トレーナーになりたかった。
ターフを美しく駆けるウマ娘。
そんな彼女たちを1番近くで支え、共に歩んでいく。
そんな職業に若かりし頃の私は憧れた。
なれなかった。
高校時代を全て使い勉強した。
友達も、彼女も作らず只ひたすらに勉強をした。
足りなかった。
あれだけ努力しても私はトレーナーになれなかった。
だから諦めた。
趣味で続けていたドラムの方は上手くいったみたいでスタジオミュージシャンとして有名なグループに呼ばれたりなどそこそこの活躍を見せていた。
その時URAに実力を買われ、専属契約を結んだ。
私の職業はドラマー。
トゥインクルシリーズレースのウイニングライブのスタジオミュージシャンをしている。
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「お疲れ様です!演奏ありがとうございました!」
「お疲れ様でした〜」
ライブ後、いつも控え室に来てくれるウマ娘。
どんなレースでもわざわざ裏方である私たちに感謝を伝えてくれる私の推しウマ娘。
皮肉にもトレーナーになれなかった私は今、ウマ娘を最も近く最も遠い位置で支えている。
どうしようもない気持ちを押し込め、私はただ淡々と荷物の片付けを終わらせた。
ライブ場を裏方から出る。
適当な自動販売機を見つけ、一枚二枚と小銭を出す。
「あー!!あなたは」
突然声をかけられてびっくりしてしまい思わずボタンを押してしまう。
「マチカネタンホイザさん、こんにちは」
おしるこの文字が書かれた缶を持ちながら私は笑顔でそう答えた。
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「惜しかったですね今日のレース」
「えへへ、後ちょっとだったんですけどね」
裏のベンチ、私はタンホイザさんとお喋りをしていた。
クビ差2着。
惜しくも先行バに逃げられてしまった。
「ライブのダンスも上手でしたよ」
「ありがとうございます。お兄さんたちのお陰だよ〜」
「そんなことないですよ、いつもひたむきに努力している貴方の実力です」
私と違い真っ直ぐな貴方。
そんな姿に私は惹かれてしまった。
「タンホイザさんは……負けた時諦めたくなることってありますか?」
私はふとそう聞いてみる。
「ないかな。足りなかった分頑張ればいいから」
何の躊躇もなく彼女は言った。
「確かに私はテイオーみたいな素質がある訳じゃないし、会長さんみたいな力強い差しが出来るわけじゃない。だからちょっとでも追いつけるように私は頑張るんです」
むんっと気合を入れる彼女。
やっぱり私は彼女には敵わないみたいだ。
「強いですね貴方は」
「強い……?私が?」
「ええ、とても……」
どこかタンホイザさんを自分と重ねていた私。
全然違った。
彼女は強く、いつまでも努力を続けるだろう。
一回で諦めた私じゃなく。
「僕、トレーナーになりたかったんです」
言葉を溢すようにそう紡ぐ。
「高校時代の全てを使い、友達も彼女も作らず勉強しました」
タンホイザさんは黙って聞いてくれた。
「それでもなれなかった、届かなかった。だから僕には無理だって線引きして……全てを諦めたんです」
「でも今こうやって会えてるじゃないですか」
私の手を握るタンホイザさん。
「確かに私たちは似たもの同士かもしれないですね。お互いいっぱい苦労して」
笑顔を浮かべるタンホイザさん。
「だから2人で頑張りましょ」
この日から私はタンホイザさんと仲良くなった。
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その後、私は沢山タンホイザさんと話した。
全国的にレースは開催される為、沢山の場所で、時間で、雰囲気で話した。
負けた日、勝った日。
雨の日、晴れの日。
ステージで、控室で、レース場の裏で。
今までタンホイザさんが来るのを待っていたのがいつの間にか私が迎えたり。
ちょっと遠回りしてたい焼きを半分こしたり。
トレードマークである帽子を被らせてもらったり。
ちょっと特別な彼女のファン。
そんな立ち位置が私は心地良かった。
「好きです、お兄さん」
タンホイザさんに告白された。
G1レースを勝利したその日、いつものレース場の裏でおしゃべりをしていると頬を朱色に染めた彼女にそう言われた。
僕もタンホイザさんが好きだ。
何事にも熱心なその姿、ちょっとおっちょこちょいな所やふと出る年相応の可愛らしさ。
全てが好き。
大好き。
でも私は脇役であり彼女を支える人間だ。
気軽に了承していいことではないし、私に彼女は釣り合わない。
「ごめんなさいタンホイザさん、貴方の気持ちには応えられないです」
「そうですか……ごめんね!こんな話いきなりしちゃって」
耳を垂らし悲しみを表すタンホイザさん。
違う、私は彼女にこんな表情をして欲しい訳じゃないのに。
「ねぇお兄さん、付き合えない理由って私のことが嫌いだから?」
顔を上げ、少し悲しそうな表情でそういうタンホイザさん。
「そんなことないです……貴方は素晴らしく、そして気高い。こうして今貴方と話すことも私に取っては嬉しいことです」
ファンですからと小さく付け加える。
「お兄さん、私お兄さんさんの気持ちが知りたいです」
手を取り、目線を合わせるタンホイザさん。
「好き……ですよ。勿論、惹かれるなって言われる方が無理です」
「ならどうして!」
「自分が嫌いなんです。簡単にやめた僕と今も進み続ける貴方。そんな貴方の近くにいる自分が嫌いなんです。そんな人間が貴方と付き合って良いわけがない」
「なら私がお兄さんさんを立派な人にします」
ギュッと手を握りそう言うタンホイザさん。
「私がレースに勝って勝って勝って!センターで踊ってお兄さんさんとライブを作ります」
ヒグラシが鳴く。
「お兄さんが素晴らしいドラマーであること、お兄さんさんが沢山努力してきたことを皆んなに認めさせる。そうしたらお兄さんは自分を好きになれるでしょ?」
「タンホイザさん……」
「だから次のG1レースでまた返事を聞かせてください」
ニコッと笑うタンホイザさん。
やはり彼女は笑顔が似合う。
「分かりました」
私は力強くそう言った。
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「タンホイザ随分気合入ってるね」
「あ、ネイチャおはよー」
「次のレースG1だっけ?」
「うん!絶対に負けられない大切なレースだから!むんっ!」