愛を知らない死神と戦場を舞う少女たち   作:シッシー@連載中

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あっっっっっっっつい!!!!!!!(ルナトラ)

急に夏がやってきましたね。読者の皆様はお身体は大丈夫でしょうか?

これから暫く暑い日が続きますが、共に乗り切っていきましょう!

では第5話です。ごゆるりとお楽しみください。


第5話

梅が去った後、入れ違いで史房が部屋へとやって来た。そして開口一番に口にしたのは、顔を真っ赤にし、駆け足ですれ違った梅の事であった。

 

 

 

史房「なにしたんですか?」

 

?「いや何も……」

 

 

 

ジト目で少年を見つめる史房。彼自身は本当に心当たりがなかったので、その視線に耐えられなくなり話題を変える。

 

 

 

?「えっと……それはそうと、どうしたんですか?」

 

史房「上手いこと話題を変えましたね……はぁ、まぁいいでしょう。貴方にこれを渡そうと思いまして」

 

 

 

そう言って彼女が差し出したのは、手のひらに収まるサイズの、赤い携帯電話であった。

 

 

 

?「どうして僕に?」

 

史房「理事長代行からです。この学園には男性は貴方含めて2人しかいませんから、困ったことがあれば連絡出来るようにと」

 

?「なるほど、ありがとうございます」

 

史房「いえいえ」

 

 

 

少年からのお礼に、笑顔を見せる史房。

 

 

 

?「実は、そろそろ理事長室に伺おうかと思ってまして」

 

史房「お身体は大丈夫なのですか?」

 

?「まだ本調子ではありませんが、日常生活程度なら大丈夫ですよ」

 

史房「そうですか……良かったぁ……あ。コホン、では午後3時頃に時間を決めさせていただいても宜しいでしょうか?」

 

 

 

少し顔を赤くし、わざとらしく咳をする史房。少年は何故顔が赤いのか理由が分からなかったが、問い詰めるのは野暮だと考えその疑問を頭から消し去った。

 

 

 

?「ええ、大丈夫ですよ。では3時に伺います」

 

史房「はい、お待ちしております」

 

 

 

そう告げると少年に頭を下げ、史房は部屋を後にした。その後ろ姿に、少年は手を振るのだった。

 

 

 

 

 

?「さて、行きますかね」

 

 

 

お昼休みのガヤガヤした空気も静まり返った午後3時。少年は理事長室に向かうために療養室を後にする。史房から渡されたメモには、「チャームを必ず持ってきてください!」という言葉と共に、デフォルメされたハービンジャーのイラストが描かれていたため、最も小さい状態にしてハービンジャーを腰に装備する。

 

 

 

?「えっと……こっちか」

 

 

 

療養棟から理事長室がある本館までは屋外に出る必要があり、心地よい日差しとそよ風が少年の肌を撫でる。遠くからは元気なリリィ達の訓練に励む声が聞こえてくる。

 

療養棟から敷地内の中庭を歩き、本館の昇降口へとたどり着く。外履きをそのまま履いて校内に入れるようで、普段履いている黒いレースアップブーツのソールを専用の機械で綺麗にして、更に廊下を進んでいく。

 

 

 

?「んー……つけられてるなぁ……」

 

 

 

コツ、コツ、とブーツの音が響く廊下で立ち止まって僅かに後方を振り返り、廊下の奥に人影を確認する。少年に気付かれた事が分かったのかは不明だが、廊下の物陰に身を潜める仕草を見せる。彼は正式にリリィとしては登録されていないがそれなりの実力がある。

 

つまり身を潜めたところでバレバレである。

 

 

 

?「……特に殺気も感じないし、ほっといていいか」

 

 

 

自分に危害を加える相手ではないことを確認し、再び理事長室に向けて歩みを進める。

 

 

 

?(バレてない…?大丈夫だよね?もしバレてたら……変な人に思われるかな……うぅ〜…)

 

 

 

後をつけるひとつ結びとアホ毛が特徴の金髪少女は、廊下の端で頭を抱え悩んでいた。

 

 

 

 

そんな事など露知らず、少年はすれ違うリリィ達に挨拶をしながら理事長室前にやってくる。挨拶をする度に目を逸らされてそそくさと去ってしまう少女達の姿を思い浮かべ、少し凹んだ表情になる。

 

 

 

?「失礼しまーす……」

 

 

 

コンコンコンと大きな扉をノックし、理事長室へと入室する。室内には理事長代行の咬月と史房、その他2名のリリィがおり、椅子に座り少年を待っていた。部屋の中には紅茶とスコーンの香りが充満しており、少年の鼻を抜ける。

 

 

 

咬月「どうした……元気がないようだな?まだ休んでいて良かったのだが」

 

?「いえ、大丈夫です。問題ありません……」

 

咬月「そ、そうか……ではかけてくれ」

 

 

 

そう言って、咬月はテーブルと椅子が綺麗に並んでいる方へ少年を促す。そこには馴染みのある史房と、少年とは初めて会う2人のリリィ。彼は3人と対面する形で椅子に座る。

 

 

 

史房「あの地図読めました?」

 

?「ええ、とても分かりやすかったですよ?あ、紅茶とスコーンありがとうございます」

 

史房「いえいえ、お口に合うかは分かりませんが、召し上がってください」

 

?「はい。それと……こちらの方々は?」

 

眞悠理「初めまして。生徒会ジーグルーネに就いてる内田眞悠理です」

 

祀「お初にお目にかかります。生徒会オルトリンデに就いてる秦祀です」

 

 

 

眞悠理と祀の2人は笑顔で少年を迎え入れる。その笑顔に、先程リリィとの距離を感じていた彼は一安心するのだった。

 

 

 

?「初めまして……ごめんなさい、自己紹介が定まっていないんです」

 

祀「貴方のご経歴は理事長代行より伺っています。お名前がないことも耳にしておりますので、お気になさらず」

 

咬月「実は今日はその件で話があってな。療養棟だとどうにも落ち着いて話せる内容ではないからの」

 

?「と、申しますと?」

 

眞悠理「貴方の名前を考えようってことです」

 

?「名前……ですか」

 

史房「今、貴方には固有の名前が無い状態です。いつまでも「死神」と呼び続ける訳にもいきませんから」

 

?「確かにそうですよね……本当に、何から何までありがとうございます」

 

 

 

少年は咬月と生徒会3人に向けて頭を下げる。そんな少年の物腰の柔らかい姿に、噂の「死神」というイメージが崩れ去る祀と眞悠理。

 

 

 

咬月「それでなんだが……君の名前はどうやって決めようかな」

 

?「そうですねぇ……僕からこう呼んでくれって言うのもありですが、如何せんネーミングセンスは皆無でして。あ、いただきます」

 

 

 

史房から差し出された紅茶とスコーンを口にし、幸せそうな顔で頬張る。その様子を見て、理事長代行室には和やかな雰囲気に包まれる。

 

 

 

眞悠理「私達で決めてしまってもいいんだが、生憎人の名付け親にはなったことがなくて……ズズ……あ、美味しい」

 

史房「もぐもぐ………結局のところ、本人に決めてもらってしまうのが1番良いのではないかと考えています……いかがでしょう?」

 

?「そうですねぇ……僕も、あまり名前に希望とかこだわりはないので………んー……あ、それなら」

 

 

 

何か閃いたらしく、その場の全員が彼を注目する。そして彼の口から出たのは───

 

 

 

?「………募集、してみますか」

 

祀「……へ?」

 

 

 

誰も予想していなかった答えに、理事長室は静まり返った。

 

 

 

咬月「募集……とな」

 

?「ええ。僕自身も、生徒会の皆さんも決められない、それなら学院の生徒に「死神の名前は何がいいか」募集をかけるのもありなのかなと。僕達が思いつかないような素晴らしい名前が出るんじゃないでしょうか?」

 

祀「つまりその心は?」

 

?「目の前で決められるとどこか気恥ずかしいです。勘弁してください」

 

 

 

静まり返っていた理事長室に笑いが生まれる。今日初めて会った祀と眞悠理も、すっかり彼と馴染めたようだ。

 

 

 

史房「ふふっ……では、名前は生徒からの公募で決めるという形でよろしいでしょうか?」

 

?「はい、よろしくお願いします」

 

咬月「うむ。斬新な案だが、無事に解決して何より。それから、君のこれからだが……」

 

?「百合ケ丘の1学年に編入ですね。梅から聞きました」

 

眞悠理「……梅?呼び捨てだなんて、仲が良いんですね」

 

?「同級生だし、友達なんだから堅苦しいのはやめろーって言われまして」

 

祀「私達も同級生なのだけれど……」

 

?「あ、そうなんですか………じゃあ……祀?」

 

祀「っ!」

 

 

 

不意に呼び捨てで名前を呼ばれ、顔をカーッと赤くする祀。驚いた表情の顔をした祀を見て、少年は焦って謝罪する。

 

 

 

?「ご、ごめんなさい!初対面で呼び捨てなんて馴れ馴れしいことを!」

 

祀「いっ、いえ!異性に名前で呼ばれるのが慣れてなくて!あああ頭をお上げください!」

 

 

 

梅の時といい女子の呼び方で失敗続きの為、これでもかと頭を下げ必死に謝る死神と、大慌ての祀。それを困ったような笑みを浮かべて見守る史房。そしてその2人をジト目で見る同じく同級生の眞悠理。普段この部屋で静かに職務を行っている咬月の口元は僅かに微笑んでいた。

 

 

 

咬月「おほん……2人ともそろそろ良いだろうか?」

 

祀・?「「はい、すみません……」」

 

咬月「吉村くんから聞いているならば話は早い。本校はリリィの身の安全を第一に考えておる。そのため、G.E.H.E.N.A.より救助した強化リリィの保護も行っているのだが、君もまた、望まずして生まれた強化リリィだ。身柄は本校で保護させていただきたい。どうだろうか?」

 

?「はい、問題ありません。しかし、女子校に男が在学することに反対する方はいなかったのですか?」

 

咬月「今朝の緊急集会で反対の声を挙げる者は1人としていなかった。今現在、私や史房君の元にも講義の声は届いていない。リリィも教導官も皆、君を受け入れてくれておる。心配せんでも大丈夫だ」

 

?「そうですか……それなら良かったです」

 

咬月「それと、君の存在は百合ケ丘の機密とさせていただく。もし公表しようものなら、政府やG.E.H.E.N.A.が何をしでかすか分からん。君の身の安全のためにも、リリィとして出来る活動は制限をかけることになる。暫くは死神が消えたと噂が立つかもしれんが、少しの辛抱だ。大丈夫かね?」

 

?「はい、分かりました」

 

咬月「うむ。では史房君、あとは頼んだ」

 

史房「はい。では移動しま───」

 

百由「失礼しまーす!皆さんごきげんよう!」

 

 

 

史房の声を遮り、元気な声と共に理事長室の扉を開けたのは百由であった。

 

 

 

?「百由さん!?」

 

百由「お、元気になった?良かったぁ!じゃあ早速行きましょうか!これから色々調べたりしないといけないのよぉ。あ、そうそう。この子達が扉の前にいたわよー」

 

?「……この子達?」

 

 

 

百由のマシンガントークから唯一聞き取れた「この子達」。それは、不安そうな顔つきをした"伍人組"であった。

 

5人が扉の影から顔を出し、少年のことを見つけるとぱあっと顔を輝かせ彼の元へと駆け足でやってくる。

 

 

 

樟美「お身体は大丈夫ですか?お兄様」

 

 

 

全く身に覚えのない呼ばれ方をされる少年。彼には実の兄妹はもちろんのこと、義理の妹すらいないはずだった。

 

 

 

?「えっと……樟美さん?お兄様って……」

 

壱「呼び方が未だに定まっていないそうなので、皆で決めたんですが……」

 

月詩「ダメ……ですか?」

 

弥宙「お兄様……」

 

 

 

上目遣いで訴えかける4人に断ることも出来ず、少年には否定の時間すら無いまま受け入れることになった。

 

 

 

?「それほど出来た人間じゃないけど……それでも、兄として慕ってくれるなら……いいですよ」

 

 

 

不安そうにしていた4人の顔が満面の笑みに変わるのを見て、少年は小さくため息をついて1人ずつ頭を撫でていく。その光景を、少し悲しそうな顔で見つめている視線に彼は気付く。

 

 

 

?「茜さん?どこか暗い表情ですが大丈夫ですか?」

 

茜「ええ、大丈夫ですよ。私も梅と同じく高等科1年生ですので、2学期からよろしくお願いしますね」

 

 

 

無理してるのがバレバレな笑顔で笑って答える茜。それを見て、伍人組の後輩たちは不満そうな顔をする。

 

 

 

樟美「……あかねえ、隠すのダメ」

 

茜「く、くすみん?何を言って……」

 

月詩「「あの方みたいな優しいお兄ちゃんが居たらなぁ……」って言ってたよね?あかねえ」

 

茜「っ!月詩!?それは言わないって……あ」

 

 

 

ニヤニヤ笑う月詩の暴露により、一瞬茜の顔が青くなったかと思うと、たちまち耳まで真っ赤に染まっていく。そして恥ずかしさに耐えられなくなったのか、両手で顔を覆って左右に振り否定する。

 

 

 

茜「ち、違うんです!皆あかねえって慕ってくるから……いやその、慕われるのは嫌じゃなくて寧ろ嬉しいんですけどわたしも誰かに甘えたい時があって、それで周りが女子ばかりなので昔からお兄ちゃんの存在が憧れで……それで……あの……あうぅ……」

 

 

 

頭頂部から煙を吹き出ししゃがみこんでしまう茜。そんな哀れな少女に対して、少年は傍にやってきてしゃがみこむ。

 

 

 

?「例え同い年でも、もしあなたが兄と呼んでくれるなら……僕は構わないですよ」

 

茜「うぅ……あなたではないです……同級生で同い年の渡邉茜です……」

 

?「そうですね……じゃあ……茜?こっち向いて」

 

茜「………はい」

 

 

 

真っ赤になっている茜の手を取り、今にも泣きそうなその目を見つめて優しく語りかける。

 

 

 

?「兄って呼んでくれてありがとう。茜の理想するお兄ちゃんになれるかは分からないけど、これからよろしくね」

 

 

 

少年は目を瞑り自身のマギの活力を高める。茜の指に嵌められた指輪が反応し、掴んだ手を通して少年のマギが茜の体内へと流れていく。乱れた茜のマギが少年のマギと交換され、暫くすると次第に落ち着きを取り戻していく。

 

 

 

?「……落ち着いた?」

 

茜「はい………ありがとう、お兄ちゃん」

 

 

茜は少年に対して笑顔を見せる。その顔は、憑き物が落ちたようにスッキリとしていた。少年が茜の頭を優しく撫でると、気持ちよさそうに目を細める。その光景を室内にいるリリィ達は羨ましそうな顔で見ていたが、2人はそれに気付いていなかった。

 

 

 

百由「はいはい2人とも、そろそろ大丈夫かしら?」

 

?「ええ、大丈夫ですよ」

 

茜「ごめんね百由、取り乱しちゃって……」

 

百由「いいのよぉ。珍しい光景見れてこっちは満足だし」

 

 

 

ニシシっと茜をからかうように笑う百由。それを見て、茜はまた頬を赤く染めた。

 

 

 

百由「ほらほら、さっさと移動するわよ!これからやること沢山あるんだから!では理事長代行、皆さん、ごきげんよう〜」

 

?「ちょっと百由さん!?」

 

百由「百由さんじゃなくて"百由"!私も同級生なんだからね!ほら皆置いてくわよ」

 

伍人組「ご、ごきげんようー!」

 

 

 

そう言い百由は少年の背中を押して理事長室を後にする。それを見た伍人組も、咬月と生徒会に挨拶をして慌ててバタバタとあとを追いかける。

 

 

 

祀「賑やかですね」

 

史房「申し訳ありません……入室時の態度を改めるように伝えますので」

 

咬月「なに、気にする事はない。ココ最近、学院内は話題に花咲く空気ではなかっただろう。甲州やお台場だけでなく、多くのリリィが勝利のために命を捧げてきた。皆知らず知らずのうちに心身ともに疲弊している。まぁ、彼に任せすぎてしまうのもよくはないが、リリィ達の支えになってくれると有難い」

 

眞悠理「ま、それに関しては問題なさそうでしたね」

 

祀「そうね。なんなの見せられるとねぇ……ふふ」

 

 

 

先程の賑やかだった理事長室はしんと静まり返り、生徒会の3名と咬月の声だけが大きく響くように聞こえる。戦場で命をかけるリリィ達が幸せになれる、一筋の光が刺したような気がして、咬月は小さく笑うのだった。




名前も戦闘シーンも出せませんでした……ほんと申し訳ない。

小説書くのって難しいですね。

千華様がジーグルーネを辞職したのがいつ頃か分からなかったので、眞悠理様を登場させました。明伽様もいつ頃負傷されたのかも分からなかったので、代行の祀様を出しています。

次こそは戦闘シーン行きたい!……です。

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