「失礼するトレーナー君、今日のトレーニングなんだが...って寝ているのか?」
生徒会の業務も終わりトレーニングへ向かうべくトレーナー室を訪ねたのだが、日頃の激務故かソファーで仮眠を取っているトレーナー君を見つけた。
「毛布も掛けないで寝ると風邪をひいてしまうぞ。全くしっかりして欲しいものだよ」
口でこそ悪態をついているように見えるが日頃あまり隙を見せないトレーナー君の意外な一面を見れて、尻尾はぶんぶんと揺れている。
仮眠室から適当な毛布を取ってきてトレーナー君に掛けてあげる。
こんなに近くではっきりとトレーナー君の顔を見たことがない為、ジロジロと顔を覗き込む。
「相変わらず綺麗な顔だね、他のウマ娘達が騒ぐのも納得だ」
男性トレーナーの中でもかなりの人気トレーナーである私のトレーナー君。
そんなトレーナー君の寝顔を堪能できるのは私くらいでいいだろう。
そんなちっぽけな独占欲を抱いていたら急に視界が暗転した。
「ッッ!!」
トレーナー君に抱きしめられたのだ。
そういえば彼はよく物を抱いていた記憶がある。
仕事をする時膝に私のぱかプチを乗せていたり、手頃なクッションを抱えながらミーティングをしていたりしていた。
たぶんだがトレーナー君は抱きつき癖がある。
そんな冷静な分析をしたが顔は真っ赤、心臓は爆発寸前である。
こんなとこ誰かに見られたりしたら終わる...
「失礼します会長、少々資料の訂正が……」
「え、エアグルーヴ……」
「失礼しました」
とんでもない速さで出て行ったエアグルーヴ。
訂正をしなければいけないのにトレーナー君が寝てる故、大きな声も出せない。
おまけにガッチリホールドされてる為抜け出すことが物理的に不可能だ。
「ッッ〜!!」
なんとも言えない感情が爆発し、トレーナー君に何かを言おうとするがそもそも私が彼に近づいたのが悪いのだ。
そのため私は口をぱくぱくすることしか出来なかった。
その後目覚めたトレーナー君は真っ赤になっている私を見て、もう一度深く私を抱きしめた。
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トレーナー君がこの前抱きついてしまったことのお詫びも兼ねて私とお出かけに行きたいと誘ってくれた。
あの後エアグルーヴにしっかり説明するのには骨が折れたが一応納得して貰ったみたいだ。
「ルドルフ甘いものいけたっけ?」
「テイオーが良く食べさせてくれるからそれなりに大丈夫だよ」
「良かった良かった、今からパフェを食べに行こうと思っててね」
「それは行く前に確認することではないのかい?」
「ルドルフが無理だったら他の場所に変えるつもりだったよ」
ふふーんと鼻歌交じりに目的の場所へ行くトレーナー君。
横目で彼を見る。
スーツではなく薄めの色のジーンズに白シャツをタックインして栗色のカーディガンを着ているトレーナー君はどこか幼く、そしてかっこよかった。
私が見ていた事に気がついたのか私の手を取り歩き始めた。
もちろん恋人繋ぎで。
君はどこまで天然タラシなのかい?
顔に熱が集まる中私たちは歩き出した。
「トレーナー君、やけに男女のペアが多い気がするのだが...」
「うん、ここカップル専門だよ」
「なっ、なんだって!?」
確かに男女二人でいる私とトレーナー君は側から見たらカップルに見えなくもないが...
手も繋いでるし...うーむ...
「ほら列動いたから行くよ」
そう言って私の肩を抱き移動するトレーナー君。
「うん……」
私は小さく返事をすることしか出来なかった。
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「ルドルフのお詫びなのになんか俺だけ楽しんじゃってごめんね」
「そんなことないさ、私も楽しかったからね」
嘘だ。ドキドキしすぎてそんな余裕はなかった。
最後に食べたパフェの味など覚えていない。
談笑をしながら帰路に着く私たち。
行きと違い、手を繋いでいない為、少々物足りなさはあるが...
「顔に出てるよルドルフ」
「ふぇ?」
なんとも間抜けな声が出たものだ。
「ほら」
手を差し出すトレーナー君。
私はその手をしっかりと握り返す。
私の顔は夕日に負けないくらい赤いのだろう。
「いちいちそんな反応されるとこっちまで照れるのだけど」
優しく微笑みながらトレーナー君は私に言う。
「と、トレーナー君が悪いんじゃないか!」
いきなり抱きしめたり、手を繋いできたり...
「真っ赤になってるルドルフが可愛いのが悪い」
「じゃ、じゃあもう私照れないからな!」
なんとも子供っぽい言い返しになってしまった。
皇帝の名が聞いて呆れる。
「ふーん」
するとトレーナー君はそっぽを向いている私の顔を顎を掴み正面に向けた。
「ルドルフ、卒業したら俺の嫁な」
「なっ!?」
トレーナー君を見上げる形でそんな事を言われた。
漫画の表現なら私は今頭から湯気が出ている事だろう。
「返事は?」
「は、はい...」
有無も言わさない一方的な発言。
私はただトレーナー君の胸に顔を埋めてポカポカと叩くことしか出来なかった。