最近VTuberのサロメ嬢にハマっておりまして、似非お嬢様言葉がマイブームになっております……
8話は7話と並行して執筆しておりましたので、連日投稿となります!
それではごゆるりとお楽しみください。
蒼太「……………………」
……
…………
………………
蒼太「クソがっ!!!!!」
蒼太が手に持っていたティーカップは部屋の床に叩きつけられ、派手な音をして砕け散る。飲みかけの紅茶が床に飛び散り、腰掛けていたソファに跳ねた水滴がシミを作った。
蒼太が学園に編入して早3ヶ月の時が過ぎた。最初こそ友が居ないと謳っていた蒼太であったが、在籍する椿組のクラスメイトを始め、多くの友人に恵まれ毎日が退屈しない日々が続いていた。
……そんな楽しい学園生活も最初のうちで、ここ2ヶ月は文字通り地獄の日々だった。
2ヶ月前、椿組のレギオンが殆ど壊滅するまさに「地獄」のような戦いが突如として行われた。
蒼太も参戦し、戦闘に参加したリリィの中で最も多くのヒュージを葬ったが、被害を抑えることは叶わずに多くの友人を失い、椿組の教室に初めて入った時1番に声をかけてくれた、蒼太にとって大きな存在な明石愛華が行方不明となってしまった。
その戦闘の影響もあり、蒼太と友好関係にあった天葉や夢結、梅、教室で知り合い友人となった番匠谷依奈や谷口聖などのクラスメイト達は皆気を病んでしまい、天葉に至ってはリリィとしての活動を事実上引退という状態になってしまっている。
蒼太「僕は無力だ……誰も救えなかった……」
一人、自身の不甲斐なさに打ちひしがれ頭を抱える。そんな蒼太の隣に誰かが腰かけた。
天葉「そんなことない。あの時蒼太は皆を救ってくれた。強くて優しい蒼太は無力なんかじゃないよ」
蒼太「天葉……」
カップの割れた音を聞きつけ天葉が部屋にやってきていた。リリィを引退し、転校までの間特別寮に入寮しており、蒼太とは隣室である。
天葉「そんなに自分を責めないで」
蒼太「……ありがとう……本当に……ありがとう」
涙を流す蒼太を優しく抱きしめる天葉。
静かな2人だけの時間。この時蒼太は、天葉から伝わってくる暖かい何かを感じていたが、それが何なのかは理解出来ずにいた。
少年は、愛を知らない。
あれから更に2ヶ月の時が流れ、季節は木々の葉が落ち肌寒さを感じる冬へと移り変わっていった。あの地獄のような戦いから4ヶ月経ち、心身ともに疲弊していたリリィ達もお互いの励ましもあって徐々に立ち直り始め、学園内に活気が戻ってきた。
コンコンコン——
蒼太「天葉ー、入っても大丈夫?」
天葉「いいよー」
蒼太は、隣室である天葉の部屋にやってきた。その手には複数枚の書類がある。
蒼太「お邪魔しまー……おっと」
樟美「お兄様」
天葉の部屋のドアを開けて入室すると同時に、蒼太の胸元に樟美が飛び込んできた。そのまま背中に手を回し抱きしめてくる。その綺麗な白髪の頭を、蒼太は空いてる手で優しく撫でる。
蒼太「やぁ樟美、こっち遊び来てたの?」
樟美「……」ブンブン
蒼太「……?」
蒼太の問い掛けに首を振る樟美。その様子を見て、天葉が声をかける。
天葉「蒼太、一先ずこっち来なよ」
蒼太「あ、うん……」
天葉に呼ばれ、蒼太はソファに腰掛ける。その隣には樟美が腰かけ、ギュッと蒼太の右腕を抱きしめながら俯いていた。
蒼太「とりあえずこれね。百由にまとめてもらったこの前のヒュージ討伐のデータ」
天葉「ありがとう……うーん、やっぱり何か違うね」
蒼太が手にしていた書類は、百由によってまとめられた先日討伐したヒュージのデータである。ガーデン防衛に特化したレギオン「LGシュヴェルトライテ」が対応したこのヒュージは、マギの波長が通常のヒュージと異なっており、チャームによる攻撃を吸い取るような動きを見せた。
シュヴェルトライテ副隊長であり、蒼太と友好関係にある多田紫恵楽の要請により出動した蒼太によって討伐されたが、彼自身も初めて遭遇する特型ヒュージであった。
天葉「リリィの攻撃を吸収するなんて……これこっち側のマギを解析でもしてるのかな」
蒼太「百由もそう考えたらしいんだけど、ヒュージの知能でそこまでやれるのはありえないらしい。でもこのまま行くと、いずれノインヴェルトも無効化される可能性もあるって」
天葉「ノインヴェルトも!?それは野放しに出来ないね」
蒼太「そうだねぇ……その時に君が居てくれたらいいんだけどね」
蒼太は天井を仰ぎならが背もたれに沈み込むと、そんな蒼太の左肩に天葉が身を預けてくる。
天葉「蒼太がいれば大丈夫よ。強いもん」
蒼太「そんなことないんだけどねぇ……」
天葉「私はもう引退するし、将来は植物学者にでもなろうかなって考えてるんだ」
蒼太「……そっか、花が好きだったもんね。それって昔からなの?」
天葉「実家が花屋だからね。お父さんは作庭家でお母さんはフラワーアレンジメント作家。昔から植物には沢山触ってきたのよ」
蒼太「はへぇ凄い家庭なんだ。それでも蜂が苦手なの……?」
天葉「苦手じゃない、大嫌いよ。刺してくるんだもん……」
少々雲のかかった休日の由比ヶ浜は、ヒュージ襲来の警報も鳴らずに穏やかな時間が流れている。蒼太と天葉が他愛も無い会話で盛り上がっていると、不意に蒼太の右肩に重さがかかる。
蒼太「……樟美?」
樟美「……」スゥスゥ
規則正しい小さな寝息を立てて、樟美は蒼太の右肩に寄りかかる形で眠りに入ってしまっていた。
天葉「ココ最近、樟美はかなり疲れこんじゃってるからね……」
蒼太「何かあったの?」
蒼太の問に、天葉は少し間を置いて答える。その内容を、蒼太は目を瞑りながら一語一句忘れぬようにしっかりと聞いていく。
蒼太「そっか……いっちゃんと……」
天葉「うん……そのせいで孤立しちゃってね」
あれほど仲良しだった伍人組の樟美と壱は些細なことで喧嘩をし、樟美がクラスで孤立してしまった。
原因は樟美の両親との関係にあるらしく、今現在の樟美は仕送りも途絶しているらしい。クラスメイトとの関係悪化、そして仕送り途絶により通常寮の支払いが困難に陥り、この特別寮に入ることになり天葉と同室になったようだ。
蒼太「……こればかりはきちんと話した方がいい。2人の関係がこれからもこの状態なのは、兄として見て見ぬふりは出来ない」
そう言うと、蒼太は樟美を起こさぬように抜け出すと、ソファに寝かせる。そして、足音を立てることなく天葉の部屋を後にしようとした。
天葉「待って蒼太……何する気なの……?」
天葉の手が蒼太のマントを掴む。蒼太を見つめるその目は不安の色に染っていた。そんな天葉に、蒼太は優しく声をかける。
蒼太「取って食うわけじゃないよ。2人の関係回復にちょっと助け舟を出すだけ。大丈夫、今後どうするのかは2人にきちんと決めさせるから」
蒼太は天葉の髪を優しく撫でると1度自身の部屋に戻り、ハービンジャーを手にすると中等科の校舎へと向かって行った。
その後ろ姿を、不安と期待の入り交じった気持ちで送り届ける天葉。
天葉「……蒼太なら大丈夫、きっと上手くいく。そうでしょ、樟美?」
天葉の部屋にある3人がけのソファ。その上で頬に涙の後を作りながら寝息を立てる少女に向かって、小さく天葉は呟いた。
蒼太「ここが中等科の校舎……」
蒼太は特別寮から歩いて十数分の距離にある、百合ヶ丘女学院中等科の校舎へとやってきた。校舎周辺や校庭からは、立派なリリィになるべく訓練に励む生徒達の声が聞こえてくる。
蒼太「とりあえず探さないと……まぁ、休日だしいきなり来ても大丈夫でしょ……多分」
さてと、と一言呟き、敷地内へと足を踏み入れる蒼太。その足は、僅か数歩で進むことはなくなった。
中等科リリィ「あ、あの!」
蒼太「……ん?」
中等科リリィ「高等科の星咲蒼太様……ですよね!!」
蒼太「あ、うん……そうだよ。名前知ってくれてるんだね。ありがとう」
そう答えるや否や、一瞬にして色めきだった若きリリィ達に取り囲まれる蒼太。その光景に惹かれ、更に人が集まってくる。完全に壱を探す所ではなくなってしまった。
中等科リリィA「あの!握手してください!」
中等科リリィB「お強いとお聞きしました!是非ともお手合せを!」
中等科リリィC「ええと、お兄様とお呼びしてもよろしいですか?」
月詩「……お兄様?何してるんですか?」
ふと聞き覚えのある声を見つけ出し、見渡すと茶色い髪にアホ毛の頭。伍人組の1人である高須賀月詩だ。
蒼太「あぁつきしー、ちょっと助けて……」
蒼太が手を伸ばすと、月詩はその手を取り囲まれてる輪から助け出す。蒼太は手を取りニコニコしている月詩の髪を優しく撫でながら礼を言う。
蒼太「ありがとう、助かったよ……」
月詩「いえいえー。それはそうと、一体何してるんですか本当に……」
蒼太「いっちゃんを探しに来たんだ。どこにいるか分かる?」
月詩「いっちゃんですか?いっちゃんならあそこに……」
月詩が指差す先には、クラスメイトと一緒に談笑しながら歩く壱の姿があった。
蒼太「ありゃ、取り込み中だね……出直そうかな」
月詩「あ、大丈夫ですよー。いっちゃーん!」
月詩が大きな声で名を呼ぶと、壱は月詩の方を向いて笑顔で手を振る。そして、月詩の隣に居る蒼太を捉えると、一瞬にして顔が赤く染った。
壱「おおおおお兄様!?」
蒼太「やぁ、いっちゃん」
手を振る蒼太に声をかけられ、壱は2人の元へ駆けてくる。
壱「お兄様!ごきげんよう!」
蒼太「おっと……ごきげんよう、いっちゃん」
駆け寄ってきた勢いで抱きついてくる壱を優しく受け止め、その綺麗な翠色の髪を撫でる蒼太。その様子を、月詩は羨ましそうに見つめている。
壱「どうしたんですか?お兄様から尋ねてくるなんて」
蒼太「あぁ、実は樟美のことで……」
楠美、その名を出した瞬間に壱と月詩……それ以外にも数名の放つマギが冷たくなるのを感じた。該当する全員が険しい顔つきに変わる。蒼太はその瞬間に声が詰まってしまった。
壱「……その名前を出さないでください」
蒼太「……いっちゃん?」
突如、壱が蒼太を突き飛ばす形で離れる。その顔は、普段の優しい壱とは違う怒りや憎しみを感じさせる表情であった。呼吸やマギにも乱れを感じ、様々な困難を経験してきた蒼太でさえも壱の表情には戸惑いを隠せなかった。
蒼太「いっちゃん、一体何が…………いや、ここは大人しくした方がいいかな?」
蒼太が両手を上げて降参の姿勢を取ると、背後から感じる殺意に振り返ることなく声をかける。
蒼太「……君は?」
亜羅椰「お初にお目にかかります。私、遠藤亜羅椰と申します。初対面早々に申し訳ございませんが、これ以上いっちゃんに近寄るのはご遠慮願いますわ」
蒼太は首筋に亜羅椰のチャーム、アステリオンのブレードが当てられているのを感じ取った。しかし蒼太は焦ることなく問いかける。
蒼太「もし、僕がいっちゃんと話をさせて欲しいってお願いしたら……どうする?」
亜羅椰「そうですわねぇ……」
亜羅椰のチャームが首筋から離れたと思ったその瞬間、蒼太に対して目にも止まらぬ速さで斬りかかってくる。マギの波長で事前に察知した蒼太は、一瞬の隙を狙って亜羅椰から距離を取る。
壱が焦ったように亜羅椰の名を叫ぶが、当の本人が止まる気は一切無かった。
亜羅椰「一戦、交えさせていただきますわ」
蒼太「……対話で解決は、無理そうだね」
亜羅椰の要望に答えるように、蒼太もハービンジャーを大剣に展開する。その際に放つ蒼太のマギで、周囲にいる野次馬のリリィ達はたじろぐ。亜羅椰はゾワッと背中に走る恐怖心を感じ身震いした。
壱「お兄様!どうしてそこまで……」
蒼太「壱」
壱……そう呼ばれ言葉を詰まらせる。彼女が目にしている蒼太の表情は、辛く悲しそうな表情をしていた。
蒼太「樟美は苦しんでいた。泣いていたよ……君たちの事情に深く関わる気はない。でも、あれだけ仲が良かった君たちがお互いにそんな顔をさせあっちゃダメだ」
蒼太は壱に近づき「大丈夫」と一言呟き頭を撫でる。そして壱から距離を取ると亜羅椰と対峙する。
蒼太「高等科1年、星咲蒼太です。お手柔らかに頼むよ、亜羅椰」
亜羅椰「ふふっ、こちらのセリフですわ。お兄様」
静かなはずの休日の百合ヶ丘。今此処に、2本のチャームがぶつかり合う音が響くのだった。
楠美がクラスから孤立してしまった事件は、全くと言っていいほど詳細がないので完全な自己解釈です。
月詩が伍人組解散の原因を作り、楠美と壱が絶縁状態になり、修道院特別寮に楠美が入寮する……尾花沢せんせーい!(懇願)
それと天葉が引退を決意したのもこの時期にさせて頂きました。本来は初代アールヴヘイムの解散が原因になるはずなんですが、解散したのって春頃なんですよね……蒼太が学園に来たのは夏なので、時期をずらしております。
次回は蒼太VS亜羅椰のバトルになります。戦闘シーンが苦手ですが頑張りましてよー!
樟美の漢字を間違えるミスがございましたの……申し訳ない……しっかり読んで誤字を指摘してくださった方、ありがとうございます(_ _)