「……!」
「ん……あれ、こりすじゃん。奇遇だね、学校の帰り?」
学校から帰る途中、公園の近くでこりすと出くわした。
う~ん、相変わらずの無口&無表情。私の知らないプライベートではもしかしたら感情豊かなのかも…とか思ってたんだけど、どうやらそんな事は無いらしい。ただの幻想だったようだ。
「そっかそっか。私もちょうど帰るところだよ…お母さんは? 今日も遅いって?」
「……」
「なるほどね……しゃあない、今日もウチ寄ってく? いつも通り夕方アニメ見終わるまででいいならだけど」
「……!」
ギュッ
「…ははっ、オッケー。それじゃあ一緒に帰ろっか」
私のよりも華奢で小さな手と手を繋ぎ、二人で帰路へ着く。
こんな風に甘えてくる所はちゃんと子供なんだよなぁこりすも。私は慣れたけど、普段のこりすとのギャップにやられるクラスメイトの子とか絶対いるでしょ。色んな意味で末恐ろしい子だなぁ…。
初めて会ったあの日から、私はヴェナの頼み通りこりすの面倒を見るようになった。
まぁ正直初めは全然乗り気じゃなかったけどね、お昼寝タイム減っちゃうし。けど、こりすのお家事情を知っちゃったからにはね。
一人で夜遅くまで留守番する寂しさを知ってる私としては、同じ境遇の子供を放ってはおけなかったのである……なんて、それっぽい理由を並べてみたり。
(頼みを聞いてヴェナに貸しを作れたと思えば悪くはない。それに、懐いてきた年下の子を袖にすんのも目覚めが悪いしね)
そんなこんなで、実利ときまぐれとほんの少しの良心からこりす預かり屋を見切り発車で始めた私であったが…予想をいい意味で裏切られ、思ってたよりも上手くやれている。
自分の時間に干渉されたくない放任主義な私と、ウチにある
おまけに「声帯どこやったの?」てぐらい一言も発さずに黙々と遊ぶから、私はお昼寝タイムを邪魔されずに満喫できるというね。ほんと、こりすが物静かないい子でよかったよ。
そのお陰で、私はストレス無くヴェナの頼みを遂行することが出来る。こりす様様というわけだ。
(いい子に育ててくれたこりすママに感謝だね。あとは、お昼寝の時に毎度の如くベッドに潜り込んでくるのだけ止めてくれたら最高なんだけど……)
寝るスペースが狭まんのはいただけないよなぁ。
そんな事を考えながら歩いていると、公園の中ほどに設置してある自動販売機が目に入る。
ラッキー、ちょうど喉乾いてたんだよね。
「ジュースでも買ってくかぁ。こりすも飲む? ついでに買ったげるよ」
「……!」
「おおう、そんなに引っ張らんでも…だいじょぶだいじょぶ、ジュースは逃げないって」
グイグイと手を引くこりすを微笑ましく思いながら自販機の方へと近づく。すると、先に並んでいる先客の存在に気が付いた。私と同い年ぐらいの紫髪の女の子だ。
さて、それじゃあこの子が選んでる間に自販機のラインナップの確認でもしますか~……って、ん? 紫髪…?
…この後ろ姿、どっかで見たような……
(って、コイツうてなちゃんじゃねーかッ!! あっぶね~~、直前で気付いてよかった…!)
ふざけんな、なんでこりすを連れてる時に限って
ただでさえこの前返り討ちしちゃって気まずいから顔合わせたくなかったってのに。
幸い、距離はまだ少し離れていて、自販機と向かい合ってるうてなちゃんがこっちに気付いた様子はない。
逃げるなら、今か…?
そうやって考えを巡らせる最中、左手から…手を繋いでいた手のひらから、突然温もりが消える。
えっ、と思うのも束の間。私の視界に、トコトコと歩いてゆくこりすの姿が映る。
―――うてなちゃんのいる自販機へ直進する、こりすの姿が。
(な……ダメだこりす行くな、死ぬぞっ!)
心の叫びも虚しく、こりすはどんどんうてなちゃんへと近づいていく。
…いや、わかってはいるんだ。エノルミータに所属した時点で、こりすがうてなちゃんと出会うのは避けられないって事は。ここで逃げたとしても、ただの問題の先送りにしかならないって事も。
それでも、何の心構えも出来てない無垢な子供がクソヤバ女にエンカウントするのはあまりにも酷だろ。
こりすは私にとって、変人蔓延るエノルミータの中で唯一癒しと安らぎを与えてくれる存在なんだ。
こんな所で…変態の毒牙なんかにかからせてたまるか…!
足に力を込めながら手を伸ばす。
気づかれてない今なら、まだ間に合う―――
「えっ。こ、こりすちゃん? どうしたのこんな所で…下校中?」
……え?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「その、ゆめさん…本当にいいんですか?」
「ん? あぁ、気にしないで飲みなよ。元々こりすに奢ってあげる予定だったし、一人分も二人分も変わんないって」
「えっと、ジュースの事じゃなくて…
「ヘーキヘーキ。こんなん寝れば治るから」
「え、えぇ……?」
場所は移り、私達は公園内のベンチに並んで座っている。
訝し気にこっちを見てくるうてなちゃんの視線と、痛みを訴える頭から目を逸らすように、甘ったるい缶ジュースを一口…うん、おいしい。
やっぱ疲れた時には甘いものだよね。退屈な学校の鬱憤とか手のかかる後輩へのストレスとかが解されていくようだ。甘味! 摂らずにはいられないッ!
…ま、冗談はさておいて。
(まさか、ヴェナからもう紹介されてたとはね。見た感じ、こりすはいつも通りっぽいし、雰囲気も悪くなさそう…私の杞憂だったかな?)
うてなちゃんに事情を問い質すと、すんなりと経緯を話してくれた。
曰く、ついこの前の放課後にキウィちゃんと二人揃ってヴェナから突然呼び出され、その時にこりすと初めて出会ったのだとか。
事前に説明無く呼び出すあたりが正しくヴェナらしいなと思い、嘘は言っていないだろうと私は納得した…一応あとでヴェナにも確認はするけども。
念の為、出会い頭にこりすにちょっかい掛けてないかをついでに訊いてみる。すると、うてなちゃんは「し、しししませんよそんな事!」と残像が見えるぐらいの速さで首を振り否定した。テンションの上がったイ〇ローかお前は。
滅茶苦茶に怪しかったけど、うてなちゃんの否定にこりすは何の反応も示さなかったので、とりあえずはうてなちゃんをシロと見なしそれ以上の追及は止めにすることにした。疑わしきは罰せずマインドの私に感謝するんだなうてなちゃん。
もしこりすに手を出してたらうてなちゃんと“お話し”する必要があったが、この分なら大丈夫だろう。私はそう結論を下し心の中で胸をなでおろす。
こりすが無事だったからなのは当然として、私としてもいくら苦手な後輩とは言え、身内を警察に突き出したくはないからね。
こりすの為、そして私の安寧の為にも、うてなちゃんにはこれからも目移りすることなく魔法少女だけを真摯に狙ってもらいたいものである。
……既に
ため息をつきながらチラリと横に目を向けてみると、ベンチで隣の席に座っている当の本人は私が買い与えたジュースをクピクピと飲んでご満悦のようだった。
まったく、人の気も知らないでこの子は…子育てに勤しむ親御さんの苦労の一端が分かった気がするよ。
(……どうして私に内緒でうてなちゃん達の顔合わせが行われたのかは謎だけど…まあいいや。ヴェナが何を企もうが、私には関係ない)
面倒事にさえならなければそれでいい。
そんな事を考えていると、私の二つ隣…こりすを挟むように座っていたうてなちゃんが話し掛けてくる。
「あ、あの…怒らないんですか…?」
「はぇ? …え、何。急にどしたの」
あまりにも唐突過ぎて思わず変な声が出てしまう。
怒るって、私がうてなちゃんに? なんで…あっ、もしかして私抜きで顔合わせしたからムカつかれたとか思われてる?
いや、怒らんて。そんなんでいちいちムカついてたら私の頭の血管はとっくにはち切れてるよ。主にうてなちゃんのせいでね!
「だ、だってわたし、先輩であるゆめさんに突っかかっていって…その、興奮してたとは言え、反抗的な態度を…」
「あぁ~……この間の件の話ね」
なるほど、今日のうてなちゃんがいつもに増してビクビクしてんのはそれが原因か。
大方、次に私と会ったら報復されると思ってたってとこか…心外だなぁ。そんな恐ろしい先輩に見えてんの?
あの時のケジメは、二人まとめてボコした時につけさせたつもりだったんだけど。
「別にいいって。もう過ぎた事だしさ」
「そ、それでも謝らせてください…! ベッドを壊して、おかしな因縁をつけて、ゆめさんを怒らせてしまったのは事実ですし…」
「……調子狂うなぁ。ハイテンションの時とのギャップ差えぐいって」
ついこの前、ウキウキでケツしばこうとしてきた奴とは思えないうなだれっぷりに思わずたじろぐ。
誰だよコイツ。こんな殊勝な態度のうてなちゃんなんて私知らない…。
…とりあえず、まずはしょぼくれた顔を上げてもらおうか。
反省してくれてんのは良い事だけど、ずっと辛気臭いままでいられるとそれはそれで気まずくてイヤなんだよね。
「ねぇ、うてなちゃん。この前の私との戦い……どうだった?」
「えっ……ど、どうとは…?」
「だからぁ、楽しかったかって訊いてんの。めちゃいい笑顔で私を攻め立ててくれたもんだから、さぞ心の底から愉しんでたんだろうなぁって思ったんだけど」
「そ、それはっ……」
「大丈夫、怒んないから。正直に言ってみ?」
「…………た、……たのしかった、です」
「…ふふっ、よく言えました。ま、そうだよね? うてなちゃんは真性のサイコレズサディストだもん。女の子をロープの魔物でギチギチに縛り上げてから鞭攻めしたり、魔物化した電球の中に閉じ込めて電流食らわせたりするのがだ~いすきなんだもんね~? ……最後の電流は生きた心地がしなかったよ、この変態」
「うぐぅ…! ほ、本当に申し訳ありま―――」
「ま、次からは程々にしてよね。お昼寝タイムに被らない限りは適当に相手してあげるよ」
「え? ……止めないんですか…?」
間の抜けた声と共にうてなちゃんは顔を上げる。
「何、その顔。止めてほしかったの?」
「い、いえっ、そうではなくて! こう言ってはなんですが、その…もっと厳しく注意されると覚悟していたので、まさかお許しが出るとは思ってもみなくて…」
「ん~……まぁぶっちゃけ、思うところが無い訳ではないよ、うてなちゃんの趣味には。実害被っちゃってるし、うてなちゃんが魔法少女と
「…そう、ですよね……」
「でも、だからって頭ごなしに否定したり、拒絶したりなんかしないよ。趣味趣向なんて人それぞれ違うんだから、共感できないからって他人がとやかく言うのは違くない?」
「…!」
「それにさ…『難しく考えず好きな事をやれ』って背中を押したのは、他でもない私だし? だからまぁ、仕方ないからうてなちゃんのクソザコ自制心が成長するまでは付き合ってあげるよ」
「……ありがとうございます、ゆめさん。お優しいんですね」
うてなちゃんはそう言うと、さっきまでの落ち込み具合が嘘のように柔らかく微笑んだ。
優しい…優しいかぁ? 私はただ、お昼寝タイムを変なタイミングで邪魔されないようにうてなちゃんの暴走に定期的に付き合うって言っただけで、別に優しくしたつもりはないんだけど。
でも、まぁいいか。本人が納得してんならわざわざ訂正するのは野暮ってものだ、ここは黙っておこう。言わぬが花ってね。
「ま、最悪自制出来なくても構わないよ。我慢が効かないぐらい大好きな趣味を持つ気持ちも、気になった事を無性にやってみたいって感情も分かるし。だから「もう辛抱堪らん!」ってなったら、いつでもおいで。片手間でボコってあげっから」
「うぅっ……はい。次に挑む際は、もっと力をつけて、十分に対策を練ってからにします…」
「…おいコラ、そこはウソでも我慢する姿勢を見せる所でしょうが。さては反省してないなオメー」
…やっぱりイカレてるなぁ、うてなちゃんは。
この前あれだけ
その不屈の執念を魔法少女にだけ向けてくれればいいのに、どうして矛先がこちらにまで向いてしまうのか。
マジで頼むよ魔法少女。うてなちゃんのガス抜きの為にも毎秒辱められてくれないと困るよ。やくめでしょ(白目)
「はぁ~…いい、こりす? もしやりたい事があったら出来るだけ聞いてあげるから、間違ってもうてなちゃんのようにはならないでね。コレは悪いお手本だから」
「ひ、ひどい…でも、事実なだけに言い返せない……」
「自業自得だってーの。説教されないだけ有難く思ってよね……どした、こりす?」
「……」
言いたいこと言ったしそろそろ引き上げようかと思っていると、隣のこりすから視線を送られていることに気付く。
どうしたのだろうと見やれば、ぱっちりと開かれた目と目が合う…なんだろう、何かを伝えようとしてる?
……もしかして。
「こりす、何かやってみたい事でもあるの?」
「……!」
「え? そうなの、こりすちゃん?」
「ん~…まぁほぼ勘なんだけどね? こりすと目を合わせたら、ちょっと物欲しそうな目をしてたからさ。もしかしてさっきの私たちの会話に感化でもされたのかなって」
「な、なるほど…よく見てるんですね、こりすちゃんのこと」
「最近よく一緒にいるから気付いただけだよ。それで、どうするこりす? 私としては、可愛げのある後輩からの滅多にない頼み事なら出来るだけ叶えてやりたいって思ってるんだけど……どう?」
「……」
「こりすちゃん、大丈夫だよ。ゆめさんなら、きっとどんなお願いでも優しく聞いてくれるはずだから…ね?」
私達の言葉を受けたこりすは、もう一度私の目をじっと見つめて…嬉しそうに頷き、ベンチから立ち上がり持っていた鞄を開け始めた。どうやら中から何かを取り出すつもりらしい。
これは…受け入れてもらえたと見ていいんだよね?
「いや~よかったよ拒否られなくて…あ、うてなちゃんもサンキュね。ナイスアシスト」
「いえいえ。私もこりすちゃんがどんなおねだりをするのか気になったので…ところで、こりすちゃんは何をしようと…?」
「ほら、アレじゃない? 人形とかぬいぐるみとか好きだし、それ使っておままごととか」
「ふふっ、こりすちゃんらしい可愛いおねだりですね」
「ほんとにね。どっかの誰かさんみたくスパンキング要求とかしないだろうし、見てて微笑ましいよね~」
「い…い、いる訳ないじゃないですかそんな人~…あ、あはは……」
うてなちゃんを小声でイジリつつ、私はこりすが鞄の中を探し終わるのを温かい目で見守る。
やっぱり子供はこうでないとね。こりすぐらいの年の子なら、周りに遠慮して縮こまるよりも、少しぐらい我儘言ってのびのびと過ごす方がよっぽど健全だと思うし。
まぁ、そのきっかけを与えてくれた原因がうてなちゃんの悪癖ってのは癪だけど……こりすへの後押し手伝ってくれたし、この際文句は言うまい。
(さて、何が出てくるのかなっと。うてなちゃんにはああ言ったけど、他の可能性だって全然ある。まぁこりすの事だからおかしな要求は…)
きっとしてこないだろう。
……そう決めつけていたのが、悪かったのかもしれない。
「……え?」
「こ、こりすちゃん…!? ま、まさか…!」
鞄の中を探し終え、私達に向き直ったこりすの手に握られていた物。
それは、おままごとで使うような愛くるしい人形とはほど遠い、手のひらサイズの十字星。
―――私のよく知る、エノルミータの変身アイテムだった。
「ちょ、おまっ―――」
止めようと瞬時に手を伸ばしても遅かった。
変身アイテムから溢れる光に包まれた私達は、瞬く間に衣服を変換され…エノルミータの変身コスをその身に纏っていた。
………うっそだろお前。このパターンは流石に想定してねぇぞ…。
「え、えぇぇええええ…!? こ、こりすちゃんっどうして突然変身なんて…!」
「……♪」
「いや、そんなやりきった顔されても…! ど、どうしましょうゆめさんっ、ここは魔法少女が来る前に逃げた方が…!」
「う~ん…もう遅いんじゃないかな」
「え…?」
あたふたとするうてなちゃんにそう言って辺りを見渡す。
「悪の組織が白昼堂々公園を占拠。そんな舐めた真似されて、すぐに駆けつけない訳ないでしょ……
空から猛スピードで迫りくる三つの気配に辟易としながら、私は上空を睨みつける。
ったく、毎度毎度ご苦労なこって…早速お出ましかよ。
「そこまでだよっ!」
張りのある快活な声が公園内に響く。
やはりと言うべきか。私達の前に颯爽と現れたのは、三人の魔法少女。
「みんなのための公園を奪うだなんて…今度は何を企んでるの、エノルミータ!」
元気に満ち溢れた声が特徴的な桃色の魔法少女、マジアマゼンタと。
「ま、マジアベーゼ…! くっ、今日という今日は負けないわよ…!」
何故かベーゼちゃんに熱っぽい視線を向けて今にも負けそうなセリフを吐いてる青緑色の魔法少女、マジアアズール。
「ようやく姿見せたなぁ、欠伸女ぁ…この前の借り、たぁっぷり利子付けて返したるさかいに…!」
そして、いい笑顔のままビッキビキに青筋立ててる黄色の魔法少女、マジアサルファの三人が、この街の平和を守るために立ち塞がった。
……何か、一人だけやけに殺意高くない?
文章の書き直しを繰り返してたらいつの間にか三か月も過ぎてたっていう。情けない書き手ですまない…。
次回はなるべく早く投稿できるようにします。