「これで大丈夫でしょう、頑張るのはいいですけど自分のお年を考えて無理のない範囲で頑張ってください」
「まだまだと思ってたんだけどなぁ、俺も年か」
イリュリア連王国の首都イリュリアより少し離れた過疎化が進む小さな村には小さな診療所を構え始めたばかりの若い新人の医者とそこに通う老人が会話していた
「今度息子が仕事の休みにここに帰ってくるそうだ。そん時に先生に紹介するよ。とても良い先生がいるって」
「ありがとうございます。息子さんのために早く帰って元気にな姿を見せてあげてください」
「そうだな、ありがとう先生」
今日は何人か来てくれた。段々と村の人たちも自分のことを受け入れてくれたようで嬉しく思う
最初にこの村に来た時は皆んな過疎化が進んだ街で新しい小さな診療所ができるなんてと怪しんでいたがチラホラ患者さんを見ると噂が広がって普通に利用してくれるようになった。ありがたい限りである
なぜこの村に診療所を立てたのかと言われれば二つ理由があり、一つはお金がなかったと言う理由が一番大きく、人が多いい所だともちろん土地代も高いため自分にはとても払えるものではなかった
もう一つは修行のため、医学のことについてはそれなりに学んだつもりだがそれでも知らないことはあるし想像のできない事態があるかもしれないので人の少ない場所で経験を積もうと考えた
そのうちお金が貯まったら大きな病院をイリュリアに立ててやると意気込んではいたもののこの村に診療所の様な場所がなく自分がいなくなったら困ってしまうだろう
多くの人を助けたい思いとこの村を放っておけないと言う思いがありどうしたものかと最近は考えている。まぁ、全然お金は足りないから考えてもしょうがないけど
そういえばまだ薬の在庫を確認してなかった事を思い出して裏にある倉庫に確認に向かう
裏口から出て直ぐに人がうちの敷地の中で倒れていた
全く想像できなかった事態にいきなり出会って惚けてしまったがすぐにそれどころではない事に気づく
倒れていた人は女の子はとても傷だらけで生きているのか少し怪しいところで急いで脈を測り生きている事を確認して急いで入院用のベッドに運ぶ
やはり身体中に刃物で切り付けられた様な跡があったり、打撲跡があったりなど尋常ではない怪我をしていた。相手が女の子だから気が引けるが治療のために服を脱がせる
そのまま傷を消毒したり止血したり包帯巻いたり大忙しだった。まさかこんな小さな村でこんな重体患者が出るとは思わずとても疲れてしまったので寝室に戻って寝る事にする
目が覚めて彼女の様子を見ることにした。ベッドに近寄ると急に彼女が飛び起きて近くにあったハサミを握り襲い掛かろうとしてきた
目が覚めた時に気が動転して暴れる患者がいるとは学んでいたが実際に起こると私は腰を抜かしてへたり込んでしまいもうダメかと思い歯を食いしばりながら目を瞑る
しかし、いつまでも痛みが感じられない。目を開けると困惑した彼女の顔とハサミを振り上げて固まっているという少し間抜けに感じてしまう格好をしている彼女だった
「貴方、組織の人間じゃないの?」
口を開きとても綺麗な声で訪ねてきた。しかし組織とはなんだろう?全くわからない。医療協会の話し?いや、明らかにそんな感じじゃないとりあえず何か誤解をしている様だ
「落ち着いてください、あなたの言う組織というのはよくわかりませんが私はただの医者です。うちの裏で倒れていた貴方を介抱しただけです」
恐怖感と闘い、あたかも冷静に振る舞っている様に見せるが若干声が震えている。私の様子を見て彼女は自分の体を見た時とても冷たい声が聞こえた
「確かに治療をしてもらったようね、そこには感謝するわ。ひとつ確認なんだけど何もしてないわよね」
彼女は自分の体を見て服を脱がされた事に気づき自身の貞操の心配をしているようだ
「これでも医者です。誓ってそんなことは絶対にありません」
確かに彼女は少女ながらとても魅力的だとは思うが医者としてそんなことは絶対にない。見ず知らずの男に心配する気持ちもわかるが、私は医者としての誇りがあり少しでも心配されるのも心外だと思う
「そう、なら良いわ」
今まで震えていたが解答の時だけは自分の誇りである医者の名誉のため力強く彼女の目を見て否定したのが伝わったのかもしれない
「治療してもらって本当に感謝しているわ、けど生憎とお金は持ち合わせていないの、それにここにはいられない」
「別にお金はいいです、ですがその怪我で動くのは許しません。最初は死んでいると勘違いするほどの怪我だったんです、それで動くなんて何のために私が手当してあげた意味がないです」
あの怪我で動けること自体が異常で、常に痛みを感じて泣き喚いても不思議ではないほどなのに動こうとなんてもってのほかだった
「訳は言えないけどここにいると貴方に迷惑がかかるの」
「関係ありません、絶対安静です」
鋼の意志で安静を促すと彼女はため息をつき次の瞬間には急に伸びた髪に拘束されて目の前に鋭く尖った彼女の金髪があった
「わかった?私は化け物で貴方たちとは違うの」
「確かに私は髪を伸ばすことはできません。ですがそれだけで放っておくなんてことはできません。やっぱりお金は貰います、払えないなら私の手伝いをしてください」
「頑固なのね、死んでも文句を言わないでね」
「え?」
「冗談」
昨日なんとか彼女を止めることができた。あの怪我は明らかに異常で何者かに追われているのか推測でき、そのうちここにもくるかもしれない
彼女のように可愛ければ良いがそう都合のいいことはないだろう。明らかにヤバいやつが来たらチビってしまう。色々起こるであろう事態について少しビビる
今日は珍しく若いお母さんと小さな子供と言う年齢の低いお客さんだった
「こんにちは、今日はどうされました?」
「こんにちは先生、実はこの子が熱を出してしまって」
子供を見ると顔を赤くしだるそうにして咳も出ている。とりあえず現在の体温を測ってあまり高くはなかったので解熱剤と咳止薬を出してこれでもダメならもう一度ウチに来てくださいと言う。子供を診療室から待合室に移動させ代金を受け取る
「そういえば先生、外に女性用の服がありましたけど彼女さんですか?もしかして奥さん?」
「まさか、生まれてこの方女性と交際したことすらありませんよ。実は実家から医者になるのは反対されて、それを押し切って縁を切ったんです。それを心配してくれた親戚の子が心配で追いかけてきただけですよ」
「へぇ、先生モテそうなのに。それにしてもいい子ねわざわざ追いかけてくれるなんて」
「ええ、そうなんです。よくできた子で、もしよかったら仲良くしてあげてください。あ、これ飴と薬と混ぜるゼリーです」
「ありがとうございます先生、親戚の子今度紹介してください」
そう言って出て行く親子を見送り診療室に戻る
「よくも親戚の子なんて嘘がつけるわね、私は貴方の親戚になった記憶はないのだけど」
「明らかに面倒ごとを抱えた人をそのまま紹介出来ないでしょう?別にいいじゃないですか。そういえば名前は?」
「ミリア」
素気なく答える彼女
「私はヤマト新人の医者です、よろしくお願いします」
「貴方ってとても丁寧な喋り方をするのね。それともこれって普通のこと?」
どうやら自分の話し方に疑問があるようだ
「さあ?そう言う人はあんまりいないかと、私は憧れの人を真似ているだけに過ぎません」
「憧れの人?」
お、興味を持ってくれたかな?ならば聞くがいい、私が最も尊敬する先生の話を!
「昔、私がとある病にかかったときにほとんどの医者は匙を投げました、そんな絶望的な状況でとある凄腕の医者が私の病を治してくれたのです。その先生がこんな感じの喋り方をしていたので真似ているのです」
「なるほどね、それで貴方は医者を目指して今はこうやって医者をやっていると、眩しい話ね。そんな凄い医者ならとても有名なんでしょうね、名前は?」
「わかりません」
「呆れた、命の恩人の名前も知らないなんて」
「その先生は突然失踪してしまったんです。だからどこにいるのかもわかりません」
「そう」
この時、私は嘘をついた先生は失踪なんてしていないどこにいるのかも知っている、ただその事については彼女には言えない
私は暗殺組織から逃げている途中に気絶し彼に助けもらいそのことに感謝してすぐに帰ろうとしたけれど彼の力強い覚悟を感じ取れる瞳を見て少しだけ止まることにした。
ここにいればいつか組織の追っ手が来るかもしれない、そうしたらこの村の人も彼も傷ついてしまうので怪我が治ったらすぐに出て行こうと治療に専念することにした。その間彼の手伝いや話を聞いた
ヤマトは憧れた先生の話になるととても明るく生き生きと話をするがその先生の現在については知らないという。しかしヤマトは確実にその恩人の現在を知っている。明らかに嘘を付いている違和感を感じた
何故そのことについて嘘をついているのかはわからないが正直言ってどうでもいい
彼の夢は有名な医者になり恩人に感謝を伝え先生のように人に希望を与えたいと言うもので他人の希望を奪う事をし続けた私にはとても眩しく思える
ここに滞在して少し経ち手伝いにも慣れて顔見知りも出来てここに来る人は帰りには皆んな笑顔だった。人と人が助け合いたわいない会話で笑いそして別れる、それをしているだけでとても幸せになれた。組織にいたときは報告をして仕事を繰り返すと言うマシンのような生活からまともな人間になれた気がする
段々と体の怪我が治りほぼ全回復した。彼は行くところがなければ助手としていてほしいと言っていたが組織の追っ手がいるため一緒にはいられない。私はこの村での彼との生活に安らぎを感じていたがそれを傷つけられないように出ていくことにした
ヤマトに出て行く事を伝えると悲しそうにそうですかと言って薬とお金を手渡された。行くあてもなく助かるので素直に受け取りこの村を出た
それから数週間経ち今まで感じたことのない寂しさを感じながら大きな町で情報を集めていた。すると罪人であるはずのザトーが出所し第二次聖騎士団選考武道会に出場する事が分かり私はこの大会に参加して組織を潰しまた平穏な暮らしがしたいと思った
いや、絶対に平穏な暮らしをしてみせる