やはり俺の○ル○ナは間違っている   作:hung

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三浦優美子は若干寂しがりの女の子である

4月27日(金) トツカパレス

 

カカカッ 虚蜀礼賛 ミウラ ユミコ LV25 ガ ショウタイ ヲ アラワシタ

 

 

『ほんっとムカつく』

 

 

 異形が頭の痛くなる響く声で呟く。

 

 上半身が女性的な膨らみを持ち、下半身は代わりのように細く長い。

 

 現実、物質界での姿ではゆるふわウェーブをかけていた金髪も流れるようなストレートに。

 

 ただしあまりに伸びたそれが頭部を埋め尽くして仮面のように顔を隠してしまっている。

 

 

「戸塚くんは」

 

「いまんところは大丈夫、だと思う…多分あんま時間をかけてなかったから」

 

「そう」

 

 

 パレスの主に取り込まれていた、今は壁際にもたれかかっている戸塚彩加の容体を確認する。

 

 モルガナの言によれば精神世界であるパレスに生身のまま、心の鎧たるペルソナを持たないまま居続けると命の危険がある。

 

 その懸念を考えれば、奥の階層まで落とされたと言うのも不幸中の幸いと言える。

 

 なにせ最短時間でその身を確保できて、なおかつ『アナライズ』で観る限り大きな危害を加えられてもいないのだから。

 

 

『ヒトの心配出来る余裕なんてある訳? はっ、あんま甘く見ないでくれる』

 

 

 しかし良かった点が見つかろうが現状が何か変わるわけではない。

 

 じり、肌が焼けるような錯覚を覚える圧力。

 

 レベル差からくる重圧がたった二人に向けられる。

 

 ただでさえ悪神の欠片、しかも前回のザイモクザパレスのユイのようにリソースを分散させられていない。

 

 必然パレスの主としての厄介さは上であり、尚且つまともに戦闘できるのは雪乃のみ。

 

 八幡もデバフでフォローできるだろうが、明確な脅威となりえないのであれば優先度は下がる。

 

 つまり雪乃に集中放火されて戦闘不能になればそこで詰みだし、全体攻撃を繰り返されればそれだけで終わる。

 

 今更体が震えて来る。

 

 明確な殺意を浴びせかけられるのは野良シャドウでのみ、それもモルガナと言う庇護者が居ての余裕があった時だけ。

 

 いやさ八幡だけはシャドウ雪乃の時に味わったか。

 

 ぽたり、汗なのか湯気なのか分からない雫が床を打った瞬間

 

 

「っ、ペルソナ!」

 

「くっ、甘く見ないでちょうだい!」

 

『へぇ~今の防ぐんだ。なら、ギア上げてくし!』

 

 

 その巨体に見合わない一瞬の加速で雪乃の目前まで移動したユミコが大振りに腕を叩きつけようとする。

 

 それを跳ね上げ横の男に視線だけを送り、黒の狩衣を前面に押し出す。

 

 白の狩衣を視界の端に捉えたまま、意識を巨体に集中させる。

 

 今の移動は眼に見えない程の速さではなかった。

 

 しかし鬼神義輝の際に分かった通り、身体の巨大さはそれだけで脅威である。

 

 それが見えない程ではなくとも、意識しておかないとついていけないかもしれない速度で動く。

 

 

『アハハハ! アーシに着いてこれるって!? 思い上がってんじゃねえし!』

 

「はっ! あなたのような単細胞のやりそうなことは手に取るようにわかるわ」

 

『~~~~っ!! ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!!』

 

 

 直線的な軌道で振り下ろされる腕を、相手からすれば爪楊枝ほどの大きさのナイフでいなす。

 

 それだけでぶわりと汗が噴き出す。

 

 それでも挑発として口調は努めて軽くする。

 

 彼女の背後には守るべきものが在るのだから。

 

 再度の振り回しをまたしても受け流す。

 

 受け流す。

 

 いなす。

 

 合間にペルソナでの迎撃を挟みながら、闇に落ちたユミコに対して雪乃は劣勢ながらも対応して見せた。

 

 言葉通り徐々に速度が上がる苛烈さを冷静さで対処し続ける。

 

 トツカを騙っていた時は長い腕から繰り出される、まるで鞭のような攻撃に翻弄された。

 

 それもそうだ。

 

 鞭のように長い物体を振り回すと、その先端部分の速度は軽く時速100キロを超える。

 

 巨体から導き出される質量の破壊力は上がったが、その分比較すれば遅くなったとも言える。

 

 加えて

 

 

「『タルンダ』」

 

 

 ぼそりと殆ど聞こえないように呟く背後の彼が的確に弱体を加える。

 

 露骨にならないように、タルンダ、攻撃弱化をメインにごくまれにスクンダ、精度弱化を。

 

 破壊力を抑えて局所的に命中率を下げる。

 

 これがばれてしまえばユミコの狙いが雪乃以外に向けられてしまうので、あくまで隠れてのフォロー。

 

 合間に差し込まれるペルソナの魔法も先ほどまでとは違い明確なダメージリソースになっているのか、警戒してくれているのも有利に働いている。

 

 雪ノ下雪乃は秀才であり、それは武道においても例外ではなかった。

 

 多少かじっただけの相手ならば空気投げを成功させるほどには見切り、身体の動かし方を熟知していた。

 

 そのおかげで決定的な事態にはなっていない。

 

 

『ムカつくムカつくムカつく! ほんっとムカつく!

 なんであんたが…あんたなんかが!』

 

「くっ、うっ…ぅ!」

 

 

 決定的な事態になっていないだけでそれは状況を打開できると言う訳ではない。

 

 現状ではユミコの猛攻をヘイトを稼いでいる雪乃が防御しつづけ。

 

 稀に外れて隙が出来た瞬間にペルソナを差し込むことでダメージを与えている。

 

 しかしいくらいなし、受け流そうともその衝撃は蓄積し続け気力を奪い続けている。

 

 せめてこの場にモルガナか結衣が居ればじり貧の状況を回復魔法でリセットできたのだが、今この場に居るのは八幡のみ。

 

 彼は足を引っ張る事、見破る事しか出来ないのだ。

 

 であるならば、状況が有利に転ぶ方向は必然的に彼女に向けてであった。

 

 

「あっ…」

 

「雪ノ下!」

 

『はぁあ! 隙ありってやつじゃん! おまけにこいつも『アギラオ』!!』

 

「ぐっ! げほっ、っごほ、あっぁああああ!」

 

 

 衝撃が蓄積し、痺れた腕が握りしめていたナイフを取り落とし、それを拾いに行くかペルソナで防御を固めるかの逡巡をつかれ直撃。

 

 木の板に転がる事になる。

 

 緊張の糸が途切れ呼吸が途切れていた事に気付き、倒れたまま咽込む。

 

 そのまま追撃に火炎中級魔法を放たれ、悲鳴を上げる。

 

 辛うじてペルソナを出し続けていた事で火だるまにもならず、全身が火傷を負う事は無かったものの焦げ臭いにおいがちらつく。

 

 

「ゆき「さがってなさい!」っ!」

 

『…へぇ…そういうこと。雪ノ下さんってさ趣味悪いよね』

 

 

 一気に劣勢に傾いた情勢にターゲットにならないよう控えていた八幡が前に出ようとするが、檄を飛ばし制止する。

 

 その激しさにびくっと硬直する様子をみて、雪乃の回りを駆けていたユミコが立ち止まりなにやら粘ついた口調で話しかける。

 

 

「何を言いたいのか簡単に想像がつくけれど、下卑た妄想は止めてもらえるかしら」

 

『そんだけ必死になってて違う訳ないじゃん、ウケる』

 

「この男には借りがある、それだけよ」

 

 

 力が抜ける身体を無理矢理奮い立たせて立ち上がる。

 

 口だけは軽いけれど、これは精神的な面が上位に在るパレスだからこその強がり。

 

 雪乃の気力はもう残っていない。

 

 強がりを張る意地が切れてしまえばそのまま倒れ伏して動けなくなるだろう。

 

 

『思ってたけど、あんたって大分子供っぽいよね。我儘放題許されてきた末っ子っしょ。

 小っちゃいころから周りに気ぃつかってもらって、お姫様扱いされたんでしょ。

 だからそんなに恵まれてんのに不幸面出来んじゃん?』

 

「あなたのざれごと程度、そこの男のたわごとと比べればなんてこともないわ」

 

『負けず嫌いで、意地っ張り、周囲見下して、女王様気分』

 

「自己紹介かしら?」

 

『だから、結衣もそんな子供っぽいあんたに嫌々付き合ってんだし』

 

「っ!!」

 

 

 余裕の表情を張り付けていた仮面が歪んだ。

 

 

『なに図星? そりゃそうだよねぇ、雪ノ下さんみたいに人の事、ナチュラルに見下してる人にさ。

 結衣みたいな子が付き合ってるなんて、そりゃ、憐れみ以外にないよねぇ』

 

 

 ぎり

 

 

 歯ぎしりの音が後方、万が一の事を考えて肉盾になるべく戸塚の近くに控えていた彼の元にも聞こえてきた。

 

 

『自分は特別だって思ってるやつってさぁ。すっごいうざいし。

 なのに結衣に優しくされて勘違いしちゃった? 『自分は特別だから、特別に優しい友達が出来たんだ』って?』

 

『でもさ、それって『あんたが特別』って訳じゃなくて『結衣が特別優しい』から成り立ってる関係だよね。

 つまり、あんたにとって結衣は友達かもしんないけど、結衣にとってはあんたって友達じゃないんじゃない?』

 

 

 実際、キツイ性格をしている雪乃や、捻くれて面倒くさい性格をしている八幡、話すだけで疲れる材木座。

 

 そんな三人とまともな交友関係をはぐくめているのは、結衣の寛容な性格に要点がある。

 

 きっと雪乃と八幡だけなら最初のように言い争いがヒートアップしたり。

 

 雪乃と材木座、八幡と材木座だけなら材木座が死んだりする。

 

 なら、ユミコの言っている事は完全に否定できない。

 

 彼ら彼女らの要は由比ヶ浜結衣の優しさで構成されているのは間違いない。

 

 その自覚を当然彼女も持っていて、言い返せるだけの論は持っていなかった。

 

 

「なんだよ、ただのかまってちゃんか」

 

『は?』

 

 

 しかし、その言を看過するには彼は彼女の事を知りすぎていた。

 

 

「こいつが由比ヶ浜の優しさにつけこんで友達面してっから気にくわねえって話だろ。

 んで、最近付き合いが悪くなったのは雪ノ下の所為で、寂しいけどあいつに原因がある訳でもなく無理矢理付き合わせるにも気が引ける。

 だから雪ノ下を悪者にしてこいつを排除すれば由比ヶ浜は戻ってくるって寸法か」

 

『な、ぁ、なに、何的外れな事いってんだし! ぁ『アギラオ』!!』

 

「残念、さっきまでの間に『スクンダ』三積しといたから」

 

 

 

 震える身体を無理矢理に動かす。

 

 そうしなければ今にも崩れ落ちそうだったから。

 

 

 

 冷や汗が止まらない。

 

 間違えなくとも死につながっている綱渡りだ。

 

 それでも言わずにはいられなかった。

 

 

「最近、彼女に元気が無かったのは」

 

「それかもしれねえな」

 

 

 それは嘘だ。

 

 結衣の最近の悩みは雪乃の隠し事である。

 

 しかしそのことを知っているのはこの場には一人だけしかいないし、その一人は信頼できない語り手であり真実を告げる訳も無かった。

 

 

『ち、違うし! ユイが、ユイは、アーシと、アーシらと居るのが』

 

 

 ふるふると顔を隠した金髪が揺れる。

 

 別に結衣が誰と共に過ごそうと彼にはどうでもいい。

 

 昼休みに放課後に、優美子たちと過ごそうが、雪乃と過ごそうが。

 

 ボッチの彼がそこに関与する事はないのだから。

 

 けれど

 

 

「案外まじめで、ちゃんと謝る事が出来て、俺やこいつみたいな面倒なヤツと付き合えて、キョロ充っぽいけど陽キャグループで立ち回れて、不満があっても見せずに飲み込めて、友達に正面から向き合えるあいつを理由にしてバカやろうって根性が気にくわねえ!

 リア充の癖にコミュミスってんじゃねえよ! つか普通にその不満をあいつに言ってりゃどうとでもなっただろうが!

 どうせお前も雪ノ下も両方大事とか言ってなんだかんだ絆されてりゃそれで終わってた事態じゃねえかよ!」

 

 

 渾身の叫びだった。

 

 ただでさえ悪神の欠片なんて言う超常物体に振り回されて、大分高校生活が歪まされているのだ。

 

 現状の危機が少し話し合っていれば避けられていたと分かればキレてしまいたくなるのも分かる。

 

 そんな魂の叫びに背後の少年がピクリと瞼を動かす。

 

 

「ひき、がやくん」

 

『ち、違うし! アーシはユイを言い訳にしてとか。そ、そう…そうだし。

 全部全部悪いのはその女で、アーシの領域に無遠慮に手つっこんでくるから』

 

「人には本音を曝け出せって言っときながら結局自分自身が嘘塗れじゃねえか」

 

 

 最初からずっと彼女の敵意は雪乃に向いていた。

 

 結衣と仲良さげにテニスをしていれば、取り巻き達を連れて本音を隠してつっかかり。

 

 隼人との接点が自分には得ることのできない物だと分かれば隔離にかかり。

 

 いざ目の前にすれば加虐性にかまけて周囲を傷つけて反応を見て。

 

 傷つけるだけ傷つけて精神をも追い詰めようとする。

 

 

「あいつは良い奴だ。こいつや俺にはもったいない。正論だ。

 だけど、それを正当性に使ってんじゃねえ。女々しいんだよ」

 

 

 少なからず、彼は由比ヶ浜結衣と言う少女に向き合ってきた。

 

 事故の原因であることに苦悩し、それでも踏み出し。

 

 秘密に気付きながらも、気を回して踏み込むか考え。

 

 何の得も無いこんな騒動に自分から巻き込まれてくれた。

 

 その理由に罪悪感や彼女の自分本位な面が無かったとは言わない。

 

 だが、結衣が優しい理由は彼女がそういう人間だからであり、その善性が踏みにじられているのを見逃すほどには羞恥心が欠如していなかった。

 

 

『知った口きいてくれんじゃん』

 

「知った口きくのが今の俺の役目だったからな」

 

『は? なに…っ!』

 

 

 そして、彼らの目的は最初からずっと一つだった。

 

 雪乃がずっと防戦一方だったのも、八幡が動かないようしていたのも。

 

 全てはたった一つの目的を達成する為だった。

 

 その目的は今達成される。

 

 ナビの役割をこなしていた彼とその半身には分かった。

 

 遅れて仮の主であるユミコもその気配を感じ取る。

 

 

バンッ!!!

 

 

 大きな音を立てて、引き戸が勢いよくスライドされる。

 

 

「ゆきのん! ヒッキー!」

 

「無事か!?」

 

「ぶ、ぶふぅ…ま、待ってくれ早すぎる」

 

「あれは…ヒキタニくんの後ろに居るのは戸塚? ならこれは」

 

「時間をかけ過ぎた様ね、形勢逆転といったところかしら」

 

 

 加勢の宛がない籠城、防戦などという愚策を彼女が取るだろうか。

 

 否

 

 こうして後を追いかけてくる友人たちを始めから雪乃は信じていたのだ。

 

 なだれ込んでくる同行者たちを認めてようやく彼女はへたり込んだ。

 

 既に戦闘不能な状態を精神力だけで持ちこたえていた身体は、援軍を確認したことで糸が切れた。

 

 

「ゆきのん!?」

 

「気にしないで、パレスの主は三浦さん。モルガナちゃん!

 戸塚くんは既に救出済みよ。

 あとは彼女を叩きのめせばそれで終わり、任せていいかしら」

 

「任された!!」

 

「優美子…」

 

『は、隼人…結衣…』

 

 

 息せき切らして乗り込んできた面々に聞こえるように、簡素に現状を伝達する。

 

 やるべきことを把握したモルガナはシミターを構え直し、巨体をねめつける。

 

 しかしその巨体は目前の猫ではなく、少し後ろの男女へと意識を向けていた。

 

 今にも倒れた少女の元に走り出しそうな結衣。

 

 威圧感のある偉丈夫のペルソナをもって対峙する隼人。

 

 

『…なんで』

 

『なんでアーシの味方じゃないの』

 

「優美子?」

 

 

 紅い童女で回復させようと意気込んだ彼女の耳にその呟きが聞こえる。

 

 

『いいよ、もう…アーシの敵に回るってんならもう、容赦しないから』

 

「優美子! 違う、俺は」

 

『煩い五月蠅いウルサイうるさい! アーシの思い通りにならないならあんたら全員モブでしかないし!』

 

「雪乃殿、ハチマン下がってろ! こっからはワガハイたちの踏ん張りどころだ!」

 

「我の武勇伝を語り継ぐ役目を与える! 背中は任せたぞ八幡!」

 

 

 口撃で萎んでいた敵意が膨れ上がる。

 

 聞く耳ももたない様子に拳を握りしめて隼人のペルソナも構える。

 

 

「たぶん優美子がそうなったのはあたしも原因なんだね。

 でも、ううん、だったらあたしが優美子を助けてみせるから。いくよ『ザシキワラシ』!」

 

『うっさいし! 仲間割れでもしてなよ! 『セクシーアイ』」

 

「ぬぬ、そこに居たか怨敵松永! 我の仇ぃい! 『ムド』!」

 

「どわぁ! なにしやがるザイモクザ!」

 

「いけない、『ツチグモ』彼を治してやってくれ『パトラ』!」

 

「はぽん? 我は何を『『プリンパ』』はらひれひれはら~~~?」

 

「くそ、もう一度だ『パトラ』!」

 

「中二状態異常に弱すぎない!? 邪魔なんだけど!」

 

『隙ありっしょ『マハラギ』!』

 

「え? きゃぁああああ!」

 

「あちい! くそっ結衣殿! 『メディア』! もっぱつ『メディア』!」

 

 

 開幕、今まで使ってこなかった状態異常魔法を連発し戦線を乱される。

 

 魅了されてモルガナに攻撃を向けた材木座が隼人の行動も制限し、注意力を低下させて全体魔法を放つ。

 

 特に結衣のペルソナ『ザシキワラシ』は火炎弱点の為大きく怯んでしまう。

 

 一度の全体回復では間に合わず、モルガナも回復に専念するしかない。

 

 

『…次はこれだし『マハブフ』!』

 

「『ツチグモ』、がぁああああ!」

 

「ハヤマ?! ちくしょう『メディア』!」

 

「『癒しの風』!」

 

「材木座! 弱点は呪殺だ!」

 

「殊勲賞だ! 今度こそ我の活躍を目に焼き付けるがよい! 『エイハ』!」

 

『っちぃ! 『シバブー』!』

 

「か、かか、から、からだ、からだが、し、しび、しびれ痺れる~~~~!」

 

「くっ、『パトラ』!」

 

「ダメだ! 怯ませても畳みかけられねえ、このままじゃじり貧だぞ!」

 

 

 火炎と正反対の性質の氷結魔法を全体にばらまかれ、今度は氷結弱点の隼人が怯む。

 

 モルガナに加えて結衣が回復にあたるが、専念しなければいけない分距離が開いていた。

 

 モルガナと材木座の二人だけではダメージソースとしては弱く、折角のチャンスを活かせない。

 

 一番邪魔になるのが材木座だと狙いをつけて、またしても状態異常で行動を制限する。

 

 

 最もダメージを与えられるモルガナは全体攻撃の回復に専念しなければならず。

 

 弱点を突ける材木座は状態異常で頻繁に動けなくなる。

 

 それを回復する為に隼人の動きも固定されて、結衣もモルガナのフォローに回ってしまえば攻撃に参加できない。

 

 せめてここにもう一人の攻撃役として雪乃が参戦できれば徐々に押し込めた。

 

 しかし、彼女の身体は戦意に反して頑として動こうとしない。

 

 せめてモルガナの力がもう少し戻っていれば戦闘不能を回復させる魔法『リカーム』が使えて、雪乃が戦線復帰できたのだがないものねだりか。

 

 八幡もせめてもと『タルンダ』で攻撃を弱めているが焼け石に水。

 

 特に今まで役に立っていた『スクンダ』が飽和的な全体魔法の所為で意味をなしていないのが痛い。

 

 足を引っ張るしかできず、誰かの助けになれない己の無力感に歯がみする。

 

 徐々に押し込まれ、このままでは敗北が迫り死へと繋がるのは時間の問題…

 

 

「ぺる、そな」

 

 

 かと思われたその時、八幡の後ろ、誰もいないはずのそこから鈴の音がなるような涼やかな声が聞こえてきた。

 

 ばっと振り返り、その正体を確認しようとして…目じりに雫が浮かぶのを止められなかった。

 

 

「『ノヅチ』…僕らを助けて! 『リカーム』!!」

 

「戸塚!!」

 

 

 そこには安静にするよう置かれていた筈の戸塚彩加がしっかりとした足取りで立ち上がっていた。

 

 その背後にはペストマスクのような特徴的な仮面で逆立つ毛皮のマントを羽織ったペルソナが屹立していた。

 

 

「事情はよく分からないけど、比企谷くんの声が聞こえたよ。

 僕はこのままカッコ悪い、女々しくて男らしくないままでいたくないから!

 だから、僕も戦うよ『ノヅチ』! 『コウガ』!!」

 

『ぐっ! 調子こいてくれんじゃん! だけど、あんたみたいな根暗が一人増えたところで何かできる訳ないっしょ』

 

 

 初めてのペルソナ、例え使い方を無意識の海から与えられていると言っても限界がある。

 

 勢いよく放たれた祝福属性の初歩魔法『コウガ』が不意を打つことで直撃するが、次が続かない。

 

 ぎこちなさが拭えない戸塚をフォローすべく結衣たちが立ち位置を変える。

 

 しかし、更なる反抗的存在に、しかもさっきまでは明確に自分の下位に位置していた存在に反抗される事は余程癪に障ったのか。

 

 ユミコのターゲットが全体から戸塚を主体に切り替わる。

 

 その隙に、結衣の全体回復魔法『癒しの風』やモルガナの『メディア』などで態勢を整える。

 

 

「弱い僕、男らしくない僕、言いたい事も言えない僕とは、もうさよならしたいんだ! だから負けない!」

 

『ヒトがんな簡単に変われるわけないし! モブはモブのまんま、アーシの人生を邪魔すんな! アーシの、アーシの友達を奪わないでよ!』

 

 

 歯を食いしばって雪乃ですら防戦一方だった猛攻を我慢する。

 

 いなすとか、受け流すとか、そんな器用な真似は出来ない。

 

 けれど、ただひたすら根性のみでダメージを我慢する。

 

 隼人やモルガナが半分以上をそらしてくれ、材木座が肉盾となってかばっている事も大きい。

 

 それでも戸塚の根性も大きかった。

 

 その姿を見てあれだけ指導者面していたあの人が奮起しない訳が無かった。

 

 

「そうね、その言葉をそっくりそのまま返してあげる」

 

「ゆきのん!」

 

 

 そして乱入者に注意が取られていた間に戸塚の『リカーム』とモルガナの回復で態勢を整えた雪乃が戻る。

 

 視野狭窄に陥っていたユミコには目の前の邪魔者しか見えていなかった。

 

 

『ぐっ』

 

「よし、これでワガハイと結衣殿が回復に専念しても押し切れるぞ!」

 

「…すまない、優美子。だけど、すぐに解放して見せるから」

 

『隼人…』

 

 

 いくら全体魔法でリソースを削ったとしても、回復に憂いが無い状況。

 

 そして弱点の呪殺を放つ材木座、モルガナを除いて最もレベルの高い雪乃がダメージディーラー。

 

 状態異常も隼人が治し、状態異常にならないなら攻撃役に回る。

 

 デバフを積み続ければ、万が一の逆転劇もなくなるだろう。

 

 ここに対ユミコ戦の消化試合が決まった。

 

 

『アァアアアアアアアアアア!!!!』

 

 

 

 




ペルソナメモ

 対トツカ戦、ゲームならまず雪乃八幡ペアでの戦闘から始まり、○ターン生き残れ! がミッション。ターン経過もしくは八幡が『エネミーサーチ』を使うと正体を現しますので、一旦戦闘終了。すぐさまユミコ戦に移行します。特殊コマンドで雪乃は『挑発』を使えるのでヘイトを稼いで防御しましょう。挑発しないと全体魔法や状態異常魔法で八幡(主人公)が直ぐに死んでパトってしまいます。
 ターン経過もしくは雪乃の戦闘不能で分断されていたメンバーが駆けつけます。八幡くんには回復アイテムでの回復役に専念してもらえば難しくありません。無駄にデバフするのは避けましょう。
 雪乃の戦闘不能での合流の場合、材木座、結衣、モルガナ、隼人が戦闘メンバーになり雪乃と八幡は一時戦線離脱の為、どの全体魔法でも弱点を突かれてしまうので回復が間に合わないです。この場合は特殊戦闘の為、ターン経過でムービーイベント戸塚覚醒からそのまま戦闘終了します。経験値無しの為オススメしないです。
 ターン経過で合流した場合、そのまま雪乃、八幡、材木座、隼人が戦闘メンバーで戦闘再開、結衣とモルガナは控えに回ります。ターン経過の戸塚覚醒ムービーイベントは変わらないですが戦闘は続行します。材木座が戸塚(固定)と入れ替わりますが、ユミコは祝福属性に耐性を持つので戸塚は回復役と割り切りましょう。隼人を材木座に変え直して、雪乃は挑発を続行、八幡はデバフ、戸塚は回復、材木座で弱点突いて総攻撃を繰り返しましょう。ここまでくればレベルが余程低くない限り普通に勝てます。

 ノヅチ(野槌)…ツチノコの語源(槌の子)。頭部に口があるだけで、目も鼻も無いクリ○ン的なニュアンス。草木の精霊としても扱われるが、野槌に見つけられただけで病気になるとか言う厄災である。
 身体の一部が無い、天使は性器と言う身体の一部が無い。関わってしまうと病気になる、ホモは病気。つまり、野槌とはホモに走らせる天使である。QED。と言う訳では全くないが、己に欠けている部分を強く自覚している戸塚に共鳴したのは間違いない。


 アルカナ…運命

 ステータス…火炎、電撃、衝撃弱点。物理、氷結耐性。

 初期スキル…ブフ、コウガ、マハコウハ、ディアラマ、リカーム


 魔法偏重祝福特化のペルソナ。地獄突きを覚えるし、最終的には刹那五月雨撃ちにもなるが、殆どダメージソースにはなりません。切なさ乱れ撃ちの名は伊達じゃない。
 更に、元々ペルソナの才能が無い所を、ユミコに取り込まれる事によって強制的に覚醒させられている副作用で耐性が酷い事になっている。メタ的に言えばノヅチ自体がメガテンにおいて序盤の雑魚悪魔のせい。祝福と回復が主体なので前線での回復を任せて結衣はサブメンバーに回せて、念動弱点が多く出ない限りサポートに専念できるぞ。


運命のアルカナの正位置には『転換点、一時的なチャンス』、逆位置には『急速な運気の落下と悪化』と言う意味が含まれる。


 毛皮を羽織り、ペストマスクのような特徴的な仮面をかぶったペルソナ。

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