_______
戦闘回りの説明を増やすため1話を挿入しますわ!
ここから読み始める方は次話との繋がりがちょっと変な感じになっていますが、改稿する予定なのでそれまでご承知くださいませ!
改稿の理由は後で活動報告に上げますが、全体的な展開は変わらないのでご承知おきくださいませ。
________
ウゥゥゥゥ────
ウゥゥゥゥ────
サイレンとズズズ、ズズズ、と地鳴りのような音と振動が街に響く。
どよどよ、と人々がざわめきながら家々から飛び出して早足で歩む。会社からそのまま飛び出たと思しきスーツ姿の男女や、3月の末ということで春休みを満喫していた様子の学生達も関係なく、「避難シェルター」と看板が建てられた方向へと向かっていく。
「
「走らず落ち着いて進んでください! 怪魔出現までまだ余裕があるので、焦らず冷静な行動を!」
通行人の間に混じって、警察官や消防団の制服を着た人々が指示を飛ばす。災害が起こった時、極一般的な風景のようだが……避難の誘導を行う人々は、頭にガスマスクを被った女性しかいなかった。しかしその珍妙な格好も含めて、この世界では一般的なこととなっている。
────
突如として虚空に穴を開け、後に影世界と名付けられる場所から現世へと襲いかかった怪物。
基本的には生物のような外見をしているにも関わらず、人類が生み出してきた数多の兵器は1つとして有効ではなかった。
物理攻撃は効果がない、という人類に抵抗する術はないと言い換えても過言ではない研究結果は人類を絶望に叩き落とす。世界絶望に包まれる程に、怪魔は理由不明な人類への敵意を剥き出しにしていた。
怪魔が棲む影世界に充満する黒いガス、瘴気。この瘴気は怪魔が出現した際に流出し、怪魔自体も纏い体液にも同じ成分が含まれているが、このガスに触れた場合はその瞬間
奇妙なことにこの致死性は男性にしか発生しないが、女性に対しても無害ではない。あるいは女性の方が悲惨とも言える程で、ガスを取り込んだ女性は脳内の快楽物質が過剰生成されて絶頂し続けることになる。そして、怪魔は何故か人間の女性を用いて生殖を行うのだ。
恐ろしいことに怪魔に犯された女性は種も何もかも違うはずの幼体を妊娠出来てしまう。豚や犬といった大型哺乳類型に加えて、蛙型や昆虫型の卵、果ては触手だけの生命体や半液体状の単細胞生物のような怪魔のものまで。
そして現世での行為に留まらず、無力化された女性は影世界に攫われ、怪魔の母体としてその一生を終えてしまう。影世界には瘴気が充満しており、そこに住まう怪魔たちもいる文句なしの特級の危険地帯である影世界への救出は極めて困難で、攫われてしまえばもう死亡と同意義だ。
幸い、怪魔が現世にいられるのは時間制限があるらしく長くても1時間ほどで怪魔は影世界へと戻っていく上、出現場所は世界全域人間がいる場所であればどこにでも現れるが発生頻度は高くないため人類は滅亡を免れていたが、それも時間の問題だと世界が絶望していた時。
「魔法聖女マゼンタ・パッション現着」
人類の希望、魔法聖女は現れた。
『はっ、はい! お疲れ様ですマゼンタさん!』
『ご苦労さまです!』
「いらねェよそういうの、手が空いてたのがアタシとグリーンくらいしかいなかったんだ。状況は?」
赤みがかったピンクの髪を2つ結びにして、片目に髪と同じ色のゴーグルをつけている少女は、幼い顔立ちと小柄な体型に似合わない口調でビルの屋上で無線通信を行う。白地に赤いラインがところどころに入れられたフリフリのミニスカロリータの格好は、少女らしく物々しい今の雰囲気に不釣り合いな服装に見える。
『ハッ! 2分ほど前から前震が発生、警報発令と共に避難指示を開始しました!』
『瘴気の漏れも発生していないため現時点で侵攻の規模は不明、避難完了率は30%ほどです!』
「オーケー、そのまま避難指示頼むわ。一応グリーンにもスタンバって貰ってるから戦力的には大丈夫だと思うけどな」
『そんな、マゼンタさんがいれば怖いものなしですよ!』
『グリーンさんもいらっしゃるなら本当に大丈夫ですね、安心しました……!』
しかし、彼女こそが人類の希望、魔法聖女の一人である。
怪魔が出現してからしばらく経った時、突然姿が変貌した少女が現れたという報告が世界を駆け巡った。逃げ遅れ、怪魔に襲われそうになった母親を助けようとしたその少女は、その変貌した姿で怪魔の撃退に成功する。その報告を皮切りに世界中で同様に出現した怪魔を撃退出来る少女達は、皆同様に『神様に願いを認めてもらうと、身体からチカラが湧き上がった』という。
そのチカラを魔力とし、魔力を用いて姿を変え、怪魔を撃退する少女達を魔法聖女と呼ぶようになる。勿論怪魔に必ず勝てるわけもないが、対抗する手段が発生したというのは間違いなく人類の吉報であり、世界各国は必死に魔法聖女たちを保護、支援するようになる。
そして日本が結成したのが奇跡の少女達を支援する、対怪魔学園ブルーローズ。通称青薔薇と呼ばれる学園には日本の魔法聖女が全て属しており、怪魔出現の報に合わせて全国各地へ移動する。その中でも数々の戦闘を経て
彼女は手に持ったライターを取り出すと、カチッと火をつける。その火がふわっと浮かび上がり、ライターから離れても燃え続ける。そして、
「
ボッ、ボッ! と音を立てながら空中で燃え上がり、その火は空に大きなオレンジの矢印を描く。それはシェルターの方向を指し示しており、それを見た人々は不安そうな顔からおぉ、と明るくなりきゃーきゃーと黄色い声も混じり始める。
「落ち着いてくださーい! マゼンタ・パッションが来てくださいました! 安心して避難を!」
『あ、ありがとうございます、でもいいんですか? こんな大きな……』
「温度上げてるわけでもねェから大して魔力使ってねェよ、種火もあったしな。それより避難が終わらん方が面倒。不安がって家に戻られるよりもこの方が効率良いだろ」
じっと空中に浮かび続ける炎の矢印は、まさしく人間には不可能なはずの芸当。それを簡単に行う姿は、まさしく人智を超えた能力を持つ人類の希望にふさわしかった。
(警官とが消防が不安そうにしてるから避難うまくいかないんだよな。多少魔力使っても無線聞いてない人たちにもわかりやすく示せるのが一番いい。後は怪魔の規模がどれくらいか、だけど……)
そうして避難が進むこと数分。ミシリ、と中空から音がしたのを最後にシンと静まり返る。マゼンタは構え、ほぼ避難が完了していた様子で家々を確認のため訪問していた警官と消防達も声を掛け合い、その音源から離れようと走り始める。
怪魔の出現には段階がある。微動が伝わり、ミシミシと地鳴りが響くようになるのが第1段階。その地鳴りが止まり、約1分経過すると数センチの小さな穴が開き、瘴気が噴出し始める第2段階。
穴の数、その穴から噴出する瘴気の量や質は出現する怪魔によって異なるため、この段階で初めて怪魔の予測が可能となる。この段階は周囲が瘴気に包まれるまで続き、人間が侵入不可能な領域となると穴が拡大して怪魔は現世にやってくる。
この第2段階は何故起こるのかは諸説あるが、少なくとも怪魔が来るまでのタイムラグを産み避難をしやすくする、そしておおよその侵入規模を推測できる有難い状態だった。
(来た。穴の数は、1、2、3、4……4か? ちょっと多いな、グリーン連れてくればよかったか? でもあの娘闘わせるのは出来ればさせたくはない、いや違う違う足手まといだからだ。予備戦力も居た方がいいに決まってるし)
虚空に浮かぶ穴は4つ。まだ穴というより点に見える穴はゆっくりと拡大し、そこから瘴気は噴出し始めるというのが人類が知っているセオリーである。
マゼンタはライターを取り出し、カチ、カチ、と火を付けては浮かせ、火を付けては浮かせ、を繰り返し周囲に小さな火の玉を10浮かばせる。そして穴の様子とシェルターへ向かって走っていく警官達を見下ろして眺めていると、
ブシュウウウウ、と瘴気が漏れ出す。4つの穴の内、1つだけが早く噴出し始めたのだ。
マゼンタは疑問に思う。普通はある程度の規模の違いはあれどほぼ同時に瘴気は噴出し始めるし、噴出し始めるのも早い。
片目にモノクルのように掛けてある、瘴気を解析するためのゴーグルのスイッチを押し、記録を青薔薇の通信部へと送る。
「1つだけ早く瘴気が出始めた穴がある。こういう出現をする怪魔っていたか?」
『データ受信しました。照合します、これは……』
その言葉の続きは、ゴーグルに文字列としても表示される。マゼンタの持つゴーグルは極一部の怪魔以外は戦闘を開始した怪魔の持つ瘴気データを登録して敵の識別を行うためのもの。勿論まだ何のデータも登録していない今、既に登録していた極一部の怪魔と一致したということだった。
『ッ!!!
────データ一致。
その言葉が聞こえたと同時、マゼンタは屋上から飛び降りて壁を蹴り跳ぶ。向かう先は、今シェルターへと向かっている警官達──
次の瞬間。3つの穴から瘴気が出始め、そしてそれが誤差であるような大量の瘴気がオルターと呼ばれた怪魔の穴から噴出し、街中を埋めつくし──マゼンタが抱えた警官2人がいる場所をさらに超え、今まさに駆けていたはずの警官達を黒いガスで覆い隠しさらに広がっていく。
「え、え、何」「は? え?」
「ごめん説明する暇が無い! このままアンタらはシェルターに運べるけど他の人は無理だ、凶怪魔が出たってことだけ無線で伝えてくれ!」
大人を2人抱えたまま一足飛びにシェルターに着いたマゼンタは2人を降ろし「矢印下ろしとくからそれを手がかりに行動させて! 絶対マスク外すな!」と言い残して穴を見下ろせる先程のビルへと戻る。
(結構逃げ遅れた人達いるな、助けたいけど今は『マゼンタ、グリーンが通信を繋げたいと』『撫子!? 凶怪魔が現れたって本当!?』
「……うるせェな、許可取ってから話せよ」
思考を中断させたのは通信先から聞こえる声。なんとなく予想はしてたな、と苦笑を浮かべたあと、きゅっと口を結んで穴を見据える。
『そんな場合じゃないよ! 1人なんでしょ!? 私もそっちに──』
「来るな足手まとい」
え、と言葉を途切れさせる電話口の少女の顔を思い浮かべながら、なるべく冷たい言葉を意識して言葉を続けるマゼンタ。
「オルターだぞ? 攫い残しを治療するだけでビビりまくってるお前が一人で来たところでアタシの苦労が増えるだけだ。……他に戦力になるヤツ連れてこいよ、それまでに負けるほどヤワじゃねェし」
切るぞ、と言って通信機の電源を落とし、ふう、と一息をついてからライターを取り出すマゼンタ。
「
(グリーンの気持ちは嬉しい。けど多分もう時間がない、この瘴気の量だともう今すぐにでも侵攻が始まるだろうし、今から学園出発してこっち来て……私が耐えられるかなあ。言う事聞いて他の娘連れてきてくれたらいいんだけど)
中空に浮かぶ穴のさらに上空10m位にライターから浮き上がる種火が集まっていき、イワシのように浮遊しながら回転し、そこに留まる群体になる。
群体が徐々に内包する種火の数を増やし、煌々と地上を照らす火球になると、同じタイミングで穴が拡がる。
そして、待ち兼ねたと言わんばかりに穴から醜悪な顔をした
「
──火球から飛び出した火矢に貫かれてその生命を終える。
3つの穴からは矢継ぎ早に怪魔が現れるが、その全てが5秒とかからずに上から下へと撃ち抜かれる。人類の敵という肩書に大して余りにもあっけなく終わっていく彼らを感情を浮かばせない目で観察しながらマゼンタは淡々と死体を積み上げていく。
「
視線を向けるのは未だ一匹の怪魔も飛び出さない一つの穴。当然最初に瘴気を吹き出した穴であり、怪魔の掃討を片手間に行いながらじっと穴の様子を観察する。
「
はや)
マゼンタは一度も穴から目を離さなかった。しかし穴が揺らいだことを認識すると──すでに彼女の懐まで死は迫っていた。
ドガァン! とビルの壁に恐ろしいスピードで叩きつけられた音が響く。コンクリートにめり込みながら先程まで持っていなかった巨大な狙撃銃を身体の前に突き立てるのがマゼンタで、その銃に顎を押し付けるような形になってマゼンタの姿を覆い隠すピンク色の姿。凶怪魔、オルターである。
しゅるりとした糸のような長い触手を二本前方に垂らしている、1.5mほどの高さに扁平した楕円の身体が付いたその姿は色が肉肉しいピンクであることを除けば巨大なゴキブリと言える姿である。
しかし、その口についたマゼンタの銃に噛みつく顎は手のひらよりも大きな牙が左右についておりぬらりと光る粘液を纏っている。それは6本の足でも同じことで、毛の代わりについてある太い触手にも粘液が付着していて怪しく光を反射する。
「ッ
、マゼンタがそう叫び、数多の怪魔を処断した火矢を雲から射出するも、少女に伸し掛かる姿になっていたその姿は一瞬のうちにはるか彼方まで離れて虚空を穿つだけに終わってしまう。
巨体がどけたことを認識したマゼンタはハッ、ハッと息を荒らげながら立ち上がり、バクバクとなる心音を押さえつけて口に溜まった唾を飲み込む。
(いま、終わるとこだった)
魔法聖女に変身した際に神に決められる武器。魔法聖女は身体強化と固有魔法、武器を具現化して使用することで闘う。そして飛び出したオルターに辛うじて反応したマゼンタがとった咄嗟の行動が武器の具現化であり、そして紛うことない最善手だった。
凶怪魔オルター。凶怪魔とは怪魔の中にあって更に人類への危険度が桁違いである個体への呼び名であり、それぞれ識別名を振られている。
オルターの主たる脅威は、異常な行動速度、超強力な瘴気の毒性、そして名前の由来にもなった固有の改造毒の三つがある。魔法聖女は瘴気を含めた怪魔達の毒性に魔力を用いることで抵抗出来る性質を持ち、魔力は有限かつ無力化は出来ないにしろ戦闘続行であることが常だ。
しかし、オルターの顎部と脚部の触手から分泌される改造毒は、魔法聖女の抵抗を不可能にする。原理は分からないが、確かなのはオルターの一撃を食らった魔法聖女で原型を留めていられたものはいない。
四肢欠損、乳房の膨乳化や複乳化、ゴム化などの外面の改造に加え脊髄付近を改造されて随意不随意に関わらず神経信号が伝達される度に絶頂するような改造、内臓の中身全てに快楽神経を繋げて心臓の鼓動で潮を吹くようにする改造……脈絡も繋がりもなく、共通するのは死ぬよりも無惨な姿と経験をするというだけ。
そしてオルターに敗れた魔法聖女のデータがそれだけ残っているには理由がある。オルターは、魔法聖女と敵対した場合影世界に持ち帰らず、被害者を現世に放置する。
理由は不明であるが、一度でもそのデータを見れば、魔法聖女は彼と敵対した末路をイメージ出来るようになってしまった。そして攫われた人間がどのようになっているかという想像すらも。
あとコンマ1秒でも盾とする武器の顕現が遅れていれば、自分という
(落ち着け。……瘴気の影響も出てる。冷静じゃない、まずは落ち着け)
「はぁー、ふぅ──……クソ」
(瘴気が濃過ぎる。こればっかりに魔力使うわけにもいかないしある程度は我慢するしか、ッ♡気持ち悪い……)
今の精神状態をケアするために魔力を瘴気の弱毒化に回すマゼンタ。ある程度心拍は落ち着いたが瘴気の影響を意識すると下腹部がずきずきと疼き、戦わなくてはいけない状況にも関わらず壁に押し付けられた背中の痛みが甘いものであるかのように感じてしまう。
その現状を受け止め、銃を盾に出来るように片手に下げたまま周囲を見回す。けれど派手なピンク色は見えず、置き土産の瘴気が視界を覆っている。遠距離主体の戦法を得意とするマゼンタが敵の姿を見失い、相手にだけ自分を認識されている。
(あぁー、ダメかも。やれるだけやるしかないけど)
「
上に浮かんでいた種火の群体が降りて、マゼンタを中心に回転する。火は瘴気を散らしながら広がり、密集して円のような火柱となって周囲を灼き尽くしていく。その火柱の円に隙間はなく、マゼンタへ届く瘴気も全て消し飛ばされている。
(まあこれじゃ倒せない。でも侵入し辛いはずだし瘴気の影響も最低限に抑えられる、あとはグリーンがスノウかイエロー引っ張ってきてくれるまで耐えるか……)
無理だな、と苦笑する。このビルの屋上はそこまで耐火性が強いとも思えず、こうしている間にも下の穴からは他の怪魔たちが出現している。この膠着状態は長くは続かず、オルターか他に侵攻してきている怪魔たちのどちらかによる下からの怪魔の攻撃で終わるだろう。そうなる前に自爆の準備でも、と考えていると、
ばじゅう、と異音が背後から響く。身体よりも先に視線が動き、そこにいるピンクの物体を捉えた。
(うそ)
高速で迫るオルター。マゼンタの周囲の火柱はそのまま、鞘翅と外骨格を燃やしながら力づくで突破してきたのだ。
(ダメだ武器を盾にするのは間に合わない。火柱に使ってる炎をこっちに持ってくるのも絶対無理だ。予備の種火を差し込んでも盾にするような火力に変えられない)
身体が反応出来ていないのに、思考だけがぐるぐると回る。時間が引き伸ばされたような感覚で、マゼンタは動かない身体で考えるしかない。そして、
(ああ、終わりか)
限界まで加速した時間感覚で、ゆっくりと迫るオルターの開いた顎を見つめながらマゼンタはそう悟る。恐怖や怒りでもなく、まだ他人事のようにただ自分の終わりを受け止めていた。
(まあ頑張ったよね私。これまでよく負けなかったもんだよ。皆の後ろに隠れながら生き残ってきちゃったし、矢面に立ったからしょうがない)
必死に動かそうとしていた遅い身体の力が抜けかける。心の中に諦めが広がり、走馬灯が
(ごめん、ごめんねいろは、百合さん。絶対皆のせいじゃないから、どうか、私のことは気にしないで──)
「変身」
オルターとマゼンタが接触する直前、空からその声と共に白い光が閃光弾のように広がる。
その光は衝撃と爆風を巻き起こしオルターを吹き飛ばす。不思議とその光はマゼンタを弾くことなく、光の中から彼女とオルターの間に挟まるように一人の人影が降り立つ。
白い少女だった。陽の光を反射して輝く銀髪を二つ結びにしている頭から、所々に素肌が透けて見える薄布があしらえてある真っ白なドレス姿。
マゼンタの頭が胸のあたりに来るほどの長身で、その身の丈よりも大きな白銀のラブリュスを片手で持ち上げて構えている。
「ぁ……」
「マゼンタ! 大丈夫!? 魔法聖女、グリーン・ブレス現場に到着しました!」
その背を見て、安堵から力が抜けそうになるマゼンタをもう1人、ふわりと降り立った少女が肩を支える。
翠の髪をポニーテールに纏めた、マゼンタよりも少しだけ高い背にも関わらず豊満な肉体を持つトランジスタグラマーな少女。魔法聖女グリーン・ブレスである。
「結構瘴気吸っちゃってるけど……
グリーンはマゼンタの額に手を当てると、一瞬身体全体が黄緑色に光り心拍数も疼きも消えて力が戻る。
「おお、……ありがとな、グリーン。助かった」
「うん、でも説明は後にするね。アイツを、倒さなきゃ」
ギチギチ、と見た目の肉肉しさとは裏腹に硬質な音を立てて魔法聖女達へ向き直るオルター。顔の両側についた目がじゅくり、と動いて視線を向けられるとぞわり、と恐怖と嫌悪感でグリーンの肌に鳥肌が立つ。
グリーンは治癒の魔法を使うことが出来、瘴気による汚染や改造もある程度回復することが出来る。被害者が生きていれば手当をするのはグリーンの仕事になるが、それはその分オルターの被害と改造毒の恐ろしさを学ぶことになっていた。
腕をぎゅっと組んで、鳥肌を抑えオルターに向き直ろうとするグリーン。しかし、
「2人は他の怪魔の掃討へ向かいなさい。逃げ遅れた人もいるのでしょう、そちらの方へ」
「えっ」
「……そうか、行くぞグリーン」
「ええっ!?」
出された指示は別行動。そしてそれを当然のように承諾するマゼンタに驚いて声を出してしまう。
「何言ってるんですかマゼンタ、会長!? あ、相手は凶怪魔なんですよ、私だって戦え」
「
銀髪の少女はちらりと視線を背後に向けて呟く。
「適材適所、待ち焦がれる程会いたかった凶怪魔ですもの。私一人に任せなさいな」
震えながら戦わなきゃいけないほど大した相手ではありません、と告げて視線は正面に戻り背中で拒絶を示す。そして、
「人類最強、魔法聖女スノウ・ラヴ。推して参りますわ!」
人類最強という言葉とともにラブリュスを高らかに掲げ、釣り上がった金目を煌めかせながらオルターのシルエットに向かって振り下ろし、水平に、真っ直ぐに指し示す。
その姿を見て、グリーンとマゼンタの2人は頷いて下の怪魔達の方へと駆ける。その足音を聞いてふっと笑みを浮かべ、意気揚々とスノウは叫ぶ。
「さあ! 往生あそばせ!」