さくさく進めたい気持ちが先だって全体的に描写が薄いなぁと思いますが、ご容赦ください。
4月23日(月)昼
心地よい風の吹くベストプレイス(八幡談)で一人もしゃもしゃと総菜パンを食べている。
モルガナは先日の特訓場所に関しての相談に、『主』とやらの元へと向かい本当に一人きりだった。
だった、と過去形なのは、その彼の元に「ジャン負けしたから罰ゲームでジュース買いに来た」結衣がまたしてもふらりと立ち寄り今は一人ではないからだ。
「そういや、さ。ヒッキー入学式の時はありがとうね。で、ごめんなさい」
「………」
「その反応は何?」
一瞬の沈黙を見計らって改めての謝罪と感謝を示したが、当の本人はズリズリと横に座る彼女から距離を取った。
「いや、また心の闇に囚われたりするかと思って」
「どういう意味だ!!」
勢いよく喉にチョップを受けて軽くせき込む八幡。
ダメージに慣れていなかったら即死だった。
えほげほとむせながら睨み付けるが、目の前の表情が想像よりもずっと真剣な目をしていて二の句を告げなかった。
「ほら、あたし、ヒッキーの妹ちゃんには挨拶したけど、ヒッキー本人にはちゃんとお礼も謝罪もしてなかったなぁって思って。
本当は、最初の依頼でヒッキーに渡すクッキーを作ろうって思ったんだけど」
「たった今傷害事件になりそうな真似しでかして言う台詞じゃねえよ」
「でも、当分の間はまともな物が作れそうにないし、一応ママに手伝ってもらったとは言ってもお礼の品も渡せたし………だから、改めて、ね」
自分の膝を抱え込むようにして、上目遣いで八幡を見る。
こうした変な空気になるのが嫌だからこそ、彼女が事故の原因だと気付いた後も言及していなかったのだと言うのに…
それは自分本位の考え、むしろ無責任とまで言っても良い考えなのかもしれない。
だから、そんな自分への嫌悪感のせいでつい口が滑ってしまった。
「まぁ、迷惑かけた、っつうなら、乗ってた雪ノ下にもだろ」
「へ? なんでそこで、ゆきのんが出てくるの?」
やばい、と思ったが時は戻らない。
「…え? 乗ってた、え? うそ、もしかして」
「なんで、こんな時にもお前はそんなに察しが良いんだかな」
吐き捨てるように溢し、ゴミになった昼飯の包み紙をくしゃくしゃにしてビニール袋に押し込む。
一年前、入学式の日に起きた事故の当事者は被害者と、原因が今ここに居る。
ならば、加害者は何処にいるのだろうか。
何の因果だろうか、奉仕部という特異な場所に集まった最初の三人には、出会いからして一つの運命があったとしか思えない。
「あの車に乗ってたの、ゆきのんなんだ」
「まぁ、そだな」
結衣が飼い犬のリードを手放し、八幡がそれを助けに道路に飛び出し、雪乃の乗った車がそれを撥ねた。
言ってしまえばただそれだけの話だった。
後遺症が残る怪我もせず、示談で済ませられる範疇の事故。
その被害者と原因と加害者がその事実を知った状態で知り合えたのなら、それだけで済んだ話。
しかし、そうではなかった。
「ゆきのん、も。知ってるんだよね」
「多分な。わざわざ確認する必要もねえから聞いてねえけど。
だけど、知らねえって言う方が不自然だしな」
「そっか」
抱え込んでいた足を更に引き寄せて、顔を見えなくする結衣。
深刻な空気になると酸素が足りなくて死んじゃう! と気まずげな八幡。
特別棟、購買の裏、テニスコートが見える位置に座る二人に沈黙が降りる。
「なんで、ヒッキーはゆきのんがあの事故に関わってるって知ってたの?」
「それは…」
その問いかけに答えは返されなかった。
「あれ? 由比ヶ浜さん、と…比企谷くん。こんな所でどうしたの?」
「え? あ、さいちゃん」
答える前に話を切り上げる理由が出来てしまった。
俯いていた顔を上げて唐突にかけられた声のする方に向けると、そこには先ほどまでテニスコートで練習をしていた生徒が居た。
この生徒の名前は戸塚彩加。
テニス部員で、ドンドンと弱体化していく、更に士気も下がっているテニス部の立て直しに奮闘する人物である。
銀糸の髪、華奢な体躯、中性的な声、犬でいえばチワワ級、猫でいえばマンチカン並のかわいらしさを持つ 男 子 である。
同じクラスの癖に名前も、性別も知らなかったと言う失態を犯した八幡。
それを責めたてる事で元気を取り戻した結衣。
ついでに八幡の心の地雷を漢解除する結衣が居たり、
その仲良さげな二人に言いにくい感情を持つ戸塚が居たり。
「やぁ、もう。ほんと、ヒッキー有りえないし。一年のころからのクラスメートの名前すら覚えてないとか」
「そろそろ止めろ。戸塚への罪悪感で、小学校のころ謝罪のシュプレヒコールで泣かされた時以来の涙が出てきそうだ」
「だから、なんでヒッキーはそこらじゅうに地雷埋めてるかなぁ!!」
「と、ところで、二人とも最近この辺によく見かけられる不審者の事って知ってるかな?」
地雷解体班と化した彼らを気遣って、パンと両手を合わせて話を逸らそうとする。
「ヒッキー?」
「目付きだけで不審者呼ばわりするのは止めろ。
ここの制服を着ている限り、通報はされない。
まあ小町の要請で雨の日に傘を持って行ったときに不審者に間違われて通報されかけたけど」
「今のは知ってる? って意味だから! てか本当に不審者扱いされてんじゃん!」
「ちょっとおしゃれなショップに立ち入ろうものなら、秒で警戒態勢を敷かれるから慣れてる」
「それ慣れちゃダメなヤツ!」
「結局、どんな話題でも地雷があるんだ」
あはは、と苦笑いするしかない戸塚に『ごめんね、トラウマ量産する人生送ってて』と内心詫びるしかない。
「で、不審者って?」
「あっ、うん。実は僕も見たことはないんだけど、黒塗りの車がジッと止まってるとか。
あとは、真っ黒なスーツを着た人がずっとグラウンドを見つめてるとか。
他にもマスクしたその不審者に『オレイケメン?』って聞かれて返事しちゃうと真っ黒な口で食べられちゃうとか」
「最後は不審者じゃなくて都市伝説だし、口裂け女のオマージュじゃねえかよ。ポマードって連呼すればいいのか?」
「全体的に黒いんだね」
ほえーと感心している。
そんな益体も無い話を続けていると、昼休み終了の合図が鳴る。
三人ともが同じクラスと言う事で、一緒に帰るか、と立ち上がった時。
「そういや、お前なんでここに来たんだっけ?」
「え? なんで…? ………あっ! ゆきのんのジュース忘れてたぁ!!!!」
地雷爆破のしっぺ返しなのか、痛恨の一撃が結衣に突き刺さる。
きっと、奉仕部の部室で「由比ヶ浜さん、まだかしら」と寂しく一人待ちぼうけさせられている雪乃が思い浮かび、「いやいや、寂しく思うよりも激怒する方がらしいか」と修正して自分までも寒気が走る八幡であった。
結局、その日は雪乃が少々ばかし機嫌を曲げてしまい、その機嫌を取る為に忙しかった結衣には、疑問への回答が与えられなかった。
日常は進む。確かにしこりを残して。
ちなみに、戻って来たモルガナは何も成果を得られることは無かった。
未来の不安はそのままに現実は厳しいのだった。
4月27日(金)昼
「ゆきのんなら出来るでしょ?」
「良い度胸じゃない、あなたがそんな言葉で私を挑発するだなんて思ってもみなかったわ。でも、いいわ。
うけてあげる、その挑戦。戸塚くん、あなたの依頼は私たち奉仕部が責任をもって請け負いましょう」
八幡と結衣の突発的昼休みの邂逅から数日。
体育の時間に戸塚から相談を受けた八幡が、戸塚の助けになれないかと雪乃に相談している時、
結衣が当の本人である戸塚を召喚。
戸塚は八幡に甘えた。
八幡はデレデレしている。行動不能
雪乃は戸塚の召喚に異議を唱えた。
結衣は雪乃に信頼を見せつけた。
雪乃は結衣に挑発されたと思い込んだ。
雪乃は暴走している。制御不能
モルガナは何か鼻がムズムズすると言って逃げ去った。
とまれ、そんなこんながあって、戸塚彩加の依頼『テニス技術の向上で他の部員を引っ張りたい』が受理された。
どうやら5月頭にテニスの試合があり、それが実質の三年生の引退試合らしい。
それまでには戸塚自身がある程度強くなり、部を牽引できる存在になりたい。
そんな内容だった。
昼休みになると、戸塚が使用許可をもらったテニスコートで雪乃式訓練を行う戸塚。
ダイエット?! と聞いて一緒に参加する結衣。
今後の為にも体力は必要か、と先を見据え…すまん、八幡。お主の犠牲は忘れん!!
煩悩に支配されそうになった為、強制参加させられる男子。
もちろん、材木座も一緒だYo! 一人ぼっちは寂しいもんな。
八幡よ! それは我の足を引っ張りながら言う言葉ではない!!By材木座義輝
モルガナは何処に逃げた! 最近単独行動し過ぎじゃない?
「のう、八幡よ」
「どした、今蟻の生態観察に忙しいんだが」
筋トレを終わらせて煩悩を疲労感で押し流され、悟りの境地で蟻に一つのドラマを見出していると、材木座が小声で話しかける。
チラチラと周囲を気にしているように、コソコソしているが、体格の面もあって逆に目立っている気がする。
もっともそれに注目する人間はこの場には居ないのだが。
良くも悪くも、材木座義輝と言う性格に慣れてしまったのだろう。
ちらっと、彼らを見て関心度0の眼差しでスルーする女子2人が良い例だ。
「気のせいかも知れんが、あの御仁。ずっとこちらを見ておらんか?」
「誰? ってあのリーマンか」
「いかん! 指を指すな! …気取られるぞ」
ヒソヒソと口元に当てて囁いてくると息が気持ち悪い。
ぷしゅー、ふしゅーと付き合わされた筋トレの疲労で息が切れているのが余計に。
そんな彼の眼鏡で分かりにくい視線の向きを追ってみると、黒いスーツを着ている初老の男性がフェンスの外に佇んでいた。
反射的に戸塚から聞いた不審者の噂を思い出す。
「どうせリストラされて家に居場所が無い親父が『ガキの頃に戻りたい』とか、『俺の娘も来年から高校生なんだよな、ごめんな。父ちゃん無職になったから進学費用も出せないんだ…こんな楽しそうな学校生活、送らせてやりたかったなぁ。せめてあのクソ課長だけでも地獄の道連れにしてから死んで保険金で不自由ない生活送らせてやるぞ』って覚悟でもしてるんだろ」
「その想像がパッと出てくるお主が怖い」
「そうか、俺はお茶が怖いから買ってきてくれねえか」
おあとがよろしいようで。
戯言はともかく、横目でその人物をもう少し確認してみる。
確かに真昼間から高校の敷地を見ている点だけは不審者と言っても過言ではない。
だが、それ以外は特筆するものもない。
同じような噂であった黒塗りの車もないし、マスクもしていない。
加えて、営業で外回りしている会社員なら、疲れている所を休憩代わりに気分転換でボーっとする事もあるだろう。
つまり、わざわざ通報するほどでもなく、放っておけば勝手にどっかに行くだけの通りすがりでしかない。
お仕事お疲れ様です、よかったら専業主夫オススメですよ。
さっきまで蟻の観察をして蟻とリーマンを重ねて同情心を覚えてしまっていた彼の内心はそんな感じだった。
それよりも、もっと先に考えなければいけない事が接近している。
そう結論付けた八幡は、他称不審者の事を完全に意識の外に置いて、こちらに向かって来る闖入者へと意識を向け直した。
「さいちゃん、大丈夫?」
「うん、これくらいよくある怪我だし」
「ごめんなさい、ちょっと無理させ過ぎたわね。沁みるわよ」
いつの間にか怪我をしていた戸塚に女子勢が手当てに群がっている。
雪乃は小さなポシェットから絆創膏や消毒液を取り出し対応しているが、普段から持ち歩くようになったのはここ最近。
突発的に悪神の欠片のトラブルに巻き込まれた時の為。
怪我をしながらも特訓を続けたいと意思を示す戸塚に、ようゆうたわしゃ感動したと感じ入る結衣、信頼には応えるわとホッとする雪乃。
そんな心温まる状況に似つかわしくない、キャピキャピした声が聞こえてくる。
「あれぇ? 結衣じゃぁん。何、テニスしてんの?」
2年F組、そのクラスで女王様ばりの威厳でトップを張る三浦優美子。
「ごめんな、ちょっと、お邪魔するよ」
同じく、人の良さとサッカー部エースと言うトップカーストの葉山隼人。
そのグループが乱入してきたのだ。
「優美子」
2年F組のトップカースト、葉山隼人と三浦優美子がコートに現れた。
彼らは、背後にもう三人の男子と、もう一人の女子を連れている。
結衣は彼らと同じグループに属すため、驚きで固まっている。
優美子がチラと雪乃と戸塚を見て、続けて結衣、戸塚へと向き直す。
向き直る直前のその目つきは、険しさを孕んでいた。
「ねー、戸塚。あーしらもテニスしても良いよね」
「え? いや、そのここは僕が練習する為に」
「なに、聞こえなーい」
性格の悪さを隠しもせずに、戸塚へとその矛先を向ける優美子。
その勢いに負けて声も態度も小さくなっていく戸塚。
話を聞く気も無い相手には、戸塚は相性が悪すぎた。
こういうのに必要なのは、相手以上の勢いと論理を持って上から言わないとそもそも聞く耳も持たないのだ。
もしくは相手以上の立場、権力、そう言った物。
そして、この場には三浦優美子と言う強烈なキャラクターに負けない人物が一人居る。
「…………」
「雪ノ下? とモルガナ?」
その優美子以上の存在の雪乃は、何故か乱入者ではなく、何時の間にか来ていた黒猫とボソボソと会話している。
彼女の性格ならば真っ先に突っかかっていくだろうに。
この事態で何をしているのだろうか、訝し気に窺う。
「あーしらがテニスしたら悪いの?」
「だから、その」
「ね、あんたらもテニスしたいよね」
きつい目つきをした優美子がテニスコートの入り口にたむろする4人に賛同を前提とした問いかけを飛ばす。
その隠された意味に、正しく応える彼女の4人の連れ。
空気を正しく読んで、その求めに正しく応じられるからこそのトップカースト。
続々と優美子のテニスコートを貸すように要求する意見に追従する人数から圧力が増していく。
それに反比例してどんどん声が小さく後ずさりする戸塚。
騒ぎに乗じて少しずつ周囲に集まり始める野次馬。
ちなみに、材木座は旗色が悪い方には絶対に近づかない。
ぼっちの習性だからだ、自分を守れるのは自分だけ。責めてはいけない。
「あっ、そうだ。そんなにあーしらにテニスさせたくないんなら、勝負しない?
勝った方がコート使えるって事で。やだ、あーしめっちゃ頭良くない?」
「優美子? どうしたんだ、ちょっと強引過ぎないか?」
誰も止めない事で勢いを増して、傍若無人に拍車がかかる。
普段とは違うあまりの節操のなさに、流石に隼人も注意する。
「…ねえ、さっきから黙ってっけど、雪ノ下さんだっけ?
あんたがここの責任者でしょ? あーしらで勝負って事でいいよね?」
「リア充って、こう言う時の嗅覚すげえな。ピンポイントに当ててきやがる」
隼人の注意を無視するように、雪乃へと声をかける。
一目で、テニスコートで先に練習していたグループの頭を見抜く眼力に戦慄する。
まぁ、八幡も材木座も目立たないように縮こまっているし、
結衣は自分が所属する二つのグループの間に挟まれてオロオロしている。
そうなると、残りは彼女しかいないのだから、分からなくも無い。
しかし、そう呼びかけられた本人はどこ吹く風で奉仕部の面々にだけ視線を向ける。
「比企谷くん」
「なに。こっちじゃなくて三浦のほうに「モルガナちゃんがあれの反応を感知したわ」は?」
そうして続けられた言葉に絶句する。
その意味を理解した瞬間、バッと直前にメンバーからも様子がおかしいと言われた優美子へと視線を戻し…
「違うぜハチマン! あっちじゃねえ! 向こうだ!!」
喋れる事を知らない者からはフシャーとしか聞こえない叫びが上がる。
モルガナが向いているのは彼が反射的に疑いを向けた彼女の方ではなく、その真逆。
テニスコートの端にまで下がってしまっていた戸塚彩加の更に奥の男。
「え?」
スーツ姿のサラリーマン風の不審者が何かを振りかぶって投げ入れようとしている所であった。
「ショウタイムだ」
放り込まれたナニカは緩やかに放物線を描き、硬直している戸塚の身体にぶつかり
「あっ」
一瞬で湧き上がった『黒』がテニスコートを埋め尽くした。
『あぁあああああぁああああああ!!!!!』
再び、総武高校にパレスが展開される。
「な、なんだし、これ!」
「皆!」
今までよりも遥かな人数を巻き込んで。
俺ガイルメモ
八幡が入学式の日に事故に遭い入院したのは前述の通り。10話のあとがきにも書いた通りだが、雪乃まで関わっていると気付くのはさらに遅く、夏休みの林間学校のボランティア帰り、確信を得るのは夏祭りでの陽乃との邂逅を待たなければいけない。しかし、今作ではそもそも初めの時点から八幡は雪乃が関わっている事を知っていたし、結衣の事も知っていた。
ペルソナメモ
ザイモクザパレスはチュートリアルみたいなものの為、立て続けにイベントが入ります。気付いた人はいるかもしれないがザイモクザパレスは鴨志田パレスや雪子姫の城の要素、巻き込まれた一人(千枝、杏)が仲間になる点を入れている。雪乃の一件? 小西先輩のあれと同じです。つまり今回展開されるのは?
なお、不審者の発言『ショウタイムだ』ですが、彼は怪盗団のメンバーではない為、ご安心を。怪盗キッドでもないから。