陵辱エロゲ世界TS転生お嬢様無双   作:イベリ子

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感想で度々頂くんですがこの作品のモチーフのゲームはありませんわ!というかどこに性癖を刺激されてるんですの……?


※辛い思いをする描写が割と長々ありますわ 申し訳ありませんですわ


機密生徒総会(説明の嵐ですわ)

「大人気で結構なことだな、白銀」

 

魔法聖女イエロー・デコラシオン/山吹(やまぶき) ミモザ

 固有魔法:加速 所属:風紀委員

 特記事項:怪魔討伐数No.1

 

 少し顔を赤らめ、えへえへしながら壇上を降りる百合を階段の終わりで出迎える人影が一人。呆れたような顔でかぶりを振ると絹糸のような腰まである金髪が揺れて、光が反射してきらきらと輝く。腕を組むその姿は百合と同じほどの背丈であり、胸元の膨らみは乏しいが均整が取れたモデル体型は異性同性問わず目を引くだろう。

 

「ええ、まあ。ご要件は何かしら」

 

 浮かれている所を見られた恥ずかしさを隠すように言葉を曖昧に濁し、話を変えようとする百合。その言葉に答えずそばに近寄ると、耳元で囁くように告げる。

 

「分かっているだろう? 機密生徒総会だよ。──人型怪魔についての、な」

 

 瞠目して顔の赤みが消えた百合は距離を離し、ミモザの碧い目を見つめる。舞台袖で金目と碧眼が見つめ合い、そのうち金目が閉じてうなだれる。

 

「……そう、冗談じゃないのね。ミモザの男嫌いが高じた冗談だと信じたいのだけど」

 

「ははは、さすがに私も機密事項で冗談は言わないさ。まあ折角入校式で他の生徒が校内から捌けてるんだ、すぐにやろう。男で怪魔なんていう屑の二乗みたいなのをいつまでも風紀檻房に入れておきたくないし」

 

「分かったわ、アンナとアンヌに通達させる。ミモザも準備が終わり次第生徒会室に来て頂戴」

 

「うん、了解」

 

 足早に講堂から立ち去る百合と、周囲にいた風紀委員たちに指示を飛ばすミモザ。講堂を出て従者二人にお使いを頼むと単身廊下を歩いて生徒会室へ向かう。

 

 

(えええ、冠城少年怪魔なの? 報告を見ないと何とも言えないけど恐らく怪魔の反応があったんでしょうね。こういうエロゲっぽい世界で初めての男性で魔力持ちって凄い主人公ぽかったんですけど、瘴気が発生しない怪魔なのか怪魔の反応が出ちゃう人間なのか何とも、ですわね。

 ううん、彼の正体が何にしてもここは正念場でしょう、頑張らなくては)

 

 

 ────白銀百合は転生者であるが、この世界のことを知らない。ただ怪魔が存在しない()()の世界の記憶を元にその世界を目指して頑張る、普通の人類最強魔法聖女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冠城冥の人生は絶望とともにあった。

 

 物心ついた時には孤児院に預けられており、母親は怪魔の瘴気で頭がおかしくなっていた。

 善意か悪意か施設の大人に連れられて見た精神病院の母親は、面会に来た息子に目もくれず自分の女陰に両手を突っ込んで叫び声を上げ、秘所から汚らしい液体をベッドに撒き散らしていた。

 大部屋となっている病室には他の女性もいて、そいつらはガチャガチャと拘束された四肢を揺らし、うめき声をあげながら自慰に狂う母親を羨ましそうに眺めている。

 これはなぜなんだろう、と観察すると、母親の手はズルズルに皮が剥け親指はぷらんぷらんと力なく揺れ動いている。なんのことはなく、自分の母親はこの大部屋で一番頭がおかしいおかげで親指を外してまで拘束を解き、こうして痴態を演じることが出来たのだ。

 

 幼い冠城冥は、そこまで理解してその場で嘔吐した。こんな気持ちが悪いことをするために自傷行為を厭わない母親がおぞましくて、不快で、虫唾が走って、こんなモノから生まれたことに絶望した。それを羨む他の女も不快で不快で不快で、見下して侮蔑して、コレが生きてる世界に絶望した。冠城冥の原点はおそらくここだった。とにかくオンナが気持ち悪くて仕方がなくなった。

 

 あんなモノになりたくない。あんなモノじゃなくて良かった。そう思う冠城冥に訪れた次の絶望はすぐに来た。

 

 ()()()()というらしい。女性は防護服にガスマスクをすれば数分の間、薄い瘴気の中なら動くことが出来る。その毒に侵されたとしても軽微であれば日常生活に復帰することが出来る。男性は少量であろうがなんだろうが、ガスマスクをしようがなんだろうが破裂して死んでしまう。

 かなりの()()を経て、男性は瘴気に抵抗することが不可能だと結論付けられた。怪魔の侵攻に世界が晒される中、瘴気への耐性が皆無と結論が出た男の発言権はみるみるうちに失われていった。

 

 そのうちに、魔力を操作することが可能で怪魔を討伐出来る魔法聖女が誕生した。女性の発言権の増大は決定的になり、世論の流れに沿うまま政治の主要な役職は女性が埋める、女尊男卑の流れは新しい正義になる。女性への優遇措置、というよりは男性が不要だとする論。

 

 冠城冥は幸運であった。世界で最も忌み嫌うオンナというイキモノに産まれなくて。

 冠城冥は不幸であった。世界で最も忌み嫌うオンナというイキモノに憐憫されて。

 

 孤児院という狭い世界でも感じ取れる。怪魔の侵攻が止まず、世界が混乱する中にあって、女はいずれ何かになれるはずという薄い期待があり、大人たちはそれに応えた。男はどうやっても何物にもなれないという微かな確信があり、大人たちは態度でそれに応えた。冠城冥も、大人のオンナから感じる憐憫に絶望し、何を目指して生きるのか分からなくなった。

 

 その絶望は、更に深まった。

 

 施設には冠城冥と同い年の女がいた。まだ母親に出会う前、社会が女尊男卑に染まる前からの知り合いであり、唯一気を許す女だった。

 女は頭が悪かった。歳の割に要領が悪く、何時までも冠城についてくるような女は、物心ついた頃に目の前で両親が怪魔に殺されたらしかった。その衝撃は幼い女の精神を蝕み、女の心は記憶を消して、物を深く考えないようにして防衛するようにしたらしい。冠城には、その女の絶望が好ましかった。怖気がするオンナではなく、同じ世界に生きる同志だと思っていた。

 

 けれど、半年前。その女の髪は白く、薄桃に色付いた。魔法聖女になれるほどの魔力を持っているという証だった。

 

 冠城冥は自らの気持ちの整理がつかなかった。女は確かにオンナではあったが、対等のはずだったから。同じく世界に絶望した者同士の共感が確かにそこにあったはずだから。

 

 しかし、その考えは瓦解する。髪が色づいたその日のうちに政府の人間がやってきて、女と大人たちは話をしていた。そして、

 

 

『冥。私、魔法聖女になるよ。そしたら、院にもお金が入るんだって。院長には、そのお金冥のために使ってってお願いしたから。私のことは気にせずに、これから──』

 

 

 そう告げる女の目は、間違いなく冠城冥を見下していた。自分より下の、哀れな存在へと向けた目だった。

 

 

 冠城冥は、女は全て、自分が嫌悪するオンナであると分かった。自分が生きるということは、常に世界でこの絶望を一人抱えて生きていくのだと、そう理解したのだった。

 それに耐えられる心が、今の冠城冥にはないことも。

 

 

 

 

 

 

 昨日。冠城冥は、自殺を試みた。あの不快で不愉快で生きる価値の無いオンナという生き物と自分は違うと証明する方法で。

 

 

 

 

 

 

 

 そして今日。冠城冥は、魔法聖女に殺される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「定刻になりました。それでは、これより対怪魔学園ブルーローズ機密生徒総会を開催致します。議題は先日凶怪魔「オルター」との戦闘の際に回収された、『自称:「冠城冥」の男性人型実体についての処遇』となります。よろしいでしょうか」

 

「「「異議なし」」」

 

 

 上座の前に置かれている、議題を書いてある黒板の前で前口上を話すのは学園の制服に身を包んだ白銀アンナである。

 生徒会室と書かれたプレートが貼ってある教室の中は、長机を合わせただけの簡易的な会議室となっていた。その席に座る色とりどりの髪色をした少女達は一部を除いて険しい顔をして異議なしと口を揃える。

 

 4月になったばかりの朝方ということもあり、薄く雲がかかった空からは窓へあまり光が入っていない。いつもであれば学園内に響く喧騒も遠く、部屋は重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

(ちょっと暗い? 電気点けましょうかね? ……いやさすがにこの雰囲気のタイミングで上座の私が立ち上がるのは難しいですわね。はあ、まあ実際今日の議題は大事も大事、今後の世界に関わる重大事項なので無理もないですが、……嫌、ですわね。こういう顔をさせてしまうのは)

 

「ではでは、僭越ながら私達が事案の要約を致しまーす」

 

 そんな空気を切り裂くように、黒板の上に立つ白銀アンヌは声を上げた。

 

「えー、先日凶怪魔「オルター」の出現の報に併せて、生徒会長白銀 百合、保健委員長翠月(すいげつ) いろは、視聴覚委員長紅花(べにばな) 撫子(なでしこ)が出撃、オルターは討伐完了しこちらの被害は極めて軽微。目覚ましい戦果となりました!」

「その戦闘の際、()()()()()により若干一名が影世界に取り残され、翠月いろはと紅花撫子が救助に向かう際に瘴気の中にいた当該実体を発見。魔力の有無を確認したのち、その魔力を操作することで穴を開き救出に成功。ことなきを得ました。良かったです」

 

(物言いたげな視線を前後から感じますわ。でもさすがにあの場面で取り逃がすのは不味かったと思うんです、心配をかけてしまったのは申し訳ないですけど!)

 

「ですが、その実体は男性型。その正体が何であれ検査が必要と判断した紅花撫子が単独で風紀委員長山吹ミモザと連絡、引き渡しを完了して学園内風紀委員檻房で経過観察と検査を実施。

 結果、先刻当該実体の魔力から怪魔反応を感知。当該実体は人間と同じ身体構造をしているにも関わらず、怪魔と同様の力を宿していることが分かりました。ですが瘴気の発生は確認出来ておらず、影世界への逃亡も現時点では確認不能。興味深い、理解不能な存在ですね」

「しょーじき怪魔の擬態か謎に怪魔の力を使う人間かは生徒会側で判断がついておりません! 現実的には前者なんですが、もし前者だとすると瘴気の発生を伴わずにこちらの世界に潜める怪魔がいることになるので大問題間違いなしです!」

 

 そう言葉を締めくくるアンヌの言葉に、険しい顔を深くする面々。怪魔がこの世界に出現する際、影世界からの侵入には中空から物理的な異音と揺れが発生する。それを即座に感知し警報を鳴らす装置はすでに世界中に配備されており、人間が怪魔に抵抗するための重大なファクターとなっている。

 警報があれば逃げる、警報がなければ安全という仮初の平和と、瘴気がなければ怪魔はいないという希望的原則に縋る人類にとって、もし彼が怪魔が擬態した姿だとしたら。怪魔は怪魔、人間は人間と分かるからこそ一丸となれていたこの世界の前提が崩れかねない。

 男性では史上初の魔力の持ち主とすれば、あるいは希望の星になれたはずの冠城冥が秘めていたのは怪魔の力だった。それをどう扱うか、この場の少女達は人類としてどんな決断が必要かを迫られている。

 

「ありがとう、アンナ、アンヌ。さて、では皆の意見を聞く前に、撫子に所感を聞きたいのだけれど、よろしくて?」

 

「アァ?」

 

魔法聖女マゼンタ・パッション/紅花(べにばな) 撫子(なでしこ)

 固有魔法:操炎 所属:視聴覚委員

 特記事項:仲間想いで気遣い上手 狙撃&情報操作担当

 

 百合に話を振られて、丸い瞳で上座を見返す濃いピンク色の髪をした少女。身長も低く身体の膨らみも乏しい、顔立ちも幼く可愛らしい雰囲気を全身で象る中で目一杯眉間にシワを寄せて不機嫌な表情を作っている。

 

「所感? って何だよ……別にアタシはアレと話したこともないし昨日が初対面だぞ」

 

「分かっていますわ。でも、私達には彼に対する情報が少なすぎるから。報告に書いていない、率直な感じたことを聞いておきたいのですわ」

 

「(彼、ね。はあ、百合さんのやりたい方向は分かったけど……)特段変わったことはない、としか言えねェな。魔力の量も操作した感じも普通だし、背負うと体温も脈も普通。ちょっと痩せすぎかなと思ったくらいだぜ」

 

 これで満足か? 白銀と頭の後ろで手を組み答える撫子。期待した通りの答えが返ってきて安堵と申し訳無さがこみ上げる百合に対し、

 

「殺害以外あるのか?」

 

 と告げるのはミモザだった。本当に不思議そうな顔で金髪碧眼の表情を変え、

 

「悠長にも程があるんじゃないかい? あんな物がこの世にあると分かった段階で、魔法聖女もそうでない人も皆が受ける動揺は計り知れないんだよ? 今生存させているだけでも、何時その存在が外に知られるか分かったものじゃないんだ。言われれば私が処分するけど」

 

 その言葉におずおずと手を上げて同意を示したのは、撫子と同じような身長にも関わらず胸や尻といった女性的な部分が激しく主張する翠髪の少女。

 

魔法聖女グリーン・ブレス/翠月(すいげつ) いろは

 固有魔法:再生 所属:保健委員

 特記事項:死んでなければ大体直せる 魔力があれば死人でも

 

「わ、私も風紀委員長の発言に同意です。本当に完全に人間と同じ身体構造を持つなら、瘴気を発生せずに現世に存在出来る寄生系の怪魔の可能性が高いと思うんです。今はまだ男の子一人で済んでますけど、これが他の生徒、私達魔法聖女に寄生が移る可能性まで考えると……早急に処分したほうがいいのかな、とは」

 

 いろはの言葉は、言外に男が魔力を持てるわけがない、被害にあったのが私達じゃなくて男で良かった、という思考が篭められていた。その言葉を聞いた少女達は、言外の意味まで正しく受け取り、しかし何も言うことはなかった。少々過激ではあっても、この世界の()()の認識であったから。白銀百合は目を瞑り、二人の意見を聞いていた。

 

 

「むしろ、白銀は何故処分を躊躇っているんだい? なにか思う所がアレにあるとでも?」

 

「……そう、ですわね。私は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冠城冥は、顔を何かで覆われた状態で拘束されていた。何が起こったか分からないが、自殺に失敗したことだけは分かっていた。

 ここには時々人の気配が来ていた。断続的な機械音から、実験か何か、自分に関連して行われているのだろうと思い、されるがままにしていた。抵抗もする気が起きず、ただ死なせてほしいとだけ思っていた。

 

 最後に人の気配がしてからしばらく経つと、いきなり強い力で引っ張られるのを感じた。何かに掴まれたまま高速で移動しているようで、体中にかかる重力で身体が千切れそうに感じる。それも一瞬で、動きが止まると今度は全身に硬い床の感触。どうやら運ばれて床に転がされたのか、と揺れる三半規管の不快さに耐えながら考えていると、視界が急激に明るくなる。

 

 白く灼けるような世界に咄嗟に手で目を覆い、意識を取り戻してからずっと付けられていた頭を覆う拘束が解けたのだと理解する。うめきながら徐々に視界を慣らそうとする間に、複数の耳障りなオンナの声がする。「これが「ほんとうに「なに「しずかに」うるさくて仕方ない、耳も目も不愉快だ。

 

 その内光になれてようやく鮮明になった冠城冥の視界は、自分の周囲を囲うオンナ達にピントがあった。自分が自殺を試みた日、何故か瘴気の中で死ねなくて、戦闘の渦中に近づいた際に見たオンナ達。見覚えがない黒髪と金髪がいたが、自分が魔法聖女に囲まれていることを把握した。

 

 ────魔法聖女。魔力というものを体内に宿し、「神」にその神聖な「願い」を認められた時に「変身」出来、人智を超えた魔法と飛躍的な運動能力を獲得した少女となる、怪魔と闘う人類の希望。そう呼ばれることだけを知って、あまりの不快感に意図的に避けてきた今の世界の象徴。「神」も「願い」も、そんな馬鹿馬鹿しいものを大真面目に騙っていること自体を忌み嫌っていた。

 

 何故こんなモノに囲まれているのか。眼前にすることで全身に鳥肌が立ち、冠城冥は無意識に後ずさろうとする。魔法聖女たちは、そんなふうに動く、長い前髪を下ろして目元まで隠しているやせぎすの少年を見下ろしていた。

 

「はじめまして。私は白銀百合。魔法聖女スノウ・ラヴと言ったほうが分かるかしら」

 

「……しら、ない……」

 

 床に倒れ込む冠城冥に前傾姿勢で話しかける百合。本当に知らなかった。そして、吐きそうになるから近づかないで欲しかった。肥大した胸を見せつけるような姿勢も、膝上まで上げたスカートもオンナの香りを感じて果てしなく不愉快に感じる。

 

「手荒な真似をするつもりはないわ。私達は貴方のことを知らなすぎるから、知りたいのよ」

 

「来るなよ……ぼくに、近づくな……」

 

「あなたは何が好きかしら? どう生活して、何故あの場にいたのかしら? あなたは、どうしたい?」

 

 甘い声。はじめて聞く、自分に擦り寄るような声を聞いた冠城冥は、身体に走りつづける怖気に耐えきれなくなって、感情がそのまま吐き出された。

 

 

 

「寄るなクソメス!! お前らみたいな怪魔に犯されるために闘ってる気色悪い変態がぼくに触るなよ! 

 何が魔法聖女だ、お前ら自分の承認欲求満たすために闘ってるだけだろうが、そんなヤツがぼくを見下すな!」

 

「ぼくは! お前たちみたいなオンナが大嫌いだ! 瘴気に耐えられる? 虚空に向かって腰振り続けて汁を撒き散らすとか、死んだほうがマシなくらい惨めで哀れな末路を辿れることを誇ってるんじゃない!」

 

「どうしたい? 決まってる! お前らよりぼくが上だと証明することだ! お前らみたいな自分を高尚だと勘違いした汚物を、汚物らしくなるまでグチャグチャにしてやること「えいっ」だ!!! あ?」

 

 

 

 酸素が足りなくなるほどに叫んで、自分の感情全て吐き出しきるその瞬間。百合が冠城冥の手を握り、ぐっ、と力を籠める。すると、

 

「あ、が、ああ、ああああああああああああ!!」

 

 めきめきと体中で異音が響く。脳裏にイメージが閃く。手を握られた部分から白銀の光が伸びて、体内をぐちゃぐちゃにかき混ぜられていくイメージ。体内の何かが無理矢理動かされて、自分が自分でなくなるような感覚が冠城冥を襲う。

 

 マズイ、マズイ、身体が破裂する、出さなくては、と途切れ途切れの思考で考え、身体中で巡る何かを無理矢理体外に送ろうとする。バッ、と腕から何かが出る。その何かは体表を覆い続けるが、体内の絶対量が減ったことを実感し、この操作が間違ってないことを理解する。

 

 出す。出す。手、腕、足、腹、胸、頭。最後にバッと髪から何かが放出され、髪全体の覆うように何かが固まるとある程度安定し、呼吸を取り戻すことが出来た。

 

「がっ、あっ、は、はっ、はっ、うっ、」

 

 肺が必死に空気を取り込もうとするが、異物感が残った身体は中に毒物があるに違いないと勝手に嘔吐しようとする。気持ち悪くて仕方がないのに、死にかけた反動か身体はやけに昂ぶっており、力が不思議と溢れている。

 

「ふーっ、フーッ、お、ま、ええぇ……」

 

 自分の呼吸音と心拍以外聞こえなかった聴覚がだんだん落ち着き、周囲の喧騒を聞き届け始める。ざわざわと騒いでおり、耳障りな甲高い声がすぐそばからも──

 

「え?」

 

 甲高い、耳障りな声。それが、自分から聞こえる。自分の姿を見下ろすと、服装が変わっている。手の先だけ黒い籠手がついたおかしな格好で、二の腕から肩まで細い腕が素肌を晒している。肩に薄いヴェールがかかっていて、その先の黒い甲冑のような胸元には、ほんのりと、ふくらみが、

 

 

「今私らしくもなく混乱している、どういうことなんだまさかあの妄言が願いとして認められたとでも」「というか魔法聖女って女の人がなるものなんじゃ!?」「そもそも男の魔力持ちがいたこともないし例外があっても分かるわけないだろびっくりしたけどよ」「えーでも結構可愛いじゃんあのキモ男がこうなるとかお得ー!」「人間見た目が10割ですね、1μmくらいさっきの発言が許せそうです」

 

 

「あ? あ、え? ぼく?」

 

()()()

 

 

 ふるふると手を上げて、白く柔らかな手が自分の身体であることを確認する冠城に、上から話しかける百合。身体をびくりと揺らし、ゆっくりと顔を上げる冠城に、百合はにっこりと話しかける。

 

 

 

「同じ魔法聖女の仲間ですね。色々問題がありそうですが、安心なさい。生徒会で面倒を見てあげましょう。これから、よろしくお願いしますわ!」

 

 

「あ。あ、あ、あ」

 

 

 

 

 

 

「ああァァァぎぃやああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

「え!? ちょっと、冥さん!?」

 

「雷魔法! を、は?」「うわ何これ自分で自分攻撃してる!?」「ちょっとヤバいですよその出力」「し、死にますよこれ! どいて、どいてー!」

 

 

 

 

 

 ────聖裁魔法。自分の価値観に合わぬ者を、必中で、死ぬ迄攻撃し続ける魔法。保有魔力の許すまで、直線距離で近い者からターゲットして滅殺する魔法である。

 

 

 

 

 

 

 こうして、冠城冥は己の魔法で死んだ。そしてグリーン・ブレスに生き返らされて、ついでに魔法を封じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法聖女ブラック・スコーン/冠城(かぶらぎ) (めい)

 固有魔法:聖裁 所属:生徒会

 特記事項:TS魔法聖女 要経過観察

 

 

 

 

 

 

 

 

 





TSタグが
  躍動する … !!



(ここから冥くんちゃんはほとんど虐められないのでご承知あそばせ)



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