R-18ではないのですが、12…?くらい?少年誌ほどですらないのですが「あ、スケベするんだな!」みたいな雰囲気はあるので苦手な方はご注意ください。
ツイッター投稿用に少し表現マイルドにしているのもあるので誤字脱字あるのですが無理そうな方はよろしければこちらをどうぞ→【https://twitter.com/3nygkm/status/1265247700921905160?s=21】
フォロワーさんからネタをいただいています【https://twitter.com/yuributa_p/status/1262142205680066563?s=21】【https://twitter.com/yuributa_p/status/1264887785506213889?s=21】
一本。二本。三本。はっきりと数えるには難しい、ほんの少しある肌に浮く肋骨の凹みを指先に力を入れて押さえながらなぞって何度も確認する。撫でながら心の中で本数を数えていると、あぁ骨ちゃんとあるんだなってびっくりしてしまう。樋口は細いから中身が色々抜け落ちてるんじゃないかとたまに心配するけどその心配は不要らしい。よかった。
いやよくない。
「骨だけで安心させてない?内臓はないかも……樋口、そういうとこある……」
「は?そういうとこある?何が?内臓あるに決まってるでしょ」
「え。でも見れないじゃん。全部そろってるの確認したことある?」
「無理。ない」
「私もない」
「じゃあ浅倉こそ内臓何個かないのに元気に動きまわってんじゃない?」
一本。二本。三本。凹凸を今度は逆向きに撫でてみる。
肋骨は硬いがその上に乗っている筋肉や脂肪、皮膚のおかげで手触りはいい。男性の胸元をこんなふうに撫でまわした事はないが、イメージとして女の子のほうがふわふわと柔らかそうなので樋口が女の子でよかった。樋口が男の子でもやってたと思うけど、どうせ触るなら手触りがいい方が気持ちいい。
体調が心配になるのでもう少し、せめてこの凹凸がもっと分かりにくくなるくらいに太ってくれてもいいなと思うのだけれど、この希望を口にすれば何だかんだ真面目に仕事をしている彼女は不機嫌になってしまうのだろう。
評判などの調査で日々情報を集めてくれているプロデューサーが、その私たちについての世論のまとめをプリントアウトして見せてくれた事がある。その中に「円香ちゃんめっちゃ細いのに病んでる感じないし理想の痩せ方!」「ノクチルみんなほっそ、あれくらいがいい」「透と円香並んでるの好き」とか目についたものがあって、私はちょっと嫌な顔をしてしまった。
褒め言葉だけ選んでくれていたプロデューサーは不安そうに私に声をかけてくれたが、もちろんその中に私を不快にさせた言葉なんてない。どれも嬉しいし、ありがたい。
ただ、一部の褒め言葉は繊細な樋口を今のままでいないといけないと思い込ませて、その言葉を重石にして現状に座り続ける為の無理を選ばせかねない。重石で自分が潰れてもアイドルの樋口円香を守ろうとする、そんな選択をされるのだけが嫌だった。
たぶん樋口はファンの期待に応えたり喜ばれる姿を見せたり、仕事仲間を気遣ったり、そもそも顔やスタイルがよかったりと何だかんだあらゆる面でアイドルに向いてるんだろう。でもアイドルの自分と実際の自分のギャップをファンに申し訳なく感じて、それを埋めるべく努力できてしまう人だ。アイドルの樋口が今ここにいる樋口を殺そうとするならプロデューサーに相談しなくてはいけない……そんな事にはならないと信じているけれど。
プロデューサーも私もみんなもいるし、樋口だってバカじゃない。しかし、何があるか世の中分からないから、樋口が私を助け続けてくれてるなら私も樋口を護らなくちゃいけない。
「何観てるの?」
「動画」
「それは分かるよ」
「昨日やってたお笑い芸人のやつ」
「おもしろい?」
「全然」
先程から聞こえる笑い声は樋口の携帯から鳴るものだけで、樋口はピクリとも頬の筋肉を使わず温度のない目で画面を見ている。流行について勉強しているだけなのだろう。
にしても、ベッドの上で馬乗りになって服の中まさぐってくる恋人を無視して動画を観る人、あまりいないと思う。どうだろう。樋口がはじめての恋人だから分からない。他の恋人たちもこんな感じなんだろうか。
何だか動物番組でよく観る飼い主に構ってほしい犬にでもなっている気分だ。携帯に夢中な飼い主と、どうにか構ってほしくてちょっかいを出す飼い犬。
着ている服が私が普段は寝間着にしている、寝苦しくないようにと大きめのサイズを選んで買った安いだるだるのスウェットというのもよろしくない。構ってほしいというか、反応がないと分かっていても無視できず構いたくなる姿だ。野暮ったい生地の色気ない灰色の服なのに赤ちゃん向けの服に感じるようなかわいさが見えてきて、彼シャツなんて言葉があるがあれをやりたがる人の気持ちが理解できる。そのままだと指先まで隠してしまう長い袖を肘の下まであげて、分厚い服の塊からのぞく白くて細い腕がセクシーだ。
これはいい事を知った。今度は外を歩く時私の服を着せよう。嫌がるだろうが頼めば着てくれるはず。
「私は樋口見てる」
「そう」
「デコルテも綺麗だよね。鎖骨シュッてなってる」
「ちょっと。あんまりその辺で手、動かさないで。首元のびそう」
「寝間着だし。あ。胸の下辺りのが肋骨分かりやすい」
「…………」
飼い犬だったら携帯と飼い主の間に頭でも割り込ませただろうか。でも私は犬じゃない。人間だ。
だからちょっかいが悪質になってもしかたない。肋骨をなぞっていた手が胸を上に持ち上げ始めたり、下着の下に指を滑りこませたり――人間が恋人に構ってほしい際のちょっかいは犬のそれとは当然、まるで違う。
人を動物に例える時、クラスメイトはだいたい犬か猫かで例えようとする。「樋口さんは猫だよね」と誰かが言えば、「分かる、円香は猫」と笑い声。樋口もそう評される自覚があるのだろう、特に反論せず普通に話を合わせて、今度は自分から見て友人たちは犬っぽいか猫っぽいかとイメージを挙げていく。
私はそうは思わない。だけど樋口が何も言わないんだからわざわざ樋口は猫か犬かで選ぶなら犬だよ、なんて言わずに笑ってる。確かにネコはネコだし。私は犬じゃない。人間だ。よく懐いてくれてる犬を飼っている。
「……っねぇ、触り方……浅倉……!」
「ふふっ、弱くなったね、この辺。前は触っても何ともなさそうだったのに。どんな感じ?」
「うるさい。もうやめて」
「教えてよ。分かんないからさ」
一本。二本。三本。付き合い始めた頃は触っても無視ができていたのに、最近では「邪魔」と一言言われて手を抜かれる事が増えた脇腹辺りをゆっくりと撫でる。
逃げればいいのに意地を張って逃げもしない……こういうところが忠誠心ある犬のイメージとか、あと、諦めてお腹を見せる犬そっくり。
やめない私の手を意識しないように携帯に集中しようと画面を顔に近付けているが、耳の上のほうがじんわり赤く染まってきているし、気分が出やすい眉間に皺が寄ってしまっている。不機嫌なわけじゃなくて耐えるための顔で、この顔も正直めちゃくちゃ好き。これは怒られたとしてもいつか伝えようと考えている。例えば、樋口がこの辺触られたらすぐ体捩って逃げるくらい敏感になった時とか。
詰めていた息を、は、と吐いたせいで萎む肺。浅くなっている呼吸のせいで掌を嫌がるように何度も押し返して来る肋骨。私のせいで感覚が鋭くなってきている肌。私しか知らない顔。冗長な人生を彩るには刺激が強くて、でもこれらがないとつまらない。のぼる目的も先の視界を共有してくれる人も見つけられた。だが、上を目指す目的一辺倒な人生にする気なんて更々ない。
「……それ、楽しい?」
「そこそこ」
「ならやめて」
「樋口も私に触るの好きじゃん」
「は?好きじゃなっ、……!」
携帯はもう枕元に置かれてしまっていて逃げ道としての機能を失った。脇腹付近以外も触り始めた手から逃げようと上に行く体はすぐに行き止まりになる狭いベッドの上にいると忘れていたらしく、すぐに頭をぶつけて逃げ場を失い、襟ぐりを引っ張られたせいで露出した鎖骨に噛みつかれると跳ねて劣情を煽ってくる。
携帯からまた笑い声が大きく鳴った。
「前さ、樋口、平気だったじゃん。この辺触られても」
脇腹を掌全体で軽くゆったりと撫でていく。私の脚を樋口が弱く蹴って、でも、これは蹴ったわけでなくて無意識に動いたものが当たっただけだと分かった。ゾクゾクして跳ねた脚が当たっただけ。
触られるうちにすぐにスイッチが入る樋口は最初の態度こそいつも協力的ではないけれど、結構こういう事するの好きなんだと思う。照れ屋なのは分かっているからいいけれどあまり嫌がられると実は逆に楽しくなる性分なのでやめてほしい、歯止めがきかなくなると怒られてしまうし、怒られたくはない。今までの人生でそんな自覚はなかったがサディストなのかもしれない。流行の勉強中って分かってるのに脇腹より弱いおへそを指先で捏ねてその気になってく顔見て楽しんでるし。お腹周りの脂肪も薄くて、おへそに指を引っ掛けられるとビクっと震える細い腰はめちゃくちゃえろい。
「でも今はこんなでしょ。これからもずっとこうなのかな?私と別れた後も、誰かに触られたらこうなっちゃうの。私のせいだね。ずっと。かわいそう。私と別れた後の樋口と付き合う人」
「別れる?そう。じゃあこれが最後?」
「え。別れないよ」
「はぁ……?」
「ふふ、あ、ごめん。笑っちゃった。思っただけだよ。樋口の体変えたなーって。ごめんって。別れないよ。樋口めっちゃ泣きそうな顔してる。やばい……うん、ごめん」
サディストというか変態なのかもしれない。嫌だなこの自覚。持ちたくなかった。別れたらという仮定の話をされただけなのに泣きそうになってるのめちゃくちゃかわいい。こんなの思ったらいけないんだろうけど。
不安を持ってほしかったとかそんな高度な……たぶん高度になるであろう心理戦は私にはできない。私と樋口はずっと離れないので別れるなんてありえないけれど、ただ単純に、もしも樋口が今後誰かと体を重ねる事があっても誰も脇腹や胸の下辺りをなぞられても平気な顔していた頃の樋口を知らないと分かると優越感があっただけ。そんな事あり得やしないから、本当に仮定の話だった。
「少し泣いてる。ごめんね。ないよ。ない。樋口から別れてって言われても、ない。絶対。泣かないで……ごめんやっぱり泣いて。やばい。めっちゃいい」
「泣いてない……気持ちいと少し涙出るでしょ、それだけ」
「気持ちいんだ」
「あ」
従順な犬を人はかわいがって躾ける。その気持ちは分かる。だけど樋口は犬じゃなくて人間だ。それも私をはじめての恋人に選んだ人で、私が飼っている人で、私を飼っている人。
だから私は、躾ける事はできなくてもこれから先どんな人も知る事ができない樋口を知る権利を持てている。例えば今のこの自分の迂闊に本気で嫌気が差して真っ赤にしている顔とか。こういう機会が増えて慣れればこんなミスしなくなるんだろうから。
口元に手の甲を当てて声を殺す今の姿だって最初の頃は見れなかった。私がこんな樋口にした。私が触ってきたから、今の樋口のこの汗ばんだ肌や誘うように揺れる腰、先への期待を持って情欲に潤む瞳がある。
私の人だ。この人は昔も今もこれからも私の人。
「樋口さ」
「言わないで」
「めっちゃ好きだよね。触られるの」
「言わないでって言った」
枕元の笑わなくなっている携帯を握り、最大まで音量を上げる。動画をループ再生に設定すれば携帯が大きな音で賑やかな、楽しいコントの始まりを知らせた。