「こんにちは〜」
太陽が真上に登ってきた頃、心地よい日光がセイちゃんを眠りに誘う中私はトレーナー室に入る。
「おっと……トレーナーさん?」
机に伏せている私のトレーナーさん。
お疲れなのか規則正しい寝息を立てている。
「そんな所で寝ると身体痛めますよ〜?」
彼に近づき耳元でそう囁くがよほど疲れているのだろうかピクリとも反応しない。
「今日は珍しくセイちゃんトレーニングがしたい日だったんだけどなー」
いつもなら木の下でお昼寝をするような陽気だが今日は走りたい気分だった為真っ直ぐトレーナー室に向かった。
決してトレーナーさんに会いたかったとかそんなことじゃないから!
「トレーナーさんが寝るならセイちゃんも寝ていいですよね」
トレーナーさんが座っている椅子を引き、身体を横抱きにする。
成人男性にしては軽く、私でも簡単に持ち上げられる彼。
目の前にあるトレーナーさんの顔。
少し私が屈めばその唇を奪うこともできるが……
「いやー寝てる人相手にそんな事はできないよね」
顔に熱が集まるのを感じる。
とにかく今は彼を寝れる場所に移動させることが1番大切だ。
「よいしょっと……」
来客用の少し広いソファー。
トレーナーさんの全身がぎりぎり収まるくらいのソファーに彼を寝かせその横に自分も寝る。
「セイちゃんと一緒にお昼寝できるなんてトレーナーさんはなんて幸せなんでしょう」
ふふーん鼻歌を歌いそうになるのを我慢して目を瞑る。
今日くらいこういうことしても怒られませんよね。
そう思い眠りに入るとするとゴソゴソと動き出したトレーナーさん。
「……え?」
突然私を強く抱きしめるトレーナーさん。
「と、トレーナーさん?」
声を掛けてみるが余程眠りが深いのか、一ミリの反応もない。
「んんぅ……」
「……ふぇっ?」
少し唸ったかと思えば更に強く抱きしめるトレーナーさん。
まるでこれ以上は喋るなと言わんばかりに強く、自身の胸に私を沈める。
ダイレクトで香る彼の匂い。
脳がトリップしそうになるのを何とか我慢し、いち早くこの場から離れる為身体を動かそうとする。
「と、トレーナーさーん……」
脚で私をガッチリホールドしているトレーナーさん。
「にゃぁあああ」
逃げることすら許されず私はただひたすら彼の抱き枕として1日を過ごした。
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セイちゃん怒ってます。
年頃の乙女の純情を弄び、挙句の果てにはこの私を抱き枕扱いしてきたトレーナーさん。
「ふっふっふー、今日は反撃の日ですよーにゃはは♪」
学園指定の体操服の上にトレーナーさんのジャージを着る。
これで周りの人からは生徒に"自身のジャージを着せているトレーナー"として変な噂が立つこと間違いなしだろう。
「トレーナーさんまだかな」
余った袖をブンブン回しターフでトレーナーさんを待つ。
準備に時間が掛かっているのだろうか、中々現れない。
「うーん……今日はやけに周りが騒がしいような……」
周りを見てみると私の方を指差して何やら盛り上がっているウマ娘達。
よーく聞き耳を立て会話の内容を聞いてみる。
「見て見てセイちゃん彼ジャーしてる!!」
「わー!本当だ!トレーナーさんのことは前からずっと好きだったみたいだけどああやってアピールしてるの可愛い〜」
ブワッと顔に熱が集まるのを感じる。
私が今やってることは男物のジャージを羽織り、その本人を待っているという状況。
てか誰だ!私がトレーナーさんを好きだなんて言ってる娘は!
「お待たせスカイ、ジャージ探してたら遅れた……ってそれ俺のか?」
「と、トレーナーさん!?」
「なんだスカイが着てたのか。上はどうした、今日は洗濯中か?」
「う、うんそんな感じかな〜」
「なんていうかオーバーサイズだと可愛く見えるな」
「かわっ……!!」
「私服のオーバーオールもそうだけどゆるっとした感じがスカイにピッタリだよね」
「わ、分かりましたから!私走ってきますね!」
「あ、スカイジャージ!!」
耐えられなくなり逃げ出すように走り出す。
帰ってきた時顔が赤くなっていることを指摘されたが、走った事による熱だと何とか誤魔化すことができた。
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セイちゃんの復讐劇はまだ終わりません。
今日は恋愛強者として名高いあのフラッシュさんにアドバイスを貰いトレーナーさんを照れさせてやります。
内容がセイちゃんにとってちょっと刺激が強かったから最後まで聞けなかったのが心残りだけど何とかなるでしょう。
「異性の上目遣いに男性は弱い……」
フラッシュさんにそう言われた。
どんな状況でもいいのでふと見せる弱さというものに男性は惹かれるらしい。
「トレーナーさんこんにちは」
「お、来たかスカイ。授業お疲れ様」
「ありがとうございます〜。沢山寝たので今日は元気です」
「こら、授業はちゃんと受けなさい」
「まあまあテストでは赤点取ってないし、ちょっとくらいいいじゃないですか」
「でもなあ……」
「あ!そんなことよりトレーナーさんにやって欲しいことがあるんです!」
「俺にやって欲しいこと?」
「この漫画のシーンなんですけど……」
ゴソゴソと鞄を漁り、友達から借りた漫画を取り出す。
内容はよくある学園ものの恋愛漫画で、ヒロインが生徒会長の先輩に猛アピールされる……といったいった内容のものだ。
「壁ドン?」
「あ、トレーナーさん知っているんですか?」
「知ってるも何も有名じゃないか?」
「へーそうなんですね、トレーナーさんはした事ありますか壁ドン?」
「いやーないよ。生憎そういう恋愛的なものには疎くてね」
ポリポリと頭を掻きながら恥ずかしそうにそう言うトレーナーさん。
女性経験ないトレーナーさんならセイちゃんの上目遣いでイチコロのはず。
「じゃあトレーナーさん、セイちゃんに壁ドンしてください!」
「ええ?恥ずかしいよ」
「いいからいいからー今やらないと一生壁ドン出来ないかもしれませんよ?」
「別にしなくても困るもんじゃないけどな……」
そう言いつつも私の指示に従ってくれるトレーナーさん。
そういう所が優しいというべきか流石だ。
壁際に寄り、トレーナーさんを呼ぶ。
「トレーナーさんいつでもいいですよ?」
「分かった分かった」
トコトコと近づき私に覆い被さるように壁ドンをするトレーナーさん。
身長差は割とあるが、状況が状況だからかいつもよりトレーナーさんが大きく見える。
下を向き、準備は完璧。
後はウルウルとした瞳でトレーナーさんを見つめれば……
「ふぇっ……」
目の前にある彼の顔。
その表情は普段見せないような男そのものの顔で思わず声が出る。
突然のキャパオーバーで口をパクパクすることしか出来ない私。
日和っているのも束の間、トレーナーさんの顔が私に近づいてきた。
「逃げるな、スカイ」
「ッッ……!!」
耳元でそう囁くトレーナーさん。
漫画のセリフも言って欲しいと頼んだが、これはちょっとダメージがデカすぎる。
「もう……私の負けです」
「スカイ?」
耐えられなくなりトレーナーさんの胸に顔を埋めるように抱きつく。
こうでもしないと私は倒れてしまうだろう。
その後、冷静になった私はトレーナーさんに抱きついている状況を見て、再びキャパオーバーになったのはセイちゃんだけの秘密です。