ハルケギニアの小さな勇者   作:負け狐

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ラストバトル


その23

 飛竜を蹴り飛ばした。勢い良く目標に向かって飛んでいくそれは、しかし激突しても大したダメージにはなっていなかったらしい。古代竜は目の前に現れた彼女を見ても別段何か反応をすることはしなかった。

 が、ルイズは別である。ふん、と鼻を鳴らしつつ、しかしどこか不敵に口角を上げつつ。手に持っていた大剣を突き付けると、ゆっくりと口を開いた。

 

「さて――また会ったわね、エンシェントドラゴン」

 

 古代竜に反応はない。煩い羽虫がやってきた、程度の認識なのか、己の体から生成する飛竜や竜頭を使いそのまま押し潰そうとするのみである。否、目標はルイズですらなくその他大勢の全て、目に映る邪魔者を潰そうとしているだけなのかもしれない。

 ふん、とルイズはもう一度鼻を鳴らした。突き付けていた大剣を肩に担ぎ、そして先程までより強く握り込む。嘗めんな、と声にはしないが口がその言葉を形作った。

 振り抜いた剣は、眼前の飛竜や竜頭の波を押し戻す。吹き飛び砕け散るそれらを見ることなく、ルイズは一歩踏み込むともう一撃剣を振るった。

 

「ま、そっちがわたしを見ないんなら、別にいいわ」

 

 でも、とルイズは続ける。もう一歩踏み出し、まるで爆発でも起こすような勢いで飛竜の群れを吹き飛ばしながら、ゆっくりと古代竜を自身の攻撃範囲に近付けていく。

 

「それで死んでも――文句言うんじゃないわよ!」

 

 吹き飛んだ飛竜の破片が古代竜へと散弾のように叩き付けられる。それがどうしたとばかりに無反応であった古代竜は、しかしいつまで経っても押し潰されない羽虫に不快感を覚えた。

 仕方ない、では直接潰してやろう。そんなことを思ったかは知らないが、古代竜はルイズを見下ろすとその前足を振り上げた。勢い良くそれを振り下ろし、ベシャリと邪魔なそれを。

 

「古代竜ってわりに」

 

 その前足が途中で止まった。否、動かなくなった。自身の意志とは無関係に、これ以上下ろすことが出来なくなった。む、と少しだけ目を見開いた古代竜は、そのままその前足がかち上げられたことで短く唸り声を上げた。視界には、剣を振り上げたままこちらを睨んでいる羽虫が一匹。

 そういえば、あの顔は見覚えがある。古代竜は今更そんなことを思った。

 

「随分と、記憶力はお粗末みたいね!」

 

 足に力を込めたルイズは、そのまま一気に跳躍した。かち上げた前足を足場にして蹴り飛ばし更に高く上がった彼女は、そのまま視線だけはこちらを見続けている古代竜の頭へと辿り着く。

 デルフリンガーを思い切り上段に構えると、ルイズはそのまま下に落ちる勢いも利用しながら振り下ろした。向こうの虚を突いたこの一撃は、まず間違いなく古代竜の頭蓋に当たる。倒せずとも、ダメージにはなる。

 

「っと。そう簡単にはいかないか」

 

 顎を大きく開き、その牙を持って古代竜はルイズの一撃を迎撃した。ここで牙をへし折れれば万々歳であったが、流石に古代竜の名は伊達ではなかったらしい。ギリギリとぶつかり合った剣と牙は、双方が弾かれるように下がったことで仕切り直しと相成った。

 

「デルフ」

「おう?」

「大丈夫?」

「おう。能力以外は別段問題ねぇからな。そっちの心配は無用だぜ」

「了解。んじゃ、全力で行くわよ」

 

 有象無象の羽虫から厄介な邪魔者へとルイズの認識を改めたらしい古代竜がこちらを睨んでいるのを見ながら、彼女はデルフリンガーを肩に担ぐ。彼女が思い切り剣を振るう為の構えを取る。

 古代竜はブレスを放たんと口を開いた。今更食らうか、とルイズは足に力を込めそのまま一気に突っ込んだ。着弾地点には既にルイズはいない。古代竜の気付いた時には、ブレスを吐いたことでがら空きになっている胸部へと肉薄していた。

 

「とりあえず、これが――」

 

 剣を握る手に力が篭もる。全身の筋肉が一撃を叩き込むために余すことなく脈動しているのが感じ取れる。それを放って尚、己には活力が沸いてくることを理解する。

 ああ、今の自分は万全だ。そんな自信が、ルイズの中に駆け巡った。

 

「あの時の、お返しよ!」

 

 その一撃は、古代竜の鱗に弾かれることなく届いた。胸部の鱗が弾け飛び、古代竜が悲鳴とも取れる咆哮を発してしまう程度には。

 

 

 

 

 

 

「んなっ」

 

 吹き飛ばされた。自身が穿った胸部のその穴から見えるのは夜空を思わせる黒。そしてそこから吹き荒れる風といっていいのか分からないそれにより、ルイズは再度距離を開けさせられたのだ。体勢を立て直し着地した彼女は、その空間を仰ぎ見る。そこから吹き出していたものは消え、今は逆に何か別のものを吸い込もうとしているように見えた。

 

「相棒」

「どうしたのよ」

「ありゃあ、ちいとばかりマズいかもしれん」

 

 デルフリンガーが言っているのはあの穴に間違いあるまい。そのことを理解したルイズは話の続きを促した。まあ確証があるわけではないが、と前置きをしたデルフリンガーは、剣らしからぬ緊張で唾を飲み込むような仕草を取り、彼女に答える。あれは、古代竜の中身が溢れそうになっている前兆だ、と。

 

「中身? って、どういうことよ」

「ブリミル達があれを厄災って呼んでたのは知ってるだろ? 古代竜の中身は、まさにその通りなのさ」

 

 曰く、古代竜は竜とは種族が違う。そもそも、生物かどうかも定かではない。竜の形をしているのは、畏れ敬われる存在としての形、支配者として分かりやすい姿を取っているだけなのだとか。竜や亜人を支配下においているのは体内の厄災としての特性であり、それに立ち向かう理性を持つ存在に効果が薄いのはそのためであるらしい。

 

「多分だけどよ、『大いなる意思』に従うっていうエルフがエンシェントドラゴンから逃げなかったのは、そのせいなんじゃねえかな」

「成程、ね」

 

 過去の夢を思い出す。そうして立ち向かった者達は、世代を経て今この場でも立ち向かっている。厄災になど負けない、と勝負を挑んでいる。

 何だ、別に恐れることはないじゃないか、そんなことを思い、ルイズは思わず口角を上げた。

 

「で、それの何が問題なのよ」

「まあ相棒ならそう言うと思ってたけどよ。今言った通り、あれの中身は厄災だ。――当然、半身も厄災だ」

「半身って、さっきテファ達がぶっ壊したらしいあれ?」

「おう。……破壊されたから完全に取り込むことは不可能だろうが、穴が空いたお陰で破片程度なら吸い込むことが出来るようになったみてーだな」

「げ」

 

 マジかよ、とルイズは足に力を込める。その話が本当ならば、古代竜はほんの一時的にしろ能力を取り戻す可能性があるということだ。そうなるまえに、止めを刺さなくては。

 そう判断した彼女であったが、穴から流れる『厄災』、これまで以上の力と量を持った飛竜や竜頭の群れに足止めを食らってしまう。黒く、星のような模様を持ったそれらが次々と出てくる光景は、剣と魔法が当たり前のハルケギニアでもある種幻想的であった。

 

「ちょっとデルフ! あれどんどん流れてるわよ!」

「流れる端から半身の欠片を取り込んでるな。こいつぁエンシェントドラゴンとしてはもう消えかけ――」

 

 咆哮が響いた。ズシン、と地響きを立てながら、古代竜は翼を広げ、しかし飛ぶことなく前進を始めたのだ。ジロリと眼下のルイズを睨むと、貴様だけは許さんとばかりに顎を開き咆哮を叩きつける。

 ビリビリとそれを受けながら、ルイズはデルフリンガーに問い掛けた。何が何だって、と。

 

「厄災としても、エンシェントドラゴンとしてもまだ健在ってか。厄介だな」

「誤魔化さないの。それにデルフ、アンタ本当にそう思ってる?」

「ああ、思ってるさ。相棒一人じゃ、ちっとは厄介だなってな」

「あ、そう」

 

 ふうん、とルイズは笑う。途中で気付いたのか、デルフリンガーも少しだけ楽しそうに鍔をカタカタと鳴らした。

 一人ならば、とそう述べた。それはつまり、一人でなければさほど問題ではないということでもある。そして、ルイズが一人であるかという問い掛けは当然愚問である。

 星空を模した模様の飛竜と竜頭が吹き飛んだ。炎が縦横無尽に暴れ、夜空とは違う黒に染め上げる。消し炭へと変えていく。氷の竜巻が吹き荒れ、キラキラと星の瞬きだけ残して消えてしまったように、凍りついたそれらが砕けていく。

 トン、と軽やかな着地の音がルイズの隣に響いた。左には、赤い、炎と情熱を体現したかのような髪を持つ少女が楽しそうに微笑みながら彼女を見ている。右には、青い、冷静と清浄を体現したかのような髪を持つ少女がいつになく嬉しそうに口角を上げながら彼女を見ている。

 キュルケ、とルイズは左の少女の名前を呼んだ。タバサ、とルイズは右の少女の名前を呼んだ。

 ルイズ、と二人は彼女の名前を呼んだ。

 

「三人揃ったし」

「エンシェントドラゴン退治と」

「行きましょうかぁ!」

 

 

 

 

 

 

 溢れ出る厄災に汚染された飛竜共など、もはや敵ではない。古代竜の牽制程度の効果しかないそれを、三人は弾き飛ばしながら攻撃を加えていく。鱗で覆われている部分はこの状態でもまだ決定打にはならない。当然狙うべき場所は限られる。

 頭か、ルイズの開けた厄災の流れる穴か。

 

「わたしとしてはどっちでもいいわよ」

「あたしもこだわりないわねぇ」

「同じく」

 

 まあでも、とタバサは視線を少し上げた。しいていうならばあっちだな、と杖でそこを差した。

 

「あの穴を広げて、風通しをよくさせる」

「いいわねぇ、それ」

「うし。んじゃそれで行きましょうか」

 

 ルイズが駆ける。タバサは杖を構え直し、呪文を唱えながら回転させた。そしてキュルケは、杖の先を地面に向けて少しだけ目を閉じる。

 

「キュルケ? それは」

「ま、見てなさいな。タバサは援護よろしく」

 

 火球が足元に落ちた。それを合図にして大地へ縦横無尽に火が走る。以前は獲物に食らいつかんとする蛇であったそれは、今は趣を変えていた。相手を束縛する縄、あるいは鎖。

 

「恋の炎は、時に相手を束縛してしまう。そんなイメージでどうかしら」

「微妙」

「やっぱり? んー、まあいいわ。行くわよぉ!」

 

 杖を振るう。それを合図に、地面の鎖が古代竜へと飛び掛かった。一本一本が古代竜の四肢に巻き付き、進軍を止め、身動きも止める。引き千切ろうと暴れても、次から次へと絡み付くそれが許さない。が、炎で出来ていて尚ギチギチと音を立てて軋んでいることから、その優勢は長くは続かないであろうことも呪文を放った当人であるキュルケにはよく分かっていた。

 嵐が吹き荒れた。鎖を引き千切ろうとしている古代竜の四肢を己の意思とは真逆に捻るその風は、先の拘束も相まって身動きを取れなくし大地に縫い付ける効果を生み出している。杖を振り抜いたタバサは短く息を吐くと、追加の呪文詠唱の準備に入った。これでどうにか出来る程度ならば、最初の激突で始末出来ている。

 

「そうでもないみたいねぇ」

「……完全復活出来なかったから、弱体化していった?」

「あとは、あの穴じゃなぁい?」

「成程」

 

 どうにか出来るわけではない。が、それなりに効果は出ている。そう確信した二人は、ならばと追加の呪文をぶっ放す。己の得意呪文、巨大な火球と、氷の竜巻を。

 戦略兵器もかくやという衝撃が走った。勝手知ったる親友だ、どこにそれを叩き込むかなどと重々承知。二人の呪文は寸分の狂いもなく古代竜の左腕にぶち当たり、そこを拘束していた呪文ごと吹き飛ばした。鱗が木っ端微塵となり、星空のような中の厄災が形を保てずに崩れていく。

 そして左腕の厄災を丸々使った星空の火竜が生まれ落ちた。巨大な翼を広げ、本体の拘束を解けとばかりにキュルケとタバサにブレスを放つ。

 ルイズは振り向かない。その程度であの二人がやられるはずもないし、左腕を吹き飛ばされた古代竜に追撃を与えるのが自分の役目だからだ。

 

「だから――」

 

 ルイズは振り向かない。それをするのは自分の役目ではない。自分ではなく、自分の手足となってくれるような存在の役目だ。

 メイジにとってそれは。

 

「何とかしなさいよ、サイトぉ!」

「おう! 任せろぉぉ!」

 

 主人のように、あるいは師匠のように。弾丸もかくやという勢いで突っ込んできた才人は、星空の火竜を吹き飛ばした。顎をかち上げブレスを防いだ彼は、そのまま追撃とばかりに刀を振るう。

 

「キュルケ! タバサ!」

「はいはい」

「ん」

「ルイズの援護の続きよろしく!」

「任せなさい」

「おっけー」

 

 サムズアップ。そして同時に己の杖を重ね合わせた。キュルケの杖とタバサの杖が共鳴し合い、六芒星が生み出される。範囲を調整し、なるべく邪魔にならないように狙いを定めた。

 ヘクサゴン・スペル。正式にそう名乗ることは恐らく出来ないであろう、大分放つことに慣れてきたそれを古代竜へと叩き込む。左腕に続いて左脚に命中し、盛大に抉れたそこは中身の厄災がゴボリと溢れ出た。

 キュルケとタバサは駆ける。溢れた厄災が蛇のような竜を象った何かになるのを確認する前に、後はこちらも突っ込むだけだと言わんばかりに。

 才人は体勢を立て直した星空の火竜の翼を切り落とした。飛行能力を失い落下する火竜は、しかし尚も反撃をせんと尻尾を振るい、牙を突き立てんと迫りくる。その程度で今更やられるかよ。そんなことを叫びつつ、尻尾も首も斬り飛ばした彼はその死体を一瞥することなく駆け出した。邪魔者退治の後は、本命をぶっ飛ばすのだ。

 三人がそんな行動を開始する頃には、ルイズは古代竜へと肉薄し終えている。残る右半身を使い、押し潰さんとする古代竜を、負けてられんと力任せに吹き飛ばす。左半身の溢れる厄災を使った攻撃も、生み出す飛竜は相手にならず、厄災で飲み込まんとしたところで彼女にそんなものが通じるはずもない。

 彼女の背後を厄災で出来た蛇竜が吹き飛んでいった。いえい、とキュルケとタバサが駆け寄り、ポンとルイズの背中を押す。

 はいはい、と一歩踏み出したタイミングで古代竜がブレスを放とうとした。まずい、と三人は横っ飛びで回避し、追撃の振り下ろしを受け止めようと得物を構える。

 古代竜の振り下ろした尻尾は綺麗に両断された。そのことだけを考えていたからか、着地や体勢を全く考えていない才人が頭から落ちたが、痛いとぼやくだけで大したダメージは無さそうである。

 古代竜は数歩後ずさった。厄災の中身が溢れ出す。本来ならば絶望してしかるべきこの状況で、目の前の羽虫は何故ここまで立ち向かえるのだ。これまで多くの英雄と呼ばれていた存在が決死の覚悟で、それでも倒し切ることの出来なかった厄災を、どうしてこんな奴らが。

 元来意思の無い厄災が、恐怖と絶望を振りまくだけのそれが。これまで与えていたものがどんなものであったのかを、理解することが出来たのか。その答えは否である。認めない、と。こんな羽虫共に打倒されるはずがない、と。古代竜として存在した厄災は、決して折れずに、厄災として最後の最後までそうであろうとしたのだ。

 再度ブレスを放つ。全力のそれは、当たれば間違いなく消し炭であり、放たれればハルケギニアに何らかの悪影響が与えられるのは間違いない。そんな代物であった。

 だから当然、そんなものを放たせるわけにはいかない。四人は一斉に駆けた。キュルケもタバサも才人もルイズも、全力で古代竜の顔面をぶちのめした。

 ぐらり、と古代竜の体が揺れる。だが、戦意は消えていない。一度失敗しようが、再度放つだけだとその口を開け、牙を剥き出しにした。

 もう遅い。ピンクブロンドの剣士は、大剣を肩に担ぎ、足に力を込め。一気に飛び込み、それを顔面に叩き込む。

 

「ルイズ!」

 

 キュルケが叫ぶ。

 

「ルイズ!」

 

 タバサが叫ぶ。

 

「ルイズ!」

 

 才人が叫ぶ。

 

『いっけぇぇぇぇ!』

 

 三人が同時に叫び、拳を突き出すのをチラリと見たルイズは笑った。任せろ、と叫び返した。

 己の一撃を、皆と仲間と共に駆けたこの一撃を。

 

「叩き込んでやるわよ! エンシェントドラゴン!」

 

 その剣閃は光であった。厄災を切り裂き、未来を切り開く光であった。夜が明けるように、星空が青空に変わるように。二つの月が、一つの太陽に変わるように。

 エンシェントドラゴンは、その一撃で両断され、消滅した。

 

 

 

 

 

 

 大丈夫なのか、とファーティマが問う。問題ないだろうとアリィーとルクシャナは返し、彼女のその言葉に笑みを浮かべた。

 

「あ! あれ!」

 

 ティファニアが指差した先、そこにはこちらに向かってくる風竜が一匹見える。エルザと『地下水』はその背中に乗っている人数を見、ちゃんと四人いることを確認して安堵の溜息を吐いた。

 そうしているうちに、シルフィードは『オストラント』号の甲板に降り立つ。周りのフネからは大歓声が上がり、勇者万歳、という叫びがそこかしこから聞こえていた。

 少しだけよろけつつ、四人はそのままシルフィードの背中から降りる。見知った顔が皆笑顔で自分達を迎えてくれたこと、そして誰かが欠けているなどということもないのを確認し、安堵の溜息を吐いた。

 さて、とルイズは一歩踏み出す。さっきからこちらをじっと見詰めている二人に何かを言おうと思ったのだ。約束をしたのだから、それを果たそうと思ったのだ。

 姫さま、とルイズはアンリエッタを呼ぶ。はい、と短く返した彼女に向かい、ルイズは軽くデコピンを放った。

 

「痛いじゃないですか」

「手加減しましたよ」

「知っていますわ。……これだけでいいの?」

「今回はまあ、しょうがないってことで」

 

 でも一発殴るって約束は果たしたかったから。そう言って笑うルイズに、ならしょうがないですわねとアンリエッタも笑った。

 そうしてひとしきり笑った後、ルイズはもう一人に目を向けた。静かに、しかし微笑を浮かべたまま佇むメイドに。待ってくれていた友人に。

 

「シエスタ」

「はい、ルイズ様」

 

 シエスタに、先程の約束を果たすために。ルイズは笑顔で、こう述べるのだ。

 

「ただいま」

「はい! お帰りなさいませ、ルイズ様」




多分次回で最終回

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