「やあいらっしゃい」
夕暮れ時、私は窓を開ける。
にゃあという気の抜けた返事と共に一匹の動物が入ってくる。
最近ふらっと現れる猫だ。
猫は待ってましたという勢いで部屋に飛び込む。
餌をあげた訳でもなく、怪我を助けた訳でもない。
何故か突然この猫に懐かれたのだ。
首輪をしているところをみると飼い猫なのだろうか?
いつも決まった時間にここを去っていく。
「よしよし〜可愛いなあ」
人馴れもしているのか顎の下など撫で放題だ。
最近の癒しは猫を撫でることだ。
「失礼します!トレーナーさんこんにちは」
「珍しいねキタちゃん、忘れ物?」
「いえ、ダイヤちゃんが旅行から帰ってきてそのお土産を貰ったのでお裾分けです」
「おーわざわざありがとう。あとで食べさせて貰うね」
「はい!ってトレーナーさん?その猫ちゃんは……?」
「あ、この子?最近懐いてきた子なんだ。多分飼い猫なんだろうね、人にも慣れてるし時間になったら帰るから」
「そうなんですね……可愛い」
そう言い猫を撫でようとするキタちゃん。
にゃー。
軽く威嚇する猫。そして私の膝に飛び乗ってきた。
「あー怖がらせちゃったかな?」
「あはは、猫は気ままだからね」
そう言い私は猫の顎下を撫でる。
撫でられている猫は気持ちよさそうに目を細めた。
「むー羨ましいです」
「あはは、決まった時間にこの子もくるからまたちょっとずつ仲良くなればいいよ」
「違います!」
大きな声で否定してきたキタちゃんを見る。
「猫ちゃんが羨ましいんです!」
むーと唸りながらほっぺを膨らますキタちゃん。
かわいい。
猫を机の上に移動させ、キタちゃんの近くに寄る。
そしてその膨らませたほっぺをぷにっと潰す。
ぷしゅぅーという気の抜けた音。
突然のことでびっくりしたのかキタちゃんは顔が真っ赤だ。
「そう拗ねないの。キタちゃんも十分可愛いよ」
「可愛い……」
「うん、この猫ちゃんの次くらい」
「っ!トレーナーさんのバカバカ!!」
「あはは、痛い痛い」
ポカポカと叩いてくるキタちゃん。
加減はしてくれているのだろうがやはり痛いものは痛い。
「乙女心を遊ぶなんて最低です」
「ちょっとした冗談じゃないか」
「ふーんだ!」
そっぽを向いてしまったキタちゃん。
うーんどうやって機嫌を直して貰おうか?
あ、そうだ。
「猫ちゃんや僕の担当が拗ねちゃったんだけどどうすればいいかな」
にゃあー。
「あ、慰めてくれるの?ありがとう〜よしよし〜」
にゃあぁぁ〜。
「ふふ、君は可愛いなあ」
横目でキタちゃんを見てみる。
驚いているのか少しオロオロとしているみたいだ。
「やっぱり猫が1番可愛いな〜」
「トレーナーさん!」
「どうしたのキタちゃん?」
トコトコとこちらに寄ってくるキタちゃん。
「にゃあ〜」
律儀に耳をぴこぴこさせてそう言ったキタちゃん。
理性は持たなかった。
「可愛いなキタちゃんは!猫なんかより何倍も可愛いよ!!」
「と、トレーナーさん……えへへ」
「よしよし〜!撫でられたかったんでしょ!!はあ可愛いなあ」
「は、恥ずかしいですよトレーナーさん……」
「ほっぺももちもちだし……はあ好きだわ」
「え!?トレーナーさんなんて言いました?」
「え?あ、ああ!?」
「ねぇトレーナーさーん今、い・ま・な・ん・て・言いました?」
「キタちゃんは可愛いって……」
「違いますよねトレーナーさーん」
「うぅ、やめてくれないかキタちゃん?」
「お返しですよトレーナーさん」
そう言い近づいてくるキタちゃん。
「なんて言ったんですかにゃあ〜」
耳元で囁いてくるキタちゃん。
それはズルくないか?
「キタちゃんが……好きって」
「えへ、私も大好きですよトレーナーさん!」
そう言いギュッと抱きしめてくるキタちゃん。
私もそれに応えて優しく抱きしめる。
人を揶揄う時は気をつけなよ?
そう猫に言われたような気がした。