繋ぎ的な話だからね、しょうがないね。
拝啓、お母さん。
心地よく暖かな春風が眠気を誘う季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。私は、毎日ぐっすり眠れるぐらいには元気です。
スパァーン! パシィーン!
これでもう少し静かに暮らせれば言う事なしですが、現実はそう都合よくいきません。変なマスコットに喧しい同僚と、厄介事に絶えません。健やかな睡眠時間を削られてしまうのが目下の悩みなんですが、何か良い解決法はないでしょうか?
「いっっ…たぁ~~い!」
「何すんのよ、このっ……痛ぁ!」
更に直近で言うと、鞭の音とか女の子の悲鳴とかもめっっっちゃうるさいです。そうだなぁ、例えるなら…宙づりになった魔法少女の尻を後輩…じゃなかった、変質者が勢いよくしばいてる、みたいな? そんな地獄絵図のようなBGMが鳴り止みません。…あ、いや、あくまで例えね? 他意は無いから。
まさかこんな日の明るいうちから往来の場で、そんなSM染みた奇行に興じる輩が居るとは思いませんでしたが、これが俗に言う“世も末”という事なのでしょうか。ホント困りますよねぇ、こんな非常識な事する奴がすぐ近所に居るなんて考えたくもな―――
「さっきからブツブツと何をぼやいてるんだい、ゆめ。キミの後輩の
「あーあー、聞こえないし見たくもなーい。あんな変態と同類とか死んでも思われたくなーいっ!!」
こんのド腐れマスコットがよぉ…人が現実逃避に浸ってるのになんで水差すかなぁ。ほんと、そういう所だからなお前……!
ていうか、何でこんな事になったんだっけ…? 確か、ヴェナが手渡した「
そんで花の魔物が蔦で魔法少女を三人纏めて縛り上げて、気づいたら公開スパンキングが開催されて…いや、そうはならんやろ! 色々と過程をすっ飛ばしすぎだって。どうなってんのホント、私だけスタンド攻撃でも受けてんのか?
…とはいえ、大まかなアタリはついてる。どうせいつも通り、ヴェナがあの子に何か吹き込んだんだろう。そうに決まってる。でないと、「無理矢理変身させられたんです!」って魔法少女に助けを求めてた気弱なあの子が、あんな意気揚々と鞭を振るう訳がない。スマホチラつかせてたし、さっきの変身バンクをネタに強請ったな…う~ん、正に外道。絶対に敵に回したくない手合いだわ…。
(心底同情するよ。ヴェナなんかに目をつけられて、無事で済むはずがない)
柊うてな。多分あの子はもう、普通の生活には戻れない。
望まぬ力を得て、強制されてとは言え魔法少女に敵対してしまった。
享受していた平和な生活にも戻れない。だって、憧れの魔法少女に仇なす存在になっちゃったんだから。悪の女幹部としての立場が、それを許さない。
絶望の真っただ中の筈だ。感情に身を任せて、
(な~んでそんな
魔法少女へと鞭を振り下ろす表情は、恍惚に満ちた笑みだった。
羨望の対象であった魔法少女達が痛みに喘ぐ度に、嬉しそうに嗤って、より強く鞭をしならせる。
自分の精神を保つために無理矢理作った笑顔とも違う。アレは、そんなぎこちなさがまるで無い、心からの笑顔だ。
必死で取り繕った精神じゃ、とてもじゃないけどあんな笑顔は作れない。
そう思わせるような、真に迫った表情だった。
(…そういえば、ヴェナ言ってたっけ。『悪の素質がある子を見つけた』って)
ふと思い出したのは、他愛のない会話の記憶。
その時は大して気にも留めていなかったヴェナの言葉が、今になって真実味を帯びてくる。
あのヴェナが、熱心にうてなちゃんを引き入れようとする理由が漸くわかった気がする。
なるほど、これは…“大当たり”だ。
「おや、もう行くのかい?」
「うん。ヴェナが“私に見せたい”って言った意味もなんとなくわかったしね。柊うてなちゃん…文句無しの合格でいいんじゃない?」
そう言い残し踵を返す。
もうこの戦いの結果は見えたし、此処に留まる理由も無い。あとは頼もしい大型ルーキーに任せて、先輩は悠々と帰らせてもらおう。
いやはや、優秀な後輩を持つと楽が出来ていいなぁ。お家に帰って二度寝しよっと!
「え? あの後逆転された? …マジ?」
「ボクもまさかあの状況から覆されるとは思わなかったよ。魔法少女特有の友情パワーも侮れないね」
後日聞かされたのは、信じて置いてきた後輩の黒星報告でしたとさ。あそこから負けるのか……。
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時は少し遡り、うてな宅にて。
そこでは、自室のベッドで目覚め安堵に浸っていたうてなの前にヴェナが現れ、“昨日起きた出来事は夢などではない”という残酷な現実を突きつけている真っ最中であった。
あまりの絶望を前に、本来敵対する魔法少女へ助けを求めた悲痛な叫びをあげたうてなの脳裏に、ふと“そういえば…”と一つの疑問が浮かび上がった。それは、昨日あの場に居たもう一人の存在。終始眠たげな表情を崩さなかった、
ヴェナが引き連れていた事から恐らく悪の組織――エノルミータに属する人間だというのは想像できるが、うてなにわかるのはそこまでだった。目で助けを求めたのにも拘わらず、無責任なサムズアップだけを寄越したあの少女は何物だったのだろうか、とうてなは今更になって疑問が湧いたのだった。
「あの…ヴェナさん。そういえば昨日、パジャマ姿の女の子連れてましたけど…あの子って一体……」
「あぁ、“ゆめ”の事かい? 彼女はエノルミータの構成員だよ。立場上、キミの先輩にあたるね」
「へ、へぇ~…先輩、ですか…」
先輩。すなわち、自身よりも早く組織に身を置き経験を積んだ先達。
それを聞いたうてなの心中に、僅かばかりの安堵が広がった。
何故なら、不本意ながらも籍を置く事になってしまった悪の組織『エノルミータ』において、うてなは右も左もわからぬ新参者であるからだ。
そんな状態のうてなからすれば、先輩という頼りになる存在は正に渡りに船であった。
(わからない事とか、魔法少女のアレコレ…あっ、もしかしたら組織の抜け方とかも、キチンと事情を説明したら教えてくれるかも…!)
そう思い馳せたうてなの瞳に、小さな希望の光が顔を覗かせた―――
「先んじて言っておくけど、ゆめに助言や手助けは求めない方がいいよ。そういうのは面倒がる性質だし、何より基本寝てるからね」
「え…? ね、寝てる…?」
「三大欲求の内、睡眠欲に全振りしてるような子でね。ボクは結構付き合いが長い方だけど、ゆめが学校と組織活動以外で起きてる姿なんて殆ど見たことが無い。それくらい寝てばかりなんだ」
(変人だぁ…)
「あまりにも寝てばかりいるせいかな。エノルミータ内では『ゆめが自分の意思で歩いてる姿を見れた日は何か良いことがある』、なんてまことしやかに囁かれるくらいには起きてるのが稀だよ」
(変人だぁ…!)
―――そして、一瞬で消えた。
頼りになる(主観)と思われていた先輩が、実は想像以上の変人だと誰が予想できようか。目に仄かに灯った光は無情にも消え失せ、うてなはどんよりとした面持ちで肩を落とした。
世の中には、想像も及ばないような変人がいるという事を噛みしめるうてな。しかしながら、そんな自身がつい先日“野外公開スパンキング”という変態行為を嬉々として行った事を棚上げする辺り、彼女は存外強かなのかもしれない。
何はともあれ、新たな後輩から“変人”というレッテル貼りをされてしまったゆめ。
そんな事は露知らず、自室で眠りこける彼女がこの事実を知るのは、これよりもずっと後の事である。
(悪いね、ゆめ。
うてなとゆめ。歪な二人の線は、未だ交わらない―――。
なんて言うか…話の展開と投稿スピード遅すぎて、笑っちゃうんすよね(自虐)