「何も思いつかない……」
寮の部屋、机の上で私はそう呟く。
目の前には何も書かれてない真っ白な原稿。
夢の中で天啓を受け、ほぼ衝動で椅子に座ったがいざ筆を取ると何も思いつかない。
「学校行きますか……」
手に取ったペンを元の場所に戻して登校の準備をする。
ルームメイトのタキオンさんは既に出ており部屋は私一人。
私はちょっと下がった気分のまま、一日を迎えた。
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「こんにちは、トレーナーさん」
「ん、デジタルこんにちは」
ノックと同時に部屋に入る。
中にはクルクル回るタイプの椅子に座り、何やら難しい資料を制作しているトレーナーさんがいた。
「どうしたの、ちょっと浮かない顔してるけど」
「あのですね……」
朝のことを話す。
「あー分かるよ、幸せな夢見てもいざ起きると何見てたか忘れちゃうこととかあるもん」
「そうなんですけど!!うぅ……久しぶりにいいものが書けると思ったのに……」
「ちなみに何を描こうとしたのかは覚えてるの?」
「トレ×ウマ娘ちゃんです!!」
食い気味でトレーナーさんに言う。
トレーナーさんはというと少し驚いた表情を見せたがやがていつもの柔らかいものに変わりこう言った。
「まあ焦る必要はないよ、突然降ってくることもあるからね」
「そうですね……あ、そうだ!!」
もう一回ビクッと跳ねるトレーナーさん。
「トレーナーさん!私と一緒に作品作ってくれませんか!」
「お、俺が?」
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「なるほど……考えるより感じる……ね……」
「実際に体験した方があたしも描きやすいですし!」
私がトレーナーさんに提案したのはこうだ。
私がいくつかの王道ラブコメシチュを提案するのでトレーナーさんが攻めとして私にやって貰う……と。
「王道シチュって……少女漫画みたいなの?」
「そうです!あたしが言うもの全部付き合って貰いますよ、ぐへへ〜」
「俺そんなことした事ないからデジタルのお気に召すかどうか分からないけど……」
「いいんです!その初々しさもまた良いものですから!」
シチュ1.バスケットゴールにシュートを決めたら告白
「よく体育館借りれたね」
「事務員さんにあたしのあつ〜い気持ちを伝えたら鍵貸してくれました!」
「あ、うん良かった」
「じゃあ、トレーナーさん外しても良いのでシュート打って貰っても良いでしょうか?」
「分かった」
トントンと軽くボールをバウンドさせ、構えるトレーナーさん。
そのフォームは様になっており、テレビでよく見るプロバスケットボール選手を彷彿とさせるものだった。
パスっという乾いた音と地面にボールが跳ねる音。
トレーナーさんは見事にシュートを決めた。
「デジタル、俺と付き合ってくれないか?」
トレーナーさんが私を見てそう言う。
あれ、トレーナーさんまつ毛長い……
「デジタル?おーいデジタル?」
「ふぇっ?あ、すいませんトレーナーさん……えーとシュート凄かったです」
「あはは、一応やってたからね、久しぶりだったから緊張したけど入って良かったよ」
「なるほど……」
五月蝿い程になる私の心臓。
本物の告白ではないのに止まらないこの形容し難い気持ち。
ウマ娘ちゃんに向けるものではない……別の何か……
「おーいデジタル戻ってこい!」
「あ、はい!」
パンっと軽く私の目の前で手を叩くトレーナーさん。
いけないいけない、トレーナーさんに付き合って貰ってるんだからぼうっとしてる暇はない。
「じゃあ次行きましょう!」
シチュ2.壁ドン
「こりゃまた王道なのを選んだな」
「ラブコメ漫画でこれは絶対ですからね!」
場所はトレーナー室。
既に私は壁側にいて、あとはトレーナーさん次第という状況。
「なんか緊張するな」
「へへ、思いっきりやっちゃってくださいトレーナーさん!」
「おう……」
少し照れた様子でそう答えるトレーナーさん。
あれ?顔近い……
ダンッ!
そんな音が聞こえるくらい強く壁ドンするトレーナーさん。
私より約20センチ大きいその体躯で私を包み込むように両手で壁に手を置き逃げられないようにするトレーナーさん。
「俺だけを見ろ」
下を向いたことにより、前髪でその目は隠れていてふと見えるその瞳は全てを射抜かんとばかりに鋭い。
か、顔が良過ぎる……
「おっと……危ないぞデジタル」
「ふえっ……トレーナーさん?」
昇天しかけた私の体を支えて、話しかけるトレーナーさん。
さっきより近いその顔。
普段見慣れている筈なのに何故かドキドキが止まらない。
「一応まだ君も選手なんだ、体は大事にして欲しい」
「あ、ありがとうございます……」
シチュ3.看病
場所はさっきと同じく場所はトレーナー室。
少し違うのはトレーナー室のその奥、仮眠室で私が寝てトレーナーさんがその隣に座っているという状況。
「さっきはすいませんでした……」
「良いのよ、デジタルのことだし慣れっこだよ」
布団からちょこんと顔を出し、私はそう言う。
少女漫画定番、熱を出したヒロインが男主人公に看病して貰うイベント。
少し違うのは、私が健康そのものという所だろう。
「看病って……何するんだっけ」
「えーと……」
慣れないことをするせいか、段階がよく分からない私たち。
「あ、そうです。主人公は熱で寂しくなって男主人公に甘えるんです」
「なるほど……」
甘える……
甘えるといっても何をすれば良いか私にはあまりわからない。
戸惑い、何もできなくなる私。
するとトレーナーさんは私の手を握った。
「トレーナーさん?」
「ん?いや、寂しくなったらこうするかなって」
両手で私の手を握ってくれるトレーナーさん。
その表情は慈愛に満ちており、思わず見つめてしまう。
「デジタル?」
「あ、いえなんでもないです」
「俺は何処にも行かないよ……なんて、ちょっとキザっぽかったかな?」
デジたん分かりました、これが"恋"なんですね。
「そんなことないですよ」
私は小さくそう呟く。
「ん?何か言ったデジタル?」
「いえ、何でもないですっ」
私、次描く内容決まりました。
ヒロインは私、男主人公はトレーナーさん。
次の物語はデジたんのラブストーリーです。
シチュ4.○○○○○○
「トレーナーさん」
「どうしたのデジタル」
「キスしても……いいですか?」