魔法少女リリカルなのはStrikerS 罪色の翼 作:マグナス
――――少年は、何処か恵まれすぎていると感じていた。
他人と比べると、何故か自分が一番両親に優しくされているんだと。
しかし、それが不安でもあったのかもしれない。どうして、出来が良くもない俺なんかに、そんなに優しくするんだ。期待されたって、何も出来ない。力だって、殆どないのに。だから近い内に、この時間が終わるんじゃないかって。心の中で、いつもそう思っていた少年は、何処か寂しそうで。
そして、その思いが――――引き金となったのかは定かではない、だが、悲劇が幕を開けたのは確かなのだ。
街で一番大きな家の研究室で、それは起こった。
そこにいる人間を包み込もうとするように、橙色の焔が絶え間なく動き、辺りの物を燃やしながら勢いを増していく。それはまるで地獄の様で――――いや、地獄そのものといっても過言ではないのかもしれない。
白銀色の髪をした中年の男性が、同年代の黒髪の男性に持ち上げられ、空中で静止させられたかと思うと、一突。
左胸、――心の臓が位置する所を正確に両刃の剣で貫かれた。
鮮血が男性にかかるが、彼は絶えず笑顔を浮かべている。
刺された男性、――少年の父親は、斃れながらも必死に顔を上げ、しかし抗う事の出来ない絶望を目の当たりにして、今にも崩れ落ちそうな少年に向かって、微かに口を動かした。
「――――。―――嘘つ――――な」
だが、声は僅かにしか届く事がなかった。
そして、父親はそのまま崩れ落ちる。
男性は、死体となり、重みが増した父親から剣を引き抜き、面倒くさそうに放り投げた。
同時に、失神しているであろう女性――――少年の母親に向かって歩み寄った。
少年は父親が殺された事実を受け止めきれていなかったが、眼の前で更に酷い事が行われようとしている。
そう思うと、自身の思いとは関係無しに身体が動いていた。
立ち上がると同時に、床を力強く蹴り走り出す。
男性は予想外の行動に出た少年に気付いたが、遅い。
少年が胸ポケットからペンダントを取り出すと同時に、それが光に包まれた。
光が納まると、そこには一本の剣が存在し、少年は男性に向かって、それを振り上げた。
でも、それが届く事は――――なかった。
そして、少年はそこで意識を失い、最後に耳に残ったのは肉が切れ、骨が砕ける音と、“テメエに力なんざありゃしねェ、だから最ッ高のプレゼントをやるよ”という言葉だけだった。
少年は夢の中で、どこか自分と似たような顔立ちをしている男と対面していた。
外見年齢は自身と殆ど変らない。
『なァ、てめえはいいのかよ。あんのクソ野郎に、全部終わりにされて』
良いわけない、父さんも母さんも護れなかったんだ。だったら、せめて敵討ちくらいは……。
心の中で、そう少年が呟いたのを全て理解しているかの様に、男は口元に笑みを浮かべながら。
『は、上等じゃねえか。だったら、俺も手伝ってやるよ。てめえの敵討ち』
それが合図とでも言うのだろうか。同時に、少年の身体に何かが入った様な衝撃が奔り、少年は夢から覚めた。
目を開けると、そこは実験室の様な雰囲気の場所で、少年は四肢を拘束されていた。
どんなに力を入れても、金属で固定されている物を外せるわけがない、そう諦めた瞬間――――。
『よお、まずはその諦めんのを止めろ。敵(かたき)を取りてぇなら、そんなのは邪魔なだけだ
諦めたらそこでてめえは終わりだ、だから諦めんな。それまで、俺が力を貸してやる』
頭の中に、夢の中で聞こえていた声が響いた。それと同時に、少年は意識が身体の中心から離れるのを感じ、どこか閉じ込められるような感覚に襲われた。
そして、今までは優しそうな雰囲気を放っていた目つきが急に鋭く変わり、口角を持ち上げ、笑みを浮かべた。
すると、指先から蒼色の焔が発生し、手首に嵌められていた拘束具を溶かし、自由になった両手を使い、足を拘束しているそれをいとも簡単に取り外した。
「それなりに力はあるみてぇだな、こんだけ動かせりゃ充分か。
やってやろうじゃねえか、なあ……ツバサ」
今までの少年とは、打って変わった鋭く、荒々しい高圧的な声色でそう放たれた言葉と共に、彼は傍らのテーブルに置かれていた銃型のデバイスと、片手用の直剣型のデバイスを手に取り、実験室を後にした。
少年の右手には、幼い頃から着けられている白銀(しろがね)色の腕輪が装着されているが、それが異質な光を帯びていた事に少年と、一人は気づくわけもなかった。
これが、彼らの物語の始まりだった――――。
*****
俺は、あるちょっとした事から管理局に協力する事になった。
八神はやてさん――――その女性(ひと)と聖王教会の人の世話になっている自分が、不甲斐無かったのかもしれない。
だから、少しでも早く目的を達成する為に強くなる。そのために、出来る事はする。
でも、配属になる部隊が特殊だって事を聞かされて、自分なりに色々調べると、本当にその通りだった。
陸(おか)に近い部隊なのだが、その部隊は本局から凶悪犯罪者の逮捕など危険な任務を言い渡される事が多いらしく死後の世界、つまり天国に近い事から通称「空(そら)」と呼称されている。
そこの隊長も隊長で、高飛車で自分中心なお嬢様で、側近には実兄でシスコンな男性と、爆弾を使うお嬢様と、狙撃銃、大鎌のデバイスを使う二人の親友が付いているらしい。
あとは、成績優良の男が二人。その他はお嬢様の取り巻きが大半だが、中にはその実兄の親友が一人と、実兄の貞操を狙っている同性愛者の中年がいるとか……。
『おい、薬飲んどけよ。
いつもの発作、この時間帯に起きてんだろうが。しかも、ここ数日はほぼ毎日な』
身体の内側から、脳内に直接語りかけてくるような妙な感覚に大分慣れつつはあるが、それでもどこか不愉快な感じがするのに変わりはない。
話しかけてきたこいつ――ルシファーがこういう風に気遣う理由は決して優しいからではなく、躰(からだ)を共有している俺が苦しむと、自分も苦しいからというのが一番の理由だ。
「分かってる。自分が苦しいのが嫌なのか知らないけど、変な所で優しいんだよな」
誰にともなく文句を漏らしながら、幼い頃から服用している錠剤をいくらか口に入れてそのまま飲み込む。
容器を戻す時に中身を確認したけど、もう殆ど入っていない。
あと1か月持つかどうかといったところだろう。
手に入れようとしても、多分手に入らない。
死んだ父さんが、「お前は持病があるからな」と言って作ったものをいつも渡されてたからだ。
『相変わらず憎まれ口だけは優秀だな、それくらい腕も立つんだったらいいんだがよ』
こういう所だけ、目ざとく返してくるこいつにうんざりしながらも、指定された建物に向かって歩いて行く。少しずつ、心臓の音が大きく、早くなる。
柄にもなく緊張してる? いや、違う。
きっと……焦っているんだ。俺がやるって決めた事を、局が嗅ぎ付けてやられてしまうんじゃないかって。
だから、俺は早く強くなって――――。
「――――アイツを、殺す」
どうも、移転してきました。
ぼちぼち更新する予定ですので、どうかお付き合いください。