愛を知らない死神と戦場を舞う少女たち   作:シッシー@連載中

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お待たせいたしましたー10話です!
ここまで来るのにかなりの時間がかかりました。ご愛読いただいてる皆さまには感謝してもしきれません……

ひとつの節目が終わるというのは寂しくもありますがこの先の新章に進めるワクワクもありますね。

それでは10話、ごゆるりとお楽しみください。


第10話

蒼太「……」

 

眞悠理「……」

 

 

 

百合ヶ丘女学院高等科の静かな廊下に2人の足音がカツカツと響き渡る。眞悠理は蒼太の首元を掴む姿勢から左腕に抱きつく姿勢へと変わっており、頭を蒼太の左肩に預ける形で歩いていた。

 

すれ違うリリィ達が羨ましそうにその光景を見ているが、毎日誰かしらが蒼太の腕に抱きついているため、「今日は眞悠理(様)(さん)かぁ……」と肩をすくめている。

 

そんなリリィ達に対し、蒼太は2人で並んで廊下を歩き場所を狭めてしまってることに申し訳なさそうな顔を、眞悠理はどこか誇らしげな顔をして高等科1階のラウンジへとやってきた。

窓際の席へお互い向かい合う形で座り、眞悠理は自身の腕を組んで蒼太を見つめる。蒼太は言葉を選びながら、眞悠理に説明を始めた。

 

 

 

蒼太「眞悠理、実は……」

 

眞悠理「分かってる。江川と田中…あの伍人組のこと……だろ?」

 

 

 

「えっ……」と蒼太の口から拍子抜けた声が出る。そんな蒼太の顔を見て、眞悠理は少し笑いながら続ける。

 

 

 

眞悠理「私とて生徒会の1人だ。それに伍人組は学院内でも名の知れた存在。私の耳に入るのも当然だろう?」

 

蒼太「……知ってたんだね」

 

眞悠理「優秀な彼女らが高等科に進学すれば、そのまま強豪レギオンにもなるだろうと学院上層部は考えていたみたいだが、それが叶わないかもしれぬと大騒ぎだ……まぁ、遅かれ早かれ、蒼太に声は掛かっていただろ」

 

蒼太「僕に?」

 

 

 

そんな疑問に、眞悠理は椅子に深く座り込み呆れたようにクスクスと笑いながら答える。

 

 

 

眞悠理「学院内で伍人組が1番懐いてるのは蒼太だからな。自覚無いのか?」

 

蒼太「ま、まぁそれはそうかもしれない……けど……?」

 

 

 

懐かれている自覚はある蒼太だったが、1番と言われ困惑した表情になり、それを見た眞悠理に「お前のその自覚の無さは直すべきところだな」とため息混じりに叱責された。

 

 

 

蒼太「でも……懐かれてるとはいえ、いっちゃんと樟美の間に何があったのかは教えて貰えなかったんだよ……眞悠理は不仲の原因とか知ってるの?」

 

眞悠理「知ってるのは知ってるが、それは本人の口から直接聞いた方が良いだろうな」

 

 

 

そう言って、眞悠理は蒼太の背後へと視線を逸らす。つられて蒼太が振り返ると、そこには少し息の上がった壱が立っていた。

 

 

 

蒼太「……いっちゃん」

 

壱「お兄様……」

 

 

 

蒼太が席から立ち上がり壱の元へと行こうとすると、壱は突然頭を下げた。

 

 

 

壱「先程は申し訳ございませんでした!……どんな理由であれ、お兄様を突き飛ばしてしまうなんて………もう私には……頭を撫でてもらえる資格なんてありません……」

 

 

 

目に涙を浮かべて小さく震えながら謝罪の言葉を口にする壱に、蒼太は優しく語りかける。

 

 

 

蒼太「いっちゃん……顔、上げて?」

 

 

 

蒼太の声に反応し、ゆっくりと頭をあげる壱。その涙と目尻を赤くした顔を見て、蒼太が小さく笑う。そして右頬に自身の左手を添えると、親指でその綺麗な目に溜まった涙を拭いとった。

 

 

 

蒼太「可愛い顔が台無しだね……別に怒ってなんかいないし、大丈夫だよ……ね?」

 

 

優しく壱に笑いかけると、堪えてた感情が抑えられなくなったのか蒼太に抱きつき泣き始めた。

 

 

壱「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 

背中を優しくトントンと叩きながら、泣きじゃくる壱を受け止める蒼太。休日の静かなラウンジに響き渡る泣き声に、その場にいた誰1人と文句を言わずに事の末を見守っていた。

 

 

 

 

 

蒼太「……落ち着いた?」

 

 

蒼太の声に、腕の中の壱は小さく頭を縦に動かした。しかし、落ち着いたとはいえ蒼太の腕の中から出る気配は一切なく、顔を蒼太の胸元へと押し付けてくる。

 

 

 

蒼太「……いっちゃん?」

 

壱「……壱って、ちゃんと名前で呼んでください。お兄様」

 

 

 

モゾモゾと壱の頭が動き、その綺麗な紫色の瞳が蒼太を見つめる。

 

 

 

蒼太「……壱、そろそろ落ち着いた?」

 

壱「はい、お兄様」

 

 

 

お互いの目が合い、蒼太と壱はくすりと笑いあう。その光景を見て、1人置き去りにされた眞悠理は「コホンッ」とわざとらしく咳をした。

 

 

 

眞悠理「田中、そろそろいいだろうか?2人の時間を奪うつもりはないが、生徒会の仕事も暇ではないんだ……」

 

壱「あ、も、申し訳ございません!」

 

 

 

壱が蒼太から離れて眞悠理に頭を下げると席に着き、蒼太も「おまたせ」と眞悠理に目で謝罪をして同じく元々座っていた椅子に腰掛けた。

 

 

 

蒼太「それで……壱、何があったの?」

 

壱「……」

 

 

 

蒼太の声に壱は声が出ずに俯いてしまう。そんな壱に対し、眞悠理が優しい口調で声をかけた。

 

 

 

眞悠理「田中、どんな背景があったにせよ、蒼太はお前を責めることは決してない……言い出しづらいのは理解出来るが、大丈夫だ」

 

 

 

そんな眞悠理の言葉に意を決したのか、壱が少しづつ話を始めた。

 

 

 

壱「ひと月ほど前、樟美と口論になってしまいました……樟美に悪気は無かったと思うんですが、私や月詩…クラスメイトからしたら許し難い理由でした」

 

蒼太「あの樟美がクラスのみんなを敵に回すようなことなんて……」

 

壱「お兄様は樟美が修道院特別寮にいるのはご存知ですよね?」

 

蒼太「うん、天葉と同部屋だったからね。クラスで孤立したとの、ご両親と上手くいっていないって聞いたよ」

 

 

 

蒼太は、嗚咽をせず静かに眠りながら涙を流していた樟美の顔を思い浮かべ心を痛めた。

 

 

 

壱「……そこまでご存知だったんですね。その通りで、樟美は親と関係が良くありません……それが原因なんです」

 

蒼太「……親との関係が…」

 

壱「リリィとして戦うこと…自分の娘がヒュージ相手に命をかけて戦ってることがどうしても許せないと……当然の話だと思います。でも、樟美はそれがどうしても気に入らなかったようで……だから親と喧嘩をして完全に距離を置かれてしまったそうです」

 

眞悠理「…………」

 

 

 

眞悠理は腕を組みながら俯き気味に少し思い詰めた顔をした。同じリリィとして、守るべき家族がいる立場として思うところがあるのだろう。

 

 

 

壱「それで済む話なら良かったんですが、ある日樟美とご両親の電話の中で……

 

 

(そんなにこっちの気持ちを理解出来ないのか!心配している親に歯向かうなんてお前は親不孝者だ!所詮周りの連中も同じような奴ばかりなんだろ!!)

 

 

……そう電話越しではっきりと聞こえました」

 

蒼太「っ……!」

 

壱「怒らないでください、お兄様。樟美のご両親の言い分もごもっともですから。ただ、それに対して樟美は

 

 

(私の仲間をそんな風に言うなんて許せない!もうパパとママなんてヒュージに襲われて居なくなってしまえばいい!!)

 

 

……と電話口で怒ってしまって、それが…この一言が全ての原因なんです」

 

蒼太「樟美が……そんなこと……」

 

 

 

蒼太にとって、樟美は伍人組の中でも大人しく真面目な子であったため、声を荒らげるなんて想像も出来なかった。

 

 

 

壱「この学院にはたくさんの生徒がいて、皆辛い過去や悲しみを背負っています。ご両親と離れ離れになった子、家族を失ってしまった子なんて1人2人ではないんです……」

壱「だから許せなかった……!家族の温かさを、親からの愛を奪われたリリィたちの苦しみを……樟美は……っ!」

 

 

 

感情を抑えきれなくなり、声が少しづつ震える壱。

 

ヒュージがこの世に現れて半世紀、これまで多くの人々が人類の未来のために奮闘し、散っていった。

 

リリィ達はもちろん、リリィになれなかったマディックや国防軍、そして戦地へと赴くことの無い一般市民でさえも戦いに巻き込まれた。その中には、戦地で戦う家族の身を案ずる親や恋人もいただろう。

 

愛する人や家族が死に、悲しみを抱えながらでも立ち上がり己の使命を全うしようとするリリィ達の目の前で、樟美は親など死んでしまえばいいと口にしてしまった。

 

樟美の家庭環境は友人や蒼太にとって過度に干渉すべき話ではない。とはいえ両親の発言も許し難い内容であるが、それでも樟美の一言はクラスで孤立してしまう理由には十分な苦言であった。

 

 

 

壱「クラスの皆のことだけじゃありません……!お兄様だって………」

 

 

 

小さく消えてしまいそうな声で、蒼太の事を口にする壱。

 

蒼太は非人道的な実験によりリリィとなってしまった事が独り歩きしてしまっているが、彼もまたヒュージによって家族を失った1人である。

 

 

 

壱「……だからこそ許せなかったんです!たくさんお世話になって、たくさん甘えさせてくれて、命を助けてくれたお兄様の気持ちすら考えずに自分の事ばかりで!!!!」

 

 

 

投げつけるように声を荒らげ、その後小さく肩を震わせて涙を流す壱。

 

 

 

壱「お兄様……私は……どうしたらいいんでしょうか?」

 

蒼太「……僕としては仲直りして欲しい。また五人で楽しく笑い合ってる壱達が見たい。それが理想だね……」

 

 

 

涙で目元を赤く腫らした壱に対し、落ち着いた口調で答える蒼太。小さく震えた手を取り、蒼太は壱に問いかける。

 

 

 

蒼太「壱は、どうしたい?このまま樟美を避け続ける?」

 

 

そんな蒼太の問いかけに、首を横に振って否定する壱。

 

 

壱「……私は、また皆で仲良くしたいです……!樟美が私達のことを悪く言われたから言い返しただけなのは分かってるんです……でも……私は樟美に酷い態度を……」

 

蒼太「……そっか、後悔してるんだね。樟美を突き放しちゃったこと。」

 

 

 

そう言われ小さく頷く壱。樟美の失言を許せない気持ちが表に大きく出ていたが、内面では樟美に対する態度に罪悪感を抱いていた。

 

 

 

蒼太「……壱は、ついさっき僕のことを感情に任せて押し飛ばしちゃった事があったけど、あの後謝ってくれたでしょ?あれはどうして?」

 

壱「どうしてって……それは、自分の感情で動いてしまってお兄様に失礼なことを…………あ」

 

蒼太「それはきっと、あの子も一緒なんじゃないかな?……人間誰しも感情があって、他人と意見が合わないこともあるし、それが原因で良好な関係にヒビが入っちゃうこともあるだろうね……でも、壱が僕に謝ってくれたように、僕がそれを許し受け入れたように、お互いが許し合い認め合いさえすれば、誰かを孤立させちゃうようなことになんてならないんだ。だから、ほら」

 

 

 

蒼太がラウンジの隅を目で合図し、壱がつられて視線を向ける。そこに居たのは、天葉の背後に隠れながらもこちらの様子を伺っている樟美だった。

 

 

 

壱「樟美……」

 

蒼太「壱」

 

 

 

名を呼ばれて、壱は蒼太の方を振り返る。

 

 

 

蒼太「大丈夫」

 

 

その一言が、壱の心を支え上げて樟美の元へ歩み出すきっかけとなった。壱がゆっくりと樟美の元へ歩み寄るのと同時に、樟美も天葉の元を離れて壱へと近づいていく。

 

 

 

樟美「……」

 

壱「樟美……あの、その……」

 

 

 

壱が樟美になんと声をかければいいか戸惑っていると、樟美が深々と頭を下げた。

 

 

 

樟美「ごめんなさい!皆の気持ちを考えずに……私とんでもないことを……っ!……もういっちゃんが私の事を友達って思ってくれないのは分かってる!でもずっと謝りたくて……本当にごめんなさい!!!!」

 

壱「樟美……」

 

 

百合ヶ丘高等科のラウンジに響く声で謝罪する樟美。その小さな体は震えており、樟美にとって精一杯の謝罪であることは、長年一緒にいる壱が何よりもよく分かっていた。

 

 

 

壱「……樟美、顔、上げて?」

 

樟美「……?」

 

 

 

壱の言葉にゆっくりと顔を上げる樟美。その顔は涙と不安と罪悪感で一杯であった。 そんな樟美に手を差し伸べ、壱は優しく抱きしめる。

 

 

壱「私こそごめんなさい……樟美が、皆のことを想って反論してくれたのは分かってるの……私も樟美の気持ちを考えないで……酷いことを……っ!皆が樟美から離れちゃったの……私のせいよね……っ、ほん、とに……ごめんなさい……っ!!」

 

樟美「いっちゃん……わたし、も……ごめんなさい……っ!」

 

 

 

二人で抱き合いながら涙とともに謝罪を口にする。周りで行く末を見守っていたリリィ達も、安堵の表情を浮かべていた。

 

 

 

眞悠理「……さて、私は戻ろうか」

 

蒼太「ありがとう、眞悠理」

 

眞悠理「学院の風紀を司るのが私の役職だからな。あぁ、中等科で暴れ回って地面をアステリオンで破壊した件は、これとは別にきっちり話を付けさせてもらうからな?」

 

蒼太「え、えぇ……あれは亜羅椰の……」

 

眞悠理「嘘だよ」

 

 

 

眞悠理はクスクスと蒼太の事をからかいながらラウンジを後にする。それと入れ替わって、天葉が蒼太の元へとやってきた。

 

 

 

天葉「蒼太ありがとね」

 

蒼太「……僕は何もしてないよ。あの子たちが自分たちで解決したことだ」

 

茜「そんなこと無いわ。お兄ちゃんのおかげなのよ?」

 

 

 

背後から声をかけられて蒼太が振り返ると、笑顔の茜が立っていた。

 

 

 

蒼太「あれ、茜も来たの」

 

茜「えぇ、ほらあれ」

 

 

 

茜が指を指す先には、壱と樟美のところに弥宙が月詩の腕を引っ張って連れて行く光景があった。そして樟美と月詩が顔を合わせると、突然大泣しながら月詩が樟美を抱きしめた。

 

 

 

月詩「くすみんごめんね……ごめんねぇ……うわああああああん!!!!」

 

壱「つ、月詩、分かったから落ち着いて……一旦離れなさい」

 

樟美「月詩ちゃん鼻水……鼻水がぁ……」

 

弥宙「あぁもう……ほらティッシュ」

 

 

 

大泣きしながら涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした月詩、月詩の鼻水が顔について困り果てた樟美、一先ず落ち着かせようと月詩を引き離そうとする壱、呆れながら月詩にポケットティッシュを渡す弥宙。

 

元の賑やかさが戻った伍人組の中等科メンバーを目にして蒼太、天葉、茜は "きっともう大丈夫" と安心した表情を浮かべ、小さくため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

その日の夜、高等科校舎の家庭科室を使って伍人組と天葉、蒼太の計7人による仲直り会が開かれ、樟美と蒼太による手料理が振る舞われた。

 

そしてその場で天葉と樟美、茜と月詩がシュッツエンゲルの契りを結ぶことが発表された。これによって天葉のリリィ引退撤回が正式となり、感謝の意を込めて蒼太が天葉にハグをしたことでちょっとした修羅場になった。

 

そして大人しく料理を食べていた弥宙が「じゃあ私はお兄様と結ぼうかなぁ」と発言したことで壱と頬を引っ張り合う喧嘩が勃発したのはまた別の話。

 

少々雲のかかった休日の由比ヶ浜。バタバタと慌ただしい一日は、少女の涙で始まり、少女達の笑い声で幕を閉じたのだった。




樟美と壱の間の事件は語られていることがとても少ないのですが、自分なりに綺麗なまとめ方を出来たので満足ですかね。

この先この事件の真相が出たとしても、私の物語はこれを貫き通そうかと思います。

あと、こ今回の話がこの章の最後だと言ったな。あれは嘘だ。

LGスクルドの結成から高等科入学前辺りの話をエピローグとして投稿する予定です。
次は遅くならないように頑張ります……はい……
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