戯れは微睡みの後で   作:てらバイト

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亀の歩みの如き自給自足その2。


Episode2

「新人スカウトぉ……?」

 

 

「昨日の去り際、確かにそう言い残したんだけどね。やっぱり覚えていなかったか。改めて伝えに来て正解だったよ」

 

 

 

起き抜けにそんなやれやれ、みたいな呆れ声で文句言われてどんな顔すりゃいいんだ私は。怒るぞ?終いにゃマジで怒るぞ?

 

 

 

 

 

 

「……えー、つまり?悪の素質を持った将来有望な子を見つけたから、審査も兼ねてついて来いってこと?」

 

 

「理解が早くて助かるよ。ゆめはボクと一緒に来て、その子を見定めてくれるだけでいいんだ。簡単だろう?」

 

 

 

とりあえず顔を洗ってから改めて話を聞くと、どうやらヴェナは最近見つけた素質のある期待の…期待の?新人候補ちゃんにご執心らしく、これまたどういう訳か、そのスカウトに私も一緒に来てほしいらしい。

 

 

うん、これは間違いない。どう考えても厄ネタの匂いしかしないぜ。“私も一緒に”のところが特にそうだ。

 

 

何でって、そりゃ私がスカウトに同行するっていうシチュエーションの意味がわからないからだ。基本エノルミータのスカウトはヴェナ単独で行われるのに対し、何故か今回だけは私も来いって……どう見ても怪しすぎんでしょ、常識的に考えて。何か裏があるに違いない。

 

 

要するに、ヴェナの考えが不透明すぎる。それが私の腰を重くする理由のうちの一つだ。

 

 

そして、もう一つ。比率で言えばこっちの理由の方が大きいかもしれない。それは……

 

 

 

「簡単とか、難易度の問題じゃなくてぇ……行くこと自体メンドーなんだってば~……」

 

 

 

ふよふよと目の前で浮かぶヴェナにそう返しながら、私はリビングのテーブルの上で項垂れた。そう、つまり折角の休日をこんなよくわからないイベントで消費して睡眠時間を削られるのが我慢ならないんだ私は。例えるなら、顔も合わせたことのない親戚の結婚式に仕方なく出席するようなものだ。気乗りなんてする訳がない。

 

 

とまぁ、長たらしく言い訳を並べたけど。

とどのつまり、面倒なんだ。ヴェナの言うスカウトとやらに行くのが。

 

 

睡眠時間を削られるのが、どうしても嫌なんだ。

 

 

そんな私の思考を読んだのか、ヴェナはわかりやすいくらい大きなため息を吐きながら

 

 

「フム、面倒ときたか。ゆめ。そのどっしりとしたスタンスはキミの数少ない長所でもあるが、どうしようもない短所でもある。もうすこし柔軟に生きる事をオススメするよ」

 

 

などと宣った。

 

 

 

「なんだァ?てめェ……」

 

 

 

おっと、心の声が漏れちゃった。だが私は悪くない。こんな犬だか猫だかようわからんナマモノに講釈垂らされてムカつかない奴いるぅ?いねぇよなぁ!?

 

 

あ~もう今ので完全にやる気なくなったわ。親に勉強しろって言われて「今からやるところだったんだよ!」って言い返す子の気持ちがよくわかる。頭ごなしに何かを強制されたり正論ぶつけられるのってすげ~ムカつくもん。やってられっかって気持ちになったもん。

 

 

よし決めた。今日はもう絶っっっっ対に家から出ない。惰眠を貪り、日々の疲れを癒すと決めたのだ。梃子でも何でも動いてなんてやるもんか。

 

 

 

「おやすみヴェナ。スカウトには一人で行って―――」

 

 

「月に一度だけ召集をサボっても見逃してあげよう」

 

 

「なにボサッとしてるのヴェナ。まだ見ぬ悪の卵が私たちを呼んでる。早く行かないと」

 

 

 

もっと早く言ってよそういう大事なことはさぁ!

一度きりの惰眠と、恒久的に召集をサボれる権利。どちらが魅力的に映るかなど、わざわざ天秤に掛けるまでもない。

 

 

 

「やれやれ、即物的で頼もしい限りだよ」

 

 

 

ヴェナの呟きを聞き流しながら玄関の戸を開ける。

穏やかな陽の光が暖かく降り注ぐのを肌で感じた……眩しくて目が開けられないぜクソッタレ!

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あの子だよ、ゆめ。名前は、柊うてな。確かキミと同い年だったかな」

 

 

「ふ~ん…あの子が期待の新入り候補ちゃんか。なんか思ってたよりフツーだね」

 

 

 

電柱の影から顔だけ出して覗く。そこには、公園の自販機の前でぼーっと突っ立ってる黒髪の女の子…柊うてなちゃんがいた。どうでもいいけど、そこで立ってたら飲み物買う人の邪魔にならない? 知らんけど。

 

 

第一印象は…こう言っちゃなんだけど、どこにでもいそうな地味系女子って感じだ。教室の席が窓際一番後ろっぽいとも言う。完全な偏見だけどね。実際は違うだろうが、何故だかそんな印象が真っ先に思いついた。

 

 

本当にあの子で合っているのだろうか。

そんな意味を込めながら、私はすぐ隣のヴェナに視線をやった。

 

 

 

「不思議かい? ボクがあの子を選んだ事が」

 

 

「不思議っていうか…意外? 初期メンを見慣れたせいかもしんないけど、ちょっと没個性っぽいなって思っただけ」

 

 

「確かにそう見えるかもしれないが、彼女の中に眠る才能は本物だ。それだけは保証するよ。どれ、百聞は一見に如かずだ。実際に見てみようか」

 

 

 

そう言って背後からふよふよと浮かびながら忍び寄っていくヴェナ。心なしかいつもより機嫌が良さそうに見えるその後姿に少しだけ驚きながら、私もその後を追った。

 

 

本当、珍しいこともあるもんだ。今日は槍でも降るのかな?

 

 

 

「あこがれるなぁ…私もあんなふうになれたら…」

 

 

「してみるかい? 変身」

 

 

「!? えっちょっそんな急に…!?」

 

 

「ボクはヴェナリータ。よろしくね」

 

 

 

いや、いきなりかよ。もうちょっと段階っていうモンがあるでしょ。うてなちゃんびっくりしてしどろもどろやんけ。やれやれ、人の心が無いマスコットはこれだから……。

 

 

助け船を出そうと前へ出るが、それよりも早くヴェナが変身アイテムをうてなちゃんの目の前で掲げた。え、マジで変身させるの? 急すぎんか?

 

 

 

「柊うてな。キミには選ばれし力がある」

 

 

「ええっ!?」

 

 

 

うお、眩し! 目の前で変身する時は事前に言ってよまったく。…あっそうだ、ついでに私も変身しとこ。変身した後の方が快適だからね、しょうがないね。

 

 

 

変身(とらんす~まじあ~)

 

 

 

輝かしい光が変身アイテムから溢れ、一瞬の間に私をいつものパジャマ姿へと変換した。いや~、やっぱこの格好が一番落ち着くなぁ。可能なら年中これで過ごしたいよホント。まぁ魔法少女がいる限りそれは無理なんだけどさ。

 

 

ふと横を見ると、うてなちゃんはまだ変身バンクの途中だった。ありゃ、結構時間に差がある。何でだろう、初回だからかな? プリ〇ュアとかでも初変身シーンは気合入ってること多いし、案外そういう事なのかもしれない。実際の事情はまったく存じ上げないけれども。

 

 

……ていうかうてなちゃん、結構満更でもなさそうな顔してるな。さっきも一人で「あんな風になれたら…」とか言ってたし、ヴェナの言う通り実はマジで素質あったのかも。こんな大人しそうな顔して悪の組織に憧れるとか、人は見た目によらないもんだね。腹の内になに抱えてるかなんてわかったもんじゃない。

 

 

おっ、やっと光が明けて……うわ、これまたすごい格好だ。二対の角に黒い羽、胸部にひし形ニップレスって。ま~た一緒に歩きたくない格好の仲間が増えちゃったよ。この格好で中学生は無理でしょ……。

 

 

うてなちゃんも自分がどういう格好をしているのに気付いたのか、顔を赤らめながら小刻みに震えている。そうそう、それが普通の反応だよね。よかった、感性は真面みたいで一安心だ。

 

 

 

「え…? あの…こ…この衣装は…?」

 

 

「うん、よく似合っているね」

 

 

「いや…でも…魔法少女っぽくない(・・・・・・・・・)といいますか…」

 

 

「それはそうさ、当然だろう?」

 

 

「えっ…?」

 

 

「だって…キミの選ばれし力っていうのは、悪の組織の女幹部の力だよ?」

 

 

 

……おん? 魔法少女っぽくない?

 

 

何言っちゃってんのうてなちゃん。悪の構成員たる私らが魔法少女みたいなフリフリドレス姿になるわけ……え? まさか、さっき言ってたなりたいのって、悪の女幹部じゃなくて…魔法少女の方?

 

 

……いやいやまさか。そんなギャグみたいな展開、普通に考えてないない―――

 

 

 

「…………………えっ。あっ、あー…そう…なんですか。じゃあ…あの、はい…ヤメ…ます…」

 

 

 

あっ、これは脈ナシだわ。気乗りしてる奴とはとても思えないくらいの間が空いてるもん。

対戦ありがとうございました。

 

 

…しっかし、うてなちゃんが好きなのは魔法少女の方、かぁ。皮肉だねぇ、まさか憧れとは正反対のモノの才能があるなんてさ。本人としては認めたくもない事だろう。幸せから一転、不幸のどん底ってわけだ。

 

 

けどあの子にとっての最大の不幸は、残念ながらそこじゃない。一番の不幸、それは……ヴェナに目を付けられたって事だ。

 

 

あの腐れマスコット擬きが、貴重な悪の卵をみすみす逃がすわけがないもん。

 

 

 

「そうかい? それは残念だな」

 

 

「あ…はい…じゃあ失礼します…」

 

 

「じゃあさっきの変身バンクの一連はSNSで拡散させてもらうよ」

 

「ヤメてヤメてヤメてヤメてヤメてヤメてヤメてヤメてヤメて…! やることが陰湿すぎます…!」

 

 

「悪の組織だからね。協力する気になったかい?」

 

 

「そんな~~~~~~…」

 

 

 

汚いさすがヴェナきたない。ああやって逃げ道塞いで追いつめるの本当に上手いよねアイツ。痺れも憧れもしないけど、たまにマジで感心する時がある。見習いたくはないけども。

 

 

そんな事をボケっとしながら思っていると、うてなちゃんが助けを求めるような視線を投げかけてくる。いやぁ助けてやりたいのも山々だけど、見て分かる通り私ってヴェナ(こっち)側なんだよね。そんな私に出来る事っていったらさ……。

 

 

 

グッ

 

 

「……どんまい!」

 

 

 

微笑みながらのサムズアップくらいしかないんだよね。

悪いねうてなちゃん、月一合法サボリ権の犠牲になっとくれ……。

 

 

 

「ちょっ…えぇ~…」

 

 

「そこまでだよ! 悪の組織エノルミータ! 反応を追ってみたらやっぱり姿を現したね!」

 

 

 

今にも泣きだしそうなうてなちゃんを余所に、突如上空から掛けられた声に反応して顔を上げる。へぇ、この区域のは優秀だなぁ。十秒そこらでもう嗅ぎつけてきた。

 

 

 

「悪だくみは許さないぞっ! 魔法少女トレスマジア、ここに参上!」

 

 

 

顔を向けた先に、正義の味方にして私達の宿敵、魔法少女達が快活な名乗りと共に姿を現した。

 

 

さて、早速初陣かぁ。それじゃあうてなちゃん、お手並み拝見だね。

ヴェナ一押しの悪の素養ってやつ…見せてもらおうじゃん。

 

 

 

「あわわわわわわわわわ…」

 

 

 

……ま、危なくなったら助けよう、うん。

 

 

 

 

 








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