ウマ娘短編集   作:こーさん

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人妻ルドルフは甘えたい

「いただきます」

 

手を合わせ、食材に感謝を込めて食べ始める。

ほくほくのお米とサンマの塩焼き、そしてトレーナー君家特製みそ汁。

 

「このみそ汁の作り方は私のみぞ知る。ふふっ」

 

私渾身のダジャレを言うが反応はない。

 

「君はいつになったら帰ってくるんだい?」

 

向かいに置いた私と同じ食事。

ゆらゆらとみそ汁の湯気が悲しく揺れていた。

 

 

トレセン学園を卒業して直ぐ、私は担当であったトレーナー君と結婚した。

元々学生の頃から付き合っていたということもあり、卒業してからの進路は結婚と決まっていたのだ。

 

彼が大好きだった私は学生の頃に同棲をしたいと求めたが君はまだレースを走る身であると諭され一回大喧嘩をしてしまったことがある。

まあその時は年甲斐もなく泣き叫び、トレーナー君が渋々了承する……という話で終わったのだ。

 

だから彼と一緒に暮らすことは数年前から始めている。

なので勝手に押しかけてご飯を作り一人悲しく食べていると言う訳ではない。

まあ私の友人の一人は未だ素直になれずに半同棲状態を続けてるというウマ娘も居るが……

 

私が引退し卒業した後でも彼はトレーナー業を続けている。

シンボリルドルフというウマ娘を育てた功績が認められ、今では7〜8人をまとめる大チームのトレーナーとなったのだ。

私が現役の時はチームを組まなかった(この時も私が駄々を捏ねたのだが……)為、今ではその忙しさ故に家に帰ってくることが少なくなってしまった。

 

少し低めの優しい声で起こしてくれた彼は今では無機質な電子音とバイブに。

少しゴツゴツとした暖かい体は今ではふかふかの毛布に。

彼と談笑をしながら食べていた食事は今ではカチャカチャと食器がなる音だけに。

 

彼と結婚をする時に覚悟はしていたが、やはり寂しいものは寂しい。

 

真剣な様子でパソコンと睨めっこをしている彼の顔に指でツンツンしたり。

苦いものが苦手な彼にいつもより砂糖が少なめなコーヒーを出してみたり。

 

我ながら幼稚なイタズラだと思う。

でもそんな些細なスキンシップに彼はいつも笑顔で反応してくれた。

そんな幸せな日々を過ごしてきた学校生活、絶えることがなかった明るい声。

 

しかし今はその日々も薄れていっている。

 

「君の声も久しく聞いてないな」

 

電話をすることも可能だろうが、チームの為に頑張っている彼に私の我儘で邪魔をしたくない。

偶に帰ってきた日でもやはり疲れているのか口数は多くない。

 

このまま喋る機会も減り、会える機会も減る。

私のイタズラにも反応しなくなり、毎日していた連絡も無くなる。

そしていずれは……

 

彼に捨てられる。

 

そう思ってしまったが最後、私は涙が止まらなくなってしまった。

ポロポロと零れ落ちる涙。

泣き止め自分、料理が冷めてしまうじゃないか。

 

「トレーナーぐん……あいだいよぉ」

 

「ただいま……今日も疲れたってルドルフ!?どうしたのさ」

 

慌てた様子で近づくトレーナー君。

今1番会いたくて、1番会いたくない人物。

 

「ねぇトレーナーくん……ぎみは私を捨ててしまうのかい?」

 

ぼろぼろになりながら彼に聞く。

 

「す、捨てるってどういうことだよ。俺がルドルフを捨てるわけないだろう?」

 

「ほ、ほんどうに?」

 

「ああ、絶対だ」

 

「良かった……」

 

「ゆっくりでいいからさ、話してくれないか?」

 

私はこっくりと首を振った。

ポツポツと話し始める私に対してトレーナー君は笑うわけでも茶化すわけでもなく真剣に聞いてくれた。

久しぶりに触れた彼の体温、匂い。

些細なことだが、私の中にあった不信感が消える感じがした。

 

「ごめん、仕事ばっかでルドルフのこと見れてなかった」

 

「ううん。私が少し我慢すれば良かった事だけど、やっぱり無理だった……」

 

いつしか私は"皇帝"シンボリルドルフではなく一人の女、シンボリルドルフとしてトレーナー君に話していた。

 

「これからはルドルフのしたい事なんでも言ってくれないか?君を一番大切にしたい」

 

それはとても魅力的な提案だ。

彼は私だけのもの、私が一番。

そんな独占欲を満たしてくれる1番の言葉。

 

彼に甘えてみよう。

 

「お風呂、一緒に入りたい」

 

「お、お風呂?」

 

「うん。君から別のウマ娘の匂いがするのは嫌だ」

 

「ふふ、わかった入ろう」

 

「晩御飯も一緒に食べたい」

 

「仕事も最悪家に持って帰ってきてでも帰るよ」

 

「久しぶりに、その、君と繋がりたい……」

 

頬が赤くなるのを感じる。

最後のは少し攻めすぎたか?

 

「もちろん。全てが済んだらね」

 

彼は少し驚いた表情をしたがやがて私と同じように頬を赤く染めてそう言った。

 

その後ことある事に甘える私と構ってくれる彼の構図が出来上がり、ぼそっと彼が犬みたいって言ったことで少し喧嘩になったのはここだけの話だ。

 

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