戯れは微睡みの後で   作:てらバイト

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世にも平和な日常回です。


Episode7

 

 

あの地獄の顔合わせから数日経った週末の昼下がり。

私は、ヴェナからの召集の無い平和な日常を謳歌していた。

寝て起きて学校行って、学校で寝て、家に帰ってからまた寝て…そんな、静かで幸福に満ちた日々を。

惰眠に惰眠を重ねる生活…こういうのでいいんだよなぁ、細やかな幸せっていうのはさ。毎日がエブリデイだぜ。

 

 

(ここ最近は特に忙しかったから余計身に染みるわ…監視と護衛も無くなった事だし、しばらくは楽できっかな~)

 

 

あの日の戦闘を境に、私のうてなちゃん監視兼護衛の任は無くなった。

これは憶測だが、恐らくナハトベースでのうてなちゃんの戦いぶりを見たヴェナが“これ以上は不要”と判断したのだろう。貴重な睡眠時間を削る羽目になった忌まわしき任務(後輩の性癖観覧ショー)は、当初の私の予想を裏切り呆気なく終わりを告げたのであった。

 

請け負った私としては特になんの労いも無く終了した点について一言物申したかったが…それは別として、早々に監視を終わらせたヴェナの判断に関しては同意見だ。

途中からキウィちゃんと二人掛かりとはいえ、私相手に結構粘ってた子に護衛とか、時間と人員の無駄でしかないからね。

対魔法少女戦の戦績も悪くないし、うてなちゃんはもう既に立派なウチの戦力として数えても問題ないだろう……後は、あの性癖さえ抑えられれば最高なんだけど…。

 

 

(無理だよなぁそんなの。たとえ言葉で諭しても、暴力に訴えても、うてなちゃんのようなタイプの人間は絶対に自分を曲げない。それでいて実力はしっかりあるんだから、本当に手に負えないんだよなぁ…)

 

 

どうしてあんな変態なのに強いんだろう。

…いや、逆か? 性質は歪んでいても、自分の中に一本芯が通っていてブレないからこそ強いのか?

私達が戦いで使用する魔法。その基となる魔力の源は、“想い”だ。想いが強ければ強い程扱う魔法は強力となり、そして…次の段階(・・・・)へと進む切っ掛けとなる。

その法則に当て嵌めて言えば、魔法少女とプラスα(私含む味方)をいじめるのに常に全力で一心なうてなちゃんが、新人として破格の強さを手にしているのもおかしくはないと言える…のかも?

 

 

(…まぁいくら強くても、私をそういう対象(・・・・・・)として見てくる時点でなぁ。隙あらばこっちのケツ狙ってくる奴に背中は任せられんて)

 

 

溜息をつきながら、寝返りをひとつ。

まったく…うてなちゃんにキウィちゃん然り、どうしてウチには変な奴しか入ってこないんだろう。

初期メンも私以外はみんなどこかしら変だし…やっぱ組織のトップが頭おかしいと、自然と似たようなのが集まりやすいのかもしれない。

頼むからせめてもう一人、私みたいな真面な性格の子が入ってくれれば……。

 

 

ピロン!

 

 

「うおぅっ!? て、なんだ…スマホか」

 

 

ベッドに寝そべっていた私の耳元で、突如けたたましい電子音が鳴り響く。び、びっくりした~…枕元にスマホ置いてたの忘れてた。

え~っと…あ、チャット来てる。誰から……うっっわ最悪、ヴェナからじゃん…。

そろそろ声かけてきそうだとは思ってたけど、マジで来るかね…あぁいやだいやだ、私はもっとぐうたらしてたいんじゃあ~。もう魔法少女なんかと戦いとうない~…

 

………あっ、そうだ。

 

 

「……今なら既読確認ついてないし、『ごめん寝てた』でワンチャン通用するくね…?」

 

 

しゃあっ、パーフェクトプラン!

即座に身を起こした私はスマホの電源を落とし、離れたソファーへとぶん投げる。

後はこのまま夜頃まで寝入ってしまえば、追及不可能なアリバイの完成だ。

ふふふ…己の明晰な頭脳が恐ろしい。まさかこんな土壇場で最良の一手を閃くなんて。

これはもう天才と言っても過言でもないのでは…?

 

 

「…なんてね。さ、そうと決まれば早速寝よ寝よ。良い子はもう寝る時間ですよ~っと…」

 

 

外は眩しいぐらいに明るいけど、それはそれ…否、だからこそ良い。

暖かな陽光の温もりを感じながら、悠々自適に眠りこける。それこそがお昼寝の妙というもの

しかも今回は面倒事を無視して寝るってんだから…その背徳感と解放感は、筆舌に尽くし難いものがあるわけで。

 

あぁ、ほんっと……昼寝って、最っ高―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ。メッセージがいつまでも既読にならないから様子を見に来たよ」

 

「お前プライバシーって言葉知ってる???」

 

 

幸せから一転。

虚空から現れたクソ野郎(ヴェナ)によって、私の気分は一瞬で最低にまで落とされた。

そうだった…コイツよく分かんないワープゲートで自由に移動出来んの忘れてた…。

 

 

「なるほど、既読が付かなかったのは寝ていたからか…これは余計なお世話かもしれないが、次から眠る時はスマホを枕元に置いてからにした方がいい。緊急な呼び出しに対応出来なくては、ゆめも困るだろう?」

 

「困らないよ、人を限界社畜みたいな扱いしやがって…あと寝てたんじゃなくて、私はこれから眠るとこだったんですけど」

 

「さて、それで今回キミにメッセージを飛ばしたのは、とある有益な報告が一つと、また新たにやってもらいたい事があってだね」

 

「おい聞けよ人の話」

 

 

相変わらず人の事情などお構いなしの態度にムカつきつつも、私は半ば諦めながらヴェナの報告とやらを聞く姿勢を取る。

あ~やだやだ。どうせろくでもない用件なんだろうなぁ…いやだなぁ、聞きたくないなぁ。でも聞かないと後が怖いし、無視するわけにもなぁ……あれ、これよく考えなくても詰んでるくない?

うわ…私の組織、ブラックすぎ…?

 

 

「……はぁ。分かったから、なるべく手早く済ませてよ。こっちは一分一秒でも早く寝たいんだから」

 

「ふむ、では手短に。まずは報告についてだが、我らエノルミータに新しい仲間が加わる事になった。“星”は3つと、幼いながら期待の新人さ」

 

「え、マジ? …性格は?」

 

「まだ知り合って間もない所感だと、とても物静かで寡黙な子だよ。今の所おかしな趣味趣向は見られないし、先に入ったうてな達とは真逆とも言えるね」

 

「それは……なるほど確かに、わざわざ有益と前置くだけはある…」

 

 

本当にまさかすぎる。

どうせヴェナの言う事だから、有益な報告(コイツにとっては)だろうと思ってたのに、良い意味で期待を裏切られた気分である。なんだよ、やればできるんじゃねぇか…。

 

特に嬉しいのは、その新しく入る子がどうやら真面そうであるという点だ。

あの問題児二人組の抑え役になりそうな人材が入ってくれるだけで、私への心労と実害はかなり少なくなるに違いない。

まだ見ぬ新人ちゃんには悪いが、是非とも生贄…じゃない。後輩組のまとめ役として、悪の組織活動を頑張ってもらいたいね。

 

 

(…そうだ、しかも星も3つあるとか言ってたっけ? おいおい…こんなんソシャゲならSSRレベルだぞ)

 

 

そういえば、と。ヴェナの報告にあった重要なもう一点、星の数についての言及を思い出す。あっぶねー、危うく忘れるとこだった。

 

私達エノルミータにおける星とは、全員の身体に刻まれている星型のタトゥーのような印だ。星の数が多ければ多い程強いとされている…謂わば強さを表すランクである。

その星が3つもあるのなら、能力にも依るが恐らく実戦でも活躍してくれる事だろう…いやぁ、あんまり褒めたくはないけど今回ばかりはいい仕事をしてくれたよなぁヴェナは。これは評価せざるを得ない。

私が欲してた最適な逸材をこんなにも早く見つけてくるとは、伊達にスカウトマンやってはいないね―――

 

 

(……ん? なに、この変な違和感…)

 

 

喜んだのも束の間、唐突に起きた胸騒ぎに首を傾げる。

まるで、私の身体が何かを訴えてきているような…そんな感覚。

 

なんだ…何を見落としているんだ…?

 

 

『我らエノルミータに新しい仲間が加わる事になった。星は3つと、幼いながら期待の新人さ』

 

『とても物静かで寡黙な子だよ。今の所おかしな趣味趣向は見られないし、先に入った二人とは真逆とも言えるね』

 

 

ヴェナの報告を思い返してみても、特に違和感は見つからない。

気になる性格については私から尋ねたし、星の事もギリギリとは言えさっき思い出した。他に聞き逃せないような大事な情報なんて、どこにも……。

 

 

『星は3つと、幼いながら期待の新人さ』

 

 

……ん?

 

 

『幼いながら』

 

 

待って。まってまってまって。あるじゃんかよ、おもっくそ。

……幼いながらって、なに?

 

 

「報告は以上だよ。では次に頼み事の件に移るんだが…実は、報告の内容と無関係ではなくてね。まぁこればかりは口で言うよりも、実際に会ってもらった方が早いだろう。入ってきたまえ」

 

 

ヴェナがアホで正確な年齢区別がついてない…は、無いな。さすがに無い。

実はマスコット界隈では小粋なジョークが流行って…もっと無いわ。そこまでいくと最早現実逃避の域だ。

 

…ということは、つまり………えぇ~、そういうことぉ…?

 

 

「―――紹介しよう。名前は『杜乃こりす』。見ての通りキミよりも年下で、右も左もわからぬ新人だ…少しの間、彼女の面倒を見てやってはくれないだろうか」

 

 

ワープゲートから新たに現れたのは、長いブロンドの髪を携えた小さな女の子。

ぱっちりとした目でこちらを不思議そうにジッと見上げるその様は、誰がどう見ても幼い小学生の仕草そのもので。

私は、真っすぐに視線を合わせてくる純粋な瞳から逃れるように顔を背け、おもむろにベッドから腰を上げた。

 

 

「……」

 

「おや。どうかしたのかい、ゆめ?」

 

 

そのままソファーまで歩けば、さっきぶん投げたスマホが目に入る。

それを手に取り再び電源を入れ…一切の迷い無く、私はその番号へとコールした。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、もしもしポリスメン? なんか女児誘拐犯が家に立て籠もってるんですけど」

 

「無駄だよ。この国の司法では、ボクのような存在は裁けない」

 

 

刑事ドラマの黒幕みたいな台詞吐きやがって…。

国の代わりに裁いてやろうか、このナマモノめ。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「……」

 

「……えっと~、何か飲む? 水ならあるけど」

 

「……」

 

「……いらないかぁ。おっけ、なんか必要なもんあったら言ってね」

 

「……」

 

(……え、気まずすぎワロタ…)

 

 

こりすちゃんと二人きりにされ早数分。私の心はもう既に折れかけていた。

そら何話しかけても一言も帰って来なかったら投げ出したくもなりますよ、ええ。

こちとら只の女子中学生だぞ、託児所の真似事なんか出来るかっつーの…!

 

無理矢理押し付けてきた当の元凶は早々にどっか行っちゃうし…たくっ、いつまでこんなお守りしてなきゃいけないんだよ。

しかもよりによって、こんな子供を…はぁ、マジで恨むぞヴェナの奴…。

 

 

(子供は嫌いだ。我儘だし、すぐ泣くし…鬱陶しいったらありゃしない)

 

 

特に、あの甲高い鳴き声は本当に苦手だ。

近くから聞こえるだけで眠気が削がれるというか…苛々して眠るどころじゃなくなってしまうのだ。

その点こりすちゃんは今のところ静かで大人しく、騒ぎ出しそうな雰囲気は全く見られない。が、警戒だけはしておこう。

子供の癇癪なんて、何がきっかけで起きるか分からないのだから。

 

 

(……ま、静かすぎるのもそれはそれで不気味なんだけど。なんでさっきから一言も喋んないの…?)

 

 

一方的に無視されてるって訳じゃない。目はしっかり合わせてくるし、私の言葉に対して頷いたり首を横に振ったりして、意思の疎通も取れている。

だから、ただの内気な性格とか極度の人見知りってだけだとは思うんだけど…ここ最近変な奴としか絡んでないからか、妙に勘ぐっちゃうというか…。

だ、大丈夫だよね…? 変な闇とか抱えてないだろうな、こりすちゃん。 

これ以上の厄ネタはマジで御免だぞ。フリじゃないからな!

 

 

(こんな子供にも頭悩ませてたらいよいよ終わりだなぁ…あれ、何処行った?)

 

 

ふと、一緒のソファーに座っていたこりすちゃんに目を向けるも、その姿は何処にもあらず。おかしいな、さっきまで隣に居た筈なのに。

そのまま視線を横にずらすと…部屋の片隅に置いてある猫のぬいぐるみの前で釘付けになってるこりすちゃんを発見した。

…ほーん、なるほどね。そういうのが好みか。

 

 

「好きなの、ぬいぐるみ? そんな熱心に見つめちゃってさ」

 

「…‥」

 

「そっかそっか、健全で何より。そんなに好きならあげようか、それ」

 

「……!」

 

「私がこりすちゃんぐらいの時に買ってもらったやつなんだけど、もうそういうので楽しむ歳でもないからさ。ぼちぼち物置とかに仕舞おうとか思ってたんだけど…いいよ、こりすちゃんになら」

 

「……」

 

「遠慮なんかしなくてもいいよ、引き取ってもらえるなら私としても助かるし。それに…そいつも嬉しいでしょ。自分を大切に思ってくれる人に貰われた方がさ」

 

「……!」

 

 

こりすちゃんがペコリと頭を下げる。

無表情ながらも頬を染め、ぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめる姿は、随分と年相応に思えた。

 

 

(…なんだよ、子供らしい顔も出来んじゃん)

 

 

頑なに喋らないし、もしや心の闇が~…とか疑ってたけど、この分なら問題も無さそうで安心だ。

好きな物がちゃんとあって、礼儀正しくお礼も出来てる。

家庭環境も、きっと…大丈夫……

 

 

「くあぁ……」

 

「……?」

 

「っと…ごめんね。何分、寝不足なもんで」

 

 

抑えきれなかった欠伸が零れる。

…あぁそうか、ヴェナに邪魔されて今日の分の昼寝がまだ出来てないんだったっけ。道理でこんなにも眠いわけだ。

そうと決まればさっさとベッドにダイブ…といきたいけれど、今この場にはこりすちゃんがいる。

なし崩し的にとは言え子供の面倒を任された身だ、放置して一人眠りこけるのは流石によろしくないだろう。けれども、私の身体は今か今かと睡眠を求めている。

 

う~ん、どうしたものかね。

 

 

(…………あ、無理だわコレ。眠すぎてなんか眩暈してきたわ。もぅマヂ無理…二度寝しょ…)

 

 

速攻で睡眠欲に天秤が傾いた瞬間であった。面倒を見る責任? 知らない子ですね…。

いやさ、そりゃ私だって出来る事ならちゃんと面倒見てあげたかったよ。

近所の騒がしいガキ共と違って、大人しく知性的なこりすちゃんには誠実に接してあげたいと思ったさ。

これから仲間になる事を加味しても、現時点であの碌でもない後輩二人組よりもずっと好印象だしね。

 

…でもね。それとこれとは別問題なんだ。

私にとって睡眠っていうのは、この世の何よりも優先されて然るべきものであり、生き甲斐そのもの。

それが他の何かに置き換わるなんて事は…決してあり得ないんだ。

だからごめんよ、こりすちゃん。私、寝るね。だって眠いんだもん…!

 

 

(私が寝てる間はテレビでも見て時間潰してもらおう。許せこりすちゃん、相手するのはまた今度だ…)

 

 

そう結論付けた私はそのまま立ち上がろうとして…ギュッ、と引っ張られる感覚に足を止める。こりすちゃんだ。

私のパジャマ裾を掴みながらベッドの方を指差している。まるでそっちの方へ行きたがって…いや、連れて行こうとしてる?

 

…えっ。こ、こりすちゃん、まさか…!

 

 

「もしかして、寝かせようとしてる…? 寝不足な私を心配して…?」

 

「……」

 

(こ、こりすちゃん…キミってやつは…!)

 

 

なんて良くできた子なのだろう。そう感動を覚えずにはいられない。誰だよこの子を不気味って言った奴は、出て来いよ! ぶっ飛ばしてやるよ私が!(ブーメラン)

いやほんと、認識を改めないといけないなこれは。子供っていう生き物はどれもこれも騒がしくて自分勝手だと決めつけてたけど、そうじゃない。全部一緒くたにしちゃいけなかったんだ。

こりすちゃんのように、周りに気を遣える優しい子も中にはいる。人を先入観で判断してはいけない、か。

いやはや、まさか年下の子からなにかを教わる日が来るなんてね。最近の小学生ってすごいんだなぁ…。

 

 

(…だからと言って遠慮するつもりも、今のダメ人間スタンスを変えるつもりは全くないんだけど。さ~て、こりすちゃんからのお許しも出たわけだ。ぐっすりお昼寝させてもらおうかなっと!)

 

 

ルンルン気分でベッドに向かう。いやぁ、足取りが軽いのなんのって!

ヴェナが迎えに来るのは夕方だから、あと眠れるのはおよそ4時間…正直物足りないけど、このうざったい眩暈を無くすには十分だろう。時には妥協も必要なのだ。

 

…っと、そうそう。寝る前に……。

 

 

「それじゃあこりすちゃん。ご厚意に甘えて私は少し眠るけど、その間はウチにあるもの好きに使ってもらって―――」

 

「……」

 

「…こりすちゃん?」

 

 

テクテク、と。

就寝前の言伝を告げる私を素通りしたこりすちゃんは、相も変わらず無表情のままベッドに

近づいていった。そうしてそのままベッドをよじ登り、掛布団をめくって……

 

……え?

 

 

「…こ、こりすちゃん? どうして私のベッドに…」

 

 

ポンポン

 

 

「いやポンポンじゃなくって…もしかして、私と一緒に寝るつもり? だ、ダメだよっそのベッドは私専用の」

 

 

ポンポン

 

 

「無言の圧やばぁ…え、マジで寝る感じ? 冗談とかじゃあなく」

 

 

ポンポン

 

 

「もうっ、そのポンポンするのやめなさい! …はぁ~わかったよ、一緒に寝るよ。狭くても文句言わないでよね」

 

 

 

ご丁寧に人ひとり分空けたスペースをポンポン叩いて、ここに横たわれと促すこりすちゃん。どこでそんな誘い方覚えたの…。

幸いな事に私のベッドは広めで枕も予備があるから、二人でも眠れなくはない。けどそれは、あくまで“可能っちゃ可能”というだけの話。

今日知り合った子といきなり同じベッドで寝るのは、流石に抵抗あるんだよなぁ…。

 

 

(正直、丁重にお断りしたい。けれども眠気はもう限界…背に腹は代えられないか…)

 

 

こりすちゃんの謎行動に疑問は尽きないが、今はそれよりもじわじわと押し寄せてくる睡魔の解消が先決。

覚悟を決めた私は、こりすちゃんの誘いに乗るようにしてベッドの端に潜り込んだ。

……現役JSと共寝とか事案にならないだろうな、コレ。もしや司法に裁かれるのは私の方だった…?

 

 

(…こりすちゃんは、どうしてエノルミータに入ったんだろ)

 

 

虫も殺しそうにない物静かなこの子は、一体何を目的として悪の組織(エノルミータ)に入ったのだろうか。

さっさと眠ればいいものを、気が付けば私の意識は隣で微睡むこりすちゃんへと向けられていた。

 

 

(いつもより温い…子供の体温ってこんなに高いんだ……ん?)

 

「……スゥー…スゥー…」

 

「……ふはっ、寝付くのはっや」

 

 

うてなちゃんのように流されるがまま成り行きで入ったのか。それとも、私のように自らの欲望を叶えるためなのか。

スカウトしたヴェナ自身も勧誘を受け入れた理由に関してよく分かっていなさそうだったから、真相は分からない。前者か後者かはこりすちゃんのみぞ知る、というやつだ。

 

けれど…もし、後者であったなら。

図らずともこりすちゃんが私と同じ道を歩もうとしているのなら。その時は―――

 

 

(少しぐらいは、支えてやってもいいかな…)

 

 

子供は嫌いだ。その気持ちは今でも変わらない。

でも、こりすちゃんのような心優しい子ならば、少しは歩み寄ってもいいかもしれないと…そう思えた。

 

 

(…何時ぶりだろう。誰かと一緒に眠るのは)

 

 

思い起こしたのは、今や遠く離れてしまった母さんとの記憶。

親愛に包まれて眠っていた幼い当時と、子供の温もりというものを実感しながら眠る今は、思いのほか遜色が無くて。

 

 

(…たまには悪くないか、こういうのも)

 

 

気持ちの良い微睡みに頬が緩む。

私は、隣からほのかに漂う甘いミルクのような香りに身を委ねながら、そっと瞼を下した。

意識を夢幻の彼方へ飛ばすのに、そう時間は掛からなかった。

 

 

 

斯くして、ヴェナの突発的無茶振りはこうして事なきを得た…のだが。ただ一つ、誤算があった。

 

それは―――

 

 

 

 

 

 

 

「お~いこりすちゃ~ん? お迎え来たからそろそろ…」

 

「……」ギュッ

 

「……あの…こりすさん?」

 

「おや、少し席を外していた間に随分と親睦を深めたようだね。今日は泊まらせてあげたらどうだい?」

 

「いいわけないだろ、親御さんが心配するだろうがっ!」

 

「……!」

 

「そっちはそっちで『その手があったか!』みたいな顔してんじゃないよ。ほらこりすちゃん、いい子だからちゃんと聞き分けて…ちょっ、こりすちゃ、こr……こりーーす!!」

 

 

……予想以上に懐かれたという事だ。お願いだからそれ以上引っ張らないで、パジャマが伸びちゃう…。

 

はぁ。やっぱり子供は……苦手だ。

 

 

 






話数を重ねる毎に感情豊かになるこりすちゃんほんとすこ
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