時刻は23時。
聞こえるのはタイピングの打鍵音と虫の音だけ。
春は過ぎ、だんだん上がっていく気温に鬱陶しさを感じるが、たまに吹いてくる外からの風に趣を感じるのもこの季節の良いところだろう。
大きく伸びをし身体を解す。
ポキポキっと心地よい音が鳴り、いかに自分が集中していたか改めて実感する。
机上を見るとそこには痛々しい程に光を放つPCと夥しい程の資料。
レース出走用やトレーニング器具の貸し出し許可、担当の体調記録など上げたしたらキリがない。
「床にも資料が散らかってますよトレーナーさん」
大事なものなんでしょうと言いながら拾ってくれる私の担当バ、メジロアルダン。
「おはようアルダン、その様子だと熱は下がったみたいだね」
「ご迷惑をおかけしてしまいましたね……季節の変わり目になるとどうしても体調を崩しがちになってしまいます」
「大丈夫だよ。アルダンはアルダンのペースでやっていけばいいからね」
そう言い手元に置いてあったコーヒーを呷る。
砂糖を入れ過ぎてしまったせいか、底の方には固まっているものが見える。
練習中に熱が出てしまったアルダンを休養させる為、トレーナー室でしばらく寝かせていたが辺りは既に闇に染まっている。
アルダンの寮の寮長には既に連絡しており、体調が良くなれば外出、悪いままなら外泊に切り替えてくれと頼んでおいた。
「トレーナーさんお願いします」
私の隣に椅子を持ってきて背中を向けて座るアルダン。
いつしか日常になった私とアルダンとのやり取り。
机の中に仕舞っていたタオルと櫛を取り出し、彼女の体を拭いていく。
気温のせいかはたまた熱のせいかいつもより汗を多くかいているアルダンの首筋を優しく拭いていく。
「んんっ、夜の学校って少しドキドキしますね」
「そうだね、昼はあんなに騒がしいのに夜になると何も聞こえてこないから」
首筋を触られてくすぐったいのか、艶めかしい声を出すアルダンに理性を少し削られながら彼女の美しい髪に櫛を梳かしていく。
「ありがとうございましたトレーナーさん」
「ん、大丈夫よ。このまま帰ることも出来るけど……まあ眠れないよね」
「はい……もう少しだけここに居てもいいでしょうか?」
「構わないよ、どうせ俺も仕事が残ってるし」
そう言い画面に戻る。
残り少しを仕上げ残りは明日に。
とりあえず今日はアルダンの話相手にでもなろうと仕事を再開する。
それを察してか、アルダンはトレーナー室に備えてある簡易キッチンの方へ向かいお湯を沸かし始めた。
コポコポと水が沸く音と透き通るようなアルダンの歌声。
そんなBGMを聴きながら必要項目を埋めておく。
「コーヒーができましたよ」
「ありがとうアルダン、ちょうど終わった所だよ」
時間も時間なのでお菓子は用意出来ないが、机の方に移動し遅めのティータイムを楽しむ。
予め備え付けてある角砂糖を4つ入れ念入りにかき混ぜる。
苦いの多少に苦手な私はコレが1番お気に入りだ。
「紅茶の方が良かったですか?」
「いや、目が覚めるからこっちの方がいい」
「砂糖を減らした方がいいと思いますよ」
「苦いのが嫌いなんだよ」
心配そうにこちらを見るアルダン。
こればかりはやめられない悪い癖……なのかもしれない。
「最近寝れてないですよね?」
私の隣に移動し、目の下を優しく撫でるアルダン。
「くすぐったいよアルダン。まぁ確かに遅くまで仕事をしている日が続いているような気がするよ」
「酷い隈ですよ、体を大切にして欲しいです」
「善処するよ」
一部のウマ娘とその担当は距離感や関係性を取るのに苦労していると聞くが、アルダンとは良好な関係が組めて嬉しい限りである。
「トレーナー業ってやっぱりストレスが溜まり易いお仕事なんでしょうか?」
「ん?どうしたの藪から棒に」
突然そんなことを言い出したメジロアルダン。
「いえ、以前読んだ雑誌にそのようなことが書かれていたので……」
確かにトレーナー業は他の仕事と違いかなりの激務だろう。
休日出勤は日常、担当の体調管理やメンタルケアなど挙げだしたらキリがない。
「まあ他の仕事よりかは溜まり易いだろうね」
本人を前に溜まっているとは言えず軽く濁す。
「実は手軽にストレスを緩和させる方法があるんですよ」
「へぇ…‥知らなかった。どんな方法なんだい?」
アルダンはやはり物知りらしい。
どんな方法か聞いてみる。
「こうするんです」
そう言いアルダンは椅子に座っている私に覆いかぶさるように乗ってきた。
「あ、アルダン?」
夏空の様な青色の髪。
若紫色の双眼と女性特有の甘い匂い。
突然のことに驚くがアルダンは止まらない。
「ハグは人間のストレスの3割を解消するらしいですよ。トレーナーさんもほらどうぞ」
そう耳元で囁く様に言ってくるアルダン。
出るところは出ているので胸に当たる双丘に思わず抱き返しそうになる。
「あ、アルダン止めてくれ。私が君に対して手を出せないのは理解できているだろう?」
メジロアルダンは名の通りメジロの令嬢。
下手に私みたいな一般市民が手を出してはいけないのだ。
「そんなことはいいんです。大事なのはトレーナーさんのストレス解消なので」
耳に口が触れるくらい近くで囁くアルダン。
今まで我慢していた下半身も思わず反応してしまう。
それにアルダンは気が付いたのか、妖艶な笑みを浮かべ耳に噛みついてきた。
「あぁ、ああ……」
もう声を出そうにも襲ってくる快感にどうすることもできない。
腰を左右に動かし、私を誘い続けるアルダン。
残った理性でアルダンを退けようとするが流石ウマ娘、圧倒的パワーの差でびくともしない。
ぴちゃぴちゃと鳴り続ける水音。
男としての本能が目の前の雌を襲えと訴える。
「強情ですねトレーナーさん。我慢しなくてもいいんですよ?」
「だ、ダメだ」
「ふふ、でも止めないんですね」
もう抵抗する気力すら湧かない。
腰を振り楽しそうに私を弄ぶアルダン。
「なんだか口が寂しくなってしまいました」
「な、何をっ!?」
私が言い切る前に口を塞ぐアルダン。
相手のことを考えない捕食者のキス。
舌と舌を絡め合い相手を感じる為の深いキス。
この甘さは私のコーヒーなのか、それともアルダンの味なのか。
私はただただ口を開け蹂躙され続けるのを傍観するしか出来なかった。
「可愛らしい顔ですねトレーナーさん。そんなに良かったんですか?」
はち切れんばかりに膨らむ下腹部。
もうほぼ限界に近かった。
「アルダンやめ…‥やめてくれ」
アルダンに最後の許しを乞う。
するとアルダンは優しく微笑み、最初と同じように耳元で囁いた。
「いやです」
両手で私の耳を塞ぐアルダン。
そして先程と同じように私の口を蹂躙する。
口を侵される音が脳に直に響く。
それだけで果たそうになるくらいの気持ちよさだ。
可憐な少女が舌を出し、一生懸命私を襲う。
いつしか守らなければいけなかった建前は消え去り、抵抗すら止め彼女を抱きしめる。
アルダンの頭を掴み、私の匂い、味を覚えさせる。
口を離すとお互いを繋ぐ銀の橋が架かる。
肩で息をする私と余裕そうなアルダン。
圧倒的種族差にゾクゾクと背筋が冷えるのを感じた。
ペロッと口を拭ったアルダンは私から降り、お姫様抱っこをする形で私を仮眠室へ運ぶ。
そして優しく寝かせるアルダン。
汗をかいていたからか、ベッドからはアルダンの甘い匂いがこれでもかと私を包み込む。
「トレーナーさん今なら止めることも可能ですがどうしますか?」
私にウマ乗りになった状態で最後の問いをするアルダン。
でももう私にはそれを否定する理性はなかった。
ゆっくり首を横に振り、抵抗の意思がないことを伝えるがアルダンは続きをしない。
「ちゃんと口にしないと分からないです」
いつも揶揄ってくる時と同じ表情でそう言うアルダン。
「お願いします……続きをしてください」
「ふふ、わかりました」
服を脱がされ、私に重なるアルダン。
最後に見た彼女の若紫色の彼女の双眼はとても美しかった。