ウマ娘短編集   作:こーさん

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執着的グラスワンダーがトレーナーを陥れる話

 

雨降るネオン街をゆっくりと歩きます。

痛々しい程に私を照らす店々の照明、肉の匂いやお客さんの声が私の食欲をそそりますがそれを抑え道を抜けました。

 

ポケットに忍ばせていた電子タバコを取り出し、口に咥えます。

あの人が吸っていた銘柄も探しましたがもう既に廃盤であるのと、レースを走っていた身であることもあり本物のタバコに手を出すことは躊躇していました。

 

口の中に煙を溜め、イルカのようにポッと吐く。

吐いた煙は楕円形を形作りながら架空へと消えます。

 

私グラスワンダーは今、一人孤独に過ごしていました。

 

トレセン学園を卒業するとき、私は長い間想いを寄せていたトレーナーさんに告白をしました。

 

三年という長い月日を共に過ごしてきた私たち。

"怪物2世"と言われていた私が怪我などでメンタルが落ち込んでいた時、ずっと隣で支えてくれたトレーナーさん。

 

好きになるな……という方が難しく。

信頼という形はいつしか恋慕に変わり、気づけば彼の横顔ばかりを追ってしまうほどに恋していました。

 

"学生だから"

 

その縛りが無くなるまで、私は身が燃え尽きるような思いで待ち続けました。

そして卒業当日、私は桜の下で彼に告白しました。

 

しかし彼の返事は"NO"でした。

 

正直、勝算の方はかなりありました。

彼とも沢山お出かけをしたり、レースでの勝利。

 

自分でいうのもなんですが、私はかなり優秀なウマ娘であったと思います。

それでも私の思いは届かず。

 

何度も何度も聞き直しました。

無駄だと分かっていても現実を受け止めきれず……

 

もう一度空に大きく息を吐きます。

吐いた息はタバコより深く、そして呆気なく空へ消えました。

 

ふと、私の携帯がメッセージの着信を知らせます。

内ポケットから徐に携帯を取り出し画面を見ます。

 

『明日、会えないか』

 

身体の中の内臓が大きく跳ねたような感覚に陥ります。

五月蝿いほど鳴る私の心臓。

 

すぐにメッセージアプリを開き、了承の返事をします。

なんて私は単純なんでしょう。

 

再び口にしたタバコの煙は、先程より長く空に漂っていた気がしました。

 

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「やあ、グラス久しぶり」

 

「トレーナーさん、お久しぶりです」

 

「もうトレーナーじゃないよ、グラスも随分……変わったね」

 

「すいません、いつもの癖で」

 

トレーナーさんが驚くのも納得の理由です。

彼に振られてから私の考え方は色々と変わりました。

 

伝統を重んじてた考え方は変わり、今の格好はヤンキー崩れの不良ウマ娘そのもの。

耳にはピアスを開け、彼が褒めてくれていたサラサラの髪も今では面影すらありません。

 

「グラスもタバコ吸ってたんだね」

 

「はい、電子タバコですが」

 

「……」

 

「……やめて欲しいですか?」

 

「うん、出来ればね」

 

私の健康を気遣っての発言か。

はたまた俺の真似はしないで欲しいという意味での発言か。

 

少し苦しげに笑う彼の表情からは何も読み取れませんでした。

 

「今日はどんな御用で?」

 

「久しぶりに話したくて、ご飯でも食べないかなって」

 

「いいですね」

 

「どこか行きたい所ある?」

 

トレーナーさんに聞かれ考えます。

美味しい店はいくつか知っていますし、彼の好きそうなお店も何軒か知っています。

 

でも私にはそんな選択肢はありませんでした。

 

「トレーナーさんのお家に行きたいです」

 

--------------------------

 

「本当に良かったの?」

 

「はい、お邪魔します」

 

向かった先は彼の家。

中に入ると綺麗に整頓されていて、少し意外に感じました。

 

スンッと鼻を鳴らします。

部屋からは彼の匂いだけ。

彼女さんは居ないようですね。

 

好都合です。

 

「何か作るけど嫌いなものとかある?」

 

「いえ、大丈夫ですトレーナーさん」

 

「グラス……?」

 

生憎食欲の方はあまりありません。

無防備にも私を部屋に招き入れたトレーナーさん。

 

私には既に我慢をする理性はありませんでした。

 

「ぐ、グラス?」

 

「トレーナーさん」

 

彼を押し倒してウマ乗りになります。

両手首をしっかり抑え、抵抗できないようしっかりと。

 

「トレーナーさん、私はまだ貴方をお慕いしております」

 

彼の意見を聞かず淡々と私は伝えます。

 

「振られて何年も経った今も、貴方が好きなんです」

 

キリキリと手首に入れる力を強めます。

苦痛に顔を歪めるトレーナーさん。

 

なんて可愛らしいのでしょうか。

 

「ぐ、グラス……君らしくないよ」

 

「私らしくない……?」

 

「君の友人も君を心配していた!」

 

「へえ……そうなんですか」

 

グイッと顔を近づけます。

重力に従い、だらんと垂れ下がった髪がトレーナーさんの頬を優しく撫でます。

 

「トレーナーさんには私が見えていないようですね」

 

「グラス?」

 

「久しぶりに会ったと思ったらもう他のウマ娘の話ですか」

 

「ち、違う……」

 

「いえ、そうですよね。無防備にも私を家なんかに誘って」

 

目と目を合わせる。

彼の漆黒の双眼に反射した私の目が映ります。

 

その表情は狂っていました。

 

「タバコを吸っているとふと口が寂しくなるんです」

 

「……」

 

「貴方を真似して始めたタバコ、貴方のお気に入りの銘柄は廃盤でした」

 

あの匂いが好きだったんですけどね。

 

「大好きです、トレーナーさん」

 

唇を奪う。

 

驚愕の表情を浮かべるトレーナーさん。

バタバタと暴れる脚をウマ娘の力を使い抑え込みます。

 

呼吸をも許さない暴力的なキス。

彼が吐く息すら全てを飲み込もうと情熱的に、されど一方的に。

 

ビクビクと彼の身体が跳ねたところで一旦口を離します。

目に涙を浮かべながら肩で息をするトレーナーさん。

 

酸欠のせいか意識が少し混濁しているように見えます。

そんな彼の頭を慈愛を込めて優しく撫でる。

 

こんな味だったんですね。

 

こんなに蹂躙してなお、雄の生殖本能か私のお尻を突き上げている彼のそれ。

首をブンブンと振り、私を拒絶しようとしているトレーナーさん。

 

火照った身体はもう止まることが出来ませんでした。

 

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