日仏雀恋大戦 最後にアガるのは私!   作:タピタピ

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第20話 シフォン・エウリア

 

 

世界ジュニア。それは世界各国から代表選手が集まり、数日をかけて優勝を争う大会である。

 

形式は5つに分けられ、

 

1、男子団体

2、女子団体

3、男子個人

4、女子個人

5、男女混合団体

 

である。昨年の俺はU-15の方で、フランス代表として参加し、男子個人戦1位と、男女混合団体で4位を掴んだ。

 

俺は今年は参加を辞退している。もちろん各方面から要請はあったし、メディアにも色々と騒がれたが少なくとも今年は出ることは厳しいだろう。

 

だが、それでも気になるものは気になるのだ。

 

今現在俺は姫松の部室にてそのライブ映像を見て試合の開始を待っていた。

 

 

「てっきり空亜も出るもんかと思ってたんやけどなぁ」

 

 

洋榎が残念そうに呟きながら椅子に頬杖をつきながら腰掛ける。その言葉に反応したのは横に座った恭子だった。

 

 

「空亜は出ないってIHの時から言ってたやないか……。空亜の知り合いも出てるんか?ほら、フランスにいた時とかの」

 

「あー、フランスはどうだろ。あんま知らないなぁ。ドイツに仲良い奴が出るはずだけど、あとは他のヨーロッパら辺にぼちぼちかなぁ」

 

「ドイツって、予選グループ同じやなかったか?」

 

「そうだぞ。多分うちの先鋒は宮永だし、そこで当たるんじゃないか」

 

「日本のグループC初戦はドイツとオーストリアとキューバやな」

 

 

現在スタートを待っているのは男女混合団体。団体戦は各グループに8か国が割り当てられ、4試合でのリーグ戦の総合順位上位2国が決勝トーナメント、ベスト8に進めることになっている。

 

現在日本は過去一度としてこの決勝リーグに進めてはいなかった。故に日本は麻雀後進国と他国に揶揄されてしまっていた。

 

 

そんなことを話していると画面が切り替わり、暗い部屋に明かりがつく。その真ん中には主役である麻雀卓が鎮座していた。

 

 

そこに向かう1人の選手を見て、数時間前の電話の内容が頭に蘇ってくる。

 

 

 〜 数時間前 〜

 

 

洋榎からほいっと投げられたスマホは振動し、電話を知らせておりその名前をまた俺は少し憂鬱になりながら耳元にそれを当てる。

 

 

『……どしたー?』

 

『なんで出てないの!?!?』

 

『うる、っさ。いや、俺にも色々事情があったんだよ』

 

 

相変わらずどんな声量してやがる……、耳がキーンなったわ。

 

そんなこともお構いなく話し相手は声を荒げ続けていた。

 

 

『じゃあ誰が僕の相手するのさ!?』

 

『随分な自信じゃないか』

 

『?そりゃそうでしょ、実際僕に勝てる同世代なんてクアかエルかアレイだけなんだから。……いや、アレイには負けないね!』

 

 

絶対の自信。それだけ彼女は自分のことを信頼し、それに裏付けるだけの実力と戦績を持っていた。

 

だが、1ヶ月ほど前のことを思い出し、少し笑みが溢れる。

 

 

『どっこいどっこいの戦績だろ……。まぁでも

 

 

 

 

――面白いものは見られるかもしれないぞ

 

 

 

 

向こう側がまたうるさくなったので着信を切った。

 

 

 

        ******

 

 

 

試合が始まる前、日本代表として選ばれていた私は監督と初戦の相手についての資料を読んでいた。

 

 

「初戦からドイツはついてないねぇ……」

 

「そうなんですか?」

 

 

日本の初戦の対戦相手はドイツ、オーストリア、キューバ。

 

その初戦において監督が目を止めたのは今大会において優勝候補筆頭と呼ばれているドイツであった。

 

監督がため息をつきながら言葉を紡ぐ。

 

 

「『調律者』って知ってるかい?」

 

「……いえ」

 

「なら沖野空亜は知ってるだろう?それと同じ高みにいる選手だよ」

 

「!」

 

 

沖野空亜。先日私に圧倒的実力を見せつけ、私を完膚なきまでに負かした人である。その選手と同格という話であるというなら

 

 

「確かに、ついてはないですね」

 

「だろう?」「でも」

 

 

「――負ける気も別にないです」

 

「……やっぱり、インターハイから変わったねぇ」

 

 

監督が言うように私は少し変わったと思う。

 

あの日の負けから私の中でも色々と意識が変わってきた気がする。ここでこんな強い人とぶつかったのもきっと必要やことなのだろうと割り切って、

 

 

「勝ちます」

 

 

そう宣言すると、それを待っていたように選手招集のアナウンスが部屋に響く。監督に激励をもらい、壇上に卓の置かれた部屋に入る。

 

階段を登りきると卓には既にオーストリアとキューバの選手がついていた。

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

そう軽く声をかけると2人とも挨拶や軽く頭を下げてくる。思ったより殺伐した雰囲気でないことに安堵して席に着くと同時に最後の選手がドアを開けた。

 

その選手はゆったりとした雰囲気で壇上に現れる。

 

 

「よろしく〜」

 

 

 

その選手『調律者』シフォン・エウリアはそんな抜けた挨拶をすると、なぜかじっとこっちを見てきていた。

 

その瞳はなぜかこっちを向き続けている。その理由が見当たらない私が困惑していることに思い至ったのか、彼女は手をワタワタさせ始める。

 

 

「あ!ごめんごめん!特に意味ないから忘れてくれていいよ!」

 

 

そんなことを宣い、席に着く彼女に私はますます困惑を深くすることになった。

 

 

 

        ******

 

 

 

(日本、クアの行った国、か……)

 

 

壇上に上がったボクはそんなことを考えていた。クアではないその子がどうしてこっちを見ているのかという困惑を向けていることに気づくと慌てて訂正に入る。

 

いけない、これは試合であると、頭を入れ替え席に着く。

 

試合が始まり、自動卓が動き始めると手牌が配られる。手牌からいらない西を切りながら再び日本の選手を見る。名前は、そうテル。テル ミヤナガとデータ班が言っていたはず。

 

クアが言ったんだ、面白いものが見られるって。てことはボクと戦う人ってことでしょ?じゃあ先鋒に出てる彼女のはず。

 

クアに気に入られてるぐらいだから期待は持てるよね。

 

でもさ、期待と同時に、

 

 

「っ!?」

 

 

ボクはキミを倒したい。

 

彼のそばにいていいのは彼と並び立てる者だけなんだよ?

 

 

――キミにその資格はあるのかい?

 

 

 

 *** 

 

 

 

「っ!?」

 

 

私の親番にキューバの選手が和了り、いつも通り照魔鏡を使うとその選手の最後に悍ましいものを感じた。

 

ドイツのキャプテン、シフォン・エウリア。

 

一年生ながら強豪ドイツでキャプテンを背負った少女を照らした鏡を見る。

 

その能力はまさしく人の域を超えているものであった。

 

 

(……これが、沖野空亜に並ぶ人の力……。それになんだかこっちもずっと見られてるような気がしてる)

 

 

この相手をどうにか倒す必要がある。

 

倒さなければ先には進めない。

 

 

順が回ってくると、手牌から余りの{①}を打ち出す。

 

 

「ポーン」

 

 

軽い声と共にエウリアさんの元に吸い込まれていく。

 

そして、

 

 

「ロン」

 

 

晒された手牌、それを見て全員の目が曇る。

 

 

シフォン 手牌{②②②③④⑤⑥⑦⑦⑦} ポン{①①横①}

 

 

「12000」

 

「なっ……」

 

 

その跳満からそれは始まった。

 

 

 

 *** 

 

 

 

「これ、は……」

 

 

部室にて恭子は思わず立ち上がり絶句。

 

 

「はっはっは!まるで空亜みたいやなぁ!」

 

 

洋榎は面白おかしそうに笑い転げていた。

 

その様子を見て俺は再び画面に頭を向け直す。そこではちょうどシフォンが5回目の連続和了を決めているところだった。

 

 

「こいつのこれにロジックなんてかけらもないけどな」

 

「?じゃあこれオカルトなんか?」

 

「そうそう。言うなら格下殺しだな」

 

 

シフォン・エウリア。ドイツの『絶望の世代』の1人で、弱冠15歳にてドイツのキャプテンを背負った少女。

 

彼女のオカルトはまさしく神の真技と言えるような代物である。

 

 

「……これ、どうなるん?あがり続けるんか?」

 

「いや直に止まるぞ。うちのチャンピオンがやってくれるんしゃないか?」

 

 

こちらに見えた宮永の手牌はまさしく絶好。いくら強かろうと、麻雀には運も絡んでくる。

 

 

「お?これ……」

 

「配牌一向聴。そんでドイツは、三向聴か。流石にとらえるか?」

 

「そうだな。とらえるならここだ」

 

 

 

 *** 

 

 

 

「ロン 1000は3100」

 

「!はい」

 

 

その宣言を聞いてから点棒を彼女に渡す。

 

にしても、ほんとに止まるのかぁ……。果たしてどんなもんやら?

 

 

「!」

 

 

瞬間、()()が明らかにおかしくなり始め、そこからまさしく一瞬の出来事であった。

 

 

 

「ツモ 600オール」

 

「ロン 3500」

 

「ロン 6700」

 

「ツモ 4300オール」

 

 

(…………止まらない)

 

 

ただ和了り続けているだけ。側から見ればさっき自分がしていたことと全く同じ。

 

だが中身が明らかに違う。

 

 

(なんだ、法則があるはずだ。探せ。どこに仕掛けがある?……目、いやそれだけじゃ足りないはず。となると、手牌が良くなってるのか。条件は、流石にわからないな。もしこれが無条件に発動するんなら流石にうかうかしてられなくなってくる)

 

 

そして、

 

 

「そこまでだね。ロン 3900は5400」

 

 

そして前半戦の終了を促すブザーが部屋に鳴り響いた。

 

各々が席を立つ中、残ったボクは同じく残っていたテルの元に向かった。

いきなり前に立たれたテルは明らかに狼狽した様子で目線を若干下に下げる。

 

 

「テル ミヤナガ、テルって呼んでもいい?」

 

「あ、はい。いいですけど……」

 

「じゃあテル!すごいね!まさかここまでできるなんて驚いたよ!」

 

「そう、ですか?」

 

 

いきなり話しかけたからだろうか、テルも流石におどおどしているようだがそれでも会話はしてくれる。

 

 

「うんうん!期待以上!まさか()()()かけてたとはいえここまでできるなんてすごい!」

 

「稼ぎ負けてるんですけどね……」

 

 

そう言いながら手元に置いていた個包装を一つ開けると口に含むと一気に顔がふにゃふにゃになっていく。

 

ただそれはボクにとっては馴染みのないもの、見たことすらないものだった。

 

 

「?それなに?」

 

「これ、ですか?えっと、日本のお菓子で、どら焼きって言うんですけど……えっと、一つ食べ「いいの!?」あ、はいどうぞ」

 

 

思わず食い気味になってしまったが、テルに渡された同じものを口に近づける。

 

 

「いただきまーす!…………う、うまぁぁぁっ!!」

 

「……」

 

 

おもわず天を仰ぐようにのけぞる。う、うま!?なにこれ、うまっ!?

 

 

「テル、テル!これすんごい美味しい!中に入ってるのは何?」

 

「えっと、あんこって言って、豆を潰して煮たもの、ですね」

 

 

あんこ、知らないなぁ。クアも好きだったりするのかな?ボクはそれを一気に口の中に放る。

 

 

「へ〜、うん、ご馳走様!これ、今までに食べたスイーツで1番美味かった!これって日本だと結構メジャーなの?」

 

「どこでも売ってると思いますよ」

 

「じゃあ今度クアに会いに日本に行く時にいっぱい買おーっと」

 

「……やっぱり、お知り合いなんですか?」

 

 

ボクの発言に少し気になったのか、やはりクアが有名だということに鼻が高くなりながら答える。

 

 

「うん!中学まではフランスだったから割といつでも会いにいけたんだけど、日本となるとなかなか行けないからさぁ。はぁ、今日こそ会えると思ってたのになぁ」

 

「フランス……」

 

 

思うところがあったのか、また少し考え込むような顔になるテル。

 

 

「テルはクアに会ったことある?」

 

「……先日、ボコボコにされました」

 

「あはは……まぁクアだからね。手加減なんて器用な真似できたら今頃彼女の1人や2人作れてるだろうし」

 

 

あんの鈍感バカは麻雀のことしか考えてないくせに、それですら一度始まったら歯止めが利かなくなるとか、ほんっと……

 

それでいて優しいからたまったもんじゃない……!

 

そのつぶやきにも似たぼやきを聞いたテルの口から言葉がこぼれる。

 

 

「彼女……」

 

「お?テルもクアが好きなのか?」

 

「いえ、全く」

 

「無表情すぎて怖い!?」

 

 

その目には先ほどのどら焼きを食べていたときのキラキラが失せ、全く光が無くなっている。……えぇ……何したらこんなに嫌われる?いや、怖がられてるのか?

 

 

「エウリアさんは「シフォン」?」

 

「だーかーら!シフォンって呼んでくれていいってば。同い年だし、さん付けとか面倒でしょ?あとタメ口ね」

 

「…………シフォン」

 

「うんうん!」

 

 

呼んでくれたのはうれしいけどそんなに長いタメ必要だった?全く、テルは恥ずかしがり屋だなぁ~。

 

 

「……シフォンは彼のこと好きなの?」

 

「好き!」

 

「すごい声張ったね」

 

「最近会えてなかったからねぇ。あの鈍感は気づかないし」

 

「そうなんだ」

 

 

ここだけは隠さない。ボクはクアが好き、愛してる。

 

だって彼はボクの隣で一緒に歩いてくれた。進んでくれた。

 

あの頃のボクにはそれだけで十分だった。好きになるには十分すぎる理由だったんだ。

 

 

あいつはそんなこと何も分かっちゃいないけどね!!!

 

 

「そうだよ、他にも好きとか言ってる女狐どもはいるけど、誰も気づいてもらえてないらしいし」

 

「女狐……」

 

「はぁ……。あ、そうそう聞きたいことがあったんだよ」

 

「?なに?」

 

 

そろそろ時間も少なくなってきて最後に聞きたいことが1つだけ。少し息を吐いてから言葉にする。

 

 

「――照は牌に愛されてる人っていると思う?」

 

「――いるよ。間違いなく」

 

 

その問いにテルは悩むことすらなく即答した。その答えに少し驚きが生まれる。

 

 

「へぇ……、テルは自分がそうとは思わないの?」

 

「どう、なんだろ。でも、私よりも妹の方が、愛されてる気がする」

 

 

姉妹揃って()()()()ってわけか。とんだバケモン家族だなそりゃ……。

 

 

「言っとくけどキミも愛されてる側だと思うよ?」

 

「シフォンは言うまでもないね」

 

「まぁね」

 

 

絶対の自信。飾る言葉はいらない。ボクは牌に愛されてると確信があるから。

 

世界ランカーの上位なんてみんな自信を持っている。自分に心酔できないならそいつはその程度。

 

ただあの人を除いては。

 

 

 

「じゃあテル、後半戦は手加減なしで行くからね?」

 

「うん、私も」

 

 

他の選手が入ってくるのを見るとお互い席に戻ってボクは目を閉じる。

 

 

ボクは『調律者』シフォン・エウリア。

 

 

全てはボクの手の上で転がっている。

 

 

 

 *** 

 

 

 

前半戦が終わった後、俺らは思い思いに感想を言い合っていた。

 

 

「宮永、割と戦えてるんやないか?」

 

「そうだなぁ。正直想像以上ではあった。ただ……」

 

「なんか気になることでもあるん?」

 

「いや、シフォンが手抜いてるから後半戦はどうなるかなぁって」

 

「手を抜いてる!?あれでか!?」

 

 

ぎょっとした顔でこちらに顔を向ける恭子。まぁあの暴れっぷりならそりゃそういう反応にもなるか。ただ運が悪かった、他二人もそれほど強くないためかシフォンのやる気がそこまで見えない。

 

 

「まぁ、さっき言ったみたいにシフォンのオカルトは明らかな格下には無類の強さを誇るからなぁ。俺みたいに対オカルト持ち専用みたいなのじゃないし」

 

「……実際さっきのやと本気の何割ぐらいに見えた?」

 

「……4?」

 

「「4!?!?」」

 

「いや、どうなんだろ。全力出せば連荘をもっと早くに止められると俺が勝手に思ってるだけで意外に手こずってた可能性はあるからなぁ。案外全力出してたのかもしれないけど」

 

 

俺が今回の前半戦で驚いたのはそこである。正直ここまで宮永が善戦できるとは思っていなかった。故にこれがどっちの仕業なのかが分からなくなっていた。

 

その見解を聞いて出ているわけでもないが恭子が顔を青ざめさせていた。一方洋榎はのほほんと集まってくる卓の様子を眺めていた。

 

 

「……後半戦は大丈夫なんか?」

 

「んまぁ原点持ち帰ってくれたら万々歳じゃないか?なんたって世界ランカーだぞ?」

 

「今の日本は115600点やからまぁ妥当なとこやな」

 

「あとはシフォンに目をつけられないことを祈るばかりだな」

 

 

 

 *** 

 

 

 

「ツモ! 1000 2000!」

 

 

(……周りが前半よりも早い……)

 

 

後半戦が始まってから最初の違和感は前半戦で感じていた別の違和感がなくなっていたことであった。

 

恐らく、シフォンが何かしていたのをやめたのだろう。おかげで周りのスピードが前半戦よりも各段に早くなっていた。

 

そのせいで中々最初の和了りがもらえない。

 

 

「ロン 8000」

 

「!……はい」

 

 

そしてついにシフォンに捕まった。

 

その相手の目は今もなおこちらに向いて訴えてきている。

この程度ではないだろ、とそう訴えてくる。

 

 

…………そうだ、こんなところで止まってなんていられない。

 

あの日の約束を、菫のために、そして私のために。

 

 

「ロン」

 

 

嶺の上の花を超えろ。

 

 

「2000」

 

 

 

 *** 

 

 

 

(てっきり初発は1000点じゃないといけないのかと思ってたけど、そうでもないらしいね)

 

 

 

現在、私は自分の調律しか行っていない。つまり、前半戦よりもオーストリアとキューバが和了るようになった。

 

仮にも世界ジュニアの代表を務める選手、()()()無しならそれなりに強い。でも、あくまでもそれなりだ。

 

さぁ、テル。麻雀をしよう!

 

 

 

 *** 

 

 

 

『照は牌に愛されてる人っていると思う?』

 

 

麻雀を打つ上でたまに聞いたりする。トッププロの中には明らかに人の域を超えているとしか言えない愛され方をした人がいる。

 

それを私が知ったのはまだ小学生の時。

 

それから、約5年が経った。

 

 

 

あの頃から何も変わっていない。自分は麻雀が好きにはなれない。

 

 

『麻雀は楽しいか?』

 

 

まだ、その問いに頷くことすらできない。

 

 

 

でも――

 

 

 

 

『お前が好きになれないというのなら、私が麻雀を好きにさせてやる!それで、3年のインターハイが終わった時に、お前が楽しかった、やってよかったと心の底から言えるように私がしてやる!!!』

 

 

 

せめて、親友にだけは、

 

 

(……失望はさせたくないね)

 

 

「ツモ!」

 

 

照 手牌 {二二②②②⑥⑥⑥⑦⑦⑦⑧⑧} {⑤} ドラ{9}

 

 

「4500オール!」

 

 

 

 ***

 

 

 

試合終了

 

ドイツ    147300

オーストリア  76200 

キューバ    61500

日本     115000

 

 

 

「……すごかったなチャンピオン」

 

 

姫松高校の部室にて。恭子が軽く放心したように言葉をこぼす。

 

 

「せやな……空亜?」

 

「……ん、あぁ、すまん」

 

 

試合後の宮永照の様子をじっと見る空亜に洋榎から声がかかると思い出したかのように身じろぎをするがその視線は未だ画面に向いていた。

 

 

「なんや嬉しそうやな」

 

「そうか?ただ、いいもんは見れたな」

 

 

(少しはいい顔するようになったじゃん)

 

 

 

日本の控室では帰ってきた照が他の代表選手にもみくちゃにされながら褒められたあとに監督と話していた。

 

 

「……すいません、結構差をつけられてしまって」

 

「いやいや十分だよ。最後のあれは完全に狙われてたしねぇ」

 

「……」

 

「やっぱりいい顔するようになってきたねぇ」

 

 

試合映像のハイライトが映る画面を見ている照のことを監督である熊倉は少し嬉しそうにそう話す。

 

その言葉に照は疑問符を浮かべていた。

 

 

「?顔ですか?」

 

「うん。前よりずっと真剣な顔つきだったよ。人ってのは理由があるだけで何倍も頑張れる生き物だからね」

 

「……かもしれないですね」

 

 

少しだけ照の顔がほころぶ様子を他選手もその時初めて見たという。そしてまたもみくちゃにされたらしい。

 

 

 

一方ドイツの控室。

 

 

「おーいシフォン、手抜きすぎじゃない?」

 

「ごめん!楽しくなっちゃって!」

 

 

舌を出して謝るシフォンに呆れながらも点を取っているため文句はない選手たちがシフォンに軽く頭をこつんとするとやり返したシフォンが強めにいき、そして2人の取っ組み合いが始まっていた。

 

いつもの光景なので気にすることもないと他は傍観。監督にお仕置きを受けてからテレビで映るテルの姿が目に映っていた。

 

その様子を見た大将の3年生が少し顔を苦くする。

 

 

「……日本、うちらも沖野空亜が出てくるもんだと思ってたが、彼女も十分やばかったね」

 

「……うん、あぁ!楽しかった♪」

 

 

 〜 オーラス 〜

 

 

(ははははは!!!面白い!面白いよテル!ここまでいけるのか!)

 

 

シフォンのテルに対する感情は急上昇していた。まるで前半とは覚悟が、思いが違う。

 

それだか彼女の打牌には圧があった。

 

だからこそ、まだ足りない。

 

 

(でも、僕らと本気でやり合うにはまだまだ足りないんだよ!テル!)

 

 

「それだ!ロン!」

 

 

シフォン 手牌 {1112345678999} {6}

 

 

「32000!」

 

 

試合が終わるとシフォンはすぐさま照の元へ駆けていく。一方で照は俯きながら最後の手牌を眺めていた。

 

 

「テル!」

 

「シフォン……」

 

「楽しかった。またやろう」

 

「……次は負けない。あなたにも、彼にも」

 

「待ってるさ」

 

 

強い目で答える照にシフォンはより一層笑みを深くして上から答える。

 

 

 

 

『あ!連絡先は交換してね!今度日本にも行くからさ!』

 

「……」

 

 

それから空亜へのシフォンからの電話、メールは減り、別のだれかに的が移ったらしいがそれはまた別の話である。

 

 

 





ここまでのご精読ありがとうございました。

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シフォンは金髪です!異論は認める!
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