ウマ娘短編集   作:こーさん

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どこでもお助け!キタサンブラック

 

「困ったな……」

 

椅子に深く腰掛け天井を見上げる。

いつもと何も変わらない風景にうんざりしながら身体を伸ばすように伸びをする。

身体が90°を超えたところで首を伸ばす。

すると人間の身体の構造上後ろの状況を確認出来るわけで。

 

「お困りですかトレーナーさん!」

 

驚きで身体が跳ね、普段使わないような筋肉を刺激した。

そう、思いっきり攣った。

 

「いてててて!」

 

「トレーナーさん!」

 

私に駆け寄り背中合わせになるキタちゃん。

そしてそのまま背負い投げの要領でストレッチをしてくれた。

 

「あ、ありがとう……助かった……」

 

「いえ、お助けキタちゃんですから!」

 

胸に手を当て、ドヤ顔を決めるキタちゃん。

元はと言えば彼女が原因なのだがそれは黙っておく。

 

「音もなくやってきたからびっくりしたよ」

 

「えへへー」

 

「いや褒めてないよ」

 

振り向き様に笑顔のキタちゃん。

びっくりするなという方が難しいだろう。

 

「そういえばトレーナーさん"困った"っておっしゃってましたよね?」

 

「ん、まあ言ったけど」

 

書類確認な為の印鑑が見つからないのだ。

家から持ってくるのを忘れてしまったか、何処かに無くしたのかの二択だろう。

 

「どうぞ、トレーナーさん!」

 

「あ、ありがとう……ん?」

 

スッとキタちゃんが取り出したのは私の印鑑。

勢いで受け取ってしまったが何故彼女が持っているかは分からない。

 

「なんでキタちゃんが俺の印鑑持ってるの?」

 

「解決しましたね!また困った事があったら呼んでください!」

 

「あ、ちょ、キタちゃん?」

 

私と反対方向を向き、部屋を出ていったキタちゃん。

何やら紙を大切に持っていたがいったいなんだったのだろう……

 

----------------------

 

「うーん……」

 

場所はカフェテリア付近の自動販売機。

休憩がてら何か飲み物を買おうと思い自販機の前に来たが何を買うか迷っていた。

 

「炭酸もいいけど後々抜けるしなー、コーヒーも捨てがたい」

 

気温も徐々に上昇してきた今日この頃。

冷たいドリンクを飲みたい私はあーでもないこーでもないと迷っていた。

 

「お困りですかトレーナーさん!」

 

ダンっ!という衝撃音と共に小銭が自販機の収集箱に入る音がした。

ウマ娘の中では割と大きいその体格を縮め、買ったものを取り出すキタちゃん。

 

おしるこ。

しかもあったかいやつ。

 

「き、キタちゃん?」

 

「はい!お助けキタちゃんです!」

 

本日二度目のドヤ顔キタちゃん。

自慢気に飲み物を渡してくるキタちゃんに圧倒されるように受けとる。

 

あわよくば冷えてないかと言う一縷の希望を持つが無念。

ちゃんとあったかかった。

いや、冷えたおしるこってなんだよ。

 

「今日はよく会うねキタちゃん……」

 

「えへへー」

 

「いやいやいや……」

 

カコっという軽快な音と一緒にあの特有の甘ったるい匂いが鼻をつく。

美味しい……美味しいけども熱いし暑い。

 

「あれ、トレーナーさんおしるこ嫌いでしたっけ?」

 

「いや、好きだけど……今は暑いし」

 

「そうですか……じゃあ貰いますね!」

 

「あ、キタちゃん」

 

んくんくと凄い勢いで飲み干すキタちゃん。

缶の飲み口に付着しているおしるこ……もとい私が飲んでいた部分に口を付け飲み干したキタちゃん。

 

「ご馳走様でした!」

 

「う、うん」

 

勢いそのままに飲み干した缶を私に渡して走り出したキタちゃん。

いや、飲み切ったなら捨ててよ。

 

-------------------------

 

最近のキタちゃんはどこかおかしい。

私が困ったと言ったら(もしくは困った様子を見せると)すぐ現れる。

しかも後ろに……

 

正直怖いし、意思疎通が厳しい。

一方通行なのだ、全ての事柄が。

 

「不思議だ……」

 

椅子から立ち上がり廊下を見る。

右見て左見てもう一度右を見る。

廊下にキタちゃんの姿はないし振り返ってトレーナー室を見てみるも彼女の姿はない。

 

安全を確認できた後試しに呟く。

 

「困ったな」

 

「お困りですかトレーナーさん!」

 

「うわぁあぁっ!」

 

パッと振り返り廊下を見るといつものポーズでドヤ顔をしているキタちゃん。

先程入念に確認したのに何故かいる。

 

「き、キタちゃん‥‥どこにいたの?」

 

「トレーナーさんが困っていましたので」

 

「い、いやだからといってすぐに俺のところに来れる訳じゃないんじゃないの?」

 

「えへへー」

 

「いやいやいやいや……」

 

トコトコとトレーナー室に入り、机にダンっ!と何かの書類を置くキタちゃん。

 

婚姻届。

 

書類の上部、その中心に大きくそう書かれていた。

 

「き、キタちゃんこれは?」

 

「婚姻届です!」

 

「い、いや分かるよ……いや分からないけど」

 

必要事項は全て埋まっている。

そう必要事項全てだ。

 

「なんで俺の欄完璧なの?」

 

「えへへー」

 

印鑑まで律儀にしっかりと押されている。

あーだからちょっと前無くなっていたのか。

 

いやいや理解している場合じゃない。

私が危機的状況下にあるのは変わらないわけで……

 

「いや、これは困っt……「お困りですか!トレーナーさん!」」

 

「いやだからこれ……「お助けキタちゃんですから!」」

 

「まっt……「結婚しましょうトレーナーさん!」」

 

「いy……「本当ですか!嬉しいです!」」

 

「……」

 

私には今三つの選択肢がある。

 

一つ目は逃げること。

ウマ娘の脚力と、キタちゃんの恐ろしいほどの探知能力を掻い潜れるなら可能性はある。

 

……無理か。

 

二つ目は諭すこと。

正しいことを教え、これが間違っていることを伝える。

 

……無理だな。

 

三つ目は結婚すること。

 

「……」

 

口を"嫌"の"い"の形にしてみる。

すると私と同時に口を開けるキタちゃん。

 

一回口を閉じ、"わかった"の"わ"の形にしてみる。

するとキタちゃんの口が閉じた。

 

「……」

 

いや、私の意志……

 

「分かった……結婚する」

 

「やった!ありがとうございますトレーナーさん!」

 

このまま行くと家まで着いて来られる。

流石にそれは避けたい為、渋々了解した。

 

「じゃあトレーナーさん!明日結婚式しますね!」

 

「いや、待ってそれは困r……「お困りですか!トレーナーさん!私がずっと一緒にいますね!」

 

「いや、家には来ないで……「荷物も移しておきました!」」

 

「……」

 

「えへへー」

 

むかついたのでそのモチモチの頬っぺたを限界まで伸ばしてやった。

 

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