織斑一夏は孤独だった。
両親は物心つく前に他界し天才の姉と双子の兄がいたがどちらも一夏のことを腫れ物のように扱う始末。
周囲も天才の二人を比較して一夏を非難し一夏の周りには誰もいなかった。
「だ、大丈夫ですか?」
そんな折、いつもどおり公園のブランコで俯きながら漕いでいると少し緊張している声で一夏に少女は声を掛けてきた。
そんな声に一夏は反応せず俯いたまま漕ぐだけだった。
大抵一夏に声を掛ける人と言えばずる賢い双子の兄が頼み込む人間ぐらいだ。
だから後々酷く傷つくぐらいなら無視してしまえと決め込む。
「…気持ちは判らなくないけど、声を掛けられたら返すのが礼儀ではないでしょうか?」
もう一人、声を掛けた人物の隣にいた女顔の少年が正論を述べると俯いていた顔を上げると見覚えのある顔ぶれが一夏を見ていた。
「クラスメイトの」
「九重優希と白河榛名です」
「よかった、クラスメイトの顔もわからないって言われたらどうしようかと思ったんだ」
ほっとした気持ちで話す白河に一夏はあまりいい気はしていないのか疑り深くみていた。
それに気付いた九重は少し溜め息を吐き、彼の誤解が解けるように断言した。
「まず言っておくけど、僕たちは君の兄貴に何か言われてきたわけじゃないから」
一夏が警戒している理由は双子の兄であることは知っているために前提をハッキリさせて一夏の警戒心を解こうとする。
しかしこれまで積み重ねられてきた裏切りの数々は早々に一夏の心を傷つけていて早々に信じることはなかった。
「俺の事なんてほっといて!」
そう二人にきつく言った後、一夏はブランコから勢い良く立ち上がり走って去って行った。
「あっ!待って!」
「榛名…やっぱり無理じゃないかな?どう考えても…」
出ていった一夏に声を掛ける榛名だが既に聞く耳持たずで去って行きその光景を見てやっぱりと予想していた優希はまた溜め息を溢した。
一夏と優希と榛名公園で出会った次の日、学校の放課後、次々と教室から生徒達が出て行く中、一夏は掃除用具を持って教室の掃除をし始める。
「それじゃあ掃除当番よろしくな」
「いっとくけどチクったらただじゃすまさねえからな」
そういって上から目線で兄である織斑秋十の取り巻き達は高笑いしながら教室から去って行き教室には一夏だけが取り残された。
「………」
こんなこといつものことだ。
そう諦めているのか割り切って一人で掃除を始める一夏
しかしたった一人で一つの教室を掃除するというのはかなり時間も掛かる
掃除を始め幾分か過ぎた後、教室の扉が開く。
「っ!」
まさか誰か戻ってきて憂さ晴らしにでも来たのかと一夏は考えていると入ってきた2人組に一夏は少し驚いた。
「織斑くん!?」
「えっと…白河さん…それと九重さん…」
先日公園で少し話した白河榛名と九重優希が教室にやって来たのだ。
何故、っと一夏は思考を回すがそれより早く優希が理由を述べた。
「単に図書室に行ってただけだよ…君が考えていることは何もないから」
そう優希は弁明するも何度も経験した仕打ちがそれを鵜呑みにしなかった。
恐らく優希が何を言っても一夏は疑り深く考えるだろう、中々進まない平行線でその啖呵を切ったのは榛名だった。
「もしかして、一人で掃除してるの?だったら手伝うよ?」
そう榛名はロッカーから箒などを取り出して一夏の有無など聞かずに掃除を始める。
その光景を一夏は戸惑いながら見ていると優希は少し溜め息を吐き一夏に声を掛けた。
「榛名がああ、言ったらどうしようもない…僕も手伝うよ2人より3人の方が早く終わる」
小学校に入る前からの幼馴染みである榛名と優希、そのため榛名が早々に自分の言葉を曲げないことは百も承知のことであったためより、早く終わらせる事を考えた優希は自らも掃除すると行ってロッカーへと足を運ばせる。
「………」
彼は…一夏は何も言っていない、当然のことで呆然と立っていた彼が元に戻ったのはこれから5分後の事だった。
「ふぅ…何とかなったね」
掃除を終え、家の帰路へと入った一夏と榛名と優希
時刻は4時前と一夏はいつもは下校時間ギリギリだったことからいつもより早いと思いながら2人の顔を見ていた。
何故2人は手を貸してくれたのだろうか
そんな事を考えていると視線に気付いた榛名が首を傾げ訪ねてくる。
「織斑くん、どうしたの?」
「えっと…その…どうして…手伝ってくれたの?」
「え?困ってるのに助けるのは当然でしょ?」
あたかも当然と呼べるほどに答える榛名に戸惑う一夏、だが彼にとっての当然と言った言葉を彼女達に投げつける。
「でも…俺は秋十みたいに…天才じゃないから」
いつも一夏の優越を比べられる織斑秋十、文武両道で成績はオール5が当然といった彼の双子の兄。
何かと一夏を見て虐げる彼に付くべきではないのか…
そんな劣等感から生まれた結論を榛名達に投げ掛けると苦笑いを浮かべて榛名はきっぱりと帰した。
「うーん、私、あの人嫌いだから」
そんな単純な理由だった。
一夏にとって兄、秋十の行動は全て肯定されていたため、榛名が今否定したことに目を大きくして驚愕を隠せない。
「大体、あの男の取り巻きもだけどあいつは誰からも信用はされてないんだ、口だけの達者なだけ周りも良いようにあいつを使ってるだけだしね」
そんなやつと仲良くなっても意味がない…というかしたくないと口を尖らせ呟く、優希
そんな二人に今まで兄、秋十が否定されたことがなかったことで未だに声が出なかった。
一夏の世界にとって秋十の肯定することが正しいことで有り、秋十の否定することが間違っている。
そんな周りで育ったため疑うことはなかった。
「あっ!そうだ!織斑くん、公園行って遊ぼ!」
良いこと思いついたのか微笑みを浮かべながら榛名はこの後公園で遊ぼうと提案する。
「…でも…」
「問題ないだろう…大方あっちは織斑くんは今日も遅くまで掛かってるっとそう思っているだろうから」
「それに織斑くんと遊びたいの…駄目かな?」
少し困った顔をして首を傾げる榛名に一夏は漸く折れたのか首を縦に頷く。
この日、周囲から虐げられていた織斑一夏の世界は変わった。
はじめて出来た本当の友達優希と榛名の2人と共に行動することが多くなり
苦痛しか感じなかった人生が2人と一緒に遊ぶ、楽しいという幸福感を感じさせる毎日。
その後、優希に連れられ隣町の更識簪という少女も加わり、四人は幸せな毎日を過ごしていた。
「優希、榛名、簪、ありがとうな」
「何?いきなり畏まって」
優希の家でTVゲームをしていると急に畏まって一夏は優希達にお礼を言うと変に感じた優希が何故かと尋ねる。
「だって、あの時俺に声を掛けてくれなかったら、俺は一生、秋十や姉ちゃんの奴隷だったからさ」
「別に私がそうしたかっただけでお礼を言われることじゃないよ」
あの日のことでお礼を言う一夏に今度は榛名がそうしたかったからと自己的な行動であったと話すと、それに釣られるように簪もそう言えばと口を開けた。
「私の時もそうだったよね、優希くんが連れ出してくれなかったら、きっと今も劣等感に押し潰されてたと思う。」
「別に気にしなくて良いって…遊びたくて遊んだ…ただそれだけだったんだから」
簪も優希によって世界を変えられた人間の一人でそのことを深く感謝しているのか頰赤くして微笑みを浮かべるも優希もまたそうしたかったからそうしたと軽く答えた。
何とも他愛もない会話が続くと一夏が頬を上げて口を開けた。
「俺達はずっとこのままでいよう」
「当然」
「もちろん」
「うん!」
それに応えるように優希、榛名、簪は直ぐに返事を返した。
そんな日常が何時までも続く…それがとても幸せなことで…そしてそれは簡単にも崩れ去るほど脆い物だった。
四人が小学生4年生になったある日…母親の付き添いで海外へ行っていた優希は…日本に帰ってくることはなかった。
織斑一夏
ISの主人公
今作ではオリ兄が存在し周囲から蔑まれ虐められていた。
そのため他人を信用しなかったが榛名の強引な行動で本当の友達を得る。
白河榛名
今作の一夏のヒロイン
優希とは近所ということもあり幼馴染み
自分の考えを曲げない真っ直ぐな信念を持ちその信念が疑念だらけの毎日だった一夏の世界を変える要因になる
優希が死後、お互いの傷をなめ合うように一夏との関係が急接近、中学生入学頃には恋人になる。
更識簪
ISキャラクター
引っ込み思案で一夏と同様優れた姉と比べられ劣等感を抱えていたが知り合った優希によって救われる。
その件がきっかけで優希に好意を寄せるが優希死後、酷く落ち込んだ。因みに姉との関係は良好
九重優希
今作のオリジナル主人公
IS開発に携わる九重コーポレーションの御曹子で一夏達の親友。
榛名の幼馴染みということで一夏と友達になり、あるきっかけで出会った簪を変えるきっかけを作った。
容姿は女顔で女と間違われるのを嫌っている。
小学生4年生の連休中に母親の出張で出かけたスウェーデンにて事件に巻き込まれ消息を絶つ