ハルケギニアの小さな勇者   作:負け狐

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最終巻までにエンディング間に合わないわこれ


その4

 おや、とクリスティナは首を傾げた。話を聞く限り現在のエウメネスの大祭殿は一般開放されている。少なくとも、入り口に入ることすら出来ないという状況はありえないはずなのだ。

 

「何かあったのだろうか」

「そう、なのかな?」

 

 首を傾げるティファニアは、意見を求めるように隣にいるベアトリスに視線を向けた。

 そして、明らかに異常なほど土気色な顔色で頬をひくつかせているのを見て若干引いた。そうしながら、一体どうしたのだと問い掛ける。勿論ベアトリスは無言で首を横に振った。

 

「逃げよう。逃げましょう? 今すぐ離れなきゃ、逃げなきゃ……」

「おいベアトリス!? どうしたというのだ!?」

 

 クリスティナもその異常事態に思わず彼女へ声を掛ける。ベアトリスの危険察知能力が群を抜いているのは重々承知。そしてその彼女がこの状態ということは、自ずと現状の理解が出来てくる。呟きからすると、大祭殿にはとんでもない危険があるのだろう。そうは思っても、取り乱しているベアトリスを落ち着かせなくては話にならない。

 対するファーティマは、まあそうだろうなと溜息を吐いていた。先程の『鉄血団結党』の襲撃を鑑みれば簡単に予想が立てられる。何より、我が物顔で警備をしているあのエルフ共が既に証拠だ。

 

「おいクリスティナ」

「……どうした?」

「とりあえずそいつは放っておけ。――行くか逃げるか、それを決めてからだ」

 

 ピクリとクリスティナの眉が上がった。暫し考えるように目を閉じた後、視線をティファニアに動かす。現状を理解しているのかしていないのか、別段慌てるわけでもなく、自分はみんなの意見に従うと笑みを見せた。

 

「一応言っておくぞ。テファ、恐らくこの先に向かえばエルフ達と戦闘になる。それでも、お前は来るのか?」

「足手まといだっていうのなら、ついてはいかないよ」

「何を気にしている。そこの馬鹿よりはよっぽど戦闘能力はあるだろう」

「ファーティマ……」

「何だその目は!?」

 

 がぁ、と吠えるファーティマを生暖かい目で見ながら、クリスティナはならば問題ないだろうと頷いた。どうやら意見は全員一致のようだ。そう判断し、入り口を封鎖しているエルフ、『鉄血団結党』の党員を睨み付ける。

 

「では、行くか」

「うん」

「ふん」

「一致してない! わたし同意してない! 逃げるってば! 逃げなきゃ死ぬってば!」

 

 ベアトリスの意見は無視された。

 

 

 

 

 

 

 既に立っているのはサルカン一人、という状況にまで追い込まれていた。ありえない、と呟いているが、それで現状が変わるわけもなし。平然と倒した党員を拘束している才人、キュルケ、タバサを見ることなく、彼は虚空を見詰めるように後ずさった。

 

「何よ。もう終わり?」

 

 そんな彼の目の前には、大剣を構えた小柄な少女が一人。カチカチと鍔を鳴らしながら笑っているその大剣を軽く小突きながら、ルイズは一歩前へと踏み出した。

 曲刀を構える。こんなことはあってはならない、とほんの少し前にも口にした言葉を再度紡ぎながら、彼は彼女へと距離を詰める。本来ならば何の苦もなく相手を真っ二つに出来るはずのその斬撃は、しかし目の前の相手には何ら意味を持たず。

 デルフリンガーとかち合った曲刀は、そこでついにへし折れた。先端が砕け散ったそれを省みることなく、サルカンは舌打ちをしバックステップをする。ルイズは更に一歩踏み出した。

 嘗めるな、と曲刀から炎が生み出される。刀身を燃え盛るそれに変えた曲刀は、突っ込んでくるルイズを切り裂き焼き尽くさんと唸りを上げた。

 

「嘗めんな、はこっちのセリフよ」

 

 デルフリンガーで真っ向からそれを受け止めたルイズは、ふんと鼻を鳴らすと炎の刃を力任せにへし折った。掻き消え、刀身が更に短くなった曲刀を見たサルカンは、今度こそ驚愕に顔を歪めよろよろと後ろに下がる。ルイズはもう一歩踏み出した。

 かかった、とサルカンはほくそ笑んだ。彼女の足元が光り輝き、そして床が爆発する。衝撃で空高く舞い上がったルイズを見たサルカンは、勝利を確信し高笑いを上げた。所詮は馬鹿な蛮人、この程度の罠も見抜けんとは。そんなことを言いながら、地面に激突するルイズを見るために視線を上げた。

 

「――な」

「悪かったわね、馬鹿で」

 

 空中で体勢を立て直したルイズが、お返しと言わんばかりにデルフリンガーを振り被っているのが視界に映る。その体にはダメージらしきものは殆ど見当たらず、精々衝撃がちょっと痛かった、程度であろうことが窺えた。勿論、サルカン自身はそんな分析をしている余裕が無い。

 馬鹿な、そんな感想を抱くと同時に、彼はルイズの一撃で体ごと意識を吹き飛ばされた。

 

「ばっかだなぁ。相棒がこんなちゃっちい罠でやられるわけねーだろうに」

 

 引っかからない、とは言わないところがデルフリンガーのルイズ評である。勿論才人もキュルケもタバサも同じ意見であった。

 最後の一人であるサルカンも同じように拘束し、簀巻きになったエルフが二ダースほど出来上がったのを確認したアリィーは、少しだけ考え込むような仕草を取った。とりあえず現状はこいつらを評議会に突き出して『鉄血団結党』の責任を問えば話は終わる。だが、それはあくまで事件の解決とは別の事柄だ。

 彼の言っていた『実験』、それをどうにかしなければ、恐らく解決にはなりえない。

 

「アリィー」

「どうしたエレーヌ」

「こいつらの言っていた『実験』。何だと思う?」

 

 奇しくも同じことを考えていたらしいタバサの言葉にアリィーは頷く。今丁度考えていた、そう言えば楽であったが、彼なりのプライドが邪魔をした。さも分かっていると言わんばかりに、彼はそうだな、と言葉を紡いだのだ。

 

「今までの事件に共通するのは間違いない。まず間違いなく、火に関係するはずだ」

 

 人を内側から燃やしているのを考えれば、何かしらを燃やすのは確定であろう。言いながら彼は段々と自身の意見が纏まっていくのを感じていた。

 あの口振りからすれば『実験』は規模を拡大しているのは間違いない。人一人を内側から燃やす、から拡大するとなるとやはり人数か。いやしかし、それでは巻き込みたくない、というサルカンの言葉が腑に落ちない。多人数を内側から燃やす実験で自分達を巻き込む可能性があるとすれば、補足人数ではなく、範囲なのだろうか。

 そんなことを言葉にしつつ、自分で考察をしつつ。アリィーはタバサにつらつらと述べた。いつの間にか才人達もそれを聞きながら成程、と頷いている。

 

「あ、でも俺思ったんだけど」

「何だ蛮人」

「範囲で規模拡大で、内側から燃やすんだろ? だったらターゲットが変わるんじゃね?」

「どういう意味よ」

 

 ルイズが才人に問い掛ける。アリィーは怪訝な表情を浮かべ、タバサは引っかかりを覚え、キュルケは何か嫌な予感が背中に走った。

 そんな皆の反応は露知らず、才人は呑気に声を上げる。つまりどういうことかというと、と指を立てる。

 

「人単位じゃなくて、建物とか、そういう感じになるんじゃ」

 

 そう言いながら、才人はあれ、と自分の言葉に疑問を持った。それはつまりどういうことなのか、と冷静に考え、物凄くマズいことを言っているように思えたのだ。

 

「おい蛮人……。それはつまり、奴らの『実験』というのは」

「この街を、内側から燃やすっていうの!?」

 

 それはもうただの爆破テロだ。その結論に至った才人は、ルイズの叫びに同意するように頷くとヤベェと慌てだした。このままでは、エウメネス全体が炎に包まれる。

 そんな彼に、キュルケは落ち着けと声を掛ける。まだそうと決まってわけでもないし、阻止すれば何の問題もない。そう言いながら、隣のタバサに視線を向けた。こくりと頷き、どちらにせよまずやることはその現場を見付けることだと皆に述べた。

 

「もしそうだとすれば、街全体を吹き飛ばすほどの何かを用意しているはず。人が普段立ち入らない場所か、地下、あるいは上空辺りが候補」

「空、はとりあえずなさそうねぇ……」

「地下……は、分かんないわね」

 

 ううむ、とキュルケとルイズが唸る。そしてアリィーはその選択肢の人が普段立ち入らない場所を思い返していた。滅多に人が来ず、しかしそこに人がいても怪しまれない場所。そんな矛盾する場所に心当たりは。

 

「っ!? 何だ?」

 

 突如爆発音がした。視線を動かすと、旧市街の外れ辺りで盛大に煙が上がっているのが見える。

 あの場所は確か、大祭殿。そんなことを呟いたアリィーは、そこでピンと閃いた。先程言っていた矛盾した場所。そこに該当するのだ、と。

 

「大祭殿は一部開放されているが、奥は不可侵だ。そこでなら怪しまれずに『実験』の準備も進められるかもしれん」

「じゃああの爆発は」

「『実験』が始まったのしれん。急ぐぞ」

 

 言うが早いかアリィーは駆ける。待ちなさい、とルイズもそれに続き、置いてくなと才人、キュルケ、タバサも続いた。常人離れしたスピードで、五人は街を駆け抜け大祭殿へと向かう。

 その途中、タバサはあの煙と爆発に何か引っかかりを覚えていた。あれは『実験』の始まりというよりも、むしろ。

 

「エクスプロージョン……」

「どうしたのよぉ、タバサ」

「何でもない」

 

 

 

 

 

 

「まったく、無粋な見学者だ」

 

 やれやれ、とエスマーイルは頭を振った。その視線の先には、クリスティナ、ティファニア、ファーティマ、ベアトリスの姿がある。そんな四人を揃ってゴミを見るような目で見下ろすと、エスマーイルは部下のエルフに始末しろと命を出した。

 

「クズが二人、裏切り者が二人、か。ああ汚らわしい。『実験』を邪魔するようなものが高尚であるはずもないが、格別に下卑た存在がきたものだ」

 

 エスマーイルのその言葉に、ファーティマはふんと鼻を鳴らした。自分で呼び寄せておいてその口振りか、と肩を竦めた。

 

「どうやら、頭がおかしくなっているようだな。治療を受けるか、どこかに引きこもるのを勧めるぞ」

 

 コンコン、と指で頭を叩く。エスマーイルにとってはそれがとても低俗で、エルフである彼女がそんな仕草をしたことで彼の機嫌が一気に悪くなる。

 やれ、と叫んだ。党員達は手加減することなく、侵入者を排除せんとその力を行使する。精霊の力が一斉に四人へと向かい、現状全く戦力として期待出来ないツインテールは豚のような悲鳴を上げながら半泣きで扉へと走った。

 

「ベアトリス!? エクス――」

「ここで使うな馬鹿。あの小物は任せろ」

 

 ファーティマがベアトリスを庇うように駆けると、向こうの契約の隙間を縫って奪い取った行使権を使い己と背後を守る盾を形作った。どうやらベアトリスの逃げた場所は危機的状況の中の安全地帯だったようで、苦労せずとも精霊の力を行使出来たファーティマは少しだけ拍子抜けしたように己の手を見る。ちなみに同じようにベアトリスへと駆け付けた二人も、多数の精霊の力の中何故か奇跡的に無事であった。

 

「……こいつ、ついにここまで来たか」

「どうやら、どれだけ危険な状況でも中心部で喚くことが出来るようね、この娘……」

 

 危機的状況そのものは察知するだけで回避出来ないみたいだけど。どこか可哀想なものを見るような目で刀からベアトリスを眺めたリシュは、そんなことよりとクリスティナに声を掛ける。分かったと短く頷いたクリスティナは、刀を抜き放つとその切っ先を党員へと向けた。

 

「リシュ、行けるか」

「この場所でなら、なんとか」

 

 クリスティナの背後に突如出現した謎の存在に、党員達は一瞬反応が遅れた。そしてそれが夢魔だということに気付く頃には、既にほぼ全員が夢の世界に旅立ってしまっていた。

 

「貴様……妖魔を飼い慣らしているのか」

「人聞きが悪いなエルフ。リシュはわたしのパートナーで、友人だ。こんな場所でなければ、力を使ってどうにかなど頼まんよ」

 

 エスマーイルはクリスティナの言葉など聞いてはいない。蛮人の、唾棄すべき存在の言葉など聞く耳を持たない。眠ってしまった党員を一瞥し、仕方がないと一歩足を踏み出す。

 瞬間、部屋中を強大な精霊の力が吹き荒れた。安全地帯など存在しないとばかりに、本殿全体を蹂躙し、四人を害せんと襲い掛かる。クリスティナとファーティマはともかく、ティファニアとベアトリスはまず間違いなく直撃すれば命はない。

 

「クリスティナ! リシュ!」

「分かっている!」

「全力で行くわよ!」

 

 ファーティマとクリスティナ、そして刀の中のリシュ。三人が全力で精霊の力に対抗したが、しかしエスマーイルには及ばない。党員もろとも、という考えを持っていたわけでも無かったらしいその一撃への防御は何とか四人とリシュの命を繋いでいたが、しかし既に満身創痍。次の一撃には、耐えられない。

 

「やはり所詮クズの力などその程度だ。思い上がるな」

 

 楽しそうにエスマーイルは笑った。手間を掛けさせるな、と再度本殿の精霊の力を集結させ、今度は範囲を狭めてそれを放つ。

 逃げる事も出来ない彼女達は、それを食らい見るも無残な肉塊へと変貌するであろう。

 そんな一撃を。

 

「間に合った!」

「セーフ!?」

「微妙じゃなぁい?」

「ギリギリ」

 

 突如現れたピンクブロンドの少女を筆頭とした四つの稲妻が、いともあっさりと弾き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 ふう、とルイズは息を吐く。流石に全力で走ってきたので少し疲れた。そんなことを思いながら、本殿の中心部にいるエルフをじろりと睨む。

 

「アンタがエスマーイル?」

「……何だ蛮人、口を慎め」

「そうみたいね。ま、違うなら違うでもいいわ」

 

 友人達を傷付けたのだから、覚悟しろ。そう言いながらルイズはデルフリンガーの切っ先を向けた。その目に遊びは全く無く、純粋に怒っているというのがよく分かる。

 その一方で、友人達と呼ばれた面々はそんな彼女の背中を見ながら思い思いの表情を見せていた。ティファニアは満面の笑顔、クリスティナとリシュはどこか照れ臭そうに。そしてベアトリスとファーティマは。

 

「友人……? い、生け贄、じゃ、ないわよね?」

「落ち着けベアトリス、あれがそんな裏のある言い方はしないだろう。……しかし……友人、か」

 

 軽くベアトリスの頭を小突いて落ち着かせると、ファーティマは残りの面々を伴ってルイズ達から距離を取った。恐らく、まず間違いなく大暴れの余波が来る。ティファニアでなくとも予想出来るその考えに、異を唱えるものはいなかった。

 こっちだ、と気付くと追い抜かれたアリィーの先導に四人は従う。精霊の力で軽い防御壁を作ると、彼はエスマーイルに目を向けた。

 

「エスマーイル。貴様の企みはもう終わりだ。大人しく縛につくのならば、手荒な真似はしない」

「おやおや騎士アリィー。腐った汚らわしい蛮人と交わり気でも狂ったのかな?」

 

 負けるはずがない。そんな自信がエスマーイルには見て取れた。それは先程ルイズに叩きのめされたサルカンと凡そ同質のもので。アリィーはやれやれと肩を竦めると、それならば仕方ないなと頭を振った。

 

「ちょっとアリィー、勝手に話進めないでちょうだい。わたしはアイツをぶっ飛ばさないと気が済まないんだから」

「ああ、すまないな。どちらにせよ交渉は決裂だ。遠慮なくやれ」

 

 そうこうなくちゃ、とルイズは剣を一振り。そうした後に肩に担ぐと、目を細め足に力を込めた。それに合わせるように、才人も、キュルケも、タバサも己の得物を構える。先程サルカン達と戦った時の焼き増しのようなその仕草に、手慣れているなとアリィーは口角を上げた。

 エスマーイルは鼻で笑う。先程眠らされた党員を起こし、自身の親衛隊を呼び寄せると、見下すようにルイズ達を一瞥し先程と同じように命令をした。この連中を始末しろ、と。エルフの裏切り者すらいない純粋な蛮人四人組など、赤子の手を捻るより簡単だ、と。そんなことを思いながら彼は吐き捨てた。

 勿論、赤子の手を捻るより簡単にやられるのがどちらかといえば。

 

「俺も、ルイズほどじゃないが腹は立ってるぜ。ぶっ飛ばす!」

 

 精霊の力の九割以上を『鉄血団結党』が掌握しているのにも拘らず、その力を向けた相手は意にも介さない。才人はひょいひょいとステップで躱し、その日本刀で次々に党員を昏倒させていく。

 キュルケは精霊の炎もかくやというそれを杖から生み出し、しかし相手を殺さないように加減して吹き飛ばすという余裕まで持ち合わせていた。タバサに至っては片手間で凍らせる始末である。

 

「雑魚散らしも飽きてきたわねぇ」

「ここのところほぼ精霊そのものと戦ってきたおかげで、感覚麻痺しかけてる気がする」

 

 そうねぇ、とキュルケは呑気に返し、才人もレベルアップの賜物だ、などと言いながらそれに同意する。

 そうしてあっという間に周囲は静かになり、その会話に混じらず一歩一歩前に進みながら一振りでまとめてエルフを薙ぎ倒していたピンクブロンドの少女がエスマーイルを射程距離に捕らえた。

 

「……貴様ら、さては悪魔か!」

「よく言われるわ。でも、アンタに言われると特別ムカつくわね」

 

 デルフリンガーを強く握った。一足飛びで距離をゼロにすると、ルイズはエスマーイル目掛けて剣を振り下ろす。常人どころかエルフすら反応出来ないようなその一撃は、しかし空間で何かに弾かれ吹き飛ばされた。

 

「と、っとっと」

「おい悪魔! エスマーイルはビダーシャル卿と並ぶ行使手、と言われていた男だ。『反射』も当然使える、気を付けろ」

「それを早く言いなさいよ!」

 

 まったく、と文句を言いながら、しかし何事もなかったかのようにルイズは着地する。距離が離れ、エスマーイルは追撃せんと呪文を唱えた。建物の柱が巨大な腕となりルイズに襲いかかり、鬱陶しいと片手間に両断される。

 ならば、と石の腕の数を増やした。質も高く、量も多いそれらは彼女を潰さんと迫りくる。

 

「よ、っと」

「無駄に大きいわねぇ」

「邪魔」

 

 先程と同じように吹き飛ばそうとしたルイズに割り込むように、才人とキュルケ、タバサがそれらを吹き飛ばした。勿論、全力でも何でもなく、ただただ障害を排除するような、そんな感覚で、である。

 

「な……嘗めるな蛮人共! 『反射』ある限り、貴様ら程度に――」

「これ、アンタの部下にも言ったんだけれど」

 

 足を踏み込む。ベコリ、と石畳が陥没し、その勢いを込めて一気にルイズは加速した。大剣は肩に担ぎ、視線は真っ直ぐ前を見て。

 エスマーイルの眼前の空気が歪む。『反射』の呪文によって、精霊がルイズの攻撃を押し返そうとエスマーイルに力を貸していた。彼女の攻撃は弾かれ、それがそのまま向こうへのダメージに転化する。それが、本来の呪文の効果だ。

 ルイズは弾かれない。空気の歪みが何だと言わんばかりに、迫り来るそれごと切り裂かんと彼女はデルフリンガーを振り下ろす。

 エスマーイルは、目の前の存在に疑問を持った。悪魔、確かにそう評したが、こんな化物だとは予想だにしていなかった。所詮は蛮人、そう高を括っていた。それを煽るように、胸の宝石が輝いていたからだ。

 精霊の力によって作り出されていた『反射』の障壁は、ひび割れ砕け散った。ルイズは動きを止めていない。彼女の斬撃は、真っ直ぐ、エスマーイルへと向かっている。精霊が呆れたように彼との契約を打ち切って離れていくのを、どこか他人事のように感じ取った。

 

「嘗めんな、は――こっちのセリフよ!」

 

 真一文字。上から下へと一直線に振り下ろされたそれは、エスマーイルの意識を飛ばし、彼の体を満身創痍にし、そして。

 胸の赤い竜の鱗のような石の輝きを、蝋燭の火を吹き消すように消し飛ばした。




リッシュモンと比べるとさくっと倒されるエスマーイル

あ、
火の封印が解除されました

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