トレーナー君が好きだ。
三年という月日が過ぎた頃、私の瞳にはもう君しか映らない。
全てのウマ娘の頂点に立つ、ひいては彼女らの幸せを叶えると誓ったこの私が君に執着するのは滑稽だろうか?
君の言葉に一喜一憂し、それだけで眠れない日もあるなど君が聞いたら驚き呆れることだろう。
「失礼するトレーナー君」
軽めのノックをし、トレーナー実に入る。
忙しなく揺れる尻尾、荒ぶるウマ耳。
世間では"皇帝"と謳われたこの私が君と会う、そのことだけで感情のコントロールができないなどファンが見たら唖然失笑だろう。
「む、トレーナー君?」
机の上で自身の腕を枕にし、規則正しく呼吸を繰り返すトレーナー君。
日頃の激務でお疲れなのか、最近はこの姿を見ることが増えている気がする。
「せめて寝るにしてもソファーを使って欲しいとあれだけ言ったのに……」
椅子を引き、起こさないように慎重に運ぶ。
トレーナー君を優しくソファーに寝かせ、彼の頭が私の太ももに収まるようにする。
「ふふ、可愛らしいな……」
トレーナー君の頭を優しく撫でながらそう呟く。
彼は側から見たら学生と見間違えられるくらい童顔だ。
それ故か、寝顔を見るとまるで少し大きい弟をあやしているような感覚になる。
「……ルドルフ?」
「おや、起こしてしまったかい?」
「うんん、そんなに深い眠りじゃなかったから」
ふわーと欠伸をし、身体を伸ばすトレーナー君。
「あれ、もしかして俺ルドルフに膝枕して貰ってた?」
「ふふふ、随分と可愛らしい寝顔だったよ」
「やめてくれよ、恥ずかしい」
髪をクシャクシャと弄りながらそうトレーナー君は答える。
トレーナー君が恥ずかしがる時にやる癖。
「また仕事を溜め込んでいたのかい?」
「いや、昨日は飲み会でね」
帰るタイミングを見失っちゃってと苦笑しながらトレーナー君は言った。
スンっと鼻を鳴らす。
家には帰れたのだろう、シャンプーと彼の匂い。
そしてする筈のない他の女の匂い。
「トレーナー君、昨日は誰と行っていたのかい?」
「昨日?んーいつもお世話になっている先輩と……同期なら桐生院さんとかかな」
ピンと耳が立つのを必死に抑える。
あの女はまた私のトレーナー君に手を出しているのか。
「その様子だと随分と酔っていたのではないかい?」
「恥ずかしい話その通りなんだよ、人に介護して貰ってようやく家に帰れた感じだから」
「自己管理のしっかりできるトレーナー君にしては珍しい失敗だね」
「先輩の担当バが遂にG1を勝ったみたいでさ、かなりのハイペースで飲んじゃった」
「それは……また介護役も大変だったろうに」
それとなく誰が介護をしたのか聞いてみる。
少なくともトレーナー君の家に入った人物であるのだから。
「割とお酒に強い人ばっかの飲み会だったから酔った人半分、介護役半分くらいの感じでなんとかなっていたよ。桐生院さんには申し訳ないことしてしまったな」
ゾワッと全身が逆立つ感覚。
ふと気づく。
私がトレーナー君を寝かせていた方の逆向き、即ち彼が私の膝を枕にしていた方の首に。
小さく紅い紅い華が咲いているのを見つけてしまった。
「トレーナー君!」
立ち上がった彼を引き戻し、ソファーに無理矢理座らせる。
そしてそのまま彼を押さえ込むように膝上に乗る。
「る、ルドルフ?」
「君はどこまで私を狂わせるつもりなのかい?」
はぁはぁと息を吐き、残った理性で会話を続ける。
怯え身を縮こませているその姿すら今では愛おしく感じる。
「な、何をするつもり……」
「君の周りには敵が多すぎる」
彼の首元に手を近づけ、赤い点を優しく撫でる。
「最初からこうすれば良かったのだな」
「ルドルフ?」
「君が好きだ、トレーナー君」
彼の唇を強引に奪う。
相手のことを一切考えない深く、長いキス。
羨望を、恋慕を、情欲を。
大好きで大好きで大好きで堪らない君にぶつける。
舌を、口内を、味覚をも支配するような深いものを君に刻む。
えずき口を離すトレーナー君。
私はそれすら許さず再度口づけを行う。
数秒か或いは永遠か?
そんな時間が過ぎ私は口を離す。
私とトレーナー君の口を繋ぐ銀色の橋。
「ルドルフ……?」
息も絶え絶えになりながらトレーナー君は紡ぐ。
「あぁ忘れていた、ここもだったね」
「ッッ……」
首元に付いた赤い跡を覆い尽くすように噛み付く。
彼の喘ぎ声と、吐く息が耳に当たり全身が震えるような感覚に陥る。
「綺麗だよトレーナー君」
新しく付いたその跡を私は優しく撫でる。
「君の気持ちを聞かせて貰おうかトレーナー君」
「ルドルフ……俺と君はトレーナーとウマ娘だ。今なら不問にしてやるから離してくれ……」
「ほう、君はまだそんなことを言うのかい」
隆起した彼のソレを詰るように腰を動かす。
葛藤しているのだろうか、コロコロと表情を変えるトレーナー君。
だが、私は攻めの手を休めることなどしない。
「罪というのは必ず"対価"が必要なんだトレーナー君」
制服のリボンを緩め、上の服を脱ぐ。
彼の視線が私の胸に集中しているのを感じる。
トレーナー君の手を取り、自身の胸に這わせ耳元で囁く。
「私というウマ娘がいながら他の女に現を抜かした"対価"を支払わなければいけないよトレーナー君」
もう一度と唇を重ねる。
今度は優しく触れるようなもの。
「緊褌一番、張り切っていこうか」
私は"皇帝"シンボリルドルフ。
欲しいものは必ず手に入れる。