「やぁルドルフ、あたしのトレーナーいる?」
「ノックをしたまえシービー。君のトレーナー君なら絶賛そこでお昼寝中だ」
ルドルフの座っている対面側のソファーを覗く。
そこには私のトレーニングメニューなどが書いてある黒色のバインダーをアイマスクに静かに寝息を立てているトレーナーがいた。
「お昼寝なら私たちのトレーナー室ですればいいのに」
規則正しく上下するお腹を見ながら私はそう言った。
「君が夜遅くまで連絡なしで外をぶらつくからだ。彼はその件で東奔西走たくさんの人に謝りにいっているそうだよ」
「あちゃーそれは申し訳ないことをしてしまったね」
足元もフラフラで見ていられなかったらしく、ルドルフが仮眠を提案したらしい。
「ルドルフこれ持って帰るね」
「あー横抱きはやめといた方がいいと私は思うぞシービー。君は自身の魅力をもう少し理解した方がいい」
「そう、ならおんぶで運ぶね」
起こさないよう慎重に持ち上げトレーナーを運ぶ。
「じゃあねルドルフ」
私は返事を聞く前に生徒会室を出た。
トレーニングの時間だからか廊下はかなり静かで通り過ぎる人も少なかった。
「んんぅ?シービー?」
「あ、起こしちゃった?ダメだよあんな所で寝たら」
「天真爛漫、自由奔放の誰かさんのせいで疲れてるんだよ。降ろしてくれていいよシービー」
「その件についてはごめんね。体が帰りたくないって言ってたの」
「本能を制御できるようにもなろうな。あとシービー、そろそろ降ろしてくれ」
「ダメだよミスター。これはあたしの使命だから」
「誰も任命してないだろ。おーろーせシービー!」
バタバタと抵抗するトレーナー。
でも私はキミともう少し触れ合いたいから離さない。
「到着だよトレーナー、ほら代金を出して」
「カツアゲもいいとこだよ、ほら遊んでないでミーティングするぞ」
口調こそツンツンしているがちゃんと私の会話に返してくれるあたりいいトレーナーだ。
「えーあたしミーティングの気分じゃないな。お散歩したくなっちゃう」
「分かった分かった、ミーティングはやらないから俺の見える範囲にいてくれ……頼むから」
本当にやめて欲しいみたいで心から懇願するトレーナー。
私は優しいから言うことを聞いてあげるよ。
「じゃああたしとのおしゃべりに付き合ってよ」
「仕事」
「ミスター?」
「わーかったって」
ほら私のトレーナーはこんなにも優しい。
「眠いし手短に済ませてくれ」
「あ、そーだよトレーナー。キミあんなところで寝て何かされたりしたらどうするの」
「ルドルフに限ってそんなことはないだろ。あいつ仮にも生徒会長なのに」
「いくらルドルフでも中身は普通のウマ娘だよ。しかも欲しいものは必ず手に入れる」
「それは恐ろしいことだな、次から気をつけるよ」
実に興味なさそうな顔でそう言い張るトレーナー。
そういう油断から狙われるんだよ。
「あたしにも欲しいものがあるんだ、当ててみてよ」
「シービーにか?割と充実しているように見えるが?」
クラシック三冠をもぎ取った私。
確かに他の人から見たら私に欲しいものはないと言えるだろう。
「ほら、早く当ててみてよ」
「んー……単位か?」
「あたし優等生だからそこは大丈夫だよ」
「嘘だな、出席点怪しいだろ」
「そんなこと今はいいの!分からないのトレーナー?」
無理やり話を終わらせトレーナーに回答を促す。
「んーギブ、そもそもシービーの考えてることなんか分からないよ」
「それは褒めてるのかな?」
「まあ半々だ」
「えー酷いな、まあ半分誉めてもらってるしいいかな」
「随分ポジティブだな、それで答えは?」
「そうだね……」
私は立ち上がりトレーナーの元による。
片方の手を自身の頭にもう片方をトレーナーに捧げる。
「先ほどの代金が欲しいな」
「なんだ飯でも食べに行きたいのか?」
「んーそれも魅力的な提案なんだけど……」
私は差し出していた片方の手でトレーナーの唇に触れる。
「キミからの愛が欲しい」
私はそうトレーナーに言った。
「何を言ってるんだシービー?」
当のトレーナーはというと突然の事で困惑しているらしく顰しかめっ面だ。
酷いな仮にも乙女からの告白なのに。
「キミは最近いろんな娘と話してるね。ルドルフにマルゼン、更にはシリウスときた」
「前者は君の友人なんだからしょうがないだろ。後者は向こうに言ってくれ」
私のトレーナーは随分と人気なようでたくさんのウマ娘と話している。
それが私にとって気に入らない。
トレーナーに触れていた手の先を自身の唇に持ってくる。
そしてそのまま投げキッスをするようトレーナーに向ける。
「キミには私だけを見て欲しいな。他の誰でもないこの私だけを」
トレーナーの頬に左手を添え、限界ギリギリまで顔を近づける。
コツンとおでことおでこが当たる音。
彼の焦げ茶色の双眼が目の前にある。
「近いぞシービー」
「答えてよミスター、キミはあたしに何をくれるのかな?」
冷静に有無を言わさぬプレッシャーでトレーナーを威圧する。
彼はというと動揺する訳でもなくこちらを見ている。
「シービー君の質問に二つ答えよう」
ゼロ距離のまま彼は話し始める。
「まず一つ、昔から俺は君一筋だ」
「それにしては随分と余所見をしているようだけど?」
「その点については俺はトレーナーだ、最低限の交流はある」
「ふーん」
トレーナーはそう弁明するが私は納得いかない。
そもそも欲しいのはその回答ではない。
「二つ目、君が望むなら俺の全てを捧げよう」
「最高だよミスター!分かってるじゃん」
お互いニヤッと笑う。
やっぱり私のトレーナーは最高だ。
頬に添えていた手を肩に降ろし、そのままトレーナーを押し倒す。
「掛かってるんじゃねーよ三冠バのくせに」
「別に最後までやらなかったらいいでしょ?」
そしてトレーナーの首筋に思いっきり噛み付く。
彼から痛みを我慢する吐息と喘ぎ声が聞こえる。
「可愛いよトレーナー」
「せめて肩にしろ……思いっきり首筋じゃないか」
苦痛に顔を歪めるトレーナー。
見えなかったら意味がないじゃないか……
これは私の物っていう印なんだから。
「ねぇトレーナーあたしにも付けてくれないかな?」
制服を緩め首筋を見せる。
そこにトレーナーも思いっきり噛み付いた。
首筋に襲う激しい痛みと彼の息に脳がトリップする。
弱者が強者に喰われるような感覚。
大好きな彼に支配されていると思うと体が震える。
「これで満足かシービー?」
「うん、ありがとうトレーナー。これでお揃いだね」
「後々面倒くさくなりそうだけどな」
大きく伸びをしリラックスしているトレーナー。
だから油断はいけないってあれだけいったじゃないか。
なので私は彼の唇に自分のものを無理矢理重ねた。
驚きはするものの抵抗はしないトレーナー。
私は自分が満足するまでそれを続けた。
「はあ……最後まではしないじゃなかったのか?」
「ちょっとだけ前借りだよ」
あと主導権はやっぱり自分が持っていたい。
縛られる人生は私には合ってないから。
自分の首筋を優しく撫でる。
そこには赤く主張する彼から貰った"愛"が大きく残っていた。