愛を知らない死神と戦場を舞う少女たち、第2話です。
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それではごゆるりとお楽しみください。
あの後、茜からの連絡を受けた学院は保護という名目でマントの人物を療養棟に運び込んだ。
例の死神が予備隊である中等部のリリィを救出し、ケイブと多くのミディアム級ヒュージを殲滅した話は瞬く間に百合ケ丘女学院に広まり、彼が気を失い眠っている療養室の外には一目見たいと多くのリリィ達が集まっていた。
「死神って男性だったんでしょ?どんな人なの?」
「ヒュージの大群を1人で倒したんでしょ?出来たら戦術教えて欲しいなぁ」
「なんか噂だとめちゃくちゃイケメンらしいよ!」
普段は静まり返っている療養棟も、是非一目見たいという中等部と高等部のリリィ達でお祭りのように賑わっていた。
史房「皆さん!大きな声を出して何しているんですか!」
そして、その騒ぎを収めるために、出江史房が理事長代行である高松咬月を連れてやってきた。
咬月「物珍しさで騒ぐ気も分からんではないが、ここは療養室前だ。静粛にな」
リリィ一同「は、は〜い……」
優しくも威厳のある声で一瞬にして騒ぎを落ち着かせる。
しかし、誰しも理事長代行の咬月が怖いから黙るのでない。リリィの成長を何よりも案じている心優しい咬月を、皆心から尊敬してるからそこ従うのだ。
史房「何か進展があればこちらから通達をします。各々やるべき事に戻ってください」
出江史房は、百合ケ丘女学院の全レギオンを統括している生徒会のブリュンヒルデという役に付いており、百合ケ丘の歴史上最もデュエルに優れていると言われている。
それほど力のあるリリィに一喝されては、これ以上雷が落ちないようにとそそくさ散らばる。皆生徒会を怒らせると怖いのを知っているからだ。
史房「申し訳ありません。例の彼が回復するまで内密にすれば良かったのですが……」
嘘のように静まり返った廊下で、咬月に頭を下げる史房。本来であれば回復し素性を知るまでは内密とする予定だったのだが、この学院にはそれなりの実力者ばかり集まっているため、彼を療養室に運び込む時点で大半にバレていた。
咬月「誰もが"死神"と呼ばれた者に関心がある。それは悪いことではなかろう。ただし、あくまでも回復するまではあまり押しかけないように通達を出さねばな。ここは療養棟だ」
史房「承知しました」
史房もこうは言うものの、ここに来てしまう子達の気持ちが分からない訳でもない。
今まで多くのリリィを救ってきた謎の人物、それがまさかの男であって、ましてや百合ケ丘女学院は女子校である。ここに運ばれてくれば、それは気持ち的に沸き立ってしまうのも無理はない。
この学院にいるのはリリィでありながらも、皆年頃の女の子なのだから。
コンコンコン───
史房が部屋のドアをノックし、咬月と共に中へと入る。
史房「失礼します」
部屋の中には命を救われた壱番隊の4人と茜の5人が、ベットに横たわるその人物を心配そうな目で見つめていた。
ベットの上には点滴の管が繋がれた状態で彼が眠っている。心電図は一定のリズムで脈を刻み、容態は安定してる。
茜「史房様。それに理事長代行も」
咬月「どうかね、彼の様子は」
茜「診察の結果はマギの枯渇によるものだそうです。謎のチャームを調べた結果、ここ数日は常に起動されていたようです……」
リリィが使用するチャームは、マギと言われる魔法によって起動する。
通常リリィは自信が持つマギの量を使い切ると、「枯渇」といって活動不能に陥ってしまう。しばらく安静にすればマギも回復するのだが、それでも1日中チャームを起動し続けるのは到底無理な話だ。
彼はそれをやってのけた。しかも1日ではなく数日間ときた。この事実に、史房と咬月は驚きを隠せない。
史房「いったい何者なの?彼は……」
茜「検討も付きません。でも……たくさんのリリィを救い、今回だって大切な後輩たちを助けてくれました。敵とは思えません」
咬月「それは学院としてもそう思っておる。しかし憶測で話を決めつけるのは正しいことではない。まずは目を覚ますのを待つべきだな」
茜「そうですね……」
咬月はベッドの上の人物に目をやる。
リリィは通常男性はなれないはずであるが、彼がヒュージを倒したのは事実であり、マギの枯渇で倒れたのなら、彼がリリィである確固たる証拠であろう。
どんな形であれ、リリィであれば保護するのが百合ケ丘女学院の方針であるため、敵対する意思もなければ、無論あのG.E.H.E.N.A.に引き渡すことなど以ての外だ。
そんな事を考えていると、ベッド脇で彼の手を握り不安な目をしていた壱から「あっ!」と声が上がる。
?「……ん…んぅ……」
血色の薄い顔の眉間に一瞬シワが寄ったかと思ったら、うっすらと目を開ける。目覚めたのだ。
樟美「起きた!起きたよいっちゃん!」
壱「分かってるわよ!少し落ち着いて!」
ベッド脇でギャーギャー騒いでる2人を史房と茜の2人が引き下げ、咬月が枕元に移動し語りかける。
咬月「気分はどうかね?」
?「……知らない天井……ここは?」
咬月「百合ケ丘女学院だ。君は我が校のリリィの命を救ってくれた。覚えているかな?」
?「……えぇ、覚えています。あの子たちは…無事ですか?」
その問いに、咬月は無言で顔を横に向ける。その視線の先には、目尻から涙を流している4人の少女。
?「良かった……皆無事だっ「「「「うわあああああああああん!!!!」」」」……でっ!」
壱、樟美、弥宙、月詩の4人は泣きながら目を覚ました命の恩人に飛びつく。突然の事で対応することが出来ず、飛び込まれた当の本人は短い悲鳴をあげる。
史房「こら君たち!急に抱きついたらダメよ!苦しがってるわよ!」
茜「あらあら……うふふ。史房様、今はあの子たちの好きにさせてあげましょう」
突然のことに声を荒らげる史房。それを宥める茜。こうなってしまったら、あの中等部の面々を止めることは出来ない。
壱「よがっだ……ほんどによがっだああああぁぁぁ……」
樟美「うぅ……ぐず……」
弥宙「ひぐ……うぅ……」
月詩「うわあああああん……」
目が覚めた途端に胸の中で少女4人に大号泣されて戸惑っているが、先程まで壱が握っていたその手で1人1人の頭を優しく撫でる。
その場にいた全員が、その光景を見て思わずため息混じりの笑みを浮かべる。
それから少しの時間が流れ、抱きついた4人が泣き止んだところで咬月が声をかける。
咬月「そろそろ良いだろうか?彼に聞きたいことがあるのでね」
そう言うと、4人は彼に抱きつくのをやめて離れる。皆自分が何をしてしまったのかを理解したようで、顔が真っ赤になって無言になっている。
咬月がベッド脇の椅子に腰掛けると同時に、彼も体を起こし咬月の方に顔を向ける。
咬月「自己紹介が遅れておったな。百合ケ丘女学院の理事長代行を務めておる高松咬月だ」
?「ご丁寧な挨拶、痛み入ります」
咬月「さて、まず何から聞いたら良いか……」
?「話せる範囲であれば何でも。こうしてマギの枯渇から助けてくださった礼がありますから」
咬月「そうか……ではます、お主の名前を聞いてもよいかな?」
?「……名前、ですか……んー……」
咬月「悩んでおるな。言えないのかね?」
?「いえ……言えないというか……分からないんですよねぇ……名前」
腕を組み、天井を見上げて答える姿に、咬月始め全員がザワつく。
史房「分からないって……それはつまり、記憶がないの?」
?「いえ、誕生日や歳は覚えてます。誕生日は7月8日。歳は今年で16です」
茜「あら、同い年ですね」
咬月「では名前だけ思い出せないのか。それなら何か呼び名が必要だろう」
?「あぁ、呼び名はありますよ……あまり気に入ってはいないんですが」
咬月「名前は思い出せないけど呼び名は分かると……聞いても?」
?「はい……僕の呼び名は……」
?「被検体番号9999-01。いわゆる、強化リリィ……ってやつですかね」
男性を強化リリィにするという暴挙に及びました。
それと樟美ちゃん始め壱番隊のキャラがテンション高めな気がしますが、まぁ中等部時代ということで、少し子供っぽさを出してみました
まぁ二次創作ですし、お許しくださいませ……
次回はいよいよ死神の正体に迫ります!