「失礼しますわ〜トレーナーさまこれを」
朝一番私の担当メジロブライトが入室と同時に紙を渡してきた。
「え?これ婚姻届って書いてるけど?」
妻になる人の欄にはしっかりとブライトの名前が書いてある。
「はい〜そろそろ結婚したいなと思っていたので〜」
ブライトは両手を合わせながらニコニコと話を続ける。
「しかもちゃんと俺の両親の名前が書いてあるのは何故?」
判子と両親の名前必要事項は全て完璧に書かれていて、私の名前を書き役所に提出したらめでたく夫婦になれる...
「やっぱり結婚式ではウエディングドレスが着たいですわ〜フリフリとした可愛らしいものを」
「あ、あのブライトどうしてこんなこと?」
「メジロ家の皆様もお呼びしなければ!ライアン姉様にはスピーチをしてもらいましょう〜」
自分の世界に入っているのだろうか、こちらの話に全く耳を傾けない。
「あ、あの!ブライトちょっと話を聞いて!」
「あらトレーナーさま、まだお名前をお書きになられてないのですか〜?」
「いやいや書かないし、なんでこれを?」
「これは婚姻届っていってお互いが夫婦になる為に必要な書類ですわ〜」
「いやそれは分かってるよなんで俺が書かないといけないの!?」
「それはトレーナーさまと結婚するからですわ〜?」
何を言ってるんだこいつみたいな顔で私を見るブライト。
いや間違ってるの君だからね!?
「そもそも俺たち恋人とかですらないんだよ?」
「些細な問題に過ぎないですわ〜さあ早くお書きになられてくださいませ♪」
「俺の人生を左右するとんでもないくらい大きな問題なの!!」
「念願のお嫁さんですわ〜お婆さまにもちゃんと報告しましょう〜」
ばんざーいと喜んでいるブライト。
彼女のマイペースさにはいつも振り回されてばっかりだが今回ばかりはしっかり聞いて欲しい。
「まず念頭に俺と君は成人と未成年、結婚できないの!」
「式場は国内か海外どっちがいいでしょうか〜?ハワイとかもいいですわね〜」
「後俺はメジロ家に入る程の人間でもないの!」
「春の盾とかっこいい旦那様。私、ちゃんとメジロに新たな光を照らすことができましたわ〜」
「ブライト好きだ」
「はい〜私も慕っております〜」
「聞こえてるじゃん!!」
俺の話はしっかりと聞けてるみたいだ。
するとトレーナー室をノックする音が聞こえた。
「失礼します。あ、いたいたブライト!早くしないと授業に遅刻するよ!」
「あ、ドーベル〜わざわざ迎えに来てくれましてありがとうございます♪」
「あんた私が呼ばないと本当に一日中同じ場所にいるから!」
しっかり者のドーベルがブライトを呼びに来たみたいだ。
ならブライトを説得することも可能か!
「メジロドーベル!すまないちょっといいかい?」
「あんたはブライトのトレーナー...そんなに慌ててどうしたの?」
「ブライトが俺のことを婿にしようとしているんだよ!」
「な!?ブライト本当なの!?」
「はい〜私の旦那さまですわ〜」
再びばんざーいと喜ぶブライト。
「ブライトそれ本人から了承貰ったの?」
「今貰ったところですわ〜」
「あげてないからね!?」
本人を目の前にして淡々と話を進めていくブライト。
「なら私、了承を貰えるまで旦那さまとくっついていますわ〜」
そう言い木に引っ付く蝉の如く私を後ろから抱きしめるブライト。
心なしか息が荒い気もしないでもない...ような?
「は、離してくれブライト!」
あの手この手を使いブライトを引き離そうとするがこいつ...びくともしねぇ...
「と、とりあえずトレーナー。本当に遅刻しそうだから一旦そのまんま教室持っていってくれない!?」
「こ、この状態でか!?」
相変わらずおれの背中でくんかくんかしているブライト。あのおっとりとした性格の彼女はどこにいったのだろう?
ドーベルに言われた通りブライトを背中に引っ付けたまま小走りで彼女の教室に向かう。
そして教室前、本鈴の時間から少々過ぎた時間にたどり着くことができた。
「メジロブライトさん!また遅刻ですか...って貴方はトレーナーさん?」
「私の旦那さまですわ〜」
ブライトが爆弾発言をした。
刹那教室の空気が一気に凍り、なんとも言えない空気が流れる。
頭に?を浮かべる者、口をぱくぱくする者、またお前か...と頭を抱えるなど様々な表情が見られる。
「あの...メジロブライトさん?一旦トレーナーさんから離れてくれませんか?」
必死に言葉を絞り出しブライトに伝える先生。
しかしブライトの暴走は止まらない。
「私旦那さまが認めてくれるまで離さないと決めましたので今日はこのまま授業を受けますわ〜」
何を言ってるんだ状態になるクラスメイト。安心してくれ俺が1番分かってない。
「分かりましたとりあえず着席してください」
「え?先生?」
考えることを諦めたようだ。見事に遠い目をしている。
その後の授業も俺を座席として淡々と受けていくブライト。
その表情はどこか満足気で心なしか嬉しそうに見える。
流石ウマ娘の力というべきか動こうとしてもびくともしない。
それからの授業も新しい先生が来るたび驚いた表情をするが直ぐに授業を開始した。
え?これって日常なの?
そして放課後、ひっつきブライトは朝と同様背中に顔を埋めたまま移動を開始した。
幸か不幸か今日のトレーニングはオフでされるがままにトレーナー室に運ばれる俺...
せめて食事だけでもさせて欲しい。
「まだあんたたちくっついていたの!?」
「俺だってくっつきたくてくっついている訳じゃないからな!?」
朝の様子を心配してか俺の様子を見に来てくれたドーベルが驚愕の声を上げる。
「もう諦めたらトレーナー?」
「俺もなんかそうした方がいい気がしてきた。多分これ夜も来るよね?」
「ブライトに常識を求めない方がいいよ」
そう言うドーベルの表情はどこか達観していて過去にも同じようなことがあったのだと思われる。
こんなブライトだが結婚したくないかと聞かれたらしたいと即答できるくらいには彼女のことは思っている。
しかし最初に伝えた通り私たちはまだ結婚できない。法律上可能だが普通はしない。うん。
「ブライト、結婚は君が卒業してからにしよう」
今俺が出せる一番の妥協策がこれだ。今日は何とかこれで諦めて貰うしかない。
「私と結婚してくれるのですか〜?」
「うん、約束する」
「やったですわ〜結婚ですわ〜」
3回目のばんざーい。半日振りに解放された体を入念に解す。
「でも挨拶とかしっかりしなきゃ...」
「式は3日後です。では失礼しますわ〜」
そう言いブライトは去っていった。