最近気温が上がってきて夏を感じる時期になってきましたね。
皆様お体は大丈夫でしょうか?
それでは9話です!ごゆるりとお楽しみください。
亜羅椰「はぁ!!!」
亜羅椰は全身の力を使ってアステリオンを蒼太に叩き込んでくる。しかし蒼太の姿勢が崩れることはなく、亜羅椰は跳ね返ってきた力の分散が上手くいかずに弾き飛ばされる。
亜羅椰「くっ……!風の噂で伺ってましたが……規格外の強さですわね……」
蒼太「そんな事ないよ。亜羅椰も十分いい腕してる」
亜羅椰「馬鹿にしてるんですか?」
蒼太「素直に褒めてるんだよ」
亜羅椰が蒼太を睨みつけるその光景は、互いの目線にバチバチと火花を散らしながら交差しているように見える。しかし実際は亜羅椰からの一方的な感情であったため、睨まれた側は頭痛を感じていた。
そんなことも露知らず、次から次へと亜羅椰が地面を蹴り上げて攻撃を仕掛けていくが、全く姿勢の崩れない蒼太はそれをいとも簡単に受け流す。
このまま持久戦に持ち込んだとしても、亜羅椰が勝てないのは目に見えて明らかであった。
亜羅椰「……はぁ……はぁ、お兄様……もう少し手加減していただきたいですわ」
蒼太「十分手加減してるんだけど……」
蒼太は亜羅椰との手合わせに終止符を打つためにハービンジャーを構える。
しかし、蒼太は不意に現れた背後の気配を察知して亜羅椰から視線を逸らすことなく、背中をガードする姿勢に構えを変える。
そこに狙ったかのように ガチンッ!と重い衝撃が加わってきた。それを見て亜羅椰の顔がニヤける。
蒼太「……中等科は元気な子が多いんだね」
辰姫「森辰姫です!亜羅椰に手を出すなら私もお相手します!」
蒼太「えぇ……2人相手ってそれ本気で言ってる……?」
辰姫はティルフィングを弾かれると離れたところにジャンプし、亜羅椰の傍に駆け寄る。
辰姫と亜羅椰が顔を合わせて頷き合うと、チャームを構え蒼太を睨む。それを見て、蒼太はため息をつくとハービンジャーを大鎌に変形させ右腰部に添わせる独自の構えを取った。
亜羅椰「ようやく本気になってくださいましたの?」
蒼太「いや、これ以上長引くと生徒会に怒られそうだからもう終わらせたい……誰か助けて……」
辰姫「へぇ……やれるものならやってみて下さい!行くよ亜羅椰!」
辰姫がティルフィングを構え、泣きそうな顔をしている蒼太に向けて攻撃を仕掛ける。それをハービンジャーで弾き飛ばすと、その後ろから斬りかかってきた亜羅椰のアステリオンを受け流す。
蒼太の意識が亜羅椰に向いた所で背後に回った辰姫が迫ってくるが、ハービンジャーを器用に振り回して双方の攻撃を弾き返していく。
背後からの辰姫の攻撃に対応してるところに亜羅椰がアステリオンを振りかざすが、蒼太は辰姫から視線を逸らすことなく首だけを動かしてこれを避ける。
これには亜羅椰も驚いたらしく「えぇっ!?」と声を上げた。
マギの波長を強く感じる事が出来る蒼太は、空間の僅かな歪みや風のように体を撫でるマギの波を感じ取り、見えない箇所からの攻撃に対処していく。
本人からすればごく普通のことであるが、実際に蒼太と手合わせをしている亜羅椰と辰姫は初めての光景に焦っていた。
亜羅椰「全然攻撃が当たらない……どうなってるのよ……くっ」
辰姫「強すぎるよぉ……こんの!」
亜羅椰からの攻撃を弾き飛ばし、蒼太との距離が離れたところに辰姫が正面からティルフィングを振りかざして迫ってくる。蒼太もハービンジャーを大剣に変えて正面からその一振を受け止め押し返す。
辰姫「うおっとと……」
亜羅椰「辰姫!」
受け流されずに正面から押し返されたのが予想外だったのか、バランスを崩した辰姫に蒼太は一瞬のスキをついて接近すると、懐に入り込み右手に持っていたティルフィングを弾き飛ばす。
辰姫「あいたっ!」
バランスを崩して尻もちを着く辰姫の顔に触れるスレスレの位置にハービンジャーを構える。目先に刃物が突然現れ、全身全ての筋肉が硬直する辰姫の頬を汗が流れ落ちていき、コンクリートの地面にシミを作る。
蒼太は辰姫からハービンジャーを遠ざけると左手を出して声をかける。
蒼太「君はこれでおしまいかな……背後から攻めてきた時はヒヤッとしたよ。十分強い」
辰姫「……ま、まさかあれだけマギを使って全力を出したのに押し返されるなんて……噂通りの強さですね」
辰姫は蒼太の手を取って立ち上がる。その際に目に入った辰姫の左上腕。普通の人間にはあるはずもないが、蒼太にとっては馴染みのある物が目に入った。
蒼太「……君の左腕のそれ、強化リリィの刻印か……そっか……大変だったね」
蒼太の一言に、焦ったかのように左上腕を右手で隠す辰姫。蒼太を見つめるその目は、不安と驚きと緊張が入り交じったようであった。
辰姫「……貴方には何も分からないです……どれだけ辛かったかなんて」
蒼太「確かに分からないかもしれないけど……分かるよ。僕も自分の名前を忘れてしまう程に苦しめられたからね」
「えっ……」という驚きの声を上げた辰姫の頭を優しく撫でると、亜羅椰の元へ行きハービンジャーを構える。
蒼太「おまたせ」
亜羅椰「辰姫が簡単にやられちゃうなんて……燃えますわねぇ……ふふふ」
亜羅椰がニヤリと笑うと、アステリオンを構えて蒼太に告げる。
亜羅椰「本気で行かせて頂きますわ……フェイズトランセンデンス!!!」
ほんの一瞬、シンと辺りが静まり返ったかと思えば、亜羅椰のアステリオンが蒼太の顔スレスレまで迫っていた。
亜羅椰「勝負ありですわね。ごめんあそばせ、お兄様」
勝った。
そう思った亜羅椰であったが、振りかざしたアステリオンは蒼太に当たることなく空中を斬る。手応えのない空振りに思考が追いつかず呆気に取られる。
亜羅椰「えっ……あ、ちょっ……きゃ!」
何も無い空間を斬り、ブレーキが効かない攻撃はそのままコンクリートの地面へと向かっていき、派手な音を立ててアステリオンが地面に突き刺さると同時に、バランスを崩して亜羅椰が倒れ込む。
亜羅椰「いたた……」
そして起き上がろうとしたその時に背後から聞こえる声。
蒼太「ごめんね。僕が本気を出したら、君の首を跳ねることぐらい容易なこと……だからリリィ相手に本気を出さないんだ」
その声を聞いた途端、全身に鳥肌が立ち背筋を冷や汗が流れていく。何が起きたのか理解出来なかった亜羅椰は、混乱した頭をフルに回転させて現状を把握する。
地面に突き刺さったアステリオン、S級のフェイズトランセンデンスよりも速い速度で背後に回り込んだ蒼太、そして自身の顎下に滑り込むように入り込んだ大鎌のブレード。
蒼太のハービンジャーは亜羅椰の喉元にまもなく当たるという位置で停止しており、いつでも首を狩り取れる状況だった。
誰がどう見ても蒼太の勝利である。
蒼太「君が友を想う気持ちはよく分かる。僕だって、生半可な気持ちで壱や樟美達の兄を名乗ってる訳じゃないからね……お疲れ様、亜羅椰」
蒼太はハービンジャーを亜羅椰の首元から遠ざけて1番小さい形へと格納する。そして、約束通り壱と話をさせてもらおうと顔を上げたその時、今度は蒼太が硬直する番となってしまった。
眞悠理「中等科相手に訓練の指導とは……精が出るな、蒼太?」
百合ヶ丘女学院1年、生徒会三役ジーグルーネの内田眞悠理が腕を組んで蒼太を待ち構えていた。ニコニコとした眞悠理の額には血管が浮き上がり、蒼太に対しての怒りが体内で収まりきれていないようだ。
中等科の敷地内での戦闘行為。無論許可など取ってるはずもなく、学院内の風紀を司るジーグルーネとして怒るのは当然の話である。
蒼太「あっ……や、やぁ眞悠理。ごきげんよう……はは……やっべ………」
ダラダラと冷や汗をかき、ジリジリと後ずさりする蒼太の元へわざとらしく靴音を鳴らしながら近づいてくる眞悠理。先程の戦いとは打って変わって、蒼太は鬼から怯えて逃げる情けない姿となっている。
眞悠理「やばい……という事は、自分がいけない事をしている自覚はあるんだな?結構な事だ。さて、詳しく聞かせて貰おうか」
眞悠理は蒼太よりも身長が小さいため、蒼太の目の前に立つと上目遣いで見上げる形になるが、そのまま蒼太の服の襟元を掴み上げてズルズルと引きずるように連れて帰る。
蒼太「ちょちょちょ眞悠理?僕はちゃんと後輩に用があるんだよ?まだ済んでないんだけど……」
眞悠理「言い訳は戻ってからたんまりと聞いてやる。ほら、帰るぞ」
蒼太「えええぇ……いっちゃーんごめんねぇー……」
泣き顔で眞悠理に引きずられながら高等科の校舎へ戻っていく蒼太を、驚きやら困惑やらの表情で見送る中等科のリリィ達。
壱(……お兄様が来たのはきっと私と樟美の事……中等科の中でもトップクラスに強い亜羅椰と辰姫の相手をしてまで私たちの事を……)
その後ろ姿を苦しそうな目で見つめる壱に、辰姫が声を掛ける。
辰姫「行ってきたら?壱に用があったみたいだし、逆に貴方も彼に用があるんじゃないかしら?……ほらほらっ」
辰姫が壱の背中を軽く押すと、その勢いのまま兄の背中を追うように歩み始める。
自分1人では出来ないことでも、きっと解決の糸口を見つけてくれるはず。そう信じて壱は駆け出していく。
壱(お兄様……っ!)
野次馬で集まっていたリリィ達も、後を追いかける壱を見送り各々捌けていく。何名かが「シュッツエンゲル……」と口にしていたため、辰姫は嫌でも彼の事を思い出してしまう。
辰姫(星咲蒼太様……人体実験で生まれた強化リリィであり、世界で唯一の男性リリィ……あの人なら、私の苦しみを分かってくれるような気がする……頭撫でてくれた手、優しかったなぁ……)
撫でられた頭に自身の手を置くと、頬に熱が篭もり赤く染っていく。はっとして顔をフルフルと振り熱を逃がすと、蒼太に負けてからずっと立ち上がらずにいる亜羅椰の元へと向かう。
辰姫「……亜羅椰、大丈夫?」
亜羅椰は両膝を地に付いた状態で座り込んでおり、両手で自身の体を抱き締めるような形で震えていた。それに気付いた辰姫が慌てて亜羅椰の顔を覗き込む。
辰姫「あ、亜羅椰!?本当に大丈……夫?」
辰姫が顔を覗き込むと、体は震え、息は荒くなり、顔は頬が赤く染まり、口はニヤつき、高揚した表情の亜羅椰がそこにはいた。
亜羅椰「ねぇ辰姫……私、昔から決めてることがあるの……それはね?この先の生涯を共にする殿方の条件は"私よりも強い人"ってことなの……見つけたわ…運命の出会いよ……」
辰姫「え、えぇ……」
亜羅椰「星咲…蒼太様……いえ、私のお兄様……待っていてくださいませ。亜羅椰は……ふふふふ」
辰姫(……蒼太様逃げて!今すぐ逃げて!)
蒼太の身に危険が迫っている。既に高等科の校舎へと戻ったであろうその人に対し、辰姫は懸命に念を送るのだった。
これにて2代目アールヴヘイムの主要キャラ全員と接点が出来ました。
ここまで長かった……
次回は「噂の死神リリィ編」最終回となります!
諸々の解決をしてブーケ編へと繋がる予定ですので……早めに仕上げられるように頑張ります……はい。