「はあ……」
ある晴れた昼下がり。
外の天気と違い私の気分は少し憂鬱だった。
「あの人本当にアタシのこと好きなのかな……」
洗濯物を畳みながらアタシはふと一人呟く。
夢のトゥインクルシリーズを駆け抜け、トレセン学園を卒業する時アタシはその時担当だったトレーナーに告白された。
アタシも彼ゾッコンだった為、食い気味で返事をしてしまった為思い出すと今でも恥ずかしい。
そんな彼と付き合ってもう2年となる。
同棲もしているし、き、キスもした。
他のメジロ家の娘も順調にトレーナーと結婚していて残るはアタシだけとなった。
もちろんアタシにだって結婚願望はあるし、今すぐにでも結婚したい。
でもあの人の前だとどうしても恥ずかしさが勝ってしまい、このまま彼女彼氏の関係でいいかと妥協し、ずるずるとこの関係を引っ張っていた。
「トレーナー……」
手に持っていた彼の肌着に顔を埋める。
柔軟剤と仄かに香る彼の匂い。
キスはしたがまだ肌は重ねていない。
もちろんそんな雰囲気もあった、でも全部アタシが恥ずかしいから、そんな些細な理由でトレーナーから逃げて逃げて逃げた。
そんなアタシをトレーナーは咎める訳でもなく優しく抱きしめてくれた。
『ドーベルはドーベルのペースで僕に歩み寄ってくれたらいいよ』
あの時彼が浮かべた少し悲しそうな笑顔は今でも忘れない。
漫画では沢山みたシチュエーション。
何をすれば良いか分からないっていうほどのお子様でもないし、このまま引っ張り続けたらトレーナーに捨てられるのも分かっている。
「よし……」
パンっと頬を叩き気合を入れる。
「トレーナーと結婚出来るようにアタシ頑張るんだから……!」
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「ただいまー」
「おかえりなさい」
辺りがすっかり暗くなった頃、あの人が帰宅してきた。
玄関の方へ向かい、彼の荷物を受け取ろうとする。
「ただいまドーベ……ルッッ!?」
「お、おかえりなさい」
玄関先で噴き出すトレーナー。
「ど、ドーベルどうしたの!?」
「あなたこういうのが好きなんでしょ」
ボソボソと小さく呟くアタシ。
今のアタシの格好は、エプロン一枚だけ。
俗に言う"裸エプロン"というやつだ。
「いやまあ……ちがっ……ドーベル風邪引くからとりあえず服着よ?」
「う、うん」
お互い顔が真っ赤のままオドオドと話す。
「ご飯作ってるからみそ汁食べる量だけ注いで」
「わ、わかった」
トレーナーから逃げるように寝室に篭る。
そしてそのまま床に座り込んだ。
「何やってるのアタシ……」
今冷静になって考えてみるとアタシは情事を誘っている変態ウマ娘だろう。
「結婚の話がしたかっただけなのに……」
学生時代の創作活動故か、少し頭がピンクになっているアタシ。
でもトレーナーと肌を重ねたいのは事実で、どうしようもない気持ちがグルグルと頭の中を駆け巡っていた。
「とりあえずご飯食べなきゃ……」
服を着てリビングへ向かう。
その時の食事の味は分からなかった。
「お風呂入ってくるね」
「う、うん」
トレーナーにそう言い洗面所へ向かう。
先ほどのアタシの奇行故か、少しソワソワしているトレーナー。
そんな彼を尻目に私は身体を洗う。
も、もしもの時があった時のために念入りに……
「上がったよ……」
「う、うん……ドーベル!?」
「服持ってくるの忘れたから借りた……」
先程の裸エプロンに続きアタシの今の格好は彼シャツ。
もちろん下着は下しか履いておらず、上は何も付けていない。
「あなた……」
「ドーベル…んむっ!?」
彼に近寄り唇を奪う。
ムードもへったくれもない下手くそなそれ。
沢山見たし描いた筈なのに実際にするとなると全く違う。
「あなた……」
「どうしたのドーベル……?」
少し顔を上気させながらアタシに聞くトレーナー。
「君らしくないよ、何か悩んでるの?」
少し荒い息、目の前に格好の獲物があるのに彼は今本能を抑えアタシと話をしようとしている。
どこまでも優しいトレーナーに私は自身の気持ちを吐露した。
「アンタは本当にアタシのこと好きなの?」
卒業してからやめた呼び方。
雰囲気だけも良くしようと恥ずかしながらもアタシは"あなた"と呼んだ。
その時の嬉しそうな彼の顔は今でも忘れない。
「好きだよ、地球上で誰よりも」
真っ直ぐアタシを見ながら彼は言う。
「他のメジロの娘みたいに素直じゃないし、可愛くないのに?」
「可愛いよ、他のどの娘より」
「未だにアンタの顔を見ると恥ずかしくて……その、え、えっちとかも出来てないし……」
「まあ……それは確かに辛い時もあったよ。こんなに可愛い娘が目の前にいるのに」
アタシの髪を優しく梳きながら彼は続ける。
「でもドーベルはドーベルで頑張ろうとしてるのを知ってるよ。毎日美味しいご飯を作ってくれたり、行き帰りは絶対に玄関に来てくれるし」
「だって……アタシも好きなんだもん」
「それだけで嬉しいよ。もちろん僕は先に進みたいけどドーベルが嫌なら止める、君に嫌われるのだけは絶対に嫌だから」
「トレーナー……!」
彼に駆け寄り強く抱きしめる。
「ごめんなさい……!トレーナーの気持ち全然考えてなくて……」
「大丈夫だよ、君が僕のことが好きって聞けたから」
彼の体に顔を埋める。
シャツではない本当の彼の匂いと体温。
「ねぇトレーナー、その……」
不思議そうな顔をするトレーナー。
頑張れアタシ、素直になれ!
「アタシ、トレーナーと結婚……したい……」
「ドーベル……」
「ずっと言いたかったの、でもトレーナーがアタシのこと本当に好きか分からなくて」
「そんなわけないだろう?」
強く抱きしめ返してくれるトレーナー。
「好きだよドーベル、結婚しよう」
「うん……!」
やっと言えた。
たった一言なのにどっと疲れが襲ってきた。
「それでなんだけどねドーベル」
「と、トレーナー?」
アタシを横抱きにしてリビングから連れ出すトレーナー。
「その格好で尚且つ抱きしめられると流石の僕もちょっと我慢できないかな」
「う、うぅ……」
自身の格好を忘れていた。
結局アタシの頭の中は真っピンクだったみたいだ。
その日の夜の時間は甘美でそしてとても激しいものだった。