再結成した伍人組がLGスクルドを設立した回です。ここもまた公式で詳しく語られていない部分ですが、「こんな背景があったらいいなぁ」と想像100%で書いてみました。
それではエピローグになります。ごゆるりとお楽しみください。
壱「うーん……」
百合ヶ丘女学院中等部のエントランスのソファに深く座り込み、腕を組み頭を悩ませる壱。
あの一連の事件の後、伍人組は再度結成し予備隊『壱盤隊』を結成した。隊長は壱が務め、伍人組の他に進来鴇羽、篠原宥雪、坂倉莉澄の三名がメンバーとして加わり、予備隊として名を馳せていた。
壱が頭を悩ませる原因となったのは先日、レギオンの格付けである『ワールドレギオンレーティング』が例外的に壱盤隊に対して行われた為である。
特別に評価の高い予備隊に対して行われるもので、評価はAであったが十分な戦力であると判断され、予備隊としてはとても高いものであった。
レギオンや予備隊を持つリリィとしてとても喜ばしいことではあるのだが、進来鴇羽、篠原宥雪、坂倉莉澄の3名が高等部に進学するにあたり工廠科を選択、アーセナルのみで構成されるLGヴィゾーヴニルの設立を目指すため退団してしまった。
そのため、基本9名で構成されるレギオンとして成り立つためには、あと4人の加入が必要であったのだ。
壱「はぁ……どうしよう」
蒼太「ため息を着くと幸せが逃げてしまうよ?」
項垂れた頭上からいきなり声を掛けられて驚きの表情で顔を上げる。そこに居たのは高等部に在籍してる蒼太であった。
壱「っ!お兄様!ごきげんよう!」
蒼太「おっと……ごきげんよう、壱」
壱は立ち上がった勢いそのままに蒼太の胸へと顔を埋める。蒼太は少しよろけながらも壱を受け入れてその綺麗な翡翠色の頭を撫でる。
壱「お兄様はどうしてこちらに?」
蒼太「壱盤隊が格付けで高い評価を貰ったそうで……お祝いを言いに来たんだよ。おめでとう」
壱「あ、うん……ありがとうございます」
蒼太「?」
蒼太の言葉に元気を無くす壱。その様子を見て、悩みがあるならここじゃなくて場所を変えようと声をかけ、壱と共に百合ヶ丘高等部のラウンジにやってきた。
角の席を確保し、ポットで紅茶を注ぎお菓子を広げ、それを嗜みながら壱からの相談を受ける。
腕を組み頷きながら話を聞いていた蒼太だったが、ふと「あぁ」と思い出したように呟いた。
壱「お兄様?どうかなさいました?」
蒼太「いるよ。ピッタリの人達が」
壱「本当ですか?!」
蒼太「うん、ちょっと待ってね」
そう言うと、蒼太は携帯端末を取り出して何処かへと電話をかけた。壱は高等部進学までの短い時間でメンバーを集めるのが大変だと不安に感じていたので、(お兄様に相談をして良かった!)と心踊っていた。
それから少しして、壱と蒼太の元へ手を振りながらやってきた2人組。その姿を見て、心踊っていた壱が完全に固まってしまった。
蒼太「ごきげんよう。天葉、依奈」
蒼太が声をかけた人物、それはかつて百合ヶ丘最強レギオンと呼ばれたアールヴへイムの元メンバーの天野天葉、そして番匠谷依奈の2名であった。「ごきげんよう」と蒼太と壱に挨拶した2人は席に座る。
蒼太「急に呼び出してごめんよ」
天葉「いいのいいの、どうせ暇だったからね」
依奈「私も何も予定無かったし、蒼太のお願いなら……ね?」
リリィの中でもかなりの実力者である2人と面会した壱は、緊張でガチガチに固まってしまった。その様子を見て、蒼太が苦笑しながら声をかけた。
蒼太「壱、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。2人とも僕の親友だし、いい人だからね」
依奈「いい人なんて嬉しいこと言ってくれるじゃない。それで、相談って何かしら?またデートに行くなら幾らでも付き合うわよ?」
壱「デっ……!」
蒼太「デートじゃなくてお出かけでしょ……それはまた別の時にね。今回はその事じゃないんだ。この子の予備隊のことでね……」
2人に蒼太が壱を紹介する。すると、天葉が思い出したように発言した。
天葉「確かこの子、壱盤隊って予備隊の子よね?この前の格付けで高い評価貰ってたでしょ。おめでとう」
笑顔の天葉からの言葉に、緊張でぺこりと頭を下げることしか出来ない壱。続いて依奈が口を開いた。
依奈「あぁ、思い出した。確か茜が新しく予備隊を結成したって言ってたわね。貴方が隊長の田中さんね?でも、相談事なんて茜もいるじゃない。私たちで解決出来るかしら?」
蒼太「むしろ君たちじゃないと解決出来ないというか……壱、話せる?」
壱「……はい、お兄様」
壱は天葉と依奈に対して、今壱盤隊が置かれている状況について話し始めた。緊張で言葉足らずなところもあったが、2人とも頷きながら真剣に壱の話を聞いていた。
天葉「そっかぁ、人が足りないんだね」
蒼太「メンバーには樟美もいるし茜もいる。工廠科選択希望の弥宙もいる。彼女はチャームに詳しい優秀なアーセナルになるだろうし、不足はないと思うんだ」
天葉「そういえば、確かその中に茜のシルト候補の子がいるのよね?その子はどんな子なの?」
蒼太「高須賀月詩だね。いい子だよ。真っ直ぐで素直で努力家で、レアスキルは『円環の御手』で依奈と同じ。依奈と違うのは片方に攻撃専門、もう片方に防御型のチャームを持つことかな。いわゆる攻守バランス運用ってやつだね。それでも前線に突っ込んでくから立ち回りは大変になるかもしれないけど、リリィとしては優秀な子だよ」
依奈「へぇ、興味あるかも」
蒼太「それで……どうだろう?」
蒼太の問いかけに、天葉はクスッと笑って答える。
天葉「私は樟美もいるし茜もいるし、断る理由は無いかなぁ」
天葉からの回答に「えっ?!」と驚きの声を上げる壱。続いて依奈が答える。
依奈「私も断る理由は無いわね。ソラと茜がいるなら予備隊の運用も問題ないでしょうし、後輩組も優秀な子達がいるみたいだからいずれ強豪レギオンになれるわ。私もいいわよ?」
蒼太「……2人ともありがとう」
壱「あ、ありがとうございます!!!」
蒼太と壱の礼の言葉に笑顔で返す天葉と依奈。その後、必要書類に2人の署名が行われ、晴れて天葉と依奈の2名が壱盤隊のメンバーとして正式加入となった。
署名を終え、蒼太が手を振りながら天葉達を見送る。「さてと」と無事に勧誘が終了したので壱に声をかけようとしたら、当の本人は署名された書類を小さく震えながら見つめていた。
壱「良いんでしょうか……こんな……すごい人たちと……」
蒼太「あの2人のことだから、きちんと壱達を見定めた上での判断だ。それに、壱も優秀なリリィとして認められてるんだから、彼女たちと肩を並べて戦えることを不安がることは無いよ。大丈夫だから、ね?」
そう言って壱の頭を撫でる。壱はそれを素直に受け入れて、緊張で強ばっていた顔が綻んでいき、ふぅ、とため息をついた。
その様子をラウンジの物陰から伺っている2人組。
辰姫「ねぇ亜羅椰、こんなことやめた方がいいんじゃ……」
亜羅椰「くぅ……いっちゃんたら、お兄様に頭を撫でてもらえるなんて、羨ましい……私なんて全く……」
辰姫「あー話聞いてないや」
そこに居たのは、中等部在籍の遠藤亜羅椰と森辰姫であった。亜羅椰はイチャついている蒼太と壱に不満を漏らし、辰姫はコソコソと2人の後を追い回してる亜羅椰に呆れ返っていた。
ちなみにイチャついているとはいえ、ただ蒼太が壱の頭を撫でているだけである。
亜羅椰「……もう無理!我慢ならないわ!お兄様あああああああ!!!!!!」
辰姫「ちょっと亜羅椰!?」
とうとう我慢出来なくなったのか、物陰から蒼太に向かって亜羅椰が駆け出していく。その絶叫はラウンジ中に響き渡り、優雅なひと時を過ごしていた他のリリィ達は何事かとざわめく。
壱「……え?えぇっ!あ、亜羅椰?!」
蒼太「はぁ……来ると思った……」
驚きの声を上げる壱とは対照的に、両手を広げて突っ込んでくる亜羅椰を待ち構える蒼太。そしてそのまま真っ直ぐ蒼太の胸元に飛び込んできた亜羅椰を優しく抱きしめる。
蒼太「亜羅椰、どうしたの?」
亜羅椰「どうしたもこうしたもありませんわ!ずっと私を放置してぇ!……寂しかったぁ……うわあああああああああん!!!!」
蒼太「はいはい、ごめんよ」
胸元で泣き声を上げる亜羅椰の頭を撫でながら慰める蒼太。背中に手を回し、二度と離れまいとがっしり密着する亜羅椰に壱はムスッとするが、蒼太は呆れつつも落ち着くまで頭を撫で、背中をトントンと軽く叩く。
暫くすると泣き止んできたので引き離そうとするが、亜羅椰は蒼太の背中に回した腕に力を込めて離れようとはせず、むしろ必要以上に体を押し付けてくる。
蒼太「亜羅椰さん?そろそろ離れようねぇ……あぁこれはダメだな。壱、ちょいと手を貸しておくれ。あとそこに隠れてる辰姫も助けて」
ラウンジの物陰から「うえぇ!?」と声が上がり、少し怯えた表情の辰姫が出てくる。蒼太の近くまで歩み寄ってくると、上目使いで口を開いた。
辰姫「ご、ごめんなさい蒼太様……こんなストーカーみたいなこと、嫌ですもんね……嫌いになりましたか?」
蒼太「嫌いになんてなってないよ。大丈夫。それはそうとこれどうにかならないかな?」
蒼太はピタリと張り付いている亜羅椰を指差し、呆れ顔の壱と辰姫の尽力によってどうにか引き剥がすことに成功した。
辰姫「……それで、蒼太様達は何をなさってたんですか?先程天葉様たちがいらっしゃったようですが……」
蒼太「あぁ、それはね……」
3人がけのソファの上で左腕を壱に、右腕を亜羅椰にガッチリホールドされている蒼太は、少々苦しそうにしながら先程までの出来事を辰姫に説明する。
辰姫「なるほど……あと2人足りないんですね……」
蒼太「そうなんだよ……」
亜羅椰「私たちがいるじゃない」
亜羅椰の一言に、蒼太、壱、辰姫の3名は「えっ?」と声を揃えた。
亜羅椰「だから私たちがいるじゃない。あと2人なら、私と辰姫」
辰姫「辰姫も?!」
蒼太「なるほど」
壱「お兄様?!」
蒼太「亜羅椰はAZにおいての才能はずば抜けてるし、フェイズトランセンデンスをS級で保持してる。デュエル能力はガーデン屈指だし、優秀なリリィだからメンバーとして不足ないよ」
亜羅椰「もう、お兄様ったら……」
蒼太「まぁ少し我儘なところはあるけどね」
クスクスと笑う蒼太の冗談に頬を膨らませる亜羅椰。そして小さく息を吐くと、壱の目を見つめて口を開いた。
亜羅椰「私、元々いっちゃんたちの予備隊……レギオンに入るつもりだったのよ?だから他の勧誘も断り続けてきたの」
壱「……え、そうなの?」
辰姫「……そうなんだよ。亜羅椰がブリュンヒルデラインの勧誘を断ってたのは、壱たちと一緒になりたいからって言ってた」
蒼太「ブリュンヒルデラインって……史房さんのところの……」
LGブリュンヒルデライン。生徒会ブリュンヒルデ直属のレギオンで、主将は出江史房。3年生を中心に強力なリリィが揃っている。格付けはSS。そこに勧誘されることは、亜羅椰がかなりの実力者というなによりの証拠でもあった。
壱「ど、どうしてそんな強豪レギオンの勧誘を断ったのよ?!」
亜羅椰「いっちゃんや樟美達と一緒に居たいからよ……そんな理由じゃダメかしら?」
壱「亜羅椰……」
亜羅椰の瞳は曇りなく壱を見つめており、その言葉が本心であり嘘偽りない事実であることを訴えていた。
壱「……はぁ、所構わず私や樟美に手を出そうとするから乗り気じゃなかったのに、そう言われたらもう拒否出来ないじゃない……それじゃあ亜羅椰、私の予備隊……入ってくれるかしら?」
亜羅椰「勿論、喜んで加入するわ」
満面の笑みで壱からの勧誘を受け入れる亜羅椰。その顔は、好みの女性に躊躇なく手を出し恋愛へと発展させる悪癖を持つ問題児ではなく、親友との絆にただただ喜びを感じる年相応の少女の顔であった。
亜羅椰「それで、辰姫はどうする?」
辰姫「……辰姫は……」
亜羅椰の問いかけに考え込んでしまう辰姫。しかし、考えがまとまったのか顔を上げて壱の目をしっかり見て口を開いた。
辰姫「辰姫は昔から『自分のチャーム』を作る目標があるの。そのためにはたくさんの戦場に出る必要があって……だから、辰姫も予備隊に……ううん、レギオンに入りたい。たくさん戦って、沢山経験してチャーム研究に活かしたい。亜羅椰と弥宙がいるから、きっと上手くやれるって思う」
蒼太「……決まりだね」
壱「2人とも……ありがとう!」
壱が立ち上がって亜羅椰と辰姫に礼を言う。2人は笑顔で答える。これによって壱盤隊9名が全員揃うことになり、高等部進学と同時に『LGスクルド』を設立する運びとなった。
その日の夕方に全メンバーが揃って顔合わせ兼壱盤隊、改めスクルド設立記念パーティーが執り行われ、少女達の楽しげな声は消灯時間ギリギリまで途切れることは無かった。
天葉「それはそうと、依奈?」
依奈「ん?どうしたの?」
署名が終わり蒼太達と別れた後、天葉は依奈に声をかける。そして依奈の正面に周ったかと思えば、依奈の両頬を引っ張った。
依奈「……っ!い、いはいいはい!!ふぉら!ふぁにふるの!!!!」
天葉「……デートって言った?さっきデートって行ったよね?私に黙ってなに蒼太と楽しそうなことしてるのかなぁ???ん????」
依奈「っ!ぷはっ!別にいいじゃない!蒼太も買い物あるって言ってたんだから!だからちょっとだけ一緒にお出かけしただけよ!!!」
天葉「蒼太と2人きりでお出かけなんてずるい!!こんにゃろー!!!」
穏やかな時間の流れる百合ヶ丘の午後。今ここに、1人の少年を巡って、恋する乙女2人による小さな戦いが繰り広げられるのだった。
最後の最後までモテモテな蒼太君でした。
亜羅椰はとてつもない寂しがり屋で、寂しさをを満たすために女性に手を出してるのでは?という勝手な考えです。
ドSで少しMっけで面倒見が良くて寂しがり屋な亜羅椰さんがいいなぁって……
次回からとうとうブーケ編です!一柳隊はもちろん、その裏で生まれた新潟奪還戦などが書けたらいいなって思ってます。(また更新が遅くなるフラグ)
ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます!
新章も何卒よろしくお願いしますm(*_ _)m