綺麗なだけじゃない狼谷さん 作:狼谷さんカワ(・∀・)イイ!!
それは、御神くんが大発狂し、大謝罪もした時間から遡る事数時間前。
御神くんの時間は止まっていた……。
「―――私と一緒に、文化祭……回ってくれないかな……?」
狼谷さんの言葉。
発せられたその瞬間から、時間が止まってしまった。
ただただ御神くんは、彼女が……狼谷さんが何を言っているのか、理解する事が出来なかったから、その時間ずっと止まっていた様に思えていただけだが。
【ワタシトイッショニ】とは一体どういう意味なのだろう?
【ブンカサイ】……とは?
どうにか頭が動く様になっても、その中が急速に回転し続けたり、急に止まったりと大パニックに陥ってしまっている。
あまりにもパニックになり過ぎるモノだから、逆に無音の世界に来てしまった様な感覚も覚えた。
そんな大嵐の中に居る感覚なのに、周囲は殆ど無音の世界。
誰も狼谷さんの事を邪魔しない、邪魔出来ない、と言わんばかりに静寂に包まれた世界。
そんな静かな夜、凪だった世界に、一陣の風が吹いた。
それは御神くんと狼谷さんの間を縫うようにして吹き荒れ……軈て再び止まった。
前髪が風に大きく揺れ、御神くんの両目は露になる。
一瞬程度の時間だったが、それを見逃さず狼谷さんは、真っ直ぐに御神くんの目を見据えた。
「……どうにも、難しい。自分の想いを伝えるのって、とても……難しい。相手に伝わってなかったら、意味がないから」
そういって、微笑みかける狼谷さんの表情はとても赤い。
後ろ髪に束ねていた髪留めが、先ほどの風の影響か、解けてしまった様だ。再び風が吹いて、その髪留めが風に飛ばされてしまう。
幸いな事に、御神くんの方へと飛んで行ったので、咄嗟に手を伸ばしてそれをつかむ事は出来た。
こんなに頭の中が大パニックなのに動く事が出来るんだ……と、思ったのは別の話だ。
「え、えと……、その…… ブンカサイ、って
「ん……。それ以外の文化祭を、私は知らないかな3日後に行われる文化祭だよ」
クスっと笑う狼谷さん。
狼谷さんは、御神くんが大パニックになっているのが解っているのか、或いは本当に素なのか、……御神くんの変な質問に対しても丁寧に返答をしてあげている。
「ワタシトイッショに……って、えと……いっしょ、一緒に? ……つ、つまりぼくと、狼谷さんが………?」
「うん。……私と一緒に、文化祭を回って欲しい、って言ったよ」
漸く物凄く難解な答えを解き明かす事が出来た御神くん。
だが、この問題は解いた後が、答えを知った後が最も大変なのだ!
「ど、どうして? どうしてぼくなんかと……? 狼谷さんなら……ッ」
「私はキミが良いんだ」
「ッ! ……あ、あの、ありがとうございます。とても、光栄です。……でも」
恥ずかしい、顔がゆだってるのが解る。
でも、それ以上に疑問に思ったのが、何故自分なんかを誘うのか? だろう。
そして、それ以上に自分自身を卑下してしまう。
折角、好意を向けてくれてるのに、それを容易く覆い隠してしまう。
狼谷さんに礼を言い、……そして 答える。
「ぼくは、狼谷さんには相応しくない……」
「…………」
彼女の隣を歩いている自分を想像する。
つい先ほど、和泉くんと式守さんの2人がいた時の様に。普段の2人の様に、自分自身が狼谷さんの隣にいて、歩いている。一緒に居る光景を脳裏に思い浮かべた。
初めて会った時、高校生活の始まりの日から狼谷さんは一際輝いていた様に思える。
言うならばクラスの中の光だった。
男女問わずに彼女の近くには集まっていて、笑顔で溢れてる。
それは分け隔てが無くて、暗い所にいた自分まで手を伸ばしてくれる。
何の気まぐれだろうか? そんな光の彼女と自分が……?
考えれば考える程無理だと思ってしまう。
それは狼谷さんが悪いとかでは全く無い。
「だって……ぼくなんか。……ぼくは、こんなだから、…………狼谷さんに、相応しくない」
やっと前を向いて歩く事が出来たかもしれないが、それまでだ。それ以上はあり得ない。
狼谷さんの様な人と自分は釣り合わない。
圧倒的な劣等感があるのかもしれない。
何せ、狼谷さんはクラスでも一番の人気がある。必ず人集りが出来て、それはクラスの外でも同じこと。
方や自分は、いじめられた過去がある。
身体が他人より少し大きいから、余計に思われてしまった事がある。男らしくない、とも言われた。
マイナスな事を考え続けてしまったせいか、自然と視線が下向きになってしまう。
狼谷さんの姿を見て居られなくなってしまう。
考えれば考える程、こんな自分が彼女と一緒に居て良い訳がない、と思ってしまう。もっともっと良い人が、相応しい人がいる筈だから。
和泉くんや式守さん達の姿を観て、淡い憧れを抱いたのは事実だけど、自分には遠い世界の話だから。
御神くんは、髪留めを狼谷さんに返した。
距離が近くなったが、直ぐに後退する。
そちら側には、その領域には自分は入れない、と主張するように。
だが、そんな後ろ向きな御神くんを狼谷さんは逃がさない。
更に一歩、また一歩と距離を詰め、近づく。
「キミの事を、
穏やかに笑っていた狼谷さんだったけど、表情が変わった。
見たことない真剣な顔つきに、なっていた。
「傲慢で、偉そうな事を言う様ですまないが、言わせてくれ御神くん。……キミはキミ自身を貶める様な事はすべきじゃない、言うべきじゃない、と私は思う」
過去の事を考えれば、様々な葛藤があった事を考えてみれば、致し方ないのかもしれない。
でも、御神くんは過去に囚われずに前に進むと宣言していたんだ。
だからこそ、抵抗になってしまっている
「……それが癖になってしまってる様にも見える。それはあまり良い癖だとは言えない。だって、キミは優しくて勇気があって、強い人だと私は思うから」
「ッ…………」
「そんなキミだからこそ、私は一緒に有りたいと思った。キミの傍は、他の誰よりも心地良くて温かい。まるで光のようだから……」
狼谷さんの言葉を聞いて、それらを理解すればするほど、御神くんは光栄であり、恐縮であり、勿体の無い言葉だと思えた。
心地良く、温かい光の様だと言ってくれた。
でも、それは全て狼谷さん自身に当てはまる事柄だと思うのに、思っていたのに、自分のことをそうだと言ってくれる。
「うれしい、うれしいです。でも、でもッ……ッッッ………」
こんなにも好意的に接してくれてると言うのに、それでも、どうしても前を向く事が出来ない。
そんな時だ。
【おはよう。●●●さん】
【―――――――】
急にフラッシュバックしてしまった。
自分を乏しめなくて良い、と言ってくれた。狼谷さんが言ってくれた。
なのに、次は過去の記憶が御神くんの歩みを邪魔してしまうのか。
【あれ? ……●●●さん?】
【――――――――】
御神くんとて思春期の男の子だ。
和泉くんの様に、彼女が欲しいと思った事だってあるし、和泉くん程とは言えないかもしれないが、気になっていた女の子は居た。
仲良く、仲良く話をする事が出来ていたって思う。
でも……明くる日―――彼女は突然話をしてくれなくなった。
会話だけじゃない。
目すら合わしてくれなかった。完全に避けられてしまった。
切っ掛けはもう覚えていない。
ただそこから、暴力もなく言葉もない、何1つない いじめが始まったのだけは覚えている。
痛みが無い見えない刃物で徐々に身体を削られて……、1人になった。
でも、耐える事が出来た。
家族のおかげで、耐え抜く事が出来た。
「ッ……ッッ………」
でも、もしも―――、あの時の様な目に見えない痛みが襲ってきたら?
今のクラスの皆に限ってそんな訳がない。ある訳がない。……でも、万が一にでも 前の様な事が有ったら……?
1人、1人…… 皆が背を向けていなくなってしまうあの光景がまた目の前で起こったら?
皆の表情が消えていく。
笑ったり、怒ったり、泣いたり、慈しんだり、沢山の表情がまるで黒く塗り潰す様に、消えていく。
―――もう、耐えられない。
「………ぼく、ぼくは。また、皆、皆が……っっ」
御神くんは、カタカタカタ、と身体を震わせた。
身体を震わせるその理由。……彼女は解っていた。
口では大丈夫だと言っても、心はまだ忘れていない。心が悲鳴を上げている。
過去の痛みが、彼を蝕んでいる。
過去の楔を解く事。その難解さはきっと経験をしてきた本人にしか解らないのだろう。
そしてそれに贖うのは自分自身しかいない。
「…………嫌だったら、言ってくれ」
「………ぇ」
でも、自分でも出来る事はあるんじゃないか?
そう思う彼女の心が、彼女自身を動かした。
「―――――」
「!!」
彼女、狼谷さんは、彼の、御神くんに抱き着き、そっと抱き寄せた。
もう、大丈夫なんだよ、と言ってあげる様に。
抱きよせ、頭を撫でる。
「ごめんなさい。……私は、私の事ばかりで。私自身を優先し過ぎて、キミを傷つけてしまった」
人が望むことにたいして応え続けてきた。
初めて、自分が望む事を第一に考えて、自分が望むものを強く欲した。
その結果が……御神くんの涙だと言うのなら、どんな罰でも甘んじて受けるつもりだ。
でも、それを御神くんが望んでいない事くらい解る。
「キミが、御神クンの心が私を拒絶するなら、もう近づかない。二度と、キミには近づかないと誓う。……でも、まだ聞いてない。聞けてない。だって、キミは優し過ぎるから。自分の事よりも他の人の事を、第一に考えてるから。だから教えて欲しい。聞けてないキミの本心を」
狼谷さんは、より強く抱き寄せる。
震えるその身体は徐々に収まっていくのをこの身で感じられた。
「―――こわい、こわいんです。また、離れて行ってしまうのが。どうしようもなく、こわい…………っ」
「私は離れない。キミが拒絶しない限り、傍にいるよ」
「みんなが、みんなが、ぼくを1人にしたっ。家族にも、何も言えなくて、ただ、我慢すればって……」
「……心配を、かけたく無かったんだね。だから、自分の心を殺して、1人で頑張り続けた」
狼谷さんの中で嗚咽を漏らす御神くんの頭を撫でる。
「そんなキミだから、私は傍にいたいんだ」
「う、うう……うあ………」
そのまま、声を上げながら泣いた。
人前で涙を流すなんて、一体いつぶりだろうか?
泣いて泣いて泣いて……我慢した分だけ、涙を流し続けた。
「ご、ごめんなさい。取り乱して。大泣きまでして。うう……恥ずかしい」
「私は、恥ずかしい事だとは思えないよ。今まで頑張ったね、と褒めて上げたいくらいだ。………それじゃ偉そう、かな?」
溜めていたモノを外に出すことができた御神くんはどこか晴れやかな顔をしていた。
本当の意味での笑顔を見れた気がして、狼谷さんは嬉しかった。
「じゃあ、改めて……聞かせてくれないかな?」
身体を離すと、少しだけ距離を取って、目を合わせた。
「御神くん。私と一緒に文化祭を回ってくれませんか?」
「…………喜んで、お受けいたします。ありがとうございます、狼谷さん」
そして、元の時間軸に戻る。
「ぼくが、狼谷さんと一緒に文化祭を回ることになって……後から改めて考えてたら、なかなか感情の整理がつかなくて。狼谷さん、だから尚更っ……」
妄りに言いふらす事じゃないので、大部分は割愛して説明した。
狼谷さんと一緒に文化祭を回る事になった、と言う部分だけの説明だ。
そして、それだけでも十分説得力がある。
狼谷さんは、背が高くて、人気があって運動も出来る凄く綺麗な人。
そんな人と一緒になれた、ともなれば無理もない。仕方がない事なのだ。
「気持ち、すっごくよく解るよ! ぼくも式守さんと一緒に回れるんだって考えたら、頭のなかが大変な事になっちゃったし!!」
「あ、あう、い、和泉さん……」
両手をぐっと握りしめ、目を輝かせながら断言するのは和泉くん。
センパイと呼ばれ、頼ってくれるのが嬉しいのだろう事がよく解ると言うものだ。
「それで、どうしたら良いか。狼谷さんに何をして上げれば良いのか。何が出来るのか、って考えたら……なんにも、答えが出なくて……」
「……わかるよぉぅぅ。それ、すごーーくわかるぅぅ」
「し、シンパシー感じちゃってる??」
男同士共感しあって手を取り合ってる姿。
いつも式守さんなら、非常に複雑な場面だと言えるのだが、今は違う。
「私は、狼谷さんとは違うから、彼女の事は何も知らないけど、解る事はありますよ」
「「え?」」
式守さんは、今の自分の心境と狼谷さんを重ね合わせて考えた。
狼谷さんの事は知らないけど、間違いないって確信出来る。
きっと、自分自身が和泉さんに対して想ってる事と一緒の筈だって。
「きっと狼谷さんは、御神さんと一緒ならそれでいいって思ってるんだと思います」
そう言うと和泉くんの方に笑顔を向ける。
「だって、私がそうだから。一緒に回りたい人といられるなら、って。だからーーー」
式守さんは次に御神くんを見て告げた。
「御神さんは御神さんのままで、彼女に接してあげれば良いんです。頑張って下さいね」
式守さんのその言葉を聞いて、凛とした
佇まいと雰囲気を観て……そして、和泉くんの【カッコイイ……!】の呟きを聞いて、御神くんは思う。
式守さんや和泉くんに感謝をし、そして狼谷さんの事を……。
も、告白じゃ……??(*´▽`*)