天気がころころと変わる今日この頃。
久しぶりの快晴で陽の光が容赦なく私を焼き尽くす。
昼食後の日光という勉学に励む学生、仕事に励む社会人にとって最大限の敵となるものと戦うのも暫し休憩。
先程から下がってきてどうしようもない瞼を何とかこじ開けるべく身体を大きく伸ばすとポキポキと心地よい音が身体の節々から鳴る。
そんな自分の身体の様子を見て若くして未来を心配することになりそうな事実に一人苦笑いをした。
「こんにちはトレーナーさんっ」
「うわあぁぁあ!」
突然の呼びかけに思わず声を上げてしまう。
勢いよく振り返るとイタズラが成功して嬉しいのかクスクスと笑うウマ娘が一人。
「あ、アルダンか……びっくりした」
「こんにちは、トレーナーさん。随分と集中していましたね?」
「私からの連絡に全く答えてくれませんでしたのに」
背後から新たな声。
そして私が振り向くより先にその人物は首に手を回し耳を甘噛みしてきた。
「ま、待って……」
「はむっ……あらあらトレーナーさんったらとても可愛い」
耳元で囁くように喋る人物。
鼓膜を直接震わされるようなそんな甘い言葉に身体が大きくビクッと跳ねる。
すると食んでいる本人の髪だろうものが顔の横にスルリと流れた。
それは今目の前にいるメジロアルダンそっくりの青空のような髪の毛で。
「え?」
「こんにちは、トレーナーさん」
そこには姿かたち何も変わらないもう一人のメジロアルダンがそこにいた。
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「どういうこと……?」
「あら、私は事前にトレーナー室に行きますと連絡させて頂きましたよ?」
「私もです」
目の前で笑顔を浮かべているアルダンと未だ私から離れないアルダンがそう言う。
彼女たちに言われて携帯を取るとメッセージが二件そこに表示されていた。
「天使のアルダンと悪魔のアルダン?」
差出人を示す名前の欄にそう書かれていた。
内容はどちらもトレーナー室に遊びに来るとの旨。
仕事に集中していた私は全く気がつかなかった……って問題はそこじゃない。
「え、何でアルダンが二人いるの?」
目の前で優しく微笑んでいるアルダンと今もなお私に対してスキンシップを行うアルダンに聞く。
「トレーナーさんは私が二人いたら困るということがあるのですか?」
「そうですよトレーナーさん」
困る困らないで言ったら困るかもしれない。
イタズラにしては出来すぎているし本物だとしたら私の頭を疑う。
訳の分からない状態にギブアップをし、答えを聞こうにもアルダン×2にははぐらかされるだけ。
「とりあえずアルダンが二人いると名前を呼ぶ時困る。どっちが天使でどっちが悪魔なんだ?」
真相を求めるのを後にし、とりあえずはこの状況をどう過ごすかを思案する。
一応このトレーナー室にはメジロアルダン(仮)がいる訳なので彼女たちと過ごすときにも名前が一緒では困る。
「私が天使のメジロアルダンです、ふふ」
目の前のアルダンがそう言い片方の手を自身のものと絡める。
突然のことに驚くも、後ろにいる選択肢からして悪魔のアルダンがようやく離れる。
──そしてそのまま空いている方の手でアルダンの胸を触らせてきた。
「んんっ……私が悪魔のアルダンです。あら、トレーナーさん顔が真っ赤ですよ」
「あ、アルダン離してくれ」
「「嫌です」」
二人のアルダンが同時にそう言う。
私的には後者のアルダンに言ったのだが、天使も悪魔も離す気はないらしい。
「アルダンばっかりズルいです。私もトレーナーさんと触れ合いたいのに」
「あら、なら行動するべきだと私は思いますよ」
頬を膨らませ不満をアピールする天使のアルダンと未だ私に胸を触らせている悪魔のアルダン。
他の人に見られたら誤解をされかねないから悪魔のアルダンには早く離れて欲しいところであるが。
「えいっ」
「うえっ……天使のアルダン?」
どうするか考えていた私のところに飛び込んで来る天使のアルダン。
所謂ハグというやつで。
「あら、なら私も」
「悪魔のアルダンも!?」
ようやく胸から手を離せたと思っていた矢先後ろから悪魔のアルダンにハグをされる。
アルダンのサンドウィッチというなんとも豪華な状況だが残念なことに私は男だ。
「あ、アルダンたち色々不味いって」
「何が不味いのでしょう?」
「ふふ、トレーナーさんって意外と初心なんですね」
本当に分からなそうな天使のアルダンに分かっててやってそうな悪魔のアルダンが言った。
正面に、そして背中に柔らかなものが押しつけられ否応無しにでも意識してしまう。
「トレーナーさん、こちらを向いていただけないでしょうか?」
「悪魔のアルダン……?」
後ろの彼女に言われ顔を向ける。
ちゅっと、柔らかなものが頬に触れる。
──キスをされた。
「キス……しちゃいましたね」
首をこてんと傾け、してやったり顔でこちらを見る。
惚けるのも束の間、グイッと首を正面に向けられたと思ったら。
「わ、私は口を貰いましたから」
天使のアルダンが顔を朱色に染めながらそう言った。
「恥ずかしいのならしなければいいのに」
そう言った悪魔のアルダンは天使のアルダンと私の間に潜り込む。
そしてそのまま手を私の頭の後ろに回し思いっきりキスをした。
French kiss
普通のキスではない深い方のもの。
突然のことで反応できなかった私を置いていくように舌をスルリと入れるアルダン。
口内で蠢くそれは歯茎をなぞり、頬までも触れる。
やがて引っ込めていた私の舌を探り当てた悪魔のアルダンは舌をも絡めて愛撫する。
私から漏れる息一つですら逃がさないと捕まる彼女に私はなんの抵抗もできない。
普通のものでは飽きたのか抑えていた手を離して私の耳を塞ぐアルダン。
すると絡めていた舌同士が発する扇状的な協奏曲が身体の芯を、脳内を響かせる。
匂いを、味を、音をも支配された私は気持ちよさか酸素不足か不明だが腰が抜けて地面に座ってしまった。
口周りについたもうどちらかのものかわからないものを舌なめずりした悪魔のアルダンを確認した後、目の前に他の人物が現れる。
「私にもしてください」
地面に倒れた私を押し倒すようにして乗ってきた天使のアルダン。
そしてそのまま私に倒れ込むようにキスをしてきた。
先程の悪魔のアルダンのもののようではなく柔らかく啄むようなキス。
さっきはついて行くことに必死でよく見れなかったアルダンの顔がはっきりと今は分かる。
目を瞑り、何度も何度もキスの雨を降らせるアルダンの姿は男心を強く燻られる。
強い刺激の後に宥めるような弱いものをされると、強く求めたくなってしまう。
天使のアルダンの頭に手を回し自身に引き込もうとした時にハッと気づく。
残っていた理性でどうにかして天使のアルダンを離し壁際に逃げる。
私は何をしようとしていたのだ?
生徒の関係にある未成年に手を出そうとしたことによる罪悪感と未だ状況が理解出来ていないことに気がおかしくなりそうなのを必死に耐える。
その姿を突き放されて不機嫌そうではあるが心配な顔を浮かべる天使のアルダン。
まだ頬を上気させ、妖艶に微笑む悪魔のアルダン。
「大丈夫ですか……?でもまだ足りないです」
「ふふ、私も大好きなトレーナーさんと時を刻みたいです」
二人で手を繋ぎ、こちらに近づくアルダンたち。
その目は既に、捕食者のそれだった。
「トレーナーさん」
「あなたはどちらの私を」
「「愛してくれますか?」」