たくさんの評価、感想ありがとうございました。嬉しくて、嬉しい(語彙消失)
*主人公の名前を『枕乃ゆめ』から『枕木ゆめ』に変更しました。
サルファとやりあってから数日。
ナハトベースの一画に用意させたシングルベッドの上で、私は陰鬱なため息と愚痴を零さずにはいられなかった。
「新しくできた後輩と、ちゃんとした顔合わせかぁ……だっっっるぅ」
そう、目下私の気分を急降下させている原因、それは…ヴェナが提案してきた『新人との顔合わせ兼交流会』なるものだった。
別に私は俗に言うコミュ障ではないので、面識が少ない人との会話が苦痛って訳じゃない。
だから、この面と向かう顔合わせ自体に忌避感はあまり無かったりする。
これは強がりでも何でもなく、ただのれっきとした事実だ。
でもさぁ…私の睡眠時間を削ってまでやる必要は無いと思うんだよね。
色んなモノの簡略化が進んでる現代なんだし、直接会わずにL〇NEでメッセ飛ばして終わり! でもアリなんじゃないかな~って。
私はゆっくり眠れるし、向こうも変に気を遣わずに済むし…我ながら良案だな。今からでもヴェナに提案してみようか…?
「…なんて、もう迎えに行ってるから遅いんだけどね~。ハハハ……はぁ」
万一間に合ったとしても、きっとヴェナはこの顔合わせを中断したりはしないだろう。
あのマスコットには、自分が必要だと感じたら他人の嫌がる事でも躊躇いなく実行するきらいがあるから。
どうせ私の嘆願など意にも介さず、いつもの如くスルーされるのがオチだ。
そんな確信めいた予感があった。
…なんか自分で言ってて悲しくなってきたな。
私って、一応幹部なんだよね?
扱いというか待遇というか、その他諸々ぞんざいな気が…。
うわっ…私の尊厳、軽んじられすぎ…?
「いっそのこと、ストライキっちゃう? …ハッ、無いな。うま味が皆無だわ」
降って湧いた馬鹿馬鹿しい考えを鼻で嗤い、寝返りをうつ。
一時の感情に身を任せて全てを台無しにするほど私は考え無しじゃないし、マヌケでもない。
折角手に入れた
それに―――
「なんだかんだ言っても、恩があるしなぁ…」
人の心がわからない
願いを叶えてくれたやつに不義理な事すんのは、なんて言うか、こう…違う気がする。
「…あ~もう、やめやめ。今更人情ぶるとか私らしくもない…よし、こうなったらちょっとだけ寝て気分を変えよう。ヴェナもまだ来ないし、少しくらいいいよね?」
雑念を頭から追い出し、そっと瞼を閉じる。
不安やストレスが溜まっているから、おかしな思考に行きついてしまうんだ。
だったらどうすればいいのかって?
答えは単純、眠ってすべて忘れてしまえばいいのさ。
(あ゛ぁ~ふかふかベッドたまらん…待ち合わせ前に惰眠貪るの気持ち良すぎだろ…)
暖かな羽毛布団に身を包み、身体を丸める。
そうするだけで凝り固まっていた心労が解れ、だんだんと希薄になってゆくのを実感する。
やはり睡眠は良い。
イヤな事も、ツライ現実も、一時とは言え忘れさせてくれる。
更に付け加えると、場所も選ばなければお金もかからないって点もまたとない利点だ。
これ程までに効率的で有意義なストレス解消法が、果たしてどれだけ現存しているだろうか?
完璧と言っても過言ではない睡眠に代わるモノが、他に存在するだろうか?
…いや無いね、断言してもいい。
(睡眠だ…睡眠は全てを、解決す、る……)
薄れ、遠ざかってゆく意識の狭間で。
私は満ち足りた心地の中、睡魔に身を委ねる―――
「やれやれ、少し目を離すとすぐコレだ…起きるんだ、レーヴ。惰眠を享受するのは顔合わせが済んでからにしてくれたまえよ」
…直前に、今一番聞きたくない声が私の鼓膜を揺らした。
想像し得る中でも最悪の寝起きシチュだよ、クソッタレ!
うんざりしながら目を開け身体を起こすと、目の前には想像通りの面子が。
寝落ち寸前で現実に引き留めてくれやがった我らが憎きマスコットに、矢鱈と私に視線を送ってくる挙動不審気味なうてなちゃん、そして
「安眠妨害三銃士を連れてきたよ!」って言われても違和感がまるで無い布陣だなぁ。はぁ…もぅマヂ無理…不貞寝しよ…
……ん? 三銃士?
ヴェナに、うてなちゃんに…あれ? なんか一人多くない?
……ど、どちら様ですか…?
「あ、あの~…一度お会いしましたよね? 柊うてなです。えっと、ここでは『マジアベーゼ』でやらせてもらってます…よ、よろしくお願いします…」
「アタシは阿良河キウィ~。好きなものはうてなちゃんで、嫌いなものは魔法少女だよ~。よろよろ~せんぱ~い…あっ、もういっこの名前は『レオパルト』ね~」
「という訳で、この二人が新たにエノルミータに加わる事となった。それじゃあレーヴ、二人に自己紹介を頼めるかい?」
いや、「頼めるかい?」じゃねーよ。
何ちゃっかりもう一人増やしてんだ、この似非マスコットは。
私は“うてなちゃんとの顔合わせ”としか聞いてなかったんだが?
仮にもし急遽人数の変更があったとしても、会う直前に予定変更の一報ぐらい普通は入れるだろ…。
報連相の教えはどうなってんだ教えは!
はぁ…もういいや、ヴェナの“こういう所”は今に始まった事じゃないし。
それにどうせ、これはただの顔合わせ。
一人二人増えようが、かかる時間と労力に大して変化は無い。
故に喉元まで出かかったヴェナへの文句は飲み下し、今回は目を瞑ってやろうと思う。
まともに取り合ってくれない抗議に時間を割くのは無駄だからね。
ここはさっさと話を円滑に進めて、手早くこの集まりを終わらせる方向に舵を切った方が良さそうだ。
よしっ、そうと決まれば即実行だ。
全ては…少しでも多くの睡眠時間を確保するために…!
「え~、枕木ゆめこと『ハッピーレーヴ』だよ。一応立場上先輩ってことになるけど、歳は同いらしいし変に肩肘張らなくてもいいから。今後ともよろしく……」
あとなんか言う事、言う事は…。
う~ん……特に無いな。
…なら、もうお開きでいっかぁ!
終り! 閉廷! 以上! みんな解散!
「…‥じゃ、そういう事で………おやすみ」
「……えっ、終わり!? ちょっ待っ、横になろうとしないでくださいレーヴさん! わたし、あなたに色々と訊きたい事がっ」
「そうだぜパイセ~ン、ノリわるわるじゃ~ん。てゆうかぁ…うてなちゃんが訊きたい事あるっつってんだから、寝てないでキビキビ答えろ~?」
「身内ながらこれは酷いね。いいかいレーヴ? “顔合わせ”というのは、文字通り顔を合わせて終わりではないんだよ?」
非難轟々で草。自分なりの自己紹介しただけでこんな三者三様に責められる事ある?
というか、キウィちゃんに至っては今日が初対面の筈だよね?
なんか妙に当たり強くない…?
「えぇ~…はぁ、わ~かったよも~。ちゃんとやればいいんでしょやれば…それじゃあホラうてなちゃん、質問は? 何でも答えてあげるから、手早くお願いね」
しゃーない、切り替えていく。
今のちょっとしたやり取りのみの印象だけど、どうやらキウィちゃんはうてなちゃん第一優先っぽい感じなので、とりあえずうてなちゃんの訊きたい事とやらを片付てしまおう。
そうすればうてなちゃんは満足して帰ってくれるし、それに付随してキウィちゃんも一緒になって帰ってくれる…正に一挙両得だな! この作戦でいってみよう。
…それにしてもこの二人…くっつき過ぎというか、妙に距離間が近いような…。
傍目からだととても仲睦まじいように見えるけど、もしかして幼馴染とかなのだろうか。
「な、何でもいいんですか?」
「いいよ。私に答えられる範囲でだけどね」
「あ、ありがとうございます…! それでは、えっと…
「ぶふぉっ…!」
ま、まさか初手からいきなりぶっこんでくるとはね…びっくりして吹き出しちゃったよ。
てかうてなちゃん、ここ抜けるのまだ諦めてなかったのか。
あれだけイキイキとした戦いを何度も見せられた私としては、まずその時点で驚きである。
…これはもしかして、ツッコミ待ちなのか?
私いま、先輩としての対応力を試されてたりする?
「ええ~、うてなちゃん抜けんの~? ついこの前『魔法少女のキレイな顔をぐちゃぐちゃに歪めてやりた~い』って、アタシにいい笑顔で言ってなかった~?」
「ち、違…くはないけど! …それでも、あの後冷静になって悪の組織として活動していく今後の事を考えてみたら、やっぱりその…まだ踏ん切りがつかなくて、それで…」
「辞める選択肢を視野に入れてるって訳ね。ふ~ん…私はうてなちゃん絶対向いてると思うけどなぁ、
「む、向いてるって…何を根拠にそんな…」
「……公開スパンキング」
「……っ!」
「くすぐりプレイに目隠しプレイ、そんでこの間は蝋燭プレイだっけ? これだけの変態行為をいい笑顔でやる子が『自分は悪の組織向いてない』って言うのはさ…ハハッ、最早ギャグでしょ」
「なんで知って、…ま、まさか初戦以降も全部…!?」
「うん、見てたよ。監視と護衛を兼ねて、うてなちゃんのこれまでの戦いの一部始終をね。いや~うてなちゃんってアレだよね、変身したらマジで人が変わったみたいにイキイキしてはっちゃけるタイプっていうか…ぶっちゃけ、公衆の面前でよくあんな事できるよね。恥ずかしくないの?」
「う゛っ…!」
「ひゅ~、さっすがうてなちゃんクソヤバ~。アタシと会う前からやることやってんじゃ~ん」
「じ、自分でもやっちゃいけない事だっていうのはわかってるんです…でも、一度変身すると抑えが効かなくなってしまうというか、そのっ…!」
おっと、つい本音も一緒に。
まぁうてなちゃんの奇行についてはいつか言及しようと思ってたから、別に構いやしないんだけど。
とは言え、今ので委縮されたりガチ凹みされて本当にエノルミータ辞められんのはもっと困るんだよね。
…しゃーなし、適当なフォローでも挟んどこ。
「いやいや、別に責めてる訳じゃないんだようてなちゃん。本質はむしろその逆…私は、欲望を曝け出して好き勝手やれてるその姿勢を高く評価してるんだ」
「え…?」
「よーく考えてもみなよ。この
「ヒェッ……」
「よく本人を前にしてそこまで罵れるね。尊敬に値するよ」
否定しないあたり本気でやりそうなんだよなコイツ…。
私の変身バンク動画もいつか絶対に消させよう。いつ悪用されるかわかったもんじゃない。
「だったらさ、いっそのこと開き直って悪の組織を目一杯楽しんじゃった方が得だと思うんだよね。現に私はそうしてるし、後悔なんて1ミリもしてないよ。だってやりたい事満喫できてるし」
「やりたい事を、楽しむ…ちなみに、レーヴさんの場合は…」
「私? 私はね~…『いつ如何なる時でもぐっすり気持ち良く眠れる』ことかな。昔からよく眠る方だったんだけど、魔法で睡眠の質が上がってから睡眠時間もっと伸びちゃってさ~。多分だけど、今は一日の三分の二ぐらい寝てるね」
「そ、それはちょっと寝過ぎでは…?」
「ウケる~ほぼ寝たきりじゃ~ん」
二人から驚愕と好奇が入り混じった視線を向けられる。
私の趣味はあまり賛同の得られないタイプだって自覚はあるから、あんまし気にはしていない。けど……ただしうてなちゃん、テメーはダメだ。
「何だコイツ…」みたいな目して引いてるけど、どう考えてもそっちの嗜虐趣味のが倫理観ぶっ壊れててヤバいだろいい加減にしろ!
「ゴホン…ま、結局何が言いたいのかっていうと、もうちょっと気楽に悪の女幹部やってみたらって話。まずは好きな事、してみたい事をのべつ幕なしにやってみて…辞める辞めないは、その後から決めても遅くはないと私は思うな」
「そうだよ~、アタシらで魔法少女共をボロ雑巾みたくしよ~よ~」
「うぅ…でも…」
むぅ、思ったよりも粘るじゃん。
けど後もう一押しなのは確定的に明らか…それなら――
「――魔法少女の乱れた姿、もっと見てみたくない?」
ダメ押しに、顔を近づけ耳元でそっと囁く。
欲望に弱い(偏見)うてなちゃんなら、これできっと傾く筈…。
「――はい、とっても♥」
瞬間、頬を赤らめ目を輝かせるうてなちゃんと目が合い…悪寒に似たゾクリとした感覚が背を這う。
な、なんだ…? 急にイヤな寒気が…。
「いい表情をするようになったね。それでこそ悪の女幹部だ…うてなの成長が見られてボクは嬉しいよ」
「……はっ!? ち、違いますっ今のは気の迷いというか口が滑っただけというか、その…誤解です!」
「おや、なら確認してみるかい? 何かに使えそうだから、ちょうど今のやり取りを録画しておいたんだが」
「逃げ道の封鎖が巧み過ぎませんか…!?」
…ヴェナと会話してる様をじっと見つめても、さっきのような妙な感覚は見受けられない。
一体何だったんだろうか、今のは。
単なる私の気のせいならそれでいいんだけど……ん?
「……」
(…な~んでそんな目でコッチを凝視してくるんですかねぇ)
うてなちゃんの次はキミかい、キウィちゃん。
さっきまで向けられてた好奇の視線とはかけ離れたそれに、思わず身を強張らせて警戒してしまう。
だって、あれは…
今まで何度も向けられてきた私にはわかる。わかってしまう。
…わかりたくもないけど。
(ちょっと馴れ馴れしくし過ぎたか? …いやそれぐらいでキレるは流石に…あぁでも、うてなちゃんの友達だしありえなくも…あっやべ、こっち近づいてくる)
原因は一切不明だが、いずれにせよこんな身内の顔合わせでドンパチやる気は毛頭無い。
ここは一つ穏便に鎮めて――
「んだよパイセ~ン、見た目の割に頼りになんじゃ~ん」
そう言うや否や、キウィちゃんが笑顔で私の両手を包み込むように握ってきた。
…あれ? 怒ってないの?
「正直パッと見た時はさ~、「ふざけたカッコしてんな~コイツ」って舐めてたケド、思ってたより優しそーで安心って感じ~…うてなちゃん引き留めてくれてあんがとね」
「ど、どういたしまして? 一言多いのが気になるけども…」
「でさでさ~…コレ、アタシなりの感謝の証ってやつ。受け取ってくれよな~」
…私は、酷い思い違いをしていたのかもしれない。
「うてなちゃんの友達=ヤベーやつ」って勝手に思い込んでたけど、なんて事はない。そんなのは只の被害妄想に過ぎなかったんだ。
友達の相談に乗った事に対しお礼を言い、更には贈り物までするなんて…なんだよ、めっちゃいい子しゃないかキウィちゃん。
漸く真面な後輩が入ってきてくれて嬉しいぞ私は!
一人感動に浸っていると、キウィちゃんが私の手の中に何かを握りこませたのがわかる。
掌サイズで固い…何だろうコレ?
「そんな、お構いなく…でもありがとう、貰っとく。見てもいいかな?」
「いいよ~……おし、離れよーぜうてなちゃん」
「え? き、キウィちゃん…?」
うてなちゃんの手を取ったかと思うと、キウィちゃんはそのまま二人で離れていった。
何故距離を…あぁ、そのまま帰るのかな?
ならいいや、引き留める理由も無い。
(さて、何をくれたのかな~っと…)
受け取ったそれに目を落とす。
網目模様に線が入り、レバーが取り付けられているハート型のそれは、ミリタリーに詳しくない私でも一目でわかる
なるほど、手榴弾ね。道理で固いわけだよ。
それにしてもハート型のがあったなんて、知らなかったなぁ。中々攻めたデザインしてるのもある―――
(―――え? 手榴弾?)
理解した直後、贈り物が手の中で爆ぜる。
光と爆炎に包まれる刹那の間に、私の耳は遠くから聴こえる愉快気な笑い声を確かに拾った。
……やっぱ、後輩ってクソだわ(悟り)
キウィ「むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない」