ある晴れた昼下がり、私はいつものようにトレーナー室で仕事をしていた。
曽子曰く、吾れ日に三たび吾が身を省みる。人の為に謀りて忠ならざるか、朋友と交わりて信じならざるか、習わざるを伝ふるか。
これは昔凄い人が人々に正しくあるべき姿を諭すために言った言葉だ。
まあ言うなれば口説き文句だ。
元々漢文の為、多少なりとも意味は変わってくるかもしれないがもちろん日本語訳もある。
現代風にするなら...
先生が言ったんだけど〜自分の発言って気をつけな?知らないこと友人とかに教えたら絶対だめ!あ、忘れてた一日3回は自分の発言に反省した方がいいよ
らしい。
私達トレーナーは聖職者。
生徒であるウマ娘達に走りを一から教える教師の立場なのだ、間違いは許されない。
その為、トレーナーに就く為にはかなりの学力が必要だ。
しかし、晴れてトレーナーになったとしてもそこから覚えることはまだまだある。
あーすまん話が逸れたな。
私が言いたいのは発言には気をつけた方がいいってこと。
まあ一日3回反省するような奴は、かなりの虚言癖だろう。
速攻友人関係を見直したほうが身の為だ。
まあ担当を持って三年となる私だが、その三年間の間に3回は間違いを教えたかもしれない。
教師としてどうなのだ!と多分、曽子先生も激おこぷんぷん丸に違いない。
「嫁入りの時間だ!たわけぇ!!」
私は先生の言葉を身に染みて感じることになるのだった。
「ど、どうしたのエアグルーヴ?」
「同じことを何度も言わせるな、嫁入りの時間だと言っている。」
扉を蹴破って入ってきた私の担当"女帝"ことエアグルーヴ。
何故か、いつかのウエディングドレスの勝負服を着ている。
「え、エアグルーヴ結婚するの?」
「そうだと言っている、さあ式場へ行くぞ!」
「待て待て待て!誰と結婚するんだよ!」
「貴様に決まっているだろう?何を面白いことを言っているのだ?」
「いや初耳だよ!?」
「なっ!?貴様、あれだけ熱烈な告白をしといて今更引くと言うのか!?」
「全くもってそんなことしてないけど!?」
記憶を辿るがそんな発言一回もしていない。曽子先生に誓って。
何も分からないのでとりあえず情報をまとめるべくエアグルーヴと話し合う。
「と、とりあえずエアグルーヴ。俺が君にどんなことを言ったんだ?」
「な、もう一回ここで言わせるのか...?」
照れている。かわい。
「いやだってそんな発言身に覚えがないもん」
「しょうがない...貴様はとりあえずこの書類を書いておけ」
手際よく渡されたのは婚姻届。
必要事項はちゃんと埋められている。
とりあえずこのまま爆弾を机の端に置き話を聞く。
「貴様、契約する時私に言ったじゃないか」
「うん」
「君が(走る姿が)好きだって」
「うん?」
「君が(ちゃんと走れるようになることが)大切って」
「うん?」
「君を将来の伴侶にしてみるって」
「おい待て最後待て」
「何だ?貴様が私に囁いた愛の言葉だが?」
「100歩譲って前半の二個はまあわかる」
「ふむ」
「捉え方のこともあるしね」
「事実なのだから当たり前だろう」
「でも最後のは言ってない、絶対言ってない」
「言っただろ!?」
「母を超えるウマ娘にするって言ったんだけど!?」
そんなおったまげーみたいな顔しても折れないぞ俺は。
「貴様は私のことを使うだけ使って捨てるのか?」
「言い方!卒業って単語をどう捉えたらそういう言い方になるんだよ!」
「契約する時やけにぐいぐいくる奴だとは思ったが私は遊びだったのか!?」
「君本当にエアグルーヴなの!?最初の最初からぽんこつじゃん!?」
これが女帝...?
契約の時にはこんな姿見せなかったのに素の姿はこれなの?
「さあ選べ!この書類にサインをし、晴れて私の婿になるか!体だけの関係って騒ぎながら廊下で鬼ごっこをするか!」
「究極の二択じゃん!?どう転んでも俺はアウトなんだよ!」
ウエディングドレス姿のエアグルーヴが騒ぎながら廊下を駆け巡る...うーんシュールだ。
「なんだ貴様...私の三年間のこの思いは無駄だったと言うのか?」
しゅんってなるエアグルーヴ。
耳も横に倒れていて不安に感じている様子が窺える。
はっきり言ってエアグルーヴはとても魅力的な女性だ。
まず一番にでかい(直球)
後家庭的で大抵の家事や料理はできる。
ここは大人しく受け入れてもいいのでは...?
「わかったエアグルーヴ、君の提案を受け入れる」
どの道断ったら死ぬ。
「俺は君と結婚するよ」
「本当か!」
「ああ、君を絶対に幸せにする」
「ふふ、そうか」
するとエアグルーヴは後ろを振り向き、蹴破ったドアの方を見ている。
「ドッキリ大成功〜」
よくテレビで見るような看板を持ったシンボリルドルフが部屋の中に入ってきた。
「ありがとうございました、会長」
「構わないよ折角のエイプリルフールだ、君からの頼み事となれば何でもしてみるさ」
そういえばエアグルーヴは季節の行事を大切にするとか言ってたっけ。
「でもエアグルーヴ...あれ全てアドリブなのだろう?」
「はい、会長」
「な、なるほど」
シンボリルドルフがドン引きしている。
演技であそこまでできるエアグルーヴ、さすが女帝。
「エアグルーヴ...俺とは結婚しないのか?」
「そうだが?折角の行事だ、貴様にも楽しんで貰おうとな」
満足気に語るエアグルーヴ。
こちとら色々覚悟を決めたのに...
「で、でも何だ?貴様がどうしても結婚して欲しいと言うなら...「シンボリルドルフ」...?」
やられっぱなしは癪だ。
後私すんごい怒ってる。
「どうしたのかいエアグルーヴのトレーナー君」
シンボリルドルフに近づき彼女の顎を持ち上げる。
「俺と結婚しろ。」
「ふぇ?」
ふぇだって。可愛い。
「な、何を言っている貴様!」
「結婚する気はないんでしょ?俺前からシンボリルドルフのことが好きだったんだよね」
そう言い私はシンボリルドルフの肩に腕を回す。
回されてる本人は突然のことでショートしているのかされるがままになっている。
「じゃあ俺たち役所行ってきて籍入れてくる。今日は自主練な」
「ま、待てたわけ!私が悪かった、貴様の事が好きだ!大好きだ!だから結婚は私としろ!えーい、その肩に回した腕を外せ!会長も会長で満更な顔しないでください!」
その後エアグルーヴはなんとかトレーナーを宥め、無事に結婚する約束を果たした。
なぜかその日からトレーナーはシンボリルドルフに懐かれるようになった。