戯れは微睡みの後で   作:てらバイト

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Episode4

フラストレーション渦巻く現代を生きていく上で、趣味というのは決して蔑ろにしてはならない存在である。

 

それは偏に、趣味とは日々の生活で積もりに積もった鬱憤や疲労を癒す為の清涼剤であり、或いは、ストレスを吐き出す為の捌け口でもあるからだ。

 

ゲームとか読書とか…最近なら動画配信サイトとかでネットサーフィンもあるのかな?

まぁとにかく、形は違えど、みんなそれぞれ思い思いの趣味を持っていて、休みの日とかに好きな事をしてストレスを解消している訳だね。

 

ここで大事なのは、“趣味は人それぞれ”って点だ。

自分の持つ趣味がスポーツだとかゲームだとか、所謂一般的な趣味であれば何ら問題は無い。

けど、もしその趣味が“世間一般から受け入れられにくいモノ”であったり、“周知度が低くマイノリティすぎるモノ”であるならば話は変わってくる。

そういった類の趣味は周囲から理解は得られず、それどころか不特定多数の奇異の視線に晒される事となり、集団での孤立化を招く要因にもなってしまうのだ。

ま、超極端な例だけどね。

 

かく言う私も、現在進行形でその影響をモロに受けている一人だ。

今となっては慣れたものだが、昔は『なんで趣味の一つでそんな白い目を向けられにゃならんのだ』って、よくキレ散らかしてたっけ。

う~ん…我ながら青いな~、ロリ時代の私…。

 

けど、今の私はそんな事で一々目くじらは立てない。

何故なら、たとえ共感を得られ難い趣味であろうとも、その人の心持ち次第で如何様にもなるって事に気付いたから。

世間体とか周囲の目とか、そんなみみっちい事考えずやりたいようにやるのが一番って考えになったからって訳だ。

 

そりゃあ理想を言えば、“理解や共感のされやすい趣味に変える”とかの方が収まりはいいのかもしれないけどさ。

個人的な見解を述べさせてもらうなら、そういう妥協に走った趣味って長続きしないんだよね。これは過去の経験から言える事だ。

…少し前に誘われて行ったカラオケは意外と楽しかったけど、結局それ以来行ってないしなぁ…。ロコムジカ…カラオケ…うっ、頭が…!

 

し、思考が逸れた…。

要するに何が言いたいのかっていうと、周りの目とか気にしないで自分の肌に合った趣味を続けた方がいいって事。

変に自分を偽らず、やりたい事を思いっきりやった方が没頭出来て楽しいし、何よりもストレスとか嫌な事を忘れさせてくれるからね。

 

趣味に貴賤は無い。

結局のところ、自分が思う最高の趣味をやったもん勝ちって訳よ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ…はぁっ…!」

 

 

「あはっ…! これで、歯向かう術はないですね…!」

 

 

「ぁ……いやっ、やめろっ…やめて…さわらないでぇ…!」

 

 

 

(……まぁでも、物事には限度ってものがあるよねぇ)

 

 

神聖な境内で魔法少女()と目隠しプレイに興じる後輩を遠目に見ながら、私はそっと目を閉じた。

あ~あ~、こんな事になるならヴェナの口車になんか乗るんじゃなかったな…。

 

 

 

(もうやだ、あの後輩…)

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

そもそもの発端は、一昨日の晩にウチへやって来たヴェナが持ち掛けてきたとある取引だった。

 

 

 

『ゆめ。実はキミにしか頼めない仕事があるんだが、引き受けてくれないかい? 報酬は弾むよ』

 

 

 

そう言ってアイツが切り出してきたのは、ついこの前鮮烈なデビュー戦を飾った後輩の柊うてなちゃんについてだった。

話を聞くに、どうやら悪の女幹部としてまだ未熟であるうてなちゃんの監視兼護衛役としてしばらく見張っていて欲しい、との事だった。

更に付け加えると、護衛といっても四六時中つかず離れずという訳ではなく、魔法少女と戦闘になってピンチに陥った時だけ助けに入れば良いらしく、基本は遠巻きに眺めてるだけで十分らしい。

 

そこまで聞かされた時、私は迷わず断る腹積もりだった。

まず前提として誰かを長時間監視するって言うのがダルかったし、それに付随して私の自由時間がごっそり削られるっていう条件が気に食わなかった。

四六時中じゃないとも言ってたけど、そもそもその前提自体アテにならない。

だって、うてなちゃんが魔法少女に負けそうになったら私が助けなきゃいけないんでしょ? それって、学校の朝礼から終礼までの間中、気を張ってうてなちゃんが変身したか否かを常に把握してなきゃダメって事だよね?

 

つまり、朝起きて学校が終わるまでのおおよそ七時間超を、一睡もせずに堪えなきゃいけないって事になるわけで……。

 

 

 

(そう、そんなの絶対ムリ。だからこそ、初めは断るつもりだった。けど…―――)

 

 

 

『そういえば、近い内にまた遠征に行くらしいじゃないか。遠路遥々、遠くの魔法少女達を狩りに行く…精が出るね』

 

 

『そーそー、ほんっと最悪…。またしばらくはナハトベースにも戻って来れなくなるし、睡眠時間削られるし、マジで萎える…。ねぇ、ヴェナからもあのロードさまにそれとなく言っておいてくんない? “一昔前の暴走族のノリで遠征行くのやめてください”って―――』

 

 

『―――そんなに行くのが嫌なら、今回だけ特別にゆめを遠征メンバーから除くように掛け合ってあげようか。それをこの仕事の報酬としよう』

 

 

『―――任せなよヴェナ。何に代えても、私がうてなちゃんを守護るッッ!!』

 

 

もうね、脊髄反射でOK出しちゃったよね。

でもさぁ仕方なくない? クッッッソだるい遠征と、うてなちゃんの護衛だったらさぁ、どう考えても後者選んじゃうって。

強いて言うなら、私が間違いなく飛びつくであろう選択肢を用意したヴェナが悪い。よって、私は悪くない。Q.E.D。証明終了―――。

 

で、そんなこんなでヴェナ(悪魔)に魂を売った私は、早速昨日からルンルン気分でうてなちゃんの監視兼護衛に就いたんだけど……ここで大きな誤算があった。

 

何かって? そりゃあ、お前―――うてなちゃんと魔法少女達のあられもない痴態を毎日のように見せつけられる事だよ。

 

考えが甘かった。

『初日の公開スパンキング以上は起きないだろう』って、高を括ってたのがそもそもの間違いだったんだ。

うてなちゃんは、私の予想を裏切り、日を重ねる毎に…いや、魔法少女達と戦う度にドンドン成長していった。

もちろん、嗜虐性方面(悪い方向)にね。ふぁっくゆー。

 

 

 

(スパンキングに始まり、昨日は拘束くすぐり。そして今日の目隠しプレイ。間違いない、うてなちゃんは…ドが付く程のSだ…)

 

 

 

今にして思えば、初日に見せた笑顔からこうなる予兆はあったんだろう。

けど、まさかあそこから更にエスカレートするなんて誰が予想できる?

降って湧いた力に酔ってるのか、今まで抑圧されていた欲望が堰を切ったのかはわからないが、どちらにせよ監視するこっちの身としてはたまったもんじゃない。

他人の性癖発露を見て悦ぶ趣味は、生憎と無いんだよねぇ…。

 

 

 

(しかも厄介なのが、アレで勝率が不思議と高いって言うね…。なまじあの戦法で勝ちゃってるせいで、横から口挟みにくいんだよねぇ…)

 

 

 

負けてるならともかく、ちゃんと勝ってるのに『その戦法やめろ!』とは言えないしなぁ。

はぁ~、ホント困ったなぁ。このままじゃ私、後輩の変態行為を毎日見なきゃいけなくなるじゃん。

 

…どうしよう、夢にまで出てきたら。

現実でうてなちゃんに苦しめられて、夢でもうてなちゃんに魘されて…?

…まっマズイ、私の日常生活がうてなちゃんに浸食される! は、早くなんとかしないと…!

 

 

 

(どうする…いっその事、私が直接手を…いやダメだ、そんな事したら絶対ヴェナにバレる。折角の遠征パス権を自分からふいにするわけには…)

 

 

 

それだけは絶対にダメだ、許容できない。

もしそうなったら、昨日と今日の睡眠時間を削った私の努力が無駄になってしまう。

何か別の手を考えないと…。

 

 

 

(…いや、待てよ。別に私が何かしなくても、その内うてなちゃん勝手に負けんじゃね…?)

 

 

 

考えてみれば単純な話だ。

今でこそ連勝を重ねてるうてなちゃんだけど、いつまでもあの戦い方が通用する訳が無い。

魔法少女だって馬鹿じゃないんだ、負けが続けば当然対策ぐらい練る筈。

次に負けない為の秘策の一つや二つをそろそろ用意してもおかしくはない。

 

加えて、現在孤軍奮闘(ぼっち)のうてなちゃんに対し、魔法少女側の戦力は三人。

三対一で勝ってた今までがおかしいのであって、本来であれば圧倒的に魔法少女達が有利なんだ。

お互いが油断なく冷静に戦えば、うてなちゃんの劣勢は避けられないのが道理。

今日戦った『マジアアズール』って子みたく、数の利を捨てて単騎で戦いさえしなければ普通に勝てる筈なんだ。

 

つまりまとめると…今の私に出来るのは、敵である魔法少女達の当たり前な勝利を願い、敗北を知ったうてなちゃんの心変わりするのを待つだけってコトになる。

…おぉ? こうして考えてみると、結構…うん、悪くないのでは?

 

 

 

(然しものうてなちゃんも、一回コテンパンに負ければ戦い方見直すでしょ。あとは監視と護衛が必要無いくらい強くなってくれれば、晴れて私もお役御免ってわけだ。うてなちゃんならどうせすぐ強くなるだろうし…うん、完璧な作戦だね)

 

 

 

我ながら見事な良案を思いついたもんだ。

今の私に最も必要だったのは焦りではなく、“見”の姿勢。

やる事やったんなら、あとは座して待とうじゃないの。

 

 

 

(それに、よく言うじゃん。“果報は寝て待て”って)

 

 

 

そう気持ちを切り替えた瞬間、さっきまでどんよりしていた私の心境が途端に晴れやかになった気がする。

まるで霞がかって見渡せない視界に、一条の光が差し込んだような…そんな希望に満ちた感覚だった。

 

 

 

「案外、明日にでも叶ったりしてね…」

 

 

 

そう独り言ちながら、私は一人帰路に着いた。

あぁ、今日はよく眠れそう……。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ドンッ

 

 

「ぐあ……!!」

 

 

「『マジアサルファ』…貴方を倒して戦いを終わらせます」

 

 

(やっぱり、今回もダメだったよ…)

 

 

 

私の眼下では、うてなちゃんが生み出した蝋燭の魔物が、一人孤立していた魔法少女『マジアサルファ』を地面に叩きつけながら拘束している最中であった。

う~ん…これはダメかもしんない…。

 

 

 

(隙を突いて背後からの速攻て…。もう護衛とかいらないレベルじゃん。入って間もない新入りの強さか? これが…)

 

 

 

こうもまざまざと見せつけられれば、否が応にも認めざるを得ない。

うてなちゃんの悪の女幹部としての才能が、本物だという事を。

変身して三日目にして自身よりも戦闘経験のある魔法少女をまるで寄せ付けない強さ。

とんだ大型ルーキーが現れたもんだよ、まったく…。

 

 

 

(先輩としては喜ぶべきなんだろうけど…はぁ、まいったなぁ。あんな調子じゃ当分負けなさそうなんだけど……)

 

 

 

魔法少女(敵方)の肩を持つつもりはこれっぽっちも無かったけど…今回ばかりは、つい応援したくなってしまう。

ホント頼むよ。頼むから、ウチのうてなちゃんをどうにかして負かしてよ。

でないと…私の快適な惰眠ライフがどんどん遠ざかっちゃうじゃんかぁ…!

 

 

 

(もっとさぁ、こう…慎重に立ち回ろうよ魔法少女。昨日のマジアアズールもそうだけど、なんで迂闊に単独行動しちゃうかなぁ…)

 

 

 

三人で勝てない相手に一人で立ち向かったり、不用意に孤立するとか…私からすれば考えられない。

そんなんだからうてなちゃん一人にいいようにされて……ん? うてなちゃん、何でマジアサルファの服を裂いて…

 

…あっ。あ~、アレね…いつものやつが始まんのね……。

 

 

 

「大人しくしてくださいね…」

 

 

「何をするつもりや…!」

 

 

「細くて、キレイな体ですね…」

 

 

「…! なんや…ヘンタイさんかいな…?」

 

 

 

曝け出されたマジアサルファの胸元を、うてなちゃんはうっとりした表情で紅潮させている。

そうだね。あなたの言う通り、ここだけ見ればうてなちゃんはただのヘンタイさんだよね。マジアサルファ。

 

でも…残念。

うてなちゃんは、あなたが思ってる10倍は変態だよ…。

 

 

 

(あの右手に持ってるのって、まさか…あぁ、成程。だから蝋燭の魔物な訳ね…)

 

 

 

げんなりしながらも、その用意周到さに少し…ほんの少しだけ感心する。

まぁ感心はしても、行為に対しての理解と共感はマイナスに振り切ってるけどね。

あんなプレイ、どういう私生活送ってたら“やってみよう”って気になるのさ……。

 

掲げたうてなちゃんの手に握られていたのは、火が灯り今まさに溶け落ちかけた…大きな蝋燭だった。

火の熱で溶けだした蝋が、重力に従い、ゆっくりとマジアサルファの胸元を汚していく。

蝋の熱さに喘ぐ魔法少女の切なげな声が辺りに響いた。

 

 

 

 

「ひっ…あ、やぁっ…!」

 

 

「こういうことに使うロウソクってね…普通のモノより低い温度で溶けるんです」

 

 

「は、うっ…うぁっ…!」

 

 

「わたしね、貴方を傷つけたいワケじゃないんですよ…? 負けを認めてくれれば、それでいいんです…」

 

 

 

貴方を傷つけたいワケじゃない、か…随分と心にもない事言うねぇ、うてなちゃん。

そんな嗜虐心たっぷりな笑顔で言われても説得力皆無だって。

いけないなぁ、そんな杜撰な演技力じゃウチではやっていけないよ?

なにせ、ロードさまのご機嫌取りには必須なスキルだからね。困った時はとにかく愛想笑い! これ基本ね。

…でも、ロコちゃんぐらいならアレでもワンチャン騙せそうだな…。今度試してみっか…?

 

 

 

「もっと…身体に教えてあげますね…!」

 

 

 

おっと、ちょいと思考が脱線…って、少し目を離した隙にうてなちゃんヒートアップしてるし。

蝋で拘束した時点でほぼ勝ち確なのに、更に植物の魔物呼ぶとか完全にオーバーキルですやん。

多分だけど、とどめ用として呼んだんじゃなくて、ただ単に蔦で鞭打ち紛いのプレイがしたいだけなんだろうなぁ…あ~も~、わかりたくもないうてなちゃんの思考が段々とわかるようになってきた自分が憎い…。

 

 

 

(ここから逆転の目は…さすがに無いよなぁ……)

 

 

 

落胆と失意から、深い溜息が無意識の内に零れる。

それと同時に、私は宙に漂いながら身体ごと上を向く。

結果の知れた戦いを最後まで見るのは時間の無駄だし、何より…睡眠を妨げる刺激の強い情報を、これ以上見たくなかったから。

 

 

 

(これで残る魔法少女はあと二人。正直期待薄だけど、あとはその残り二人に頑張ってもらうしかないなぁ…)

 

 

 

そんな事を半ば微睡みながら考えていた―――その刹那。

 

 

 

 

 

 

 

ボッッッ

 

 

「………は?」

 

 

 

真下から、目も覚めるような強烈な破裂音が響いた。

 

反射的に視線を下に向ける。

私の目に飛び込んできた光景、それは―――大穴を二つ空けた植物の魔物が、塵となって消えていく瞬間だった。

 

 

 

(お…おぉっ? これは、まさか…あるのか? 大逆転…!)

 

 

 

思わぬ展開に口角がつり上がる。

なんだよ~、やれば出来んじゃん魔法少女。見直したぜ~。

 

 

 

「なるほどなぁ…その鞭で魔物を作り上げとったんやねぇ。どんな仕掛けがあるかな思て様子見しとったんやけど…」

 

 

「―――二度も同じ手ぇをくらうと思たら大間違いやわぁ」

 

 

 

自力で拘束を破いたであろうマジアサルファのシルエットは一変していた。

自身の胴よりもデカい特大ガントレットを両腕に装備したその姿は、見る者に例外なく威圧感と強靭さを与える一方で、それ故に魔法少女らしからぬ印象を抱かせる風貌だった。

どうやら魔物に大穴を空けたカラクリは魔法などではなく、あの巨大な両腕で殴ったからこその結果らしい。

 

 

 

(そりゃあんなゴツイ手で殴られたら大穴も空くわな…うへぇ、マジ痛そ~…)

 

 

 

うてなちゃんも私と似た想像をしたのか、青褪めて引き攣った顔でマジアサルファをじぃっと見つめている。

…ふ~ん、思ってたよりも余裕なさげな感じだ。

アドリブには意外と弱いタイプなのかな? それとも、まさかの展開についてこれてないだけ?

ま、私としては負けるならどっちでもいいんだけど。

 

 

 

「な、何ですかそれ…」

 

 

「うちはこういう方が好きなんやけど…ちっちゃい女の子が見たら怖がるさかいに…―――ヒミツやで♡」

 

 

「…ッ!!」

 

 

 

ゴシャッッ

 

 

 

おっ、強烈な右ストレート。やったか? やったのかぁ?

…いや、まだだ。間一髪で直撃だけは避けてる。

がんばえ~マジアサルファ~。あともうひと息だよ、マジで頑張って~。

私の為にも、うてなちゃんをぶっ倒しておくれ。後生だから~。

 

 

 

「おーおー…逃げるんだけは達者やねぇ」

 

 

「くっ…!」

 

 

「あら~、いつまでこんなん通じると思うとるん?」

 

 

 

…うてなちゃんも結構粘るなぁ。

必死に周りの蠟燭を迎撃に撃ち出してる…まだ諦めてないんだ。

 

でも無駄だよ。

今までの経験則から何となくわかる。

そんな苦し紛れの豆鉄砲じゃあの打撃は止まらないし、止められない―――

 

 

 

 

「―――ナメとったら、シバくで?」

 

 

ボッッッ

 

 

 

「ほな…さいなら」

 

 

 

そして、私の予想通り…マジアサルファの拳が、うてなちゃんのお腹を貫いた。

ヨシッ、これは…ほぼ理想通りの結果なんじゃないかな?

 

 

 

(何はともあれ、これでうてなちゃんは初となる手痛い敗北を味わった筈…これで少しは落ち着いてくれるといいなぁ)

 

 

 

私がそう頷く傍ら、腹を貫かれたうてなちゃんの蝋の分身が音を立てて溶け落ちた。

あの状況からよくもまぁ上手く逃げ果せたもんだよ、うてなちゃん。

もし分身が間に合ってなかったら私が出張るトコだったから、そこは普通に感謝しとこう。あとで敢闘賞のアメちゃんを贈呈しよっと。

 

 

 

「なぁ、逃げる前に教えてぇな。あんたはんの名前」

 

 

「…わたしの…わたしの名前は……ベーゼ。『マジアベーゼ』。あなたたちの悪となる者」

 

 

 

へぇ、いつの間に名前なんて考えてたんだか。

マジアベーゼ、ね…ふふ、魔法少女大好きなうてなちゃんらしい名前だこと。

コードネームに加えるあたり、未だ魔法少女への憧れはどこか捨てきれてないらしい。

或いは…憧れとは全く別種の感情だったりするのかな?

ま、ホントの所はうてなちゃんにしかわからんだろうけども。

 

 

 

(さて、それはそれとして…うてなちゃんはヴェナがしっかり回収したみたいだし、私もボチボチ撤収しようかな。監視対象がいないんならここに居てもしょうがないし)

 

 

 

くるりと回り、身体の向きを自宅へ…もとい、マイベッドの方角へ向き直る。

うてなちゃんの敗北も叶い、そしていつもより早く帰れる。

ありがとう魔法少女。ありがとうマジアサルファ。

あなたの尽力と頑張りを、私は決して忘れない―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジアベーゼ…おもろい子」

 

 

 

ビタッ、と全身が強張る。

何故なら、その声はもっと遠くから聞こえねばならないモノ。

すぐ真後ろから発せられる声では断じてない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

それが意味する所は―――

 

 

 

(…おいおい、マジかい。延長戦とか、どんだけ元気有り余ってんだよ…!)

 

 

 

憂鬱な気持ちをそのままにゆっくりと振り返る。

そこには、今一番背後に立っていてほしくなかった人物…マジアサルファが、不敵な笑みを携え仁王立ちをしていた。

 

前言撤回。やっぱり、魔法少女とは相容れねー…。

 

 

 

「あんたもそう思わん? なぁ…エノルミータ(お仲間)はん」

 

 

 

まるでそうであると疑わない強い物言いと鋭い眼光を前に、誤魔化しは効かないと勘でわかった。

その上で真っ先に頭に浮かんだのは、恐怖やストレスではなく、業務外労働(予期せぬ戦闘)に対する対価の有無だった。

…明日、ダメ元で請求してみよう。そうしよう。

どれだけ絶望的な可能性であろうとも、やってみなければ始まらないのだから。

 

まぁ取り敢えずは…この子を片付ける事から始めよう。

これ以上貴重な睡眠時間を削られるのは、私としても許容しかねる。

 

 

 

マジアサルファ。あなたには、一分一秒でも早く…眠ってもらうとしよう(・・・・・・・・・・)

 

 

 









週三回の運動を始めてから、明らかに睡眠の質が上がった気がします。
健全な睡眠は健全な運動で成り立つんやなって…。
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