ただただ夢中で走り抜ける。
着ていたスーツやシャツは着崩れ、ネクタイもだらしなくぶら下がっているが気にしない。
目的の場所に着き、少し息を整える。
覚悟を決め、取り付けられている大きな扉を開きこう言った。
「さあ、私の花嫁を返して貰おうか」
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「見て見てトレーナー!」
くるっと一周回り新しく作って貰った勝負服を見せてくれるファイン。
「おお、綺麗だね。クローバーを意識してるのかな、クリーム色の生地とのコントラストが綺麗だよ」
「ふふふ、ありがとうね」
ビューティー安心沢考案のウェディングイベント。
仲間と協力して結果を残したウマ娘が"ミューズ"に選ばれ、彼女が一つ一つ手作業で手掛ける世界に一つだけの勝負服を作ってくれるイベント。
私の担当バ、ファインモーションもカレンチャン筆頭に仲間と協力して見事"ミューズ"に選ばれることに成功した。
改めて彼女の姿を見てみる。
デザインだけではなく機能性も十分兼ねているこの勝負服。
ビューティー氏が手掛ける物は全て素晴らしいのだが……
「綺麗だ……」
「あら、トレーナー私に見惚れちゃった?」
思わず口にしてしまうくらい似合っている。
ファインの良いところを全面に出したこの勝負服。
私はただただファインを見つめることしか出来なかった。
「あの……トレーナー?そんなに見られるとちょっと恥ずかしいっていうか……」
「あ、ご、ごめんファイン!でも本当に似合ってるよ」
「トレーナーにそこまで言って貰えるなら氏も本望でしょう」
手を組みそう言うファイン、その仕草全てがやはり絵になるウマ娘だ。
しかしそんなファインの表情はどこか暗い。
「どうしたのファイン、何か思い詰めていることでもあるの?」
「トレーナー……ううん、私も後ちょっとで帰らなきゃ行けないんだなって」
「ああ……そうか……」
三年という制約の中トゥインクルシリーズを駆け抜けた私たち。
ラーメン屋での奇跡の出会いから色んなことがあったがとても充実した日々になったと思う。
出会いがあれば当然別れがある訳で……
「なんか悲しくなっちゃったね」
「しょうがないよ、避けては通れない事なんだし」
「ねぇトレーナー……ううん、やっぱりなんでもない」
「うん?」
「あ!私この後カレンちゃんに呼ばれているんだ!ウマスタの写真を撮りたいって」
「お、そうか行っておいで」
「うん!」
いつもの元気な声で返事をするファイン。
トレーナー室を出る時ふとこちらを向いた。
「ねぇねぇトレーナー。私って立派な花嫁になれるかな」
突然そんな事を言い出した。
「うん、ファインなら世界中の男が嫉妬しちゃうくらい最高の花嫁になれるよ」
私はそう本音で答えた。
「うん……うん!ありがとうトレーナー!さようなら」
ファインはクルッと後ろを向き早足でトレーナー室を出た。
どうも今日のファインは何処か上の空と言うべきか、何か歯切れの悪い会話ばっかだった。
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翌日、私はいつものように出勤すると机の上に何か紙が置いてあるのを発見した。
「手紙……?」
A4サイズの紙を半分にしたくらいのサイズに見慣れた可愛らしい筆跡で文字が書いてあった。
『親愛なるトレーナーへ
突然このような形で伝えることになったのをまず許して欲しいです。
私トレーナーには内緒にしてたんだけど実は結婚相手がいたの。
お父様が選んだ私の結婚相手。
正直に言うと私は結婚をしたくない。
お相手さんが嫌だとか変な人だとかそんな理由ではないよ。
君と一緒に過ごした日々、それは何にも変えられない大切な思い出。
思いっきり走ることの出来なかった私に走ることの楽しさを教え
てくれた君には感謝を尽くせないよ。
君がこの手紙を読んでいる頃には私は結婚しているでしょう。
出来ることなら君も呼びたかったんだけどそうしたらトレーナー
は止めるでしょう?
我儘な私の最後の我儘。
このような別れになったのを許して欲しいです。
貴方が大好きでした。
ファインモーション 』
「どういうことだよ……」
たった一枚の紙切れしか机にはない。
突然言われた彼女との別れ、突然のことに私は理解することが出来なかった。
すると私の携帯に見知らぬ番号から電話が掛かってきた。
着信拒否にしたい気持ちを抑え込み電話に出る。
『もしもしトレーナーさん』
「隊長さん!?」
電話の相手はファインの護衛であるSP隊長さんだった。
「隊長さん!ファインは!ファインは一体どういう事なんですか!」
『その様子だと、殿下のお手紙を読まれたようですね』
「読みましたよ……どういうことなんですか?」
『んんっ……今から私が言うことは陛下の事を裏切るようものになるので一度しか言いません。絶対に聞き逃さないでください』
隊長さんの言葉に背筋を伸ばす。
携帯を可能な限り耳に近づけ一言も聞き漏らさないよう全神経を集中させる。
『殿下は日本の式場で挙式を挙げています。トレーナーさんが朝早い時間に学園に来てくれたこともありまだ式自体は殆ど進んでいない状態です』
隊長さんは淡々とそう伝える。
『殿下は貴方に想いを寄せています。トレーナーさんはどうお思いで?』
隊長さんが私に聞く。
私が答えるべき回答はただ一つ。
「もちろん大好きですよ。他の誰にも渡したくないくらい」
『……トレーナーさんならそう答えてくれると思ってました。式の場所は今送ります、どうするべきか後は言う必要はないですよね?』
「はい、ありがとうございます」
隊長さんとの電話を切り最低限の荷物だけを持って走り出す。
隊長さんから来た場所を確認すると走って15分程の教会で式を行なっているみたいだ。
廊下で沢山の人たちに見られるが今はそんな事を気にする余裕はない。
ただただ夢中で走り抜ける。
着ていたスーツやシャツは着崩れ、ネクタイもだらしなくぶら下がっているが気にしない。
目的の場時に着き、少し息を整える。
覚悟を決め、取り付けられている大きな扉を開きこう言った。
「さあ、私の花嫁を返して貰おうか」
教会の中心にいる花婿と花嫁。
その花嫁こそビューティー氏が手掛けた勝負服に身を包んでいるファインモーション。
その隣にいた花婿は……
「え、隊長さん?」
黒いスーツに身を包み、頭にウマ耳を生やした女性。
三年間ファインと一緒に過ごし、共にファインの我儘に振り回され続けたその本人がそこにいた。
よく周りを見てみると教会の中には私と隊長とファインの3人以外誰もいない。
「トレーナー!!」
状況を理解できず固まっているとファインがこっちに走り出し抱きついて来た。
「ふふふ、私の為に走って来てくれたのトレーナー?」
「ふぁ、ファイン?これはどういうことなの?」
「手紙に書いてあったでしょう?"我儘な私の最後の我儘"って」
「書いてたけど……」
「だからね……」
私の手を取り指を絡めるファイン。
「私と結婚して欲しいの」
真っ直ぐ私を見てそう言った。
膝から崩れ落ちそうになる体を何とか支え、大きな溜息を吐く。
「びっくりした……ほんと心臓が止まるかと思ったよ」
「えへへ、私考案のドッキリ。楽しんで貰えたかな?」
「何事にも加減って物があるだろう本当……」
「こうでもしないとトレーナーは私の気持ちに気付いてくれなかったでしょう?」
優しく笑いそう言うファイン。
「さあトレーナー、エスコートして下さる?」
手をこちらに差し伸べるファイン。
「もちろんだよファイン」
彼女の手を取り歩き出す。
新郎役だった隊長さんはいつ着替えたのか今は神父役になっている。
来賓もお互いの両親すらいない私たちだけの結婚式。
やはり彼女には最後まで振り回されたようだ。
「トレーナー、改めて言うね」
ちょんっとつま先で立ち上がりキスするファイン。
「大好きだよ!」