4月27日(金)昼
「ここ、かい?」
「ヒッキー?」
「まて、これは罠だ。俺は悪くない」
「犯人はみんなそう言うのよ「証拠は何処にある」「面白い推理だ、小説家にでもなったらどうだい」「犯人はヤス」」
「唐突なネタバレ! だが、我は評価するぞ八幡!」
「お前ら、緊張感が続かねえな」
八幡のナビゲーションでパレスの中心地、おそらく心の闇を暴走させた戸塚、囚われた優美子が居るだろう場所に到着した。
しかしそこで繰り広げられたのはまさかの糾弾劇。
立ち尽くす彼らの目の前に立っているのは長く煙の出る煙突、広い玄関に大きくかけられた暖簾。
木造で、きっと中に入れば檜風な香りがするに違いない。
かけられているその布には大きく『ゆ』と書かれている。
「銭湯に連れ込んであわよくばを狙う下卑た発想、警戒に値するに決まっているでしょう」
「失敬な、俺がそんなリスク管理できない男だと思うか。
もしそういうハプニングを狙うなら葉山あたりを当事者にして、俺はそれを見てしまう傍観者の立ち位置で責任を追及される可能性を潰しておくぞ」
「さいてーだ!」
「俺もそれに巻き込まれたくはないかな」
ははは、と愛想笑いをするが、男子高校生なんて基本的には性欲の塊でしかない。
もしも性欲を感じさせないなら、それはただのムッツリだ。
オープンかクローズかの違いでしかない。
なお、八幡の言うシチュエーションだとしても隼人に追及はいかない。
結局、周囲にいただけでも雰囲気が怪しいからと絶対に断罪される。
ただし、このパレスにおいてそう言う面は関係が無い。
「考えられるのは、火や水に長けた神話生物かしら」
「イフリートとかウンディーネなどは定番であるな」
「流石に精霊は出てこねえと思うが、火鼠(カソ)、カハクみたいな火のシャドウの匂いはするな」
「そう言うのに効くのは水、氷結属性が定番なんだが…誰も使えないな」
「ごめん。俺のペルソナが使えたらよかったんだけど」
「いやいや! 隼人くんのもすごいと思うけどな! ほら、痛い所に手が届く的な!?」
「それを言うなら痒い所に、由比ヶ浜さん今度一緒に勉強しましょう?」
「手当てしちゃってどうすんだよ。いや、お前のペルソナは回復得意だけどさ」
緊張感を和らげるための軽口だけで、実際に衣服をどうこうする必要はないのだから。
誰とは無く一歩を踏み出せば全員が続きパレス本拠地へと乗り込むのであった。
しかし、衝撃のモルガナ、電撃の雪乃、ナビの八幡、念動の結衣、呪殺の材木座と得意属性にかぶりのない属性が続いていたのに、隼人は電撃念動ともろ被り。
全体攻撃が得意な特徴があってよかったね! むしろ全体攻撃を苦手な面々でよかったね。
ゲームでもし女子2人が全体魔法使えてたら一切パーティインしないぞ、こいつ。
「予想はしていたけれど、蒸し暑いわね」
「びしょ濡れになるくらいじゃないけど、じっとりするね」
「ここが、パレス…」
「あんま気負いすぎんなよハヤマ」
「ありがとう、モルガナくん」
突入した彼らを待ち受けていたのは一面に広がる湯気。
周囲には体重計やドライヤー、衣服籠がぽつぽつと設置されている。
想像通りに木材の香りが充満し、蠢くシャドウの気配も感じられる。
今までの見た限り普通の街中とは異なり、一目見て物理法則が乱れている構造に圧倒されるパレス初心者の隼人。
もう一人のパレス初心者は「は、はぽん」と委縮してしまっているが、もう一人の彼にケツを蹴り上げられて気合を入れ直した。
「引き続き、比企谷くんのナビを参考に奥に進むわ。
先頭はモルガナちゃん、続いて私、由比ヶ浜さんと比企谷くんを真ん中に置いて、後ろからあとの二人は着いてきなさい」
「こういうのは先達に任せるべきだから、異論はないよ」
「んじゃ『無駄なのにね』この声は、戸塚?!」
そうしていざ進行しようとした瞬間、周囲から反響するような声が響く。
声の感じから戸塚だと判断し周囲を確認してみるが、どこにも姿は見えない。
おそらく、ザイモクザの時と同じく最奥から声だけを届かせているのだろう。
『分かってるでしょ、今更こんなの無駄なあがきだってさ。
それでもいいなら奥で待ってる』
声だけで諦念を感じさせるそれは聞こえてきたときと同じく、一瞬で消えた。
「無駄な足掻きだなんてことはこの世にはないよ。
もしも戸塚がそんな風に思っているなら俺はそれを助けてあげたい」
「…所信表明はいいが、ボーっとしてたら置いていくぞ」
「す、すまない」
慣れていた面々は既に気持ちを切り替えて進もうとしている。
悪神に無理矢理増幅させられた闇にまともに付き合ってはいけない事を経験則で知っているから。
「ペルソナ! ぶっ飛ばせ『ゾロ』!! ちっ!」
「起き上がってくる、追撃する! ペルソナ『ツチグモ』『サイ』!」
流石に多少のレベル差だけでは一撃で倒しきれずに追撃が必要になり舌打ちする。
それでも瀕死にまでは追い込める。追撃で沈める。
しかし、このパレスで最もつらいのはシャドウの強さではない。
「不確定名『鼠』多分『カソ』、三体こっちに来てるぞ!」
「我が! 『ギュウキ』! 『マーハーガールー』!!」
「あたしも『ザシキワラシ』お願い!」
「『ライジン』とどめよ」
「おかわりだ…『アナライズ』! 天使『エンジェル』! 呪殺弱点だ」
「またしても我の出番だな! 『ムド』!」
休む暇も無く増援が現れる。
まさしくネズミ算式にシャドウがうぞうぞと集まってくる。
このパレスでの難所はなによりもシャドウの数。
単体魔法しか扱えないならともかく、材木座が全体魔法を使える為に何とか戦線を維持している。
地味に結衣がぶんぶん振り回している扇から『ガル』が繰り広げられているのも大きい。
ペルソナと扇で、一人で二人分働いている。
「『ザンマ』!」
「しかし、すごいなこの力は…人が扱っていい物なのか。
いや、今は考えている場合じゃない『マハサイ』!」
「あたし、何か強くなった気がする! 『サイオ』!」
「ワガハイも少しは力を取り戻せたぜ! 『マハガル』!」
「モルガナ筆頭に雪ノ下に材木座、由比ヶ浜の武器…衝撃属性多い、多くない? あっ、俺もなんか新しい魔法覚えたぞ…
なになに『エネミーサーチ』………周囲に隠れている強大なシャドウを見つけるってよ」
「知ってた。ヒッキーだもんね」
「そうね。戦力になる訳が無かったわ」
「ボス戦特化なんだよ」
そんな乱戦を繰り返しているうちにドンドンと鍛えられてそれぞれが新しい魔法を覚える。
火鼠の皮衣で有名なカソ、中国版の妖精みたいなカハク、インドにおける水の精霊アプサラス、ハロウィンで有名なジャックランタン、毛色が少し違うがレアシャドウとして天使エンジェルも現れる。
多種多様な火をメインとするシャドウに、一部水を操るシャドウが混じる。
時に同じ種類のシャドウが複数、混在したシャドウの群れが5分と開けずに襲い掛かってくる。
「ひ、ヒッキー、ちょっと休憩できるとこ、ない?」
「は、はひぃ、ぶひぃ、せ、せめて喉を潤すだけでも…本気できつい」
「………」
そんな連戦をしていては、いくらパレス内部では肉体的な体力に依存しないとはいえ精神的に疲弊する。
雪乃など、汗だくで瞼はとろんとして言葉も出せない位に『きて』いる。
サッカー部のエースとして気力体力に自信がある隼人ですら眉をしかめている。
湯気で服が湿ってへばりつき、動作が阻害される。
思い通りに動けず、躱し切れない攻撃と削れる気力。
結果的にペルソナに頼る回数が増え、精神的な疲労が増大する。
「この先の十字路を右に曲がったら広間みたいなところがある。
そこにはシャドウの反応も無い…と思う。多分、休憩位はできるんじゃねえか」
「…聞いたわね、皆、そこまでは、頑張りましょう」
「雪乃殿、無理はするなよ」
息も絶え絶えに部長としての責任感だけで指示を出す。
いつ倒れても支えられるようにモルガナが横に控える。
既に戦列などぐちゃぐちゃになっていた。
比較的前線に出ない八幡と運動部として疲れに耐性がある隼人だけが動けている。
「と、到着…ん、ん、んぐっ。ぷはぁ! 生き返る!! コーラ!」
「運動した直後に飲むものじゃなくないかい?」
「だがザイモクザらしいし、実際に回復してるんだからいいだろ」
息切れしながら一足先に辿り着いて、どすんと座り込み懐から炭酸飲料を一気飲みする。
武器は持っていなかったが、自分用の回復アイテムだけは持ち合わせていたようだ。
げふぅとゲップしているのを引き気味に心配しているが、こいつ良い奴だな。
良く知らん汗だくのデブがゲップしている所なんて俺なら近づきたくもないな。
「ゆきのん、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ」
「シャドウの気配はないな」
「…そう」
一歩一歩を億劫そうに万力を込めて歩く雪乃に結衣が肩を貸し、八幡が警戒に当たる。
さっきまでの怒涛の襲撃は何だったのか、もしかすると周辺のシャドウを根こそぎしてしまったのか。
打って変わって落ち着いた状況で、急かすことなく確実に歩かせる。
「…もう、大丈夫よ。ありがとう、由比ヶ浜さん」
「ううん、別にいいよ。ほら、ゆきのんも座って」
「ええ、あなたも休んで頂戴。私は少し時間がかかりそうだし」
「…分かった、ゆっくりしてね」
遅れて到着した彼女たちも思い思いの場所に腰を下ろしようやく休憩を取る。
先に着いていた彼らの様子を見るため離れた瞬間、大きくため息をつく。
どう見ても疲労困憊。
一人が落ち着く彼はそんな彼女の様子を少し離れた場所で目にしていた。
しかし、そこまで疲れる要素はあっただろうか?
確かにひっきりなしにシャドウが襲い掛かって来たから何度もペルソナを使っていた。
だがそれは由比ヶ浜もそうだし、なんならペルソナでの戦闘が初めての材木座や葉山の方がもっと疲れていて当然のはず。
何か精神的に消耗する要素が増えたのか。
そんなことを考えていたから、つい動いてしまっていた。
「はぁ…あら、どうしたのかしら。濡れそぼった女子高生に興奮してしまったのかしら」
「お前に色気があるのは普段から認めてるが、そんな状況でもないのに発情するほど節操なしじゃねえよ」
「そ、そう。なら何の用」
毒舌への返答に一瞬きょとんとするが、理解に及んで少しだけ頬を紅くする。
「特に用って訳じゃねえが…ん?」
メンタルに負担がかかる要因があるのなら、そんな不確定要素は無くした方が先々安心。
戸塚を助ける為には万全を期したい心境で、似合わない気遣いをしようと少しだけ近づいた場所で止まった途端
何かが頭の奥の方から聞こえてきた気がして訝しく思い
『ほんっとむかつく』
「え?」
唐突に聞こえてきた声に固まる。
『堕ちちゃえ』
「は、あ? うわぁあああああ!」
「っ!」
「ゆきのん?!」
「ハチマン!!」
どこから聞こえてくるのかと意識が周囲に散ったのを見計らったかのように、雪乃の足元。
加えて近くに居た八幡の床も消失し、二人の身体は一瞬で暗闇に落ちて行った。
また落とし穴かよ…そんな感想を覚えながら浮遊感に逆らう事も出来ず。
「ヒッキー! ゆきのん!」
「ちっ、すぐに閉じちまいやがった!」
「げふぅ…再度開く兆候も無いな」
「くそっ!」
残された三人と一匹は姿を消した場所にすぐさま走り寄ったが、前兆無く現れた穴は前兆無く閉じてしまう。
がんっ、と叩いてみるが硬質な音が返ってくるだけで下に空洞があるとも思えない。
もし下の階層に落ちたのだとしても、床を壊して直行できるわけではなさそうだ。
「仕方ねえ、精度はだいぶ落ちるがワガハイがハチマンの代わりにナビを請け負おう。
ただでさえハチマンは戦闘能力が高くないし、雪乃殿は大分疲労がたまっていた。
今の二人がさっきみたいなシャドウの群れと遭遇しちまったらマジでやべえ」
「落とし穴からのモンスターハウスはゲームではお約束であるしな」
「時間的な猶予はさらになくなってしまった、という訳か」
「やばいじゃん! は、早く助けに行かないと!」
絶え間なくシャドウを送り込み疲労させて集中力を削り、油断した瞬間を狙って罠にかける。
前回のパレスとは毛色が違い過ぎる、殺意とでも呼んでいいそれにそれぞれが焦りを覚える。
「こっちだ! 大分強行軍になっちまうが、最速で下りの階段を見つけて合流するぞ!」
「八幡、待っておれ! お主を一人孤独に死なせはせんぞ」
「無事でいて、二人とも」
休憩もそこそこに走り出す。
隼人はじっと先刻開いた床を見つめ、振り切るように首を振って後を追う。
「やはり、こんなのは」
ペルソナメモ
銭湯、ペルソナとくれば? そうだね完二君だね!
不良で、暴力沙汰を起こすし、素行も悪い。呉服屋の倅だからそう言う面は得意。そして彼の悩みはそう言った『漢らしくない』と言う点。
戸塚は逆に優等生で、スポーツマンで、可愛らしい。そして彼の悩みはそう言った『漢らしくない』と言う点。そんな共通点からこのパレスは銭湯しかないと思いましたまる。
俺ガイルのキャラに男勝りな女子キャラが居たら戸塚ヒロインにしてたかもしれない。平塚先生? 彼女は格好いいだけで魅力的な女性だから。