に式守さんもOKだった。

いつもしっかりしている彼女の雰囲気が違う。

初々しくて、可愛らしくて、そんな様子。

 

 

「……最高の、青春……だね」

「…………うん。そう、ですね」

 

 

立ち会えた事。正直気恥ずかしさはあったが、それ以上に気持ちが温かくなる。

2人には幸せになって貰いたい、と思ってるからこその感性だと思う。

 

 

「おめでとう、和泉くん。……がんばって」

 

 

和泉くんに声が届く訳はないだろう。あの告白シーン……ではなく、お誘いシーンを目撃して、直ぐに元いた道へと引っ込んだから。

狼谷さんと同じ様に壁に背を預けて。

 

 

「狼谷さん、ありがとうございます。……和泉くんの振り絞った勇気、ぼくが台無しにするところでした……」

「いや、私もただの勘だったからね。……キミの優しさを否定はしたくなかったんだが、つい止めてしまったんだ」

「優しさを否定、なんて思わないですよ。だって狼谷さんも優しい………か、ら……。ぁ……」

「ん? ………ぁ」

 

 

ここで、我に返る。

今、狼谷さんと御神くんは手が繋がれた状態。

丁度、和泉くんの所へと向かおうとし、止めた時に手をつかんだその時のまま。2人は手を繋いだまま、壁に背を預けている事を漸く思い出した。

 

 

「………和泉くんは、凄い。凄い、勇気だって、最大級の賛辞の言葉を送りたいよ」

「……そ、そうですね」

 

 

どのタイミングで手を離せば良いのか分からなくなってきて、思わず固まってしまう。

御神くんが? 狼谷さんが? 解らないが、2人は繋がったまま。

 

 

 

―――凄いよ。本当にすごい。

 

 

 

「……待ってばかりの女の子じゃ、駄目かもしれないね」

「………え?」

 

 

 

自分に正直でありたい。

和泉くんの様に。―――御神くんの様に。

 

勇気を持ちたい。

和泉くんの様に。―――御神くんの様に。

 

 

 

他の人(あの2人)に肖る様で申し訳ないが、私も言わせてほしい。―――御神クン」

「ッ! は、はい! なんでしょう……?」

 

 

 

狼谷さんの握る手が強くなった気がした。

それ以上に温かく、熱くなった気がした。

目が合った。

 

 

 

 

 

 

「―――私と一緒に、文化祭……回ってくれないかな……?」

 

 

 

 

 

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