「ダメだ、このままじゃ」
とある道場の真ん中で一人の少女が座禅を組んでいたが、しばらくしたら、息を荒くして崩れ落ちる。
どうやら、イメージトレーニングをしていたようだが、相手が上手だったためか、イメージの中でも勝利は掴めなかったようである。
「どうしたんだい?苦しそうな顔をして」
「兄さん」
そんな彼女に同乗の中に入ってきた男性が声をかける。彼女は、彼のことを兄と呼ぶが、別段この二人は兄弟ではない。
しかし、同じ門弟として幼き頃から一緒に鍛錬を続けてきたために兄弟のよう育ってきたために、そう呼んでいるのである。
「兄さん、私はどれだけやれば勝てるのでしょうか……」
「この前の大会のことか」
すっと目を細めた男性が先日行われた大会……DSSDの試合を思い出す。
彼女は善戦していた。都市決勝まであと一つというところで負けてしまったが、いい戦いだったと彼は思う。
「兄さんはかつて次元最強の資格を手に入れました。私も兄さんに負けじと鍛錬を続けてきましたが、けど、結局は本戦に進むことはできません」
彼女が道場の一角に飾ってある、かつて彼が手に入れたトロフィーなどが置かれている場所を見る。
彼女にとって、彼は兄弟子であると同時に憧れでもある。色恋沙汰とは違い、純粋な先人として活躍した人物への憧れである。
「ははは、恥ずかしいね」
その一角を見て、彼は苦笑いを浮かべる。恥ずかしいから片付けてくれと頼んでも、この道場の師範は頑なに片してくれないのである。
「それにね、ミカヤ」
「どうしたんです、兄さん?」
そこで彼、オルトは真面目な顔になると、ミカヤと呼ばれた少女も姿勢を正した。
「確かにボクは次元最強という恥ずかしいけれど、名誉な称号を手に入れた。けど、決して自分が最強だとは思っていないよ」
「なぜですか!?」
そこでオルトから告げられた衝撃の真実にミカヤが驚く。驚くのも当然である。誰しもが、憧れる存在である彼が、自分が一番ではないと告げられたのだから。
「今から大体10年くらい前かな?都市予選で負けてしまったんだけど、そこでボクは、完全な敗北を喫してしまったんだよ。そして、そこで思ったのは『ああ、彼には勝てない』って思ってしまったんだ」
「そんな……」
「その翌年にDSSDを制覇したけど、それは彼がいなかったからだね。まぁ、もちろん、負けるつもりでは出てはなかったよ?それどころか、リベンジに燃えていたからね」
「それじゃ、それ以後はその人とは戦わなかったんですか?」
「戦わなかったね。もともと彼は、DSSDに出てくるような人物ではなさそうだったからね」
隠れた才能を埋もれさせているなんてと、ミカヤは思った。それではまるで、強者のおごりだ。そう思うと、なぜか腹が立ってきてしまったのだ。
「そんな人なんて!」
「まぁまぁ、落ち着きなよ。ミカヤが何を思ったのかは知らないけど、彼は局員だったんだから、出れなくてもしかたないだろ。それに、次の予選は普通に出れなかったみたいだからね」
「そ、そうだったんですか」
オルトに突っ込まれて頬を赤く染めるミカヤ。自分の早とちりに相手を侮辱してしまったことを恥じていたのである。
「その人は、局員と言いましたが、どんな戦い方をしたんですか?」
「ボクたちと似ているかな」
「似ている、ですか?」
「うん、そうだよ。彼の獲物も刀でね、あれはボクの中でも今でも記憶に残っているくらい心が高ぶった戦いだった。しかも、最後のとどめはボクたちの流派の肝である抜刀術で敗れたんだから、負けた時は清々しかったね」
オルトのセリフにミカヤはまた驚く。自分たちが使っている流派はかなり特殊であったからだ。
かつて、この道場の開祖が管理外世界から流れ着き、居を構え、開いた道場だったからだ。それが、似たような流派を持つのがいたとは知らなかった。
「そうだね。ミカヤは今までこの天童流に身をささげてくれていたけど、少しこだわりすぎているのかもね。ボクたちみたいな、道場じゃなければ交流試合とかも簡単だけど、同じ獲物となると難しいからね」
「兄さん、いったい何を?」
ミカヤはオルトが何を考えているのかいまいち分からなかった。ただ、これから起こることは、何か自分にとっていいことになるかもしれないと勘が働いていた。
「何、ちょっとね。少し、外させてもらうよ」
そういうと、オルトはそのまま道場を後にしたのであった。
カフェテリアでコーヒーを啜ること30分。ミッドの街並みを見ながら、一息つく。
管理局をやめ、暇を持て余すようになったために、こういった爺臭い趣味ができつつある。
周りからは辞めることを引き止められはしたのだが、もう管理局に努めている理由もなくなったのだ、いる意味はない。俺が剣を振るう理由は二つだけ。自分のためか、フェイトのため。それだけだ。
今までは、なのはのこともあったから、局員の方が動きやすいと思ったが、一人のためならば、やめていた方が動きやすい。
もちろん、なのはの身に何かあれば駆けつけることはするだろう。そこまで薄情ではない。
まぁ、交換条件として嘱託魔導師になってはいるが。
結構な暇があるが、知り合いに針を打ったり、剣を振っている毎日だ。後は、ちょくちょく来るヴィヴィオにお菓子を作ってやるくらいか。
「やぁ、待たせてしまったかな?」
「構わないさ」
そんなことを思っていたら、ここに呼び出した人物がやってきた。
最初に連絡を受けた時は、誰だ?と思ったけど、エアの報告で思い出せた。
「久しぶりでいいのかな?君とは、あの時の試合いらいだけど」
「それでいいんじゃないですかね。こうしてお互いの記憶に残っているんですし」
対面に座った一見優男に見えて、その体躯は鍛え上げられた引き締まった肉体を持つ人物だ。
こうして、正面から見ても隙がないのがよくわかる。どうやら、あの時からさらに研鑽を重ねてきたらしい。
「それで、ご用件は?体でも壊しましたか?免許は持ってませんが、針が得意ですから、余程ではない限りは治せる自身はありますよ」
「君はそんなことまでできるのか。いや、今日の要件は違うよ」
針について驚いた表情をしたが、一瞬で真面目な顔になるオルト。
「実はね、ボクの同門の子についてね」
「そういえば、抜刀術を主体にした流派の人でしたね」
「よく覚えているね」
「珍しい獲物を使う人物ですからね。記憶に残ってますよ」
流石に名前だけではすぐに思い出せなかったが、それが誰かわかれば、色々と思い出せた。あの戦いは、心躍ったものだ。
「それでね。彼女もDSSDに出ているんだけど、スランプとは違うのだけれでも、誰もが通る道に陥ってしまってね」
「ああ」
彼が何が言いたいか理解できた。彼の弟弟子になるのかな?それが、強くなるのにどうすればいいかわからなくなってしまったのだろう。
我武者羅にやらして体を壊してしまうのも嫌だろうから、こうして心配して連絡をいれてきたんだな。
「そこで、頼みがあるんだ」
「俺の流派は教えられませんよ?俺の流派は試合には不向きというより、ぶっちゃければ、殺人剣ですからね」
人の倒し方を追求してきた流派だからなぁ。兄さんもそれが理由で晶に御神流を教えなかったんだから。
「別にそれを教えてくれとは言えないよ。というより、よくボクが言いたいことがわかったね」
「なんとなくですがね」
こんな魔法世界で俺らのような獲物を使うような連中が早々いないのは分かっている。そして、彼がそんな話をするならば、相談事が何かなんて想像するのはたやすい。
「まぁ、それでね、恥ずかしい話だけど、ボクも師範も彼女の問題を解決させるだけの力を持っていないんだ」
「俺も持っているとは言えませんがねぇ」
ここ数年は一人というよりも、光莉を召喚してやりあっている状況だ。誰かを導くなんてできるとは到底思えないがねぇ。
「頼む。可愛い、妹弟子が悩んでいる姿を見たくないんだ!」
そういって、オルトはテーブルに額をこすらせるくらいに頭を下げた。
「妹弟子って、女の子ですか」
「ああ」
「う~む」
「やっぱり、だめかい?」
いや、教えるというか、面倒見るのはティアスバとかエリキャロみたいな感じでやれば問題はないんだが、ただなぁ、フェイトがなぁ……嫉妬深いから、女の子を教えることで、拗ねなきゃいいんだけど。
「ちょっとすぐに答えられませんね。妻に確認を取ってからでいいですか?」
「結婚していたのかい?」
「ええ、まぁ」
とりあえず、フェイトに確認を取ってからにしよう。これで拗ねてしまったら、申し訳ないが、断ろう。俺は、フェイト中心で動いているから。
「別にいいよ?」
家に帰って、帰ってきたフェイトに聞いてみたら実にあっさりと答えてくれた。
結婚して落ち着いたか?いや、なのはと話しているときはめっちゃ嫉妬しているから、気が抜けないな。
「妻からOKでましたんで、まぁ、ものは試しに引き受けましょう」
「本当か!よろしく頼むよ!ミカヤからは、ボクから伝えとくから!」
そのあと、引き受ける旨を伝えると、オルトは自分のことのように喜んでいた。
しっかし、今まで弟子なんてとったことないからどうしよ?
そうだ、かつて兄さんが美由希にやっていたようなやり方でいいのかな。けど、俺はスポーツ心理学や鍛錬法なんてわかんないだけど……
まぁ、なるようになるか。
前作の感想で紅莉が指導者になると言われ、否定したけど、気が付いたらこうなった。
けど、しかたないよね。方針変更なんてよくあるよくある。