ウマ娘短編集   作:こーさん

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慈愛的シリウスシンボリがトレーナーを依存させる話

 

「雨か……」

 

「そうだね」

 

ソファーの肘置きに頭を置き、寝そべりながら外を見る。

窓を叩き割る勢いで降る雨、外のターフが使えない為今日のトレーニングは中止だ。

 

「おい暇だ、何か話せ」

 

「無茶苦茶な……」

 

苦笑いを浮かべながらパソコンに目を向け必死に打ち込んでいる私のトレーナー。

カタカタとなっている打鍵音と窓を打ち付ける雨の音だけが静かにトレーナー室に響いている。

 

大きくため息を吐き、大きく伸びをするトレーナー。

仕事が一段落済んだのだろうか、パソコンを閉じて立ち上がった。

 

すぐにソファーに座る訳ではなく、電気ポットの置いてある方向へ移動するトレーナー。

 

「シリウスは紅茶かコーヒーかどっちがいい?」

 

「紅茶で」

 

スイッチを入れ、お湯を沸かすトレーナー。

やがてコポコポという音と共に、茶葉の匂いがトレーナー室に香った。

 

「はい、シリウス」

 

角砂糖の入っている瓶と一緒に紅茶を置くトレーナー。

 

「おいおいトレーナー、まさか"愛バ"の好みの味も忘れたのか?」

 

「今日は随分と甘えん坊だね」

 

「チッ……そうじゃねーよ」

 

私の反対側に座っているトレーナーを手招きし、隣に座るよう促す。

トレーナーはというと不思議な顔を一瞬浮かべたがやがて直ぐにいつものものに戻り、私の隣に座った。

 

「体をこんなのにして、私が気がついていないと思ったか?」

 

彼の目元をなぞり、その瞳を覗き込む。

充血した目、そしてファンデーションで誤魔化している黒い隈。

 

「バレちゃったか……」

 

「アンタと何年付き合ってると思ってるんだ?」

 

私の取り巻きの分のトレーニングも見ているトレーナー。

目に見えて疲れている様子が窺える。

 

「"皇帝"様とそのトレーナーが面白いことやっていたんだ」

 

トレーナーの頭を掴み、無理矢理私の膝の上に寝かせる。

 

「シリウス?」

 

「トレーナー君はこれで体調がバッチリになるんだと嬉々としてルドルフが私に伝えてきた」

 

「はは、それは珍しいね……」

 

「どうだ?私の膝の寝心地は」

 

「硬い……」

 

「は?」

 

「冗談だよ、本当に眠くなってきた……」

 

「寝るか?」

 

「ちょっとだけいい?」

 

「ふっ、世界で一つだけ、アンタの為の枕だ堪能しておけ」

 

「ありがとう……シリウス……」

 

事切れたように眠るトレーナー。

クシャッと丸まった髪を優しく撫でる。

 

「随分と可愛らしい寝顔じゃないか」

 

誰かに言う訳でもなくただ一人呟く。

 

「あーあ紅茶が冷めちまう」

 

そんなことを言いながらも感情のままに動く尻尾をなんとか抑え、私は時間を潰した。

 

------------------

 

「ん、起きたか?」

 

あれから30分後、意識を覚醒させたトレーナー。

頭が回ってないのか少しぼうっとしている。

 

「おはよう、シリウス」

 

「おはようって……アンタ泣いているのか?」

 

「え?」

 

手を目元に持っていき、驚いた様子のトレーナー。

自覚はないのか、困惑しながらもポロポロ泣いている。

 

「どうした、怖い夢でも見たのか?」

 

「そういう訳じゃないけど……」

 

声をあげる訳でもなく、 ただただ泣き続けるトレーナー。

そんな姿を見ていられず私は声をかけた。

 

「話せば楽になることもあると思うぜ」

 

その言葉がトリガーだったのかポツポツと話し始めたトレーナー。

 

仕事のこと、同僚との交流関係、助けられなかったウマ娘たち。

その全ての重圧を背負ってきたトレーナーは感情のダムが決壊したのだろう。

 

「ごめんシリウス、大人がこんな……」

 

「いや、アンタは悪くねぇ。未熟なのは私も一緒だ」

 

そう言い私はトレーナーを抱きしめる。

頭の位置が私の胸になるよう調整し、母が子をあやす様に優しく頭を撫でる。

 

「溜め込め過ぎもダメだ、偶には私を頼ってくれ」

 

心音を聴かせるように、トレーナーの呼吸に合わせ頭を撫でる。

やがて彼も落ち着いてきたのか私をギュッと抱きしめてきた。

 

「シリウス……」

 

「なんだ?」

 

「君は何処にも行かないでくれ……」

 

絞り出すように、小さくそう言ったトレーナー。

 

身体がピリピリと震える。

慈愛や庇護欲と言った形状し難い感情がドロドロと私を支配する。

 

彼には私が必要。

私だけが彼を助けられる。

 

そんな間違った感情が私の心を唆し、彼を堕とせと本能が叫ぶ。

その本能を抑え込み、愛を逸脱した感情を彼に流し込むように私は囁く。

 

「一等星はいつまでも輝き続ける、何処で何があろうが私はアンタを照らし続ける」

 

いつもよりトーンを低くし、トレーナーの脳を溶かすようにゆっくりと話す。

彼もそれに呼応するように抱きしめる力を強くした。

 

「何処にも行かないし、逃げない。私はアンタだけのシリウスシンボリだ」

 

だからトレーナー、私を信じ愛してくれ。

いや愛では足りない、満たせない。

 

だからトレーナー

 

「私に堕ちろ」

 

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